やはりカレンは無理していたらしい。
しかし、3人相手に3発ずつはかなり厳しい。よく頑張ったよ僕…。後は・・・。
「…フ…フン」
あ、明日奈か…。頼によって一番苦手なタイプだ。彼女は最初からあまり友好的では無かったからなぁ。
相変わらず顔をこちらに向けずに仁王立ちのままだ。
『あの…え~っと…』
ギロッ!
ハゥ…少しでも近付いたらあの伝説の木刀でぶん殴られる気がする。というか、殴る気満々ですよね?明日奈さん。
目を吊り上げて身体を震わせながら牙を剥いてるよ。まるで猫科の威嚇ですよ。そんなに嫌いですか?男という生き物が…。
「まったく、困ったものだよ明日奈君にも…」
「全員クリア出来ないとここから出られない処か、最悪は・・・なのですよ」
「ククク…意気地無し…」
「…フンッ!」
ドカドカと足を踏み鳴らすようにプライベートルームに帰ってしまった。
「ヤレヤレ…済まないがタイミングをみてセッ…説得してはくれないかね」
「どうせ嫌がられているなら無理矢理姦っちゃえば良いのですよ」
「注射嫌いで泣く子供にも打ったもん勝ち…」
アンタ等それって強姦教唆じゃないですか?
『…ったく、他人事だと思って…』
今日中の説得は無理かもしれないと諦めかけていたその時、明日奈の個室から呻き声の様な物が聴こえてきた。いや、呻くというより何か必死に堪えて苦しんでいる様な…?
「ん…クッ…ンンッ…」
まさか、毒素が回りはじめたんじゃ!?
このままじゃ明日奈が危ない!そう判断した真哉は思い切りドアを蹴破った。
バンッ!!
『大丈夫ですか?明日…奈…さ…』
「・・・」
・・・・・
―思考停止―
―緊急事態発生!至急再起動の後、現状把握と対応処置の構築を要請―
眼前にはスカートの裾をくわえて全開の脚中心部に触れる半裸の明日奈。想定以上の豊かな乳房とキラキラ光る女陰…。
し…死亡フラグ率120%。こ…殺される、伝説の木刀でミンチに為るまで殴り殺される!!緊急回避!緊急回避ーッ!!
しかし硬直した身体は一歩も動かず、視線を逸らす事も出来なかった。
終わった…選択肢間違えたーッ!!
―BAD END―
・・・・
『・・・アレ?』
「ぇ…ふぇ…ふぇ~んっ!!」
な…泣いた?子供みたいに泣き出したッ!?
"アノ"明日奈がまるで粗相を見付かった子供の様に泣き出した!
『あ…あの…明日奈?』
「うわあぁーん!見るな、来るな!あっち行けバカーッ!!」
ベッドの周りに山積みにされた縫いぐるみや枕が次々と投げ付けられる。明日奈って意外と少女趣味…じゃなくて、自慰してたって事は症状が…。
「く…来るな!お前とシて生き恥を晒す位なら、いっそ…」
明日奈が僕を…男を嫌っているのは知っている、でもこのままじゃ折角処女を失ってまで危険回避出来た皆が…いや、何より明日奈自身が…。迷ってる場合じゃない。
『嫌だ!僕はみんなを…明日奈を助けたいんだ』
「…エッ?…ん…んん!?」
一瞬怯んだ隙を突いて明日奈の唇を奪い押し倒した。
「ンンッ…ンーッ!!」
迷いは無かった。例え半ばレイプという形になろうと、僕は明日奈の中に躊躇無く押し入った。
明日奈の涙が僕の心を深く抉る。だけど彼女の痛みに…彼女を助けられる事に比べれば…。
バシィッ!!
シーツで身体を隠して震える明日奈の平手打ちが左頬を打ち抜く。
激しく抵抗する彼女を力で捩じ伏せ、強引に全ての初めてを奪い、精を放った事実は変わらない。
「卑怯者ッ!!」
幾らでも罵ってくれても構わない。僕の赤い痣の頬、血の滲む口元と破れた服を見て悟った毬花とカレンは明日奈の元に走って行った。
(クソ…)
形容し難い自身への虫唾が走る。
「無器用だな…君は…」
クリス所長が哀れみの眼差しで話し掛ける。
『言い訳はしません。全てが終われば処分でも制裁でも受けますので…』
そう呟くと頭を深々と下げて自室に戻って行った。
「本当に、無器用な子…」
宥める毬花とカレンが行った検査結果はクリア、僅かに症状が進んでいた明日奈も安全が確認されたので1週間の待機期間の後に隔離壁が開放され、今回の騒動は一応の決着を見せた。
余程ショックが大きかったのか明日奈が部屋から出て来たのはその翌日だった。
「もう大丈夫かね?」
「ハイ、所長…実はお話しが…」
一通り話し終えると明日奈は頭を下げて去り、あるドアの前に立った。
コンコン…
「ンン…私、明日奈だけど…」
返事は無い。
「い…良いわね、開けるわよ」
ガチャ…
「…エッ?」
そこに有る筈の荷物は無く、人の気配も無かった。
「ど…どういう事…?」
「彼ならもうここには居ないよ…」
真哉は研究所が開放された翌日、部屋の整理をしてある場所へと行ったのだった。
「これだけ私に托してね…」
【辞表】と記された封筒には所員全員に対する謝罪と退職願が入っていた。
「そ…それで彼は?所長は真哉が何処に行ったかご存知なんですか?」
「知っている、連絡が有ったからね」
「失礼します!」
明日奈は走り出していた。真哉が拘束され(居座って)いる場所に…。
「…ヤレヤレ、ウチには不器用さんしか居ないのかね…?」
「で…彼は何処に?真哉は何処に居るんですか!?」
「…警察だよ。ある女性をレイプしたと自首してきたと連絡があった」
しかし、届け出が有る物は全て否認し、また当然ながら被害者も面通ししても肯定しない。いくら取り調べをしてもレイプした女性の事は語らない、だから警察も困っている。
「彼はね、待っているのだよ。君が告発してくれるのを、ただ一言[この人に乱暴されました]…と言われるのを…」
最悪、警察は犯人の顔を見ていない為に完全に否定出来ない被害者の事件を真哉の犯行として処理するかもしれない。
「もしもの時は私が被害者として名乗り出るよ。彼は世界を救った英雄よりも一人の女性を犯した卑劣漢として裁かれる事を望んでいるのだから…」
「真哉…」
「どうします、部長?」
出頭してきた男の身体には抵抗された際に付いた爪痕と女性の物と思われる体液が付着していた事からも自供通り誰か犠牲者がいるのは間違いない。だだ解せないのは自首して来た理由だ。自首してきた被疑者は居る、でも被害者が居ない。抵抗して暴れてくれれば公務執行妨害を使えるのだが…。
「警部…」
「何…女が?」
真哉を尋ねて同じ職場の女が来た。被害者の可能性が高い…。
「では、貴女が被害者で間違いありませんか?」
「…ハイ、10日程前になりますが…」
「じゃあ、被害届を出してください。あと調書を取りたいのでご協力戴けますか?」
マジックミラー越しの俯いた男に少し安堵にも似た表情が浮かぶ。
「被害届は…出しません」
「な…では何故ここに…?」
困惑する署内、そこに一人の男が現れた。
「私が説明しよう…」
「け…警視正…?」
「お父…さん」
男は明日奈の肩に手を廻すと取調室に向かって行った。
ガチャリ…
「君が…真哉君かね?」
『ハ…ハイ…ッ!?』
ドガシャガシャンッ!!
「お父さんッ!?」
立ち上がり頭を下げた真哉を思い切り殴り飛ばした。
「け…警視正、な…何を!?」
警視庁の最高責任者がいきなり被疑者を警察署内で殴り飛ばしたのだから大問題だ。恐らくは全力で無かった事にされる筈…。
「では、この殴られた被疑者も居なかったのだね?」
みな無言で頷き同意を示した。
「君も娘に対する贖罪をしたいなら今の一発で構わんよね?」
『で…ですが…』
ここが退き処だと男の目は告げている、それに気付いた真哉は言葉を継げず、頷くしか無かった。
「では、私はこれで失礼するよ」
君が居るべき場所は鉄格子の中では無いと諭すと二人をタクシーに押し込んだ。
『……済みま…せん』
謝ろうとしる真哉の腕に手を廻し、グッと抱きしめ身体を預けた。
「謝罪はいい…私が愚かだっただけだ。私に意気地が無かった為にお前にも私自身にも辛い事になってしまった…赦せ」
『明日…奈さん?』
車窓の風景は徐々に見覚えの有るものに変わっていく。明日奈は頭を肩に寄せたまま何も言わない。ただ出会った頃のイメージとは全く別人の様な感じがした。
「有難うございました」
見覚えのある建物の近くでタクシーを降りた。2日あけただけだが妙に懐かしい。
『入りましょうか…明日奈…さん?』
歩きだした真哉を引き止める様に腕を掴んだまま動かない。
「こ…今度は…優しく…して…欲しい…」
『エッ!?今度って…』
「う…煩い、今度は今度だ!」
耳まで真っ赤な明日奈は腕を引っ張り、研究所へと戻って行った。
「お帰りなさいなのですよ」
「ククク…良かったな」
「フム、ご苦労だったね」
居住区エリアの食堂では所員全員で祝賀会の準備中だった。といっても出来合いの物を並べただけの簡素なパーティーだ。ピザにオードブルセットにスウィーツの山、これ全部食べられるのか?と疑いたくなるほどの量だった。
「では、私達の生還とヴァージン卒業に乾杯ーッ!」
『ブーッ!?』
な…何をいきなり言い出すのかと突っ込もうと振り返った瞬間、テーブルの料理は早1/4程消えていた。
(食うな…この人達なら…)
「いや~しかし間に合って良かったのだよ、一時はどうなるかと…」
そうだった、彼女達はつい10日前は生命の危機に直面していたんだ。前所長の[置き土産]があり、男という生き物に少なからず抵抗があった彼女達は偶然僕が配属された事でどうにか事なきを得た。…偶然?本当にそうなのか…?
「本当にギリギリだったね…」
「間に合わないかと思ったのですよ」
「所長…ナイスフォロー…」
「まさか、真哉君が自首するとは流石に想定外だったしね、警視正に連絡がついて良かったよ」
(ソッチかいッ!?)
でもお陰で誰も傷付かずに済んだ。僕は罪を償う事に固執して結果的に自分の事しか考えて無かったのだから。
「楽しんでいるかね?」
『ええ、まぁ…』
「ケーキ如何ですか?美味しいのですよ」
「さっさと食え…チキン…」
「ピザは冷えたら不味いのだから食べろ。無理にとは言わんが…」
(何だ?この猛アピールは…)
真哉を取り囲むようにフードやドリンクを手に迫ってきた。
『ど…どうしたんですか、皆さん…』
「いや、結果的に明日奈君は父親への紹介が済んでしまった訳だし…」
「な…そんなツモリは…」
「大好物は譲れないのですよ」
「…中出し…みんな危険日…」
『…エッ?』
今、サラッと爆弾発言が無かったか?
『で…でも[Sweet trap]と相打ちにな…』
「ボソ…(前レス参照)」
『…なってないッ!?』
エエッ、あれ伏線だったの?誰の陰謀だよ!?
「発情しているメスは出来やすいとはいうがな…」
『明日奈さん…まさか君も…』
「・・・」
アアッ!?顔を背けた。しかも耳まで真っ赤?
「だから拒否したのに真哉ったら無理矢理…」
「フフフ…真哉君、君には選択権がある。誰かとは言わない。我々全員の物になるか?全員に訴えられるかだ!」
『エエッ!?何ソレ?』
思わずドアの方へと走り出した。
「逃げられると思うかね?」
バンッ!
けたたましいサイレンと共に全所内の重い扉が閉まる音が響く。
「アラアラ、また警報が鳴ってるわ。本当に大変ですね」
通りがかりの主婦の同情に警備員が愛想笑いで手の平を上に挙げる。
そ…そういえばRPGに出てくるミミックって開けた人間を殴って気絶させて取り込んでから生気を吸うんだっけ…?
真哉は逃げながら同期の奴らの哀れみの眼差しとこの研究所の別名を思い出していた。
【麻津度化学生物研究所】、通称【MAD MONSTER(狂った化物)】だと…。
-BAD END…かな?-
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