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渚橋でよくすれ違う女性がいた
駅に向かう私とは反対方向へ歩く姿は 颯爽としていた。 住めば都と言えども磯の香りは いつしか鼻につく。 そんな中、彼女とすれ違う時の ほのかな石鹸の香りは私の1日の始まりの糧にもなっていた。 細い歩道ですれ違いは 肩や服が触れるほどに近距離で…雨の日が好きだった。 傘がぶつかるのを気にして 彼女の傘より高く上げ 彼女は下に下げ それで上手く通れるのだがいつしかそれも 自然に意思疎通が出来てるようで 視線も合うようになり 雨の日は会釈程度の彼女の笑顔を見れたのだ… その日も雨だった。 いつもの橋の中央で彼女は少し急いでいるように 見えた。 傘を上げ、通そうとした時 肩がぶつかり彼女が転んでしまった… すぐさま 「大丈夫ですか?」と声を掛けると同時に 左腕を掴み起こそうとして 自然と投げ出されたバッグの中身に 目がいった… (あっ、ローターだ…) 「大丈夫です!すいません慌てて!」 と雨に浸かったバッグの中身を拭いもせず しまい 「お怪我などしてま… 」 ぐらいで立ち去ってしまった… 視線は合わないまま。 ローターだった… イヤ、何か化粧道具か何かだったのか… イヤ、あの独特のピンクに コード… やっぱりローターだ… 電車の中も仕事中も その事が頭から離れなかった あの颯爽と歩く姿、 会釈の笑顔…からは想像もつくはずもない ピンクローターの出現… 部屋にあるならまだわかる。 笑いの種やイチャイチャのキッカケにもなる… 何故、持ち歩く… しばらく封印していた Sの火がまた灯ってしまった… でもきっと明日は すれ違えない気がするな… 彼女を引き起こそうとした時の 私の視線が彼女になく ローターに向いていたのを彼女は気付いてる… だから明日は 同じ時間には来ないだろう… 案の定、 次の日は逢えなかった… そして次の日 私は15分早く家を出て 橋のたもとで彼女を待った… ある覚悟をして。 ヒールの音をコツコツさせ 彼女が来た! 相変わらず姿勢が良い。 束ねた髪を解いているのか 風になびく様は朝陽を浴びて 眩しかった… これで嫌われたら潔く散ろうと 胸に秘めた言葉掛けた… 「どうして、ローターを持ち歩くんです?」 突然の言葉に彼女の顔面は血の気を引き こわばり少し腰が落ちた… 「急ぎますので…」 と同時に彼女の右のつま先が 私を避けようと動いて私は咄嗟に左足を出して 進路を妨げ 「変態なんでしょ…」無謀な言葉を浴びせた… タイトな紺のミニスカートからのぞく 膝がガクンと落ちるのを見逃さなかった (Mだ… ) 彼女は黙って小刻みに震えている… 噛み締めた唇に折り曲げた 人差し指をあて正常に意識を保とうと 必死だ… 私は用意していた 名刺を渡し 「連絡下さい 」と言い残し 仕事へ向かった… 名刺の裏には 失礼を承知して声を掛けました 不快でしたら金輪際会わぬよう 私が時間を変えます とだけ書いておいた。 当然のごとく その日は何も連絡はなかった… つづく
2018/12/21 22:09:11(qp6kr9mN)
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