【良い知らせルート】
「ほぉ、先に良い方を聞いてしまって良いのかね?後の落胆が大きく無ければ良いが…」
良い知らせとは製作者の名前とその資料が発見出来た事。製作者は前任の所長、かなり人間性に問題が有った人物らしい。
事実、如何わしいメディア類を除けば、彼の主な研究テーマは生命の尊厳を弄ぶ物だった。整頓されたラボ内の奥から扉が見付かり、その向こうには更に地下へと続く階段が有り、研究所でおそらく一番堅牢であろうこのホールには彼の[作品]が展示されていた。
見るからに醜悪なソレ等は幾つも列んだポッドの中に保存液を充たされた状態で静かに眠っていた。
「まさか動き出したりしないだろうね…」
そして最奥に有った事務机に置かれていたモニターに繋がった巨大なスーパーコンピューター、道理で予算の縮小を求められていた筈だ。この規模だと研究所の予算だけでは足りない筈、つまりアノ軟体生物がバイトの副産物という事か…。
別の小型PCのメールにはハンドルネームで書かれてはいるものの各国の軍から秘密裏に生物兵器の開発依頼または購入の申し出が残っていた。
「我々が近寄る事が無いと踏んでロックすら架けていないのか…愚かな」
何度かハッキングされていた様だが、ワザと適度な壁を作り、持ち帰ったデータが[玉手箱]だったというお遊びまで愉しんでいたらしい。[玉手箱]を解析出来たらお持ち出来るサービス付きで。だが彼の事だ、解除している間にも答えが変わっていく位の事はしているだろうが…。
「まったく…才能だけはあるから余計に質が悪い」
そして問題の粘液状(ゲル)物質に関しては驚く程に何もトラップは仕掛けられていなかった。まるで我々に挑戦し、己が才能を誇示する様に…。
・・・・
「つまり、この粘液状生物[Sweet trap]は女性の胎内に寄生し、性行為を行う事で猛毒化する。催淫効果のオマケ付きでね…」
如何にも変質者の彼奴の考えそうな事だ。
コレが世に放たれれば発情した女性が溢れ、眼前で恥態を見せ付けられた男達は理性の箍が外れて襲い掛かるに違いない。
つまり至る所で強姦が繰り返されるだろう。だが我々が身篭るのは愛の結晶では無く、恐るべき猛毒を撒き散らす生物兵器。敵国を滅ぼす為には女性一人を送り込むだけで済み、施設などを破壊する事無く全てを入手出来る。
だが同時に性行為を封じられた人類は遅くても百年後には死滅する。パニックを起こしたやつらは暴徒と化し全ての女性を抹殺にかかる可能性もある。だからこの研究所から出る事は出来ない。
これが[悪い知らせ]だった。
「そ…そんな…」
「…クソッ」
だが我々も余裕が無くなって来ている。静かに、確実に症状が進行しているからだ。
「…という訳で、真哉君。君には生き地獄を味わって貰わねばならなくなってしまった…」
こんな時に何だが、我が研究所の所員は粒揃いだ。決してアイドルグループにも引けはとらない。だからこそそんな彼女達の恥態を間近で感じ我慢し続けねばならない真哉君への負担は大きい。申し訳無いが隔離せざるをえない。何故なら我々もソレを求めずにいられる保証は無いのだから。
研究所内にある有りと凡ゆる薬品と化学式を用いて実験を繰り返した。検体は我々の胎内で増殖するであろうから枯渇する事は無いだろう。焦りと失意、重なる疲労と何度も襲い来る欲望に抗いながら…。そして…
・・・・
―2週間後―
「諸君!解った、遂に対処法が見付かったぞ!」
答えは驚く程簡単だった。化学者故に難しく考え過ぎていたのだ。
何故冷蔵庫に入れられていたか?つまり完成する前に前所長が追われた為に低温には極端に弱い性質の弱点を克服されていなかった。
「ぅ…本当にするんですか?」
方法は簡単、冷水を胎内に注入し、活動力が低下したSweet trapを吸引する。言葉では簡単だが、内臓温度が下がり過ぎるときせいされた人間自身の生命の危機となる。この二つのバランスをとり、集めたSweet trapを液体窒素で急速冷凍させる。これで死滅させる事が出来るだろうが、万一を考えて強固な金属カプセルに閉じ込めて永遠の闇へと封印する。
何処から冷水を注入するか?それは聞かないでくれたまえ。我々にも色々都合はあるのだよ…。
『どうやら…終わった様ですね…』
別室に隔離していた真哉君も解放出来た。
「いや、すまなかったね。君も色々と溜まった物が有るだろうから、ご褒美に安全が確認出来次第お相手してあげるよ……彼女達がね」
「ちょ…所長ッ!?私達にも都合というか、その…」
「何だ?誰も手解きが出来んのかね…ヤレヤレ…」
備蓄していた食料もギリギリだったが、冗談を言える状況を素直に悦んだ。
「そうだ、ここも開放して貰わねばね…」
館内の通話回線を開いた。
「・・・・」
返事が無い…?向こうからコチラを見る事は出来ても、コチラから向こうは見る事が出来ない。
「オペレーター!どうした、返事をしなさい。問題は解決出来た、隔離壁を開けてくれたまえ!」
「お食事中…でしょうか?」
それは有り得ない。必ず誰か一人は在席している筈だ。
「何か、あったのでしょうか…?」
ラボ内のメンバーに不安が過ぎる。
《ハ…ハァ…ハイ、お待たせ…ァウ…しま…》
「どうした?息が切れているではないか。まさかサボっていたのではあるまいな?」
明日奈もかなり、イラついている。
《ぃ…いえ、そ…んな事…は…ハァ…ハァ…》
「とにかく隔離壁を…」
『ちょっと待ってください、何か様子が変です』
真哉が所長の言葉を征し、オペレーターにこう告げる。
『すいません、監視モニターの映像をください』
《わ…分かり…ぁああ…》
・・・
・・・・・
・・・・・・・
かなり人間性が歪んだ人物であったらしい前所長。そんな男が創った生物兵器が本当にあの程度で駆逐出来たのか…?PCにあんなトラップを仕掛け、ポッドの化け物達を創れた男が…?
《え…映像…送りま…ぁふ…》
『…ッ!?』
「…な…なッ!?」
モニターに映し出された映像を観て一同は愕然とした。
「た…大変です。ポッドが…ポッドが空っぽなのですよーッ!!」
《You get a mail!》
ラボのPCに差し出し人不明のメールが届いた。
【ヤァ、流石はクリス所長以下研究所所員の精鋭、見事[Sweet trap]の弱点に気付いた様だね。まずはオメデトウと言わせて貰おう…】
そして得意げに見下す様な男の映像はこう種明かしを続けた。
最高レベルでのエマージェンシーシステムを発動させた時、隔離壁に仕掛けておいた[Sweet trap]入りのカプセルが破壊されて外界に解放され、ラボ室CのPCが起動した2週間後にポッド内の異形達が解放される様に仕掛けておいたのだと…。
【さて、聡明な貴女達ならば[Sweet trap]を駆除していける事だろう。ただし、全人類の半数に対し、暴動が起きる前までに出来るのならば…だがね。…ギャハハハ!】
プツン…
ここでメールの添付動画は終了した。
『チッ…』
絶望で崩れる様に座り込むラボ内の所員達。
外の監視カメラが捉えた世界は恥辱の行為に溺れる女性達と、彼女達に襲い掛かる欲望の権化と化した男共と女性の身体を揺さ振る異形の化け物共。
所員達の命懸けの努力は徒労と化し、世界は一人の男の淫虐の宴をもって最期の刻を迎えようとしていた…。
-BAD END-
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