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1:因果ハ応報ス
投稿者:
(無名)
木村から電話がかかってきたのは、日付が変わる直前、狭いアパートのベッドに横になり、ぼんやりと天井を見つめていると、不意にバイブレーションの音が響き、スマートフォンが着信を告げた。
「ん?なんだ?」 僕はスマートフォンを手に取り画面を見た瞬間に、胸の奥が酷くざらつく。ディスプレイに表示されていたのは「木村先輩」の文字をだった。木村は、大学の先輩で正直関わりたくない相手だ。 出ると「今から来い」それだけ言って、木村は電話を切った。 断れる雰囲気ではない。大学のサークルで無理やり上下関係を仕切り、暴力沙汰すれすれの振る舞いをする木村は、誰も逆らえない存在だった。 僕はアパートを飛び出し、梅雨入りのベタつく風の中、自転車を漕いで木村のマンションへ向かう。深夜の住宅街は、どこか異様に静かで、耳鳴りのように風の音だけが響く。 木村の住むマンションは、僕のアパートから二駅ほど離れた距離にある18階建ての学生には不釣り合いな高層マンションだ。整然としたエントランスのインターフォンから木村の部屋番号を呼び出すと、男の声で「上がってこい」とだけ言い、オートロックのガラス扉が開いた。 木村の部屋の前。僕は一瞬躊躇し、ノックもせずドアノブに手をかける。鍵は開いていた。玄関には男ものの靴が何足か脱ぎ捨てられており、僕は訪問者が他にも居る事を察知した。 僕は声も掛けず、重い気分で廊下を進み、奥のリビングの扉を開ける。薄暗い部屋の中、木村と、同じくサークルの先輩である白井がソファに座っていた。二人とも酒を飲んでいて、白井はすでに目が据わっている。 そして部屋の奥には、脱がされた着衣が申し訳程度に絡まった半裸の女がいた。 髪は乱れ、黒いアイマスクで目隠しをされ、口には赤い猿轡を噛まされている。足を開いたまま、手は後ろ手にビニール紐で縛られて黒革のソファに寝かされている。女は鼻水と涎で顔を汚し、僕の気配を察知したのかウンウンと唸りながら助け求めるように激しく首を振った。 「……何ですか、これ」 喉がひりつくように乾く。僕は足を踏み入れたことを後悔し始めていた。 「おう、来たか」 木村が笑った。酔っているのか、顔が赤い。 「吉田ももうすぐ来る。お前も飲め」 「……この人、誰なんですか」 僕は怒りと嫌悪感で声が震える。木村と白井は顔を見合わせ、白井が下品に笑った。 「さっき拾ってきたんだよ。駅前のパチ屋の裏でへべれけになっててな。ちょうどいいから連れてきた」 僕は背筋に冷たいものを感じた。 「警察に……」 「は? 何言ってんだよ」 木村が立ち上がり、僕の胸倉を掴んだ。 「今さら帰れると思うなよ。お前も共犯だ。ここに来た時点でな」白井もニヤニヤと笑っている。 そのとき、ドアが開き、サークルの後輩である一年生の吉田が入ってきた。吉田はまだ幼さの残る顔で、状況を理解できずに立ち尽す。 「おい吉田、早く酒持ってこい」 木村が怒鳴り、吉田は慌ててコンビニ袋から缶チューハイとウイスキーのボトルを差し出す。 「…木村さん、これはどういう状況なんですか?」吉田も声が震えている。 「何がだよ。楽しくやろうぜ。こういうのも学生のうちしかできねえんだよ!」そう言うと木村は酒瓶を吉田に投げつけ、同時に吉田を蹴り飛ばす。 ガシャーン 女はその音に怯えて身体を小刻みに震わせ唸るのをやめた。女の口から漏れる浅い呼吸と嗚咽が部屋の空気を更に重くする。僕は何か言わねばと思いながらも、喉が張り付いたように声が出ない。 白井は下品な笑みを浮かべながら女の身体を物色する。ブラジャーを刷り下げて女の乳房を露出させると、口を尖らせてチュパチュパと音をたててえんじ色に黒ずんだ乳首を吸いはじめる。 「おい、吉田、身体を抑えろ」 白井が吉田に命じた。 吉田は怯えたように女に近づき、恐る恐る身体を抑える。女はすぐに悲鳴を上げようとするが、白井がすかさず「うるせえんだよ、テメェ」と怒鳴り、女に平手打ちを食らわせた。女の頭が横に跳ね、頬に赤い手形が残る。 僕はもう耐えられず、思わず口を開いた。 「やめましょう、木村さん…。マジで有り得ないっす。こんなの警察沙汰になりますよ」 木村は僕を睨みつけた。 「あぁ!?だったらお前が犯れ。おい白井、脱がせろ」 木村の命令を受けて白井は女のパンティを引き千切る。女の陰部が露わになり、黒ずんだ陰唇に縁取られた赤い女肉がぱっくりと開き、嗚咽に合わせてヒクヒクと蠢いている。 「おお!こいつ濡れてるぜ!」白井は下劣な歓喜の声を上げ、女の割れ目に節くれた指を這わせて体液を絡め取り、人差し指と中指の間に糸を引いて僕に見せ付けた。 「うわ汚え!臭え!」木村は女に聴かせる様に戯けた仕草を見せる。女は肩を震わせアイマスク越しでも泣いているのが解った。 過度のストレスによるものなのか、頭の中で何かが切れた音がして、僕は前後不覚に陥り木村に飛び掛かるが、すぐに木村に突き飛ばされ左の頬に強い衝撃が走り、壁際までもんどり打って倒れる。次の瞬間、そんな僕を飛び越えて吉田も何かを叫びながら木村に襲いかかった。 そして吉田が震える声で言った。 「せ、先輩……もうやめましょうよ。これ、シャレになんないっす」 木村は一瞬黙り、ガタガタと震えながら腹を一瞥した。木村の腹にはシャツを貫通して小さなペティナイフが突き刺さったままになっている。 「吉田…お前…」 木村は力が抜けたように膝からその場に崩れおちる。白井は下品な笑顔のまま固まり声が出ない。 「はあっ。もう嫌だ。もう嫌だ」 吉田は泣いて嗚咽を漏らしながらふらふらと女に近付き拘束を解く。僕は肩を抱いて吉田を座らせると女にシャツを掛けた。 「警察に連絡しなきゃ…」 この部屋の中だけが、時間の止まった異様な空間だった。木村は顔面蒼白になって踞ったまま動かず、白井は事の重大さに放心している。 通報を終えると、僕もまた力なくその場にへたり込んだ。胸の奥に不意に感じたのは、僕の代わりに行動した吉田への罪悪感と彼の未来への静かな諦念だった。 その後、部屋の時間を再び動かしたのは、外から聞こえるけたたましい警察のサイレンだった。 女は保護され、白井と吉田、そして僕の手首に手錠が掛かり、順に部屋から連れ出される。 「君が通報した人?話は署で聞くから…」 警察官に連れ出される刹那、僕は担架に乗せられる木村の姿を見る。 死蝋の様に真っ白な顔を泣き出す直前の子供の様に顰めながら、ナイフが刺さった腹を守る様に丸まっている木村の周りを救急隊員が囲んでいる。木村は生きていた。 僕はそんな木村の姿に強い憎悪の念を抱く。 「次は殺してやる」 そしてその20年後。 僕と木村は再会する
2025/05/11 12:47:52(fQymWH0e)
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