とんとん、と階段を上がってくる足音を聞いて、我に返った。
慌てて床に散らばっていた小さな下着を拾い上げ、引き出しの中に戻した。
「いいか!?今見たことは、絶対誰にも言うな!お母さんにもだ!妹たちにも、絶対にしゃべっちゃだめだぞ!」
鬼気迫る迫力に圧倒されたのか、娘は、私に両肩を掴まれたまま、脅えた目で「う、うん・・・。」と、頷くだけだった。
「あら、パパ、やっぱり帰ってたの?どうしたの、急に2階に上がってきたりして?」
すぐに妻の顔が、扉の向こうに現れた。
「あ、ああ・・・、こ、こいつに頼まれたものを買ってきたんで、渡しに来たんだ。」
「あっそう。何頼んだの?」
妻の目は、娘に向けられていた。
「た、たいしたものじゃないよ。しゃ、シャーペンの芯さ。なあ?」
机に上に、たまたまシャーペンの芯が出ていた。
娘は、俯いているだけだった。
「あ、そう・・なの?まあ、だったら、いいけど・・・。そろそろご飯ができるから、二人とも早く降りてきてね。」
妻は、私たちにそう告げると、また階段を下りていった。
妻がいなくなった後に、娘に訊ねた。
「なあ、最近お前の周りに、変なやつが現れてないか?」
「変なやつ?」
娘は、怪訝そうな目を向けるだけで、要領を得ないといった顔をしている。
「いや、そんな奴らが居なければ、別にいいんだ・・・。」
娘は、じっと私を見上げているだけだった。
つぶらな瞳で睨むように見つめている。
そっと、後ろを振り返った。
小さなベッドが置いてあった。
女の子らしく、ベッドカバーは華やいだ色に彩られていた。
眺めているうちに、胸を突き上げるものがあった。
「さあ、ご飯だって言うから、降りていこう・・。」
娘の肩を掴んで、部屋を出て行こうとした。
不意に、袖を掴まれた。
娘は、立ち止まったまま、じっと私を見つめていた。
何かを言いたそうな顔だった。
ひどく不安になった。
「ねえ、パパ・・。」
「なんだ?やっぱり、何かあったのか?」
「ポケットに入れた私のパンツ、返して。」
小さな手のひらが、私に向けられていた。
「あの子たちは、ゲームをしてるのよ・・・。」
ママ友の奥さんは、重い口調で語り始めた。
「ゲーム?」
「そう・・・ゲームよ・・。」
「ゲームって、どんな?」
「色々あるわ・・。自白ゲームに、ドレーンゲーム。マッハっていうのもあって、この間、初めてマンションに行った時に、私がされたのがそれよ・・・。」
「マッハ?」
「誰が一番早く出せるかを競うのよ。バカみたいよね。我慢するんじゃなくて、早く逝きたがるなんて・・・。」
自嘲気味に笑っていた。
力のない笑いだった。
「つまり、一番早く逝けた奴が勝ちってこと?」
「そうよ・・。それを2回もされたわ。負けたらお金を取られちゃうから、最初に負けたサトシが怒っちゃって、もう一度しようって言いだしたのよ。いつも、あの子が一番遅いのよ。遅漏みたいでなかなか逝けないの。でも、それが良くて、奥さんは付き合ってるのかもね・・・。結局2回目なんて、まともにできもしないで、隣で奥さんが一生懸命おしゃぶりして、おっきくしてあげてたわ。できないなら、最初から言わなければいいのに・・・・。」
いかにも苦渋に満ちた顔になっていた。
話を聞きながら、サトシが足首を掴んで、目の前の奥さんを犯している姿が目に浮かんだ。
そして、隣で裸になって眺めている妻の姿も・・・。
胸の奥に、おりのようなものが沈んでいった。
「負けたらお金を取られるって、金を賭けて、そういうことをしてるの?」
「そうよ。だって、そのためのゲームだもの。ゲームによって金額はまちまちだけど、マッハなんて、一回負けても千円よ。サトシは、そんなお金さえ借しいの。でも、そりゃそうよね。あの子、ゲームでお小遣いを稼がないと、学費も払えない貧乏な家の子なんだもの。」
サトシは、金がないと妻は言っていた。
だから、テッペイの部屋に行ったのだと。
「稼ぐって、そんなに金になるの?」
「お小遣い程度だから、たいしたお金ではないと思うけど。ゲームをやる子は、みんな参加料を払うのね。どのゲームも、参加料は、だいたい千円くらいよ。それを一番勝った人が総取りできるの。だから、あの日に、勝った子は2万円くらいもらえたんじゃない?学生のお小遣いにしたら、いい方と思うけど。・・・」
「ちょっと待った。計算が合わない気がするけど。居たのは5人だろ?それが千円で2回だったら、多くても1万円じゃないの?」
妻は、5人だと言っていた。
サトシ、シュン、テッペイ、そして奥さんの若いカレ氏と知らない誰かだ。
「違うわよ。サトシたちの他に、10人くらいは居たわ。」
「他に10人だって!?・・・だって、うちの奴は・・・。」
「嘘をついたのに決まってるじゃない!多くなんて言うわけないでしょ?10人以上としてきました、なんて言ったら、愛想尽かされて、あっと言う間に離婚されちゃうわよ。」
5入でも、十分多いと思うが・・。
「いつも、それくらい居るの?」
「そうね。いつだって10人くらいは居るわよ。ゲームを面白くするために、わざわざ集めるみたい。サトシなんか、ほんとは、もっと入れたがってるくらいだもの。その方がお金になるから。でも、あんまり多すぎると部屋も狭くなるから、テッペイ君が嫌がって許してないの。そうじゃなかったら、サトシは、20人でも30人でも入れるつもりみたいよ。」
「そんな・・・。」
妻が、股間に精液を溜めて帰ってきた日を思い出した。
確かにおびただしい量だった。
下着に溶けきらない精液が、ゲル状の固まりになって、はっきりと残っていた。
その残滓は、妻の下着の中に、幾つもあった。
かなりの量を注ぎ込まれたのは、明白だった。
10人すべてとは言わないが、相当な数の人間が注ぎ込んだものと考えれば、あの惨状も頷ける。
それが、もしかしたら20人になり、30人になるのかもしれない。
それ以上言葉が続かなかった。
「ショックかも知れないけれど、ほんとにショックを受けるのは、これからよ。」
奥さんが、その時だけ、私の目を見た。
「自白ゲームっていうのがあるの・・・。」
「自白ゲーム?」
「そう、マンションに遊びに来る男の子たちが、私たちに、家の住所や電話番号を言わせようとするゲーム・・。」
「そんなもん聞いてどうするの?」
「わかってないわね。いい?サトシたちは別にして、他の子たちは、私たちのことを知らないのよ。その子たちに、住所や電話番号を教えるってことは、私たちの生活のすべてを知られてしまうことになるの・・・。つまり、あのマンションの中のことだけじゃ済まなくなって、自分や家族の生活まで脅かされる危険性があるってことよ。実際、それが目的で言わせるわけだし・・・。」
「なに?つまり、君たちに危害を加える目的で、自白させようとするわけ?」
「そうよ。ただ危害と言っても、どれも、たいしたことではないの・・・。でも、学校帰りの子供に、お前の母親は淫乱だ、って言ってやるとか、突然、夫の前に現れて挨拶してやる、とか言われたら、ほんとにしかねないことばかりだから、返って怖くて、何も言えなくなるわ。告白タイムっていうのがあって、家族とか周囲に何をしたいのか、みんなの前で言ってから、私たちに聞いてくるのよ。」
「セックスの最中に・・だね?」
「そ、そうよ・・・。言わなきや、い、言うまで責められるの・・・。時間が決まっていて、その時間内にどこまで聞けたかで、ランク分けされたお金が、その子たちに払われるの。だから、向こうも必死になっちゃって・・。」
「ランク分けされたお金?」
「うん。AからEまでのランクがあって、それぞれにお金も違うの。例えば、自分の名前や、仕事先ならFランクで、千円とかね・・・。」
「ふ-ん、それで、何を答えたらAランクになるの?」
「貯金通帳のありかとか、あと、旦那さんがお風呂に入る時間とか。それを聞き出せたら、1万円になるわ。」
思わず、笑ってしまいそうになった。
「貯金通帳は、わかるけど、なんでご主人のお風呂タイムがAランクなの?」
緩んだ私の顔を見て、軽く見てると思ったらしい。
きつい目で、睨んできた。
「その時間に、私たちを犯しに来るからよ。」
「えっ!?」
「それも、外で隠れてなんかじゃない。家の中のどこかでするのよ。だから、どこなら見つからないか、それも言わされるの・・・。」
言葉が出なかった。
家の中でって・・・。
これはゲームなんて生易しいものじゃない。
まったく関係のない赤の他人が、家の中にズカズカ上がって来て、そこの主婦を犯そうというのだ。
彼女には、子供だっている。
足の悪い義母も一緒に住んでいる。
家族の団らんがあり、絆がある。
それらを一切無視して、たかが自分の欲望を満たすために、ガキどもは、その家に押し入り、亭主の目を盗んで、彼女を抱こうとする。
それはゲームなどという簡単な言葉で、済ませられる内容ではなかった。
その時、ハッとなった。
不意に頭の中に浮かんでしまった。
と言うことは、うちの妻も・・・。
考え込むように黙り込んでしまった私を見て、すぐに彼女は察したらしかった。
「ご想像のとおりよ。これは、あなたにだって、他人事じゃないのよ。」
「あ、あいつも・・・同じことを?・・・。」
彼女は、答えを返さなかった。
しかし、私の目を見つめて、大きく頷きはした。
なんてことだ・・・。
まさか、そんなことが・・・。
「自白ゲームにはね、必ず検証があって、嘘を言ってないか確かめるために記録を残すの。」
「検証の記録?・・・。」
「そう、ビデオを撮ったりするのよ。そして、あなたの奥さんは、たくさん自白してるわ。サトシたちがノートを持っていてね、誰に何を自白したのか記録しているの。誤魔化しができないようにね。そのノートには、あなたの奥さんが、たくさんの男たちに自白した記録が残されているのよ。つまり、それだけ検証されて、そして、おそらくあなたの家には、たくさんの人が入ってる。」
「まさか・・・。」
「嘘じゃないわ。私、見せてもらったもの。」
「なにを?・・・」
「あなたの家で、奥さんと全然知らない子が、セックスしてるビデオを。」
「えっ!?なんで、そんなものを!?」
「あの子たちの玩具にされてから、すぐに自白ゲームをさせられたの。もう怖くて仕方なくて、私、ずっと泣いてたわ。ほんとに怖くて、どうしていいかもわからなくて、あの子たちに何回も打たれた。その時、あなたの奥さんが近づいてきて、つぶやいたのよ。全然大変なことじゃないから、大丈夫よ、って。簡単なことだから、早く喋ってしまいなさい、って。そして、手に持っていたビデオカメラを見せてくれたの。それが、奥さんの検証記録用のビデオだったわけ。あなたのうちに、白い小さなタンスがあるでしょ?たぶん、子供部屋だと思うけど、そんなタンスない?」
「あ、ある・・・。」
長女の部屋だ・・・。
わずかに足が震えだした。
「その部屋に、柵のある小さなベッドってある?」
「あ、ああ、あるよ・・・。」
次女と使っていた2段ベッドを分割したもので、あのベッドには転落防止用の柵が付いている・・・。
「その小さなベッドの上で、奥さんとその男がセックスしていたわ。」
声を失っていた。
「途中で、男がタンスの中を漁りだしてね、その中にあった下着を奥さんに穿かせて、またやり始めたの。すごく小さな下着で、窮屈そうだったけど、それを穿いたまましたのよ。そして、終わったら、また、その下着を丸めてダンスに中に戻していたわ。」
戻した?
「そ、それは・・・いつのこと?・・・。」
声が震えていた。
「ビデオの目付は新しかったわ。○月×日よ。」
つい、この間じゃないか!
「なんで・・・子供たちの部屋になんか?・・・。」
「聞きたい?」
「ああ・・・是非、聞きたいね・・・。」
「聞いたら、あなた奥さんを殺すかもしれないわよ・・・。」
喉がカラカラに渇いていた。
ひどく意地悪そうな目で、奥さんは私を見つめていた。
「かまわないから、教えてくれ・・・。」
「そう、じゃあ、教えてあげる・・・。」
なぜか、笑っているようだった。
「奥さんに聞いたの。これ、子供部屋でしょ?って。あの子たちの部屋よね?って。」
この奥さんの子供と、長女は、年少さんから知っている友達同士だ。
だから、うちの子供も知っている。
「どうして、そんなところに連れて行くことになっちゃったのか、不思議で聞いてみたのね。そしたら、奥さん、なんて答えたと思う?」
「わからないね・・・いいから、早く教えてくれ。・・・」
「ほんとにいいの?」
「ああ・・。」
「じゃあ、教えてあげる。告白タイムに、その子が、あなたのお嬢さんとHがしたいって言ったんですって。そして、奥さんは、娘さんの名前と学校名をあっさり白状しちゃったわけ。それを確かめるために子供部屋に行ったのよ。だから、奥さんとしていた子は、ちゃんと勉強机にあったノートで、お嬢さんの名前と学校名も確かめていたわ。奥さん、こう言ってたわよ。『だって、気持ちよくて我慢できなかったんだもん。』ですって。すごい人よね。これでわかったでしょ?あなたの奥さんがどんなにひどい女か。気持ちよくなりたい一心で、自分の子供さえも売ってしまうような人なのよ。それが、あなたの奥さんってわけよ・・・。」
最後の方は、何も聞こえていなかった。
ただ、耳の奥で、ジィーっと何かが鳴っていた・・・。
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