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俺は今、全頭マスクを被せた愛妻をネットに晒している。
初めてカメラのスイッチを押した時、胸の奥が熱く震えた。 彼女の顔は見えない。だが、その無防備な姿──緊張と快感に震える身体──が画面越しに映し出されるたび、俺の興奮は増していった。 「これが俺たちだけの秘密の遊びだ」 そう思っていた。だが、いつの間にか違った。 彼女の眼差しが画面の向こうの“誰か”に向けられ、次第に承認を求めるようになっていた。 「もっと見てほしい」 その欲望が彼女を蝕み、俺もまた新しい興奮に囚われていく。 最初はただの夫の遊びだと思っていた。 でも、全頭マスクを被り、誰かの視線を感じるたびに身体が熱くなっていく。 私を見てほしい。認めてほしい。 ネットの向こうの知らない“誰か”に晒されることで、私の中の何かが壊れていく。 「もっと、もっと壊して」 そう願う自分に気づいてしまった。 夫の前では決して見せられない私の本性。 誰にも言えない、この秘密の快感。 カメラの前で、彼女は静かに震えていた。 全頭マスクの下で、唇がわずかに震えるのが見える。 「恥ずかしいか?」俺は囁いた。 彼女は小さくうなずいた。 だが、その恥じらいは次第に違うものに変わっていった。 ネットの向こう側にいる誰かの視線を受け止めている。 知らない誰かに見られていることが、彼女の身体を優しく揺らす波のように伝わる。 俺の期待以上のものだった。 それは俺だけの彼女ではなくなっていく恐怖と、同時に芽生える奇妙な興奮だった。 画面の向こうに広がる無数の視線。 それは知らない誰かの視線で、決して触れることはできないのに、確かに私を捉えている。 マスクの中で、私の心臓は速く打った。 身体はこわばりながらも、どこか自由になった気がした。 「こんな私でも、見てほしい」 そう強く願ってしまった。 承認されることへの渇望。 それがいつの間にか、日常の支配者になっていった。 そして私は、もう戻れないと知っていた。 最初は、部屋の中だけのつもりだった。 カーテンを閉め、照明を落とし、彼女を撮る。 全身を覆う黒のマスク、その口元だけがぽっかりと開いている。 その姿を見ながら、俺は満たされていた。 誰にも知られず、誰にも触れられず、彼女を世界の片隅にそっと晒すこと。 それが「特別な行為」だと思っていた。 だが、ある日ふと「外へ出てみないか」と言った。 冗談のように、軽く。 彼女は、少しだけ目を伏せて、そして小さくうなずいた。 最初の一歩は、マンションの裏手にある駐車場だった。 日差しはやわらかく、周囲に人影はなかった。 けれど、風が吹くだけで身体の輪郭が晒されていく気がした。 ぴったりしたニットにタイトなスカート。 その下には何もつけていなかった。 ストッキングを素肌に直に穿く。 その薄い膜が、肌の上でかすかに擦れるたびに、心がざわめいた。 私は、もう元には戻れないのだと、思い知った。 彼女は応じた。 何も言わず、ただ俺の求めるままに。 ある日から、服装が変わった。 ボディラインを強調するレオタード風のコスチューム。 脚はパンスト越しに透け、動けば布地が食い込む。 「コスプレ」と言えば許されるような気がしていた。 本当はただ、人目を惹く姿を撮りたかっただけなのに。 マスクも変わっていった。 最初は口元だけだったのが、やがて目と口が露出し、表情がほんのりと透けるベージュの薄い素材へと変わった。 その顔は見えないはずなのに、どこか艶めかしく、女としての色気が漂っていた。 あの頃の私は、誰よりも「見られたい」と思っていた。 知られたくない。だけど、気づいてほしい。 それは矛盾した欲望だった。 最後の撮影では、もうマスクは立体的なベージュのものに変わっていた。 大きなサングラスに、ウィッグをかぶって。 素顔は何も見えないのに、私はかつてないほど裸だった。 公園のベンチに腰かけ、彼の指示に従って脚を組み替えただけで、通り過ぎる人の視線が背中を刺す。 だけど、それが怖くなかった。 むしろ、私の中でなにかが甘く疼くのを感じた。 「あなたの妻は、もう、あなたのだけじゃないのよ」 そう言いたくなる自分が、そこにいた。 その日、私はただ部下の忘れ物を届けるつもりだった。 何の悪気もなく、むしろ義理堅い行動だったはずだ。 インターホン越しに現れたのは、あの部下の妻だった。 私は一瞬、息を呑んだ。 彼女はベージュのタイトなニットワンピースを着ていた。 シンプルなのに、どこか挑発的だった。 特に胸元とヒップラインが、何かを隠すより、かえって強調しているように見えた。 しかも、揺れる身体に、下着の気配がまったくなかった。 私の目は、気づかれないように──と思いつつ、彼女の輪郭に釘付けになっていた。 そして、その顔。 きちんとメイクされたその顔には、一見なにもない。だが、唇の下、わずかに不自然な影。 私は思い出した。 昨夜、自室で見ていた匿名動画サイトに投稿された“お気に入りの女”のことを。 マスクの下からのぞく、あの唇。 そのすぐ下に、ひときわ濃く描かれた黒い点──黛で強調されたホクロ。 それと、今目の前に立っている彼女の「隠したはずのホクロ」が、どうしても一致する。 一度そう思ってしまえば、もう確信は疑いに変わらなかった。 豊満な肉体。しなやかな腰。 そして、あの“わずかな頬の震え”。 同じだ。間違いない。 私はそのまま、忘れ物を差し出した。 彼女は少し微笑み、丁寧に礼を述べた。 だがその声の奥にも、あの動画で聴いた、かすかな震えが混じっていた。 羞恥とも、快感ともつかない、あの震えが──。 ドアを閉めた瞬間、背中に汗がにじんだ。 なぜか、彼の視線がいつまでも離れなかった気がする。 「……バレた?」 そんなはずはない。 ファンデーションを重ねた。マスクも外していた。ウィッグも外していた。 昼の私は、匿名の“あの私”ではない。 だけど──胸の奥で、どこか疼くものがあった。 「もし、気づかれたらどうなるんだろう……」 怖い。 けれど、その想像が、ひどく甘く、熱い。 私は慎重だった。 確信はあったが、証拠がなければ意味がない。 ──いや、むしろ確信があるからこそ、追い詰めたくなったのかもしれない。 投稿されていたあの動画には、背景に特徴的な壁面タイルと、消火器の赤い箱が映っていた。 市内でも限られた構造だ。私はいくつかの可能性をリストにして、休日を使い、現地を回った。 そして── いた。 午後の日差しの中、周囲を気にしながらもどこか浮き足だったような、奇妙な緊張感をまとった女。 薄手のカットソーにタイトなスカート。その脚を包むのは、直穿りの薄いパンスト。 足元はスニーカーなのに、腰の動きが妙に艶めかしい。 カメラの三脚、車の影に隠れるように立つ男のシルエット。 まるで、舞台に立つ女優と、それを見守る監督のようだった。 そして、決定的だったのは── 彼の車。 ナンバープレート。車種。社用駐車場でいつも見ているものと、完全に一致していた。 スマートフォンのシャッター音を消し、数枚の写真を撮った。 1枚は、彼女の背後から透けるシルエットと車。 もう1枚は、助手席の扉を開ける夫らしき男の後ろ姿。 これだけあれば十分だった。 「わいせつ物陳列」──刑法175条。 警察沙汰になれば、社の規定では即日懲戒免職だ。 その日の帰り、上司から呼び出された。 「ちょっと、時間あるか」 応接室。冷房が効きすぎて、汗が引いていく。 そして、机の上にそっと置かれたスマートフォンの画面。 そこには、あの時の、まさにあの瞬間が映っていた。 車。俺の車。 そして、──妻。 「……ご趣味は、ご自由に。ただし、会社員という立場がそれを許すかどうかは、別の話だな」 口調はあくまで穏やかだった。 けれど、言葉の端々に、確実な悪意と、支配の気配があった。 「この件が“表沙汰”になれば、わかってるな? うちの社則では、刑事事件に関わった時点で──」 俺は、息を呑むしかなかった。 「奥さん、綺麗な方だな」 不意に漏れたその一言が、何より恐ろしかった。 「君の奥さんさえ、協力してくれれば──私は黙っていられる」 上司は静かにそう言った。 穏やかな口調の奥に、嗜虐的な愉しみが見え隠れしていた。 「最初は簡単なことでいい」 彼はそう続けて、机の引き出しから数枚のププリントを取り出した。 そこには、露出度の高いコスチュームの写真──アニメ調のメイド服や、ぴったりと肌に張りつく全身タイツのようなもの。 「この格好で、いくつかポーズを撮ってくれ。それだけだ」 わざとらしく無害を装っていた。 けれど、背筋に汗が伝うのがわかった。 俺の妻が、あいつのために…… その想像に、否応なく興奮が混じる自分が、情けなかった。 「そういうこと……だったのね」 夫の口から全てを聞いたとき、驚きと恐怖があった。 でもそれ以上に──心のどこかが、ざわめいた。 “見られる”ことの快感を知ってしまった私は、もう普通には戻れないのかもしれない。 上司から送られてきた“リクエスト”には、衣装だけでなく、ポーズや目線、角度まで細かく書かれていた。 最初の撮影は夫とふたりで行った。 指示どおりの格好、指示どおりの姿勢。 まるで、命令されることで、私の中の“欲”が明確になるようだった。 次のリクエストは──「自分で慰める姿を撮って送れ」というものだった。 夫と顔を見合わせた。沈黙ののち、彼は小さくうなずいた。 その夜、カメラの前で私はひとり。 マスクとサングラスの奥で、表情を隠したまま、自分の手で股間に触れた。 まるで知らない誰かの手のように感じた。 羞恥と、解放と、支配。 そのすべてが同時に降ってくる。 私はまだ、本当の意味で“晒されて”いない。 でも──その一歩手前まで、来てしまっていた。 はじめは、夫のためだった。 “脅されている”という状況の中で、私ができる唯一の協力。 そう思っていた。 でも、次第に私は気づき始めていた。 私は、もう「強いられて」などいなかった。 彼のリクエストを読むたびに、胸の奥がざわつく。 知らない誰かの期待に応えることで、自分が特別な存在になる気がしていた。 上司から届いた新しいリクエストは、こうだった。 「浴衣で夕暮れの公園を少し歩いてほしい。 アイスキャンディーを片手に、しゃがんだとき、内輪でうまく“整えて”。 顔はもちろん出さず、ベージュのカバーとサングラスで。髪はツインテールでお願い」 その文章を読んで、私はすぐに「無理」とは思えなかった。 どこかで、“見ていて”と言われたような気がしたのだ。 まるで舞台に立つ女優に、次の役が与えられたような感覚。 そう、これはもう晒しではなかった。演じることだった。 それも、誰にもできない、私だけの役。 夏の終わりのような夕暮れ。 彼女は薄紅色の浴衣に身を包み、木陰のベンチに腰を下ろす。 口元と目元は、淡いベージュの立体マスクと大ぶりのサングラスに覆われ、誰かはわからない。 ツインテールに結った髪が、若作りであることを強調していた。 にもかかわらず、その立ち居振る舞いには、大人の女のゆるぎない気配が滲む。 彼女は、アイスキャンディーを口に含み、しゃぶる。唇から滴る液体。 唇の奥に溶ける氷の感触と、誰かに見られているかもしれないという意識が、身体のどこかをざわめかせる。 そのあと、静かにしゃがみ込む。 浴衣の裾が、膝からこぼれる。 内輪で剝き出しの女陰を隠す。団扇をどけて視線を誘導する。 ──カメラの向こうに、誰がいるかも、もう関係なかった。 「上司のため」だったはずの投稿が、今はもう──違っていた。 画面の向こうにいたのは、彼ひとりではなかった。 匿名の動画共有サイトに投稿された、私の姿。 マスクで覆われた顔、ツインテール、若作りの服、はだけた裾、静かにしゃがむ仕草。 最初は、ただ再生されるだけだった。 でもある日、気づいてしまったのだ。 「いいね」の数が──私のどこかを確実に熱くすることに。 「最高のライン」 「この女、完全にわかってる」 「顔が見えないのにエロいって凄い」 無数のコメント。 そこには、私が日常で決して得られなかった“賛美”があった。 家庭でも、仕事でも、女としても──あれほどまでに認められたことが、あっただろうか。 「……上がってる」 妻が送った映像が、知らないアカウントから投稿されていた。 彼女はもう、自分でアカウントを作り、編集もしていた。 そこには、俺の関与はなかった。 「どう、すごいでしょ」 彼女は誇らしげだった。 まるで芸術家が自作を褒められたように、目を輝かせていた。 俺は、何かを置いて行かれた気がした。 なのに、目を逸らすことはできなかった。 彼女が、あんなにも“嬉しそうに晒されている”姿を、もう一度見たいと思ってしまった。 私は、もう“脅されている”のではない。 私は、舞台に立つ女優。 目立つほどに、貪られるほどに、熱くなる。 「あの動画の女、また出てほしい」 「次はもっと派手な服で頼む」 「顔は出さなくていい、このままでいい」 知らない男たちからの賛辞。 それは私を、「もっと見せたい」というモンスターに変えていった。 羞恥はもう、快感の皮膚に吸収されてしまった。 私を止めるものは、もう誰もいなかった。
2025/08/07 23:32:03(oXgaddTg)
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