「大体祐君が悪いんだよ。アイツ…忘れちゃってるのかな…」
ボフッ…
「祐樹のバカ…」
そのまま倒れる様に身体を横たえ、掛け布団で身体を包む。
「あ…祐君のニオイがする…」
ガチャ
ただいま…なんてもう何年も口にしてない。返事が帰ってくる筈も無いシーンと静まった家。俺以外に誰もいやしない。
リビングテーブルの上に鞄を投げだし、冷蔵庫からDr.ベッパーを取り出す。いつもと同じ繰り返し。
カサ…
!?
誰もいない筈なのに人の気配がする。
誰だ…?
気付かれない様に息を潜め音のする方へと近づいていく。
どうやら俺の部屋からみたいだ。
「…ン…ンン」
ドアの近くまで来ると押しころす様な低い女の声が聞こえてくる。
音を起てない様にゆっくりと少しドアを開け、中の様子を伺うとベッドの上にあられも無い姿の女性が…。
(ふ…華姉…?)
片袖を脱いだチャイナからは自慢の形の良い乳房が零れ、M字に開いた脚の膝あたりにはピンク色の小さな布が丸まってる。
虚ろな瞳で手にした何かを見つめながら、もう片方の手は脚の付け根あたりで小刻みに動いている。
「ァァ…ィャ…そこは…ん…」
まさか華姉…オナ…?何で俺の部屋で…?
どうする?今入っていくのは流石にマズイだろうし、このまま立ち去るってのも変だ。第一ここは俺の部屋だぞ。
予想だにしなかった光景に思考はパニクってしまっているが視線は一点から逸らすことが出来ない。
「ぁふ…ハァハァ」
扉の向こうに俺がいる事にも気付かずに夢中で独り遊びを続けている。
ビクンッ!!
「ア、イヤッ!イ…イイ…気持ちイイ…もっと…もっとぉ…」
俺がいる事にも気付かずに夢中で独り遊びを続けている。
カチ…
さっき見つめていたモノを取り外し、キスをしたかと思うと自分の首筋から胸元へ、そして円を描きながらツンと尖ったピンク色の先端へと移動させていく。
「アア…イヤァ…駄目ェ…」
大きく肩を上下させ、呼吸は粗くなっている。
こんなにも甘く切ない華姉の声なんて今まで一度も聞いた事が無い。
先日の華姉の香りと後頭部の感触が鮮やかに脳裏に蘇り、下半身が痛い位に硬くなっている。
やがて視線を降ろしたかと思うと、その見つめる先に有る一点へとそれを持って行く。
ビクンッ!!
「ハァ、アアッ!イ…イイ…イイの…もっと…もっとぉ…祐樹ぃ!」
思いがけない名前を呼ばれたのと、無意識の内に前のめりになっていた為、バランスを崩しドアにぶつかってしまった。
…ッ!?
華姉は慌てて布団で身体を隠す。仕方無い…腹くくるか。
『な…何の用だよ、華姉』
「ゆ…祐く!?何で…ちょ…ちょっと勝手に入って来ないでよ!!」
勝手にも何もここは俺の部屋だぞ。
俺の思った事を悟ったかの様に薄手のタオルケットを身体に巻きつけ立ち上がる。
「分かったわよ。出ていけばいいんでしょ、出ていけば!」
『ちょっ…待てよ華姉』
慌てて華姉の腕を掴んで引き寄せた手に力が入る。
「痛いッ!離してよ、バカ祐樹。この嘘つき!裏切り者!!」
嘘つき?裏切り者?何だ…何を言ってるんだ華姉は。
華姉は大粒の涙を流し、まるで小さな子供の様に泣きじゃくって俺の胸を叩き続けている。
「何よ、祐樹から言い出したくせに。私が…私が受けたんだからね。なのに…なのに非道いよ。嫌い!大っ嫌い!!」
俺には華姉が何を言ってるのか解らず困惑していた。
「離せ、離してよ。イ…イヤアッ!」
腕の中で暴れる華姉を制しようとした反動で身体に巻きつけていたタオルケットが開けたと同時に彼女の手から何かが零れ落ちた。
「あ…見るな、見ちゃ駄目!」
慌てて拾おうとする華姉より早くソレを手にした。
『こ…これは…』
俺の掌の中に有ったのは誰が見ても一目で玩具だと判る小さな指輪。それを見た瞬間、全て理解出来た。
―小さな約束を―
あれはまだ本当にガキだった頃。町内会の用事で大人達が居なかった時、留守番をしていた俺達は時間を忘れて遊んでいた。両親達は予定よりも帰りが遅く、俺は腹を空かせていた。
『ネェ、華姉お腹空いたよぉ。何か作ってよ。華ママはコックさんなんでしょ?』
親が特級厨師だからといって、その子供が料理上手な理由にはならないのだが、当時の俺は女の人なら誰でも出来ると思っていた。
「エ~ッ、駄目だよ。ママには火は使っちゃ駄目ネって言われてるし」
あまりに俺が駄々をこねるので仕方なくエプロンを身につけ台所に立ってくれた。
でも子供に凝った料理が作れる筈も無く、出て来たのは小さな手で一生懸命握ってくれた不格好なおにぎり。
それでも俺には凄く美味しかった。
『また作ってね、華姉』
「エ~、嫌よ、ママに怒られるモン」
『そんな事言わないでよ。あ、そうだ僕の宝物あげるから』
そう言ってポケットからある物を取り出した。
―そうだ、これはあの時の指輪だ―
そして俺は周りの大人の真似をして、当たり前の様に華姉の左手の薬指にそれをはめたんだ。
華姉が顔を紅らめた理由も知らずに。
『お願い、華姉』
「ママじゃ無くて?」
『ウン』
「ずっと?」
『ずっと、ず~とだよ』
あの時、華姉はこれ以上無い程に真っ赤な顔で小さく頷き、そして…そして俺にキスをしたんだった。
じゃ…じゃあ今まで俺が食べてきた物は…。
俺の懐で小さく震える華姉が崩れる様に座り込む。
「私…私頑張ったんだから。祐君に美味しい物食べて欲しくて…。いっぱい…いっぱい練習したんだから…」
ああ…そうか、あの手の傷は功夫じゃなくて。
「なのに…祐君の馬鹿…馬鹿…」
『ごめん、華姉…』
思わず彼女の身体をキツく抱きしめていた。
「痛い…痛いよ、祐君」
『ご…ごめん、華姉…』
慌てて手を振る様に離れた。
「もういいよ…許してあげる。でもさっきから謝ってばかりだね」
『あ…ごめん』
「プッ…ホラまた」
二人同時に笑いだし、互いのワダカマリも消えた後の僅かな沈黙。
「じ…じゃあ私、帰るね…」
視線を逸らす様に立ち上がる華姉を慌てて引き止める。
『ちょ…そのままじゃ…』
俺の指先の動きを辿る様に視線を落とすと改めて自分の恰好を認識した様だ。
片方の胸があらわになっていて、下着はふくらはぎの所で引っ掛かったまま。つい先程まで自分が何をしていたか思い出したらしい。
「キャーッ!イヤーッ、見るな、見ないで!祐君のエッチ、スケベ!」
咄嗟にしゃがみ込み、落ちたタオルケットを纏う。
見るなと言われても、さっきもっと凄いの見ちゃったし…。
「ウ~、何よ、祐君だってこんなになってるクセに」
プイッと頬を膨らませ、今にもファスナーを突き破りそうに勃起した先端を指で弾いた。
互いに照れ隠しに笑って見つめ合った後、華姉がきり出した。
「あ…あのね祐君、私本当…」
華姉の言葉を指で遮る。
『ちょっと待って…』
実はゲーセンに行く前にある店に寄っていたんだ。お陰で小さい頃から貯めてたお年玉や小遣い、切り詰めた生活費にバイト代が殆ど無くなったけど…。
『本当は華姉の誕生日に渡したかったんだけど…』
ポケットから取り出した小箱に入っていた物を華姉の薬指にはめる。あの時と同じ様に…。
『また俺にご飯を作ってくれる?』
「ママじゃ無くて?」
『ああ』
「ずっと?」
『ずっと、ず~っとだよ』
また顔を真っ赤にした華姉を見つめ、唯一知っている中国語に俺の想いの全てを込める。
『我愛イ尓(貴女を愛しています)』
「祐樹!!」
あの日と同じ様に唇を重ねる。あの時よりも、もっと…もっと長い間…。
その日、俺達は仲の良い姉弟でも、幼馴染みとしてでも無く、一組の男女として初めての夜を過ごした。
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