九話
_その日の授業は五時限で終わった。
_春子は家に帰る途中で墓地に寄り、母が好きだった花を供えてお参りした。
_美智代も一緒だ。
_私、お父さんが好きよ。
_お母さんと同じ人を好きになるなんて、やっぱり親子だよね。
_だから昨日、お父さんにあげた。
_……いいよね?
_心の中で、そうつぶやいた。
_まだあどけない少女の思いは天に通じただろうか。
_田んぼで発情する蛙の鳴き声だけが聞こえていた。
_紳一より先に帰宅した春子は、さっそく机に向かって宿題に手をつけた。
_カリカリと鉛筆を書き走らせる音だけの静まった部屋。
_ときどき頭に浮かんでくるのは夕べの紳一とのこと。
_お父さんは、私の体の何処をどう触っていただろう。
_何処からどんな匂いがしていただろう。
_そんなことを思っているうちに乳首が突っ張りだして、サイズの合わないブラジャーの中でふくらんでいく。
_気持ちを抑えようとすれば余計にふくらんで擦れる。
_太ももの内側がそわそわして勉強にも集中できない。
_ふと時計に目をやると、紳一の仕事が終わるにはまだ早い時間だった。
_春子が庭に出ると、火照った頬に風があたって心地良く感じた。
_生け垣は家の裏側までつづいていて、その向こう側には田畑がひろがっている。
「あった」
_春子が見つけたのは、生け垣に絡みついてツルを伸ばし放題にしている糸瓜(へちま)だった。
_さほど大きな実をつけているわけではなく、虫食いの葉っぱを揺らしながら細長い実をぶら下げている。
_膣の具合がじわじわと熱くなった。
_制服のポケットからハンカチを取り出すと、糸瓜をそっとくるんでそのままもぎ取った。
_人目がないのをいいことに、春子は色気のない下着を下ろしてしゃがみ込んだ。
_誰も見ていないはずであった。
_しかし、春子を覗き見するいやらしい視線が、これからはじまる秘め事に注がれていたのだ。
_どこからともなく女の匂いを嗅ぎつけてくるのも才能なのだろうか。
_老いても男。
_それを証明するものが男の股間で狂い起っていた。
_そんなこととは知らない春子は自分の股を覗きこんで、青々とした童貞の糸瓜で割れすじを撫でてみた。
「ひや……」
_皮の中におさまったクリトリスにあてると、目の覚めるような快感が春子を襲う。
_もう一度、糸瓜を振り抜く。
「むん……」
_またしても背すじに微弱電流がながれて身震いした。
_すでにくすぐったいのを通り越して快感になっている。
_そんな快感に押し倒されそうな体をどこにあずければ良いのか、春子は空いた方の手で足もとの芝生を引っ掻いてみたり、手をついたりを繰り返している。
_自分なりの「やり方」というものがまだ定まっていない初々しさが見えた。
_やはりあの時と同じように、男は春子の様子をうかがいながら念仏のような独り言をつぶやいていた。
「まだ高校生の春ちゃんがそんなことしちゃいけないな。自分の女々こをいじくりまわすなら、おじさんの指が余ってるから貸してあげようか」
_そう言いながらボキボキと指の関節を気味悪く鳴らして、じっと春子を見つめたまま瞬きをしないでいる。
_すでに男の精子は煮えたぎって逆流しそうになっていた。
「ほら、もっと奥までほじくり返してごらん。そしたら女汁が噴いてくるんだ。おじさんもそろそろ噴きそうだよ。春ちゃんの中に噴かせておくれ」
_男の声がだんだんと上ずっていく。
_春子の息も乱れはじめる。
_生魚の鰓(えら)のようにも見えるふやけた陰唇を指で剥いて、外側よりもひと回り小さな溝に糸瓜をしのばせていく。
_なんて醜い形をしているのだろう、と春子は自分の体の一部がだらしなく濡れているのを認めたくなかった。
_それでも春子の体内には青い実の半分ほどが埋まって、真新しい雫をしたたらせていた。
_お腹が息苦しい。
_なのに気持ちいい。
_夕べ、お父さんは私のもっと中まで入ってきていた。
_これをもっと中まで入れてしまっていいのかしら。
_わからない。
_春子は一度、膣に刺さったものを引き抜いて、すっかりみずみずしくなったそれを悩ましく見つめた。
_そして、なにかを思い出したように後ろを振り返って、あたりを見渡した。
_まずい──。
_男は一歩、後ずさりした。
_存在に気づかれたのかと思ったが、春子は男が立っている方には見向きもしないで、花壇のアロエに手を伸ばしている。
_棘(とげ)のあるアロエの葉を用心深く折ってみると、そこから水分がはじけ飛んで指を濡らした。
_ぬめりがある。
_葉の断面を指ですくって股に塗り込む仕草をする春子。
_膣から湧き出る動物性のぬめりと、アロエの植物性のぬめりとが混じって垂れる。
_ふたたび糸瓜を握りなおして、そのまま膣にゆっくりと通していった。
_うそ、さっきは半分までしか入れたくなかったのに、今はいちばん奥まで入ってしまいそう。
「気持ちいい──」
_素直な感情が唇から漏れた。
_そして青い実のほとんどが春子の中におさまってしまった。
_いきめば糸瓜は飛び出して、それをまた指で押しもどす。
_そのとき春子は自慰を知って自慰に溺れた。
「うん……うん……」
_何度も下唇を噛みながら、しゃくりあげるような声を押し殺しているその背中に、不吉な人影がせまっていた。
「ここでなにをしている?」
_ざらざらとした粗いその声を背中で聞いて、春子は思わず心臓のあたりを手で押さえて「はっ」と息を飲んだ。
_言い逃れできないこの状況で、声の主を確かめるために後ろを振り返ると、春子の顔見知りの男がそこにいた。
「ませたことしてるじゃないか」
「いや……」
_春子は声にならない声をあげて、見られたくない部分を隠してかばった。
「ああ……」
_恐ろしくて思うように声が出ない。
_どうしよう。
_誰かたすけて。
「大人しくしてれば紳一くんには黙っておいてあげるよ。大事な娘が女々ほじりしてると知ったら何て言うだろうな、春ちゃん?」
「やめ……」
_消え入る春子の声。
_こんなことがお父さんに知れたら、私は嫌われてしまう。
_せっかく気持ちを伝えたのに。
_どうしたらいいの。
_焦れば焦るほど着衣がはだけていく。
_乱れたセーラー服の下からのぞいているのは、さっきまで春子の遊び道具だった糸瓜とアロエだ。
_それを見た男の口もとがニヤリと歪んだ。
「二人だけの秘密だ。さあ、さっきの続きをやってごらん。それとも、春ちゃんが助平なことやってたって皆に言い触らしてもいいんだよ」
「……」
「おじさんに触られるのと自分で触るのと、どっちがいい?」
_何があっても紳一にだけは知られたくないのだと、女心に思うのだった。
_そうして春子の体は男に釣られて、遊びの支度をはじめてしまう。
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