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第五章
第一項 あの真夜中の公園の公衆トイレでの一件以来、晴人と桜は、お互いに一度もあのアプリを開くことができずにいた。 スマホの画面を見るたびに、胸の奥がチリチリと痛むような、気まずさと気恥ずかしさが蘇ってくる。だが、アプリを閉じている間も、二人の思考はあの日の淫靡な闇と、お互いの生々しい体温から逃れることができなかった。 ただ、二人の脳内を支配していたのは、それぞれ全く異なる「致命的な勘違い」だった。 晴人は自室のベッドの上で、頭を抱えて悶々としていた。 (最悪だ……。あんなに必死になって触っておきながら、まともに手も使わず、ただ押し付けただけでイッてしまうなんて……。あんな情けない姿、絶対にララさんに嫌われたに決まっている。キモいって思われて、もう二度と話せないに決まってる……) 絶望と羞恥心に打ちひしがれ、晴人は自分の愚かさを呪い続けていた。 一方の桜もまた、自室であの夜のことを考えていた。 (リードさんがあんな風に急にいなくなったのは……私が「だめです」って声を出してしまったからだ。絶対にお互いに声を出しちゃいけないっていう約束を、私が破ったから……怒らせちゃったんだ。あんな最低な女、もう相手にしたくないって思われて当然……) 桜は胸を痛めていた。 お互いに「嫌われた」「愛想を尽かされた」と勘違いしたまま、気まずさと後悔に悶える日々。 しかし、どれだけ「もう忘れよう」「あんなことは無かったことにしよう」と頭で理性に言い聞かせても、あの夜に経験した背徳的な快感と、全身の毛穴が粟立つような刺激は、一瞬たりとも脳裏から離れてはくれなかった。 (……やっぱり、もう一度だけ……) そんな葛藤と、どうしようもない飢えに耐えかねて、二人が再びあのアプリのアイコンをタップしたのは、あの密会からちょうど2週間が過ぎた夜のことだった。 第二項 久しぶりに開いたアプリのチャット画面。 桜がそっとログインしたその瞬間、奇跡的なタイミングで、リードからのメッセージが飛び込んできた。 『ID:リード:ララさん……っ!? い、いたんですか……?』 『ID:ララ:……リードさん……?』 互いに画面の向こうで息を呑んだ。 もう二度と話せないと思い込んでいた相手からの返信に、二人の心臓は激しく跳ね上がった。 チャットのやり取りは、恐る恐る、しかしすぐに熱を帯びていった。 『ID:リード:あの……あのときは、本当にすみませんでした! 勝手に変なことになって、嫌われちゃったと思って……』 『ID:ララ:え……? 私のほうこそ、すみませんでした! 約束を破って声を出してしまったから、怒って帰ってしまったんだって……ずっと……』 『ID:リード:えっ……声を出したからって……? いや、違います! 僕が勝手に……その、情けないところを見せてしまって、怖がらせて嫌われたんだって……』 画面越しに言葉を交わすうちに、二人はお互いが抱いていた勘違いの正体に気づいた。 嫌われていなかった。怒っていなかった。 お互いに相手を気にして、同じように勘違いし、同じようにあの夜を引きずっていたのだと知った瞬間、胸を締め付けていた不安が一気に消え去り、代わりにドロドロとした熱い安堵と、抑えきれない興奮が二人の身体を駆け巡った。 『ID:リード:よかった……嫌われてなんかなかったんだ……。ララさん、お願いです。もう一度だけ、もう一度だけ僕に会ってください!』 『ID:ララ:そんな……! だめです、あんなの………』 桜の指が激しく震える。 心の中では、いつも職場で優しく微笑んでくれる蓮の顔が浮かび、「こんなおかしな関係にこれ以上深入りしてはいけない、普通の女の子でいなければならない」という理性が必死にブレーキを踏もうとしていた。 『ID:ララ:もう二度とこういうのはやめようって……思ってたんです。だから、会えません……』 精一杯の拒絶を絞り出す桜に対し、一度火がついた晴人の執着は、もう誰にも止められなかった。 『ID:リード:お願いします、ララさん! 今度こそ、ちゃんと約束を守りますから……! あんな中途半端で終わるの、嫌です。もう一度だけ、あの場所で……』 甘い言葉と、あの夜の強烈な快感の記憶が、桜のなかのわずかな理性の壁をじわじわと侵食していく。 (もう一度だけなら……。今回限りで、本当にきれいさっぱり終わりにすればいいんだから……) そう自分の中の悪魔が桜に言う。 自分に都合の良い言い訳を無理やり作り上げ、心優しく押しに弱い桜の決壊した防壁は、ついに音を立てて崩れ落ちた。 『ID:ララ:……分かりました。本当に、今回が最後ということで……』 その返信を見た瞬間、晴人は自室のベッドの上で歓喜の声を押し殺し、全身を震わせた。 こうして、二人は再び、あの闇に包まれた公園の公衆トイレへと引き寄せられていくのだった。 第三項 約束の夜。梅雨明けを控えた蒸し暑い空気の中、桜は指定された古びた公園の公衆トイレへと足を向けていた。 この日の彼女は、丈の短いノースリーブのワンピースを身にまとっていた。 前回と同じように、桜が先に個室へと滑り込み、重い扉の鍵を閉める。そして、持参した黒いアイマスクを目元に装着した。 視界が漆黒の闇に染まった瞬間、自分の激しい心臓の音と、じめっとした夜気が全身を包み込む。 (また……来ちゃった……。でも、これで最後……今日で最後にするんだから……) ――しばらくそのまま待っていると徐々に足音が近づいてくる。 やがて、ドアを三回ノックされた。 桜もノックし直す。 わずかに遅れてトイレスペースの扉が開く音がした。気配からして、リードもちゃんとアイマスクを着用している。 足音を殺しながら、リードが桜のいる個室へと入ってきた。 狭い空間のなかで、お互いの気配が重なり合う。 前回の動揺や手探りとは違い、一度一線を越えた二人の間には、すでに逃げ場のない異様な熱気が立ち込めていた。 晴人は、目の前に立つ桜の気配を感じた瞬間、抑えきれない衝動に突き動かされるように背後から一気に身体を寄せた。 そして、前回よりも明らかに荒々しい、剥き出しの執着を込めた手つきで桜の身体を弄り始めた。 「んっ……!」 背後から覆い被さるように押し寄せた重みと、容赦のない手つきに、桜の息が小さく乱れる。 こんな公共の場所で、しかも顔も見えない相手にこんな淫らな真似をされている――その強烈な背徳感が、二人の理性を急速に焼き溶かしていく。 お互いの息づかいはみるみるうちに浅く、早くなり、個室のなかの空気が熱く重く澱んでいった。 ノースリーブのワンピースという薄い生地を通して、晴人の股間でギンギンに硬くそそり勃った肉棒が、桜の意外に分厚く柔らかな尻肉へと、容赦なく、ねっとりと擦り付けられる。 背後から伝わってくる男の熱と、硬質な塊の感触。それが、晴人自身の制御できないほどの興奮をダイレクトに桜へと伝えていた。 (こんなに……硬……。私のせいで、この人が……) 背徳感に身を震わせながらも、桜の身体はその圧倒的な熱量に反応し、内側からじわじわと熱を帯びていく。 晴人の手は、ワンピースの上から双乳を鷲掴みにするように揉みしだき、さらにその下へと這い下がっていった。 (直接触りたい……もっと、この身体を知りたい……!) ワンピースの裾に手をかけ、その薄い布地の中に手を滑り込ませようとする晴人。 しかし、桜はそれを必死に両手で押し返そうと抵抗した。 「んっ……ぁ!」 ワンピースの中に入れさせまいと必死に身をよじる桜。 しかし、晴人はそのむっちりとした臀部から太ももへと、汗でベタついた手でいやらしくまさぐり、強引にスカートの裾の中にまで侵入させようと指をねじ込んでいく。 桜がそこまで必死に、頑なにその侵入を防ごうのには、自分だけの隠したい理由があった。 普段自分で自分を慰める感覚とのあまりのギャップに桜は翻弄されていた。 ――すでに、ショーツの中が自分の愛液で濡れ始めているのだ……。こんなところを触られたら、自分の恥ずかしい秘密のすべてがこの男にバレてしまう。 しかし、激しく求めてくる晴人の執念は凄まじかった。桜のわずかな抵抗の隙をつき、晴人の手がとうとうワンピースの裾をくぐり抜け、桜の下半身へと滑り込んだ。 そして、震える指先が、桜のショーツのクロッチ部分に直接触れたその瞬間――。 晴人はぴたりと動きを止めた。 指越しに伝わってきた、異常なまでの熱と、びしょ濡れに濡れそぼった布地の感触。 (……え……? こ、これ……、こんなに……濡れてる……?) 初めて異性の股間に、薄生地とはいえ、剥き出しの愛液の湿り気に直接触れたショックで、晴人は頭が真っ白になり、思わず鼻息を荒く荒く荒げた。 「ぁっ!………んんっ!………くっ!」 自分の最も恥ずかしい部分に触れられた瞬間、桜は頭のてっぺんまで一気に血が昇るような羞恥心に襲われ、耳たぶまで真っ赤に染め上げながら、その場から必死に逃れようと身をよじった。 高校生のときにたったの一度だけ性経験があったものの、こんなふうに赤の他人に、薄暗いトイレの中で直に濡れた秘所を暴かれるような真似をされたのは人生で初めてだった。 恥ずかしさで涙が出そうになりながら、桜が必死に身を引こうとした。 (だめ……っ、これ以上は本当にだめ……! 下着の中にまで入られたら、私のすべてがこの人に知られてしまう……っ!) 頭の中では、そんな恐怖と羞恥心が一気に駆け巡っていた。しかし、下着のクロッチ越しに伝わる指先の生々しい熱と、自分がすでに濡れそぼっているという動かしがたい事実が、桜の理性を激しく揺さぶる。 晴人は晴人で、初めて触れた異性の股間から伝わる凄まじい熱量と、その濡れそぼった布地の感触に脳髄を焼き尽くされていた。 「軽く触るだけ」「今日が最後」というルールが完全に崩れ去ってしまいそうだった。ダメだと分かってはいても止められない。 「はぁ……っ、はぁ……っ……」 薄いワンピースの上からとはいえ、執拗に体をまさぐられるたび、桜の口からは熱を帯びた小さな吐息が漏れてしまう。 下着の中に直接手は入れられていない。それでも、自分の身体がこれほどまでに男の熱に当てられ、敏感に反応してしまっているという恥ずかしさが、桜の全身を真っ赤に染め上げていた。 (なんで……ダメ………こんなこと……。私はっ………) 頭の片隅に、職場でいつも優しく微笑む蓮の顔がよぎる。その純粋な優しさと、今まさに暗闇の公衆トイレの中で見知らぬ男に貪られるように触れられているこの淫らな現実とのギャップが、桜の胸を激しく引き裂いた。 「服の上から軽く触るだけ」という約束の境界線をギリギリのところで守りながらも、その手つきは前回よりもはるかにねっとりと、執着を孕んだものだった。 背後からしっかりと体を密着させ、晴人は桜の首元に顔をうずめるようにして、その甘やかな体臭を貪るように吸い込んだ。 言葉は一言も交わさない。お互いの正体も知らない。 ただ、蒸し暑い密室の暗闇の中で、汗をかきながら、二人の息づかいと荒い鼓動だけが、重なり合うように響き渡っていた。
2026/08/25 22:50:32(FRWDjo9q)
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