「山下部長、お電話ですよ、村松さんって女の方から・・」
事務の女の子が俺を呼んでいる。
「村松さん?」心当たりはないが受話器を取る。
「ハイ、電話変わりました、山下ですが・・」
電話の主は一瞬の間の後に、おずおずと切り出してきた。
「あのー・・私、紀子です。判ります?」どうやら仕事や勧誘の電話ではな
さそうな気配だ。
「失礼ですがどちらの村松さんでいらっしゃいますか?」
『紀子さん』などと名前で呼びかけて、受話器の周りの連中に変に勘ぐられ
てもいい迷惑だ。うっとうしい電話は御免、とばかりについぶっきらぼうな
対応になる。
「あのー、私、紀子です、鈴木紀子・・以前○○でご一緒だった・・」
一瞬、心臓を鷲づかみにされたような感じがした。
13年以上も前、別れた紀子だ。別れた直後、誰かと結婚したとは風のうわ
さで聞いていたが、この電話の向こうは本当にあの鈴木紀子なのか?!