「え~っと、他に何か有りませんかねぇ…」
毬花が冷蔵庫に頭を突っ込んで物色している。ツンと突き出したお尻が動く度にヒラヒラとスカートの裾が揺れて絶妙な情景を見せる。
チャキ…
僕の喉元に明日奈の木刀が触れる。
『OK!見てません、見てませんとも…』
「あ、こんな所に美味しそうなゼリーが有ったのですよ~」
「バ…馬鹿者!それは…」
「エ…ッ?」
スル…パリ~ンッ!
「アアアアーッ!?」
「ウッ…!?」
「ヒッ…!?」
「キャッ!?」
「ンン…!?」
その場に居た僕以外が突如奇妙な呻き声をあげた。
『どうしたんですか?』
「イヤ、な…何でも無い、何でも無いのだよ、ウン」
少し赤くなった頬を引き攣らせて、まるでトイレを我慢しているみたいだ。何かチョット色っぽい。
『え~っと…席外した方が良いですかね?』
「出るなッ!!」
バンッ!
いつに無い強い口調で制止した。
「割れた瓶の中身が判るまでラボを一時隔離する」
パトランプと共に警報が鳴り、何層もの分厚い鉄壁が空間を遮断する音がする。その場の全員に緊張が走る。
バイオハザード…その言葉が頭を過ぎった。
床に零れたピンク色のスライム状の液体は慎重にスポイドで集めて同じサイズの瓶に入れても明らかに減っている。
「オペレーター!汚染状況は?」
《ラボ内の空気に異常はみられません。通常通りです》
「空気感染型の可能性は低いか…」
「各自、サンプルとデータを照合して正体を調べる。急げッ!」
一人ずつ個室に呼び出され血液と体液を採取される様だ。
「待たせたね、君で最後だ…」
クリス所長は血液、唾液、涙と鼻や口内の粘膜のサンプルを手際よく採取していく。
「さて、あと二ツ必要なんだが…尿はこのカップに入れてくれたまえ」
名前の書かれた紙コップにオシッコをいれて指定された棚に置いてきた。
『済みましたよ…』
「ウム、では最後のサンプルなんだが…」
アレ?クリス所長の様子が少しおかしい。妙に言い辛そうにモジモジしている。
『最後に必要なのは何ですか?手早く済ませましょう』
「ウム、それなんだが…・・・なんだ」
よく聞こえなかったので聞き返してみた。
「・・液…」
『ハイ…?』
ボソッと蚊の鳴く様な小声で呟かれても…。
「だから、精液を寄越せと言ってる!何度も言わせないでくれたまえ」
腕を組んで真っ赤な顔を背けてしまった。普段からポーカーフェイスの為、新鮮に感じる。恥じらう所長、萌え!
まぁ…精液も体液だからねぇ…って採取ってヤッパリ…?
右手を輪にして上下に振ってみる。
コクコク…
頷くクリス所長。ああ、そうなんだ…。
ファスナーを下げきり、取り出そうと右手を中に入れた時にフト気付いた視線。
ジ~ィ…
『…あの、もしもしクリス所長?』
「何だね?」
『何をしておられるんでしょうか…?』
「ちょっとした生物学上の見地からの観察だが?」
『いや、出さないと出せないというか、出し辛いんですが…』
「ん?サポートが必要かね?」
ブラウスのボタンを3ツ程外してタイトスカートを上げようとする。
「これでも一応恥じらいという物は持ち合わせているので、あまり凝視せずに早急に採取してくれると有り難い」
『いえ、恥ずかしいのは僕で、お見せする様な物でも無いのですが…』
どうもこの人とは感性に違いがあるのか、話が微妙に噛み合わない。
「ああ、そういう事か。それならこちらとしても助かるよ、今日はお気に入りでは無いのでね…」
漸く部屋を出てくれるらしい。良かった、これで…。
《……ゴク》
何か、唾を飲み込む様な音が聴こえ…あ、ここにも有った監視カメラ…。僕はトイレでする事にした。
「おや、もう採取出来たのかね?中々仕事が早いな」
『いえ、何と言うか、あの部屋だと落ち着か無くて…トイレを借りようかと』
所長は「あ…成る程」と呆れた様な表情で天井を見上げた。
「フム、では出来るだけ早急に頼む。あとは君の精液採取だけなんでな」
『ちょ…』
「ぇ…せ…」
「…い」
「ぇ…エエッ!?」
「き…き…」
空気が固まったのを初めて見た気がする。
「ここにはそういった類の資料は無いので方法は君に任せるが、妄想といえど出来るだけノーマルでお願いしたい」
うわぁーッ!所長のおバカーッ!僕は脱兎の如くにトイレの個室に逃げ込んだ。
・・・・
『…採取終わりました』
一応、試験管の中に出して検尿カップの棚に立てて来たけど、うわぁ…何この気不味い雰囲気。皆、顔を真っ赤にして視線を逸らしたまま無言だし、明日奈に到っては変質者を見る様な冷たい目で睨んでる。
「……変態」
「あ、あの流石にそこまでは…で、でも真哉君が望むのでしたら…はぅあぅ~」
「……マニアック。ククク…」
ちょ…おま、皆の中での僕はどういうスタンスなんだ?っていうかこの緊急時に何考えてた!?
「即効性の毒性を含んだ物ならとっくに死に至っているだろうし、これといった症状が無くまだ生きてるのだから明確では無いにしろ時間はありそうなのでね」
つまり皆して僕がどんな妄想で採取して(扱いて)いたかを妄想していた訳ね…。
「さ…さぁ、これで検体は揃った。各自検査を始めてくれたまえ」
・・・・
「これは困ったね…」
調査の結果、取り敢えず男の僕には全く問題は無かった。が、他の所員、つまり女性には特定の場所に対象物が発見されてしまったのだ。
「ウ~ン…この明かに私怨を感じる低俗な症状は…」
クリス所長は僕を呼び付けると立入禁止と貼紙がされたラボ室Cに入って行った。
『あの…所長?』
「問題無い、汚染されている訳では無いよ。我々が近付きたく無かっただけで寧ろここが一番安全だとも言える」
ピッピッピッ
『ウッ…』
電灯の光によって暴かれた室内はこの研究室にあっては全く異質、寧ろ僕にはある種の懐かしさすら感じる物だった。
「…ったく、彼奴らしい」
クリス所長が吐き捨てる様に称した部屋は埃こそ無いものの全く掃除された事の無い雑然とした研究資料や文献に雑じり、如何わしいDVDや雑誌が山積みになったカオスさだった。
(男子学生寮の方がまだマシだな…)
「フゥ…ここは前任の所長だった男の専用ラボでね。目に余る物があったので我々が叩き出したのだが、トンだ置き土産を置いてくれて行ったものだ…」
呆れ果てた様な所長の溜め息、溢れかえるレパートリーを見てもその人格が窺い知る事が出来る。ハッキリ言って同じ男の僕でも退く内容だ。
「ハァ…先ずは整理から始めねばならんな。頼んだよ、真哉君…」
『ハイ…って僕一人でですか?』
「ここが放置されていた理由を察してくれたまえ」
余程嫌われていたのは解るとして、まぁナニが付着しているか判らないから女性としては嫌だろうな。
・・・・
「一応、仕分けは出来ました」
取り敢えず研究資料系とそれ以外に選別したが、それ以外の方が多い位だった。中には元が何かも判断出来ない袋も見付かった。
「ご苦労だったね、あとは私に任せてシャワーでも浴びてくれたまえ。おそらく君に頑張って貰う事になるだろうから」
確かに少し汗をかいてしまったし、シャワーを借りる事にした。少し気になったのは皆が少しソワソワと落ち着きが無い様に感じた事だった。
・・・・
「諸君、傾注!」
シャワーから上がってドライヤーで髪を整え終わった頃にラボ室Cから深刻な顔で現れた。
「この粘液体について分かった事がある。良い知らせと悪い知らせ、どちらを先に聞きたいかね?」
A:良い知らせ
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B:悪い知らせ
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