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1:曼珠沙華 3
投稿者:
喜久江
振り返るとそこに副島さんの姿がありました。
「副島さん・・」 「僕も出て来ちゃいましたよ、適当に嘘ついてネ。」 笑いながら話す顔に好感を持ちました。 「さっきはありがとう、助かったわ。」 「でしょう・・何か困っていたようだから・・。」 「慣れていないから、どこで立とうか考えていたんだけど、切っ掛けが無く て・・。」 「真面目なんですね、適当にすれば良いのに・・、遅くなりついでにお茶で も飲みましょうよ。」 彼が私を誘いました。 「そうね・・30分位なら・・。」 私はその位なら良いだろうと、彼の誘いに応じる事にしました。 実は、少し彼と話がしてみたかったのです。会社では話せない様な話が出来 そうに思えました。 彼は聞き上手で、私の話を熱心に聞いてくれました。 何となく、愚痴っぽい話になってしまい、 「ご免なさい、なんか愚痴聞いてもらったみたいね。」 「いいですよ、気にしないで下さい。チョッと話しにくいけど、喜久江さん 似てるんですよ、俺の知っている人に。」 「あら・・、誰に? お母さんとか?」 「まさか・・それじゃ失礼ですよね。」 「そんな事ないでしょう?副島さんのお母さんと、大して変わらないでしょ う・・私?」 「どうかな・・? たしか僕の母は・・」 「私の息子が15才だから、副島さんとは一回りくらい違うのよね?」 「そうなんだ・・僕の母親と同じ位なんて・・何か変な感じだな?」 彼が私の顔を見ながらそう言いました。 「母親が傍に居るみたいでいやでしょう・・?」 「そんな事ないですよ、僕、好きですよ、喜久江さん。」 彼が何気なく言ったその言葉に、私も、それを口にした彼も、急にその言葉 を意識してしまいました。 暫く変な沈黙が続きました。 「もう・・副島さん、変なこと言うんだもの・・イヤね。」 私はその場の気まずさを振り払う様に、明るく言いました。 「本当なんです、この際正直にいいます。僕、少し前から喜久江さんの 事・・。」 思いがけない告白に、私は頭の中が真っ白になりました。 「もう・・ダメよ。おばさんからかうんじゃないの。怒るわよ、もう。」 すると、テーブルの上の私の手の上に、彼の手を重ねてきました。 胸の中が激しく波立ちました。 「今日は帰るわ・・もう遅いから・・。」 その手を振り払う様に、私は席を立ちました。 そんな私の姿を見ながら、 「そうですね、遅くまで引きとめちゃって済みません。駅まで送ります。」 二人で並んで駅まで歩きました。もう少しで駅前の明るい通りに出ると言う ところまで来た時でした。不意に私は彼に腕を掴まれました。そして、身体 を彼の方に引き寄せられ、目の前に彼の顔が迫りました。 (えっ!) 心の中で驚いている間に、私の唇が彼に奪われていました。 そして、その身体を強く抱き寄せられたのでした。 それから先の事は、もう良く覚えてはおりません。 どうやって家まで帰って来たのかさえ判らないほど、私には衝撃的な出来事 でありました。
2008/06/23 20:33:55(PiX5XvIP)
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