それは、私が義父の書斎を掃除しているときでした。いつもきちんと整理されている机の上がどこか雑然としており、引き出しが10センチ程開いていました。何気なく中を見て、私はぎょっとしました。義父の蔵書にはおおよそ似つかわしくない毒々しい装丁のそれは見るからに下卑ていました。俗に裏本といわれる雑誌なのでしょう。あるページに写真が挟み込んでありました。そのページを開いてみると私達夫婦の結婚写真の横で、私と体形の似た25歳ぐらいの小柄なモデルが、四つん這いでお尻を向けていました。お尻の穴には毛むくじゃらで無骨な男の人差し指が第2関節までしっかりめり込まれているのが、鮮明に写っています。私はドキドキしましたが、不思議に嫌悪感は湧きませんでした。夫の引き出しからこれを発見したら、私は激しく嫌悪し軽蔑したでしょう。しかし、義父に対してその時湧き上がった感情は、不思議なことに、言い知れぬ同情と、深い哀れみでした。屑籠には明らかに精を始末した後のティッシュが捨てられていました。考えてみれば、還暦とはいえまだまだ壮健な一人の男性です。義母が倒れてから半年、欲望を理性で押さえ付けて黙々と看護を続けてきたのでしょう。規範意識の強い義父が風俗などに行ける筈も無く、ひとり慰めている姿を想像し、気の毒で涙が出てきました。同時に私の写真が自慰に使われていたことに、ある種の興奮と淫らな陶酔を覚えたことを正直に告白しなければなりません。普段物静かで理知的な義父が、1匹のオスになって私に挑みかかる姿を想像し、いけないことですが、濡れてしまったのです。

Tweet