二話
_しゃがんだまま自分の汚れ物を洗う春子のことが、まるでおしっこをしている姿に男の目には映っていた。
_にやりと口元をゆるめた男のあごによだれが垂れる。
_ほんとにいい女だ。
_おじさんだって春ちゃんのおしめを替えたこともあるんだ。
_それが今ではどうだ。
_色気づいた太ももが白桃のように見えるじゃないか。
_スカートの下半分を捲り上げているせいで、春子の下着が見えそうになっている。
_男の盛り上がった眼球が春子の股の間をとらえようとするが、あと少しのところが見えそうで見えない。
_それがかえって男の妄想を膨らませることとなるのだ。
_なかなか良い眺めだ。
熟れる前の青い果実も、いじくれば甘みを出すだろう。
_生け垣の向こう側で男は腰を曲げて下半身を露出し、血色のわるい亀頭を撫でていた。
_ヤニ臭い息を吐いては自らを起たせて欲をしごき出す。
_そうして、まだ誰の色にも染まっていない少女から目をそらすことなく、苔(こけ)のむした道端に向かって射精した。
_切れのわるい精液がビタビタと何度も地面を打つ。
_春子は、すすぎ終わった布ナプキンに鼻を近づけて匂いを嗅いだ。
_血生臭さは消えて、代わりに石鹸の良い香りが鼻を通っていった。
_その一部始終に恥じらいがあり、春子の自慰行為を妄想させた。
_たらいの水に西日が映りこんでいる。
_夕方のサイレンが鳴ると、あちらこちらから犬の遠吠えが聞こえてきた。
_そろそろお父さんが帰るわ。
_春子が家の中に入ると、軒下に干された春子の私物をまじまじと眺めて男はその場を去った。
_午後六時にもなれば夕闇が訪れる。
「ただいま」
_春子の父、紳一が帰った。
「おかえりなさい、晩ご飯できてるから」
「ああ、先に風呂に入るから沸かしてくれ」
_くたびれた作業着のまま畳の上に寝転がって、紳一は唸るようなため息をついた。
「だめだよお父さん、作業着はきちんと脱いでね」
「ああ、ごめんごめん。春子もお母さんの口に似てきたな」
_春子は口もとにえくぼを作って微笑んだ。
_紳一は思った。
_春子が母親に似てきたのは口だけではない。
_声や表情もそうだが、体つきに丸みがでる年頃にもなれば、娘ながら「女」を感じることもあるのだと自分でも戸惑う時がある。
_しかしそれは自然な感情であった。
_なぜなら、紳一と春子は血のつながらない親子なのだから。
_春子の母はいちど離婚しており、その後、ひとり娘の春子を連れて紳一と再婚。
_その数年後には病により他界したが、残された紳一と春子は互いを支えとして暮らすうちに、血縁以上の絆で結ばれていることに気づくのであった。
_春子は紳一に惚れていた。
_父と娘ではなく、男と女のあいだに生まれる感情だった。
_紳一のことを思うと、春子のくちの中は甘酸っぱくなった。
_父も私とおなじ気持ちでいてくれているだろうか、と顔を合わせるたびに思う。
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