長い時間礼子は窮屈な姿勢で床に屈み込まされ
て唇を重ねられ、乳房をしつこく揉まれ続けた。
　今日初めて会った男に、事情はどうであれ屈辱
的な思いでその眼前で衣服を脱がされ、いま隷従
的な愛撫を礼子は受け続けている。
　やはりあのままここから逃げるべきだったとい
う後悔はもう遅かった。
　しかし体の奥底のどこかに、もう退化に近い状
態で眠っていた官能の埋み火を、このような不埒
な行為で呼び覚まされて、理性を喪失しそうにな
っている自分に、礼子はどうして？と佐山の卑猥
な愛撫を受けながら自問自答していた。
　理性が消え、後悔がなくなろうとしていた。
　やがて佐山の口が離れた時、礼子は全身から力
が抜けその場に蹲りそうになっていた。
　そんな礼子を佐山は苦もなく抱きかかえると、
その室を出て隣室のベッドまで軽々と運び入れ
た。
　ベッドに投げ出されるように仰向けにされた礼
子の横に、バスローブを脱いで全裸になった佐山
がすぐに添い寝してきた。
　「ふふっ…これからあんたの知らない天国へ連
れてってやる」
　そういうが早いか、佐山の片手がついさっきま
で嬲られ続けていてじんじんと痛みとは違う感覚
の残る乳房をわし掴んできた。
　「ああっ…あっ…」
　礼子はやや汗ばんできている首筋を大きく仰け
反らせて喘ぎの声を上げた。
　運ばれてくる僅かの間に理性の一片が戻りかけ
ようとしていた礼子を、一気に奈落へ落としそう
な強引な愛撫に、礼子の手が無意識の内に、佐山
のがっしりとした肩の肉にしがみつくよう伸びて
いた。
　忘我の境地が押し寄せようとしていた。
　佐山の唇が礼子の唇に近づく。
　礼子の唇が佐山の唇に自らの意思で近づいてい
って、激しく舌を絡めていった。
　女の体の一箇所だけを佐山は飽くことなく丹念
に責めてきていた。
　五十七才という年齢の割りに礼子の乳房の膨ら
みは、それほど豊かではないが柔らかくまだ張り
のようなものが残っていた。
　そこにこれだけの愛撫を執拗に受け続けるとい
うのは、勿論礼子には初めての体験だった。
　どんどんと体の奥底から何か得体の知れない熱
い感情というか未知の官能が湧き上がってきてい
るのを、礼子は佐山の体の横ではしなくも感知さ
せられていた。
　佐山の唇が離れた時、
　「ああっ…も、もうどうにでもしてっ…」
　と礼子は屈服の声を二度ほど繰り返していっ
た。
　自分の職業も、そして子供の母親という意識
も、分別ある年齢さえも忘れて、礼子は佐山の性
欲の虜になりたいと心の底から思った。
　そうして礼子は自ら両足を開き、佐山の太くて
長い屹立を自分の体の中の奥深い部分にまでつら
ぬいてもらったのだった。
　何度となく礼子は意識をなくし、佐山の腰の強
い律動にまた意識を戻され、その繰り返しの果て
に、いままで出したことのないはしたない大きな
咆哮の声を高く上げて本当に意識をなくしてしま
ったのだった。
　礼子が完全な失神状態から目覚めた時、佐山の
腕枕の中だった。
　佐山は煙草を咥えながら、
　「先生、あんたが気絶してたから約束の一時間
を十五分過ぎてるぜ。俺は約束守ったよ」　
　と礼子に揶揄的な口調でいった。
　礼子はまだ茫漠とした意識で、体が思うように
動かなかった。
　それでもどうにかして上体を起こしかけた礼子
の乳房に再び佐山の手が伸びると、
　「ああっ…あ」
　と嗚咽の声が勝手に出ていた。
　「あんた、もう俺から離れられないよ」
　いいながら佐山の手が、じんじんと疼く礼子の
乳房を揉みしだいている。
　「ああっ…も、もう」
　「明日もう一回ここへ来い。わかったか？」
　「ああっ…は、はい…」
　「いい子だ」
　…礼子が帰宅したのは午後十時半過ぎだった。
　そして翌日の夜、礼子は佐山のマンションのチ
ャイムボタンを押した…。

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