踏んだことはない。
たった１度、それきりでいいから好きな男性の陰茎を踏みたい。
手首をベッドのヘッドボードに括りつけて、電気アンマの要領で足首を掴んで踏みたい。ゴムホースのように太く浮き出たアキレス腱の硬さにドキドキしたい。
陰毛を親指と人差し指で摘んで軽く引っ張りたい。裏筋に親指の爪を立てたい。執っ拗に足を陰茎に這わせて上下させて陰茎に浮き出た血管のラインを足の裏からの感触だけで確かめて脳内の湿地帯に血管のレリーフをできる限り正確に浮かばせその形の島を作りその生態系の中の鮮やかな鳥ポジションになる妄想を一瞬したい。不安になるほど柔らかい睾丸にほんの少しの力をかけてかかとで撫でたい。
てかなんかまず好きな人の陰茎に触れているという感動に震えてちょっと泣きたい。好きな人の眉間の皺に伝う汗が私の涙と同じものに起因するのでははないかという全くもって有り得ない妄想に一瞬取り憑かれたい。その人の男性としてのシンボルを踏みつけているという背徳で申し訳なくなりながらも心を踊らせたい。
でも何度妄想しても好きな人が切ない目で私を見つめる回がない。生ゴミを見るような眼差し。または山間の鳶を目で追う時のような遠い目をしている。
その眼が叫び出したくなるくらい怖くて私は目を固く瞑って、急ブレーキを踏む時くらい乱暴に、そして唐突に陰茎を強く踏んづけたい。害意。瞼の向こうからくぐもった声。突然の苦痛に顔を歪め、苦悶の濁った声を漏らす好きな人への愛しさ及びどうにもならない支配欲で急激に胸がいっぱいになって、とにかく踏むんスよ！全体重をかけて踏む！！これでもかってくらい踏むんだよ！！！そしたら好きな人は流石に激怒してお前自分が何してるかわかってんのかって私に怒鳴ってほしい。唾が飛び散るくらい。飛んだ唾が胸に付着してキラキラしてる。聴いたことないくらい大きな声で身体も空気もビリビリする。こんなに感情を剥き出しにしてくれたのはこれが初めてで、逆に私があなたから引き出せる本物の強い感情は嫌悪からくる怒りだけなのではないかと思うと悲しさで発狂しそうになって陰茎踏みながら好きな人の片足を顔に引き寄せて踵に齧り付いて蹴られてベッドから転落して、3秒くらいぼーっと天井の模様を見詰めて前歯がぐらぐらになってることに気付きたい。

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