![]() ![]() |
|
〜まえがき〜
⚠書いた人はオタクです⚠某刀ゲームの二次創作夢小説です⚠暴力などこじらせ性癖の描写多々⚠自分オナニ用自己満作品です⚠ゲームやキャラご存知のかたは解釈違いご容赦ください⚠誤字脱字ご容赦ください⚠たぶんめちゃくちゃ長くなります⚠未完ですが応援もらえたらがんばります優しいレス歓迎⚠エロじゃないストーリー部分もがっつりあります⚠似た癖かかえてるかた絡みにきてください⚠ —---------------------- 飲み過ぎが一周回ったのと、さきの投稿のことをもやもやと考えていたのとで眠りが浅かったのだが、今が何時かは認識していない。 ガチャガチャと鍵をこじる音に、目を開けた。 夜が明けたにしてはまだ暗い気がする… 今日は雨の予報だったっけ… 静かに歩み寄るから足音はなく、代わりに、みし、みし、とフローリングが鳴く。 眠っている自分を起こさぬようにとの気遣いを無碍にするのも悪い、またまぶたを閉じた。 ビールと芋焼酎はいくら飲んでも翌日に残ることはほとんどないのだが、ワインと日本酒には弱い。 頭痛はなくとも眼球の奥がぐわんぐわんと揺れている。 額に吐息を感じたと思ったら、そこへ軽くキスが落とされた。 「…?…んだよ、コレ…」 その不満気な声に、女は青ざめて身体を飛び退かせた。 気配があまりにも瓜二つだ。 てっきり光世が帰ったのだと思ったのだが、そこにいるのは征羽矢だった。 「…ソ、ハヤさん…!」 朝までひとりのつもりだったから下着姿で寝床に入っていた。 いまさら隠すようなこともないのではあるが、それでもついタオルケットを胸元に引いた。 「…たーいま…ね、いーわけすることがあったら、いまなら、きーたげるよ?」 くしゃ、と破顔する。 また酔ってる? でもあのときと違う、熱のない言葉と、紅い視線。 「し、たに…帰ると、さっき…びっくり、しました、よ…」 なぜか喉が焼けついてカラカラだ。 「…んー?きがかわったんだよ、もーこんなチャンス、にどと、ねーかなって。」 どちらか判断できない、ソハヤノツルキかもしれない。 壁に背をつけて逃げるように身じろぐ女を追って、膝でベッドへと上がってくる。 「…なぁ、そんなことよりさぁ、なんかゆーこと、あるだろ?」 ホラー映画で怪物に迫られるシーンを彷彿とさせられて、鳥肌が立った。 「ソハヤさん、酔ってるでしょ、待って、いま、水…」 質問には、答えない、根拠のないマイルール。 理由をつけて立ち上がり、物理的に距離をとる。 前に城本が言っていた、刃物のようなオーラ。 研ぎ澄まされて輝き、触れたら、おそらく、切れる。 タオルケットを手繰り寄せ翻し、キッチンへと身体を向けた。 そこで、背後から、抱きすくめられる。 理解が追いつかない、速さ、と、力。 ぎし、と、腕の骨が軋む。 全身に斬り傷が刻まれてそこから血が噴き出す光景が頭の中に描かれた。 「そ」 「どこいくんだよ!?」 呼ぼうとした声を、強い語気で遮られ、思わず唾を飲み込んだ。 脂汗が滲む。 まとわせていた寝具が、とさ、と、床に落ちる。 「…それでごまかしてるつもり?」 征羽矢の左手が後ろから女の顎を掴み、右手は臍の下を弄り始めた。 「…めちゃくちゃ、しろもとサンのにおい、してるぜ?」 顔を無理やり横にむけさせられる。 「ほんと、せっそー、ねーのな、キレそう…」 優しげな笑顔に反して、舌打ちをする。 女は、違う、と小さく呻いたが、征羽矢はそんなことはどちらでもいいようだ。 おもむろにキスをする。 すぐさま舌をねじ込み、きつく吸い付く。 「っ!…ん、く…」 しばらくの間、女がもがくのを楽しんで、それからゆっくりと顔を離した。 突き飛ばすようにしてフローリングに押し倒し、膝の上にまたがる。 床に落ちていたガムテープを拾い上げた。 引っ越しの準備のため、いくつかの段ボール箱が組み立てられて置いてあるのだ。 「…だれとシても、おれのこと、おもいだすよーに、して、い?」 ビッ、と音を立てさせて、ガムテープを千切った。 「ソハヤさ…っ」 騒ぎ出そうとする口を、それで塞ぐ。 「んーっ!んーっ!」 力の入った両手を強引に捕らえ、それもガムテープを使って縛り、さらにすぐそばのベッドの脚に括り付けた。 たっぷりと残っていたテープをすべて、何重にも巻き付けられて、ガチガチに固められて、まったく動かすことができない。 「…だめじゃん、へやにいかないってきめたんだろ?こんなかんたんに、やぶったら。」 ガムテープの上から、唇をなぞる。 「そんなだから、こんなめに…なぁ、あわされるんだぜ?」 征羽矢の口が美しく弧を描いた。 「…兄弟にさわられててもさぁ、おもいだしちまうの、ずっと、のうりに、おれがチラつくの、」 ブラジャーをむしり取った。 興奮気味に、つんと勃った部分にむしゃぶりつく。 「ん…っ!」 ざらついた舌の感触、強く弱く繰り返される刺激、甘噛みでたかぶらせられ、下半身が濡れていく。 「…さいごだから…」 胸の間で征羽矢が唸った。 いつもは、光世がそそのかさない限りは乱暴なプレイはしない。 なのに、どうして…? 布越しに雑な愛撫を施されて、あっという間に、パンティはびしょびしょになってしまう。 左手で柔らかな乳房を包み、じっくりと揉みほぐす。 その親指を器用に動かして、先端をくるくると撫でる。 「ここ、かんじない?」 口は塞がれているんだから返事ができるわけがない。 「…じゃ、おしえたげる…」 右手は下半身の膨らみを扱くように摘んだ。 「おぼえさせたげる…」 そうして、もう一方の乳房へは舌を這わせて弄ぶ。 「んーっ!」 女は呻いて首を左右に振った。 「おれさ、あんたの、そのおかされてるえんぎ、すげーハマるんだわ。」 演技? これは演技? こんがらがる。 ゆっくりと、胸をいじり倒しながら、もっとも敏感にひくつく脚の間を、容赦なく責め立てる。 「んっ、んんー…っ!」 「…れんどー、させて、きもちーカンカク…」 艶めかしい声が耳元で囁かれる。 音が生み出すかすかな振動にあてられて、首筋が粟立つ。 「みみ、かんじやすいよな、ここも、つなげて?」 ペロリ、と耳の穴の中を舐められ、肩が跳ね上がった。 「…かわい…はぁ…おれのが、さき、げんかい…」 窮屈になったデニムと、その部分の先に染みのできた肌着を脱ぎ去り、自身の右手で慰める。 「がまん…がまん、まだ…」 執拗に胸の尖りをこねくり回し続ける。 ぜんぜん感じないわけじゃない、いわゆる弱い箇所でないだけだ。 むずがゆい鈍い快感が腹の中にぐるぐるととぐろを巻く。 征羽矢は、反り返って白い体液をにじませたそのものを、女の秘所の入り口にあてがった。 くにくにと上下にこすり合わせて、ふぅ、と甘く息を吐いた。 女の膝は征羽矢の長い足で押さえ込まれて、羞恥を掻き立てられるほどに開かれてしまう。 「こっちでかんじちゃダメなんだって、こっち、しゅーちゅーしろよ。」 優しく撫でていた場所を、突如として酷くつねり上げた。 「…っ!」 女の腰が浮き上がり、仰け反る。 「…は、あいかーらず、とんでもねーな、ヘンタイ…」 ぐいぐいと、ねじり切るくらいの勢いで痛めつけられ、身体を痙攣させた。 秘所はぬちぬちと嫌らしい音を立てているが、体液同士を絡み合わせて混ぜているだけだ、挿入されてはいない、それが、ひどくもどかしい。 征羽矢が女の前髪を無造作に掻き上げた。 狭い額が顕にされる。 「ごーかん、されたって、バラす?」 強姦? そうなのか? いつもの、ただのそういうプレイじゃないか… 「…げんめつ、する…?」 征羽矢はそこで言葉を止めて、また胸の先にしゃぶりついた。 規則的な動きで舐め回されて、むずむずとしたこそばゆさに震えた。 だがそれより、またぐらに塗りたくられるぬめりに、脳髄が蕩けそうになる。 そんなつもりはないのに腰が揺れてしまい、征羽矢のものを求めるように押し付けようと力が込められる。 が、するり、と引かれ、快感の数歩手前の昂りは宙へと放り出されてしまう。 「んっ…ふ…んー…」 膝がガクガクする。 こんなことを、まさか、ずっと…? 理性、焼き切れる…! 頭の中がドロドロに溶けてしまった。 いったい何十分、決定的な愉悦を寸止めされ続けただろうか。 見開いた両目から涙がとめどなく溢れてくる。 口は閉じさせられているわけで、ぬるぬるとした唾液が口内に溜まっている。 鼻呼吸は荒く、くぐもった悲鳴が繰り返し部屋に響いた。 「…イきたい?」 「…ふぅ、む…」 返事をしてはいけないと思いながら、泣きながら頷くことしかできない。 もしこのまま絶頂を見せられることなく放置されたら死んでしまうと思った。 「…イかしてほしいって、ちゃんとゆって?」 ぺり、と、そっとガムテープを剥がした。 粘着に唇の薄い皮膚が絡め取られ、血が滲んでいる。 口角からだらりとよだれが流れ出た。 「…あ、あ…あ…」 瞳はくらくらと細かく上下左右に振れ、焦点が合わない。 「ゆって?」 柔らかな表情と噛み合わない低い声で、それはほとんど脅迫の様相で。 「あっ、もっ、そは、そはやさ、んっ、」 目が回り過ぎて三半規管がおかしくなってしまったのかと錯覚する。 吐き気がする。 「…は…は…い、イかして、てっ、くださっ…」 あごのラインへと垂れた唾液を、ぺろり、と舌で掬い舐めて、満足そうに征羽矢は微笑んだ。 「はは、すなお。」 膣の入り口にその先をあてがい擦りながら、冷ややかな視線で女の蕩けた顔を見おろしている。 「おれのことすき?」 思考する暇などない。 「あっ、ん、や、は、すきっ、すき、だからっ、おね、おねがいっ…」 意味などなく要求されるままに台詞を読み上げるだけであった。 「え?ほんとにすき?イかしてほしくてゆってるだけだろ?」 爬虫類のような、気配。 そしてその言葉は図星ではあるのだ。 見透かされて焦慮にかられ、余計なことをつい口走りそうになる。 「んあっ、ちがっ…すっ、きぃっ、だいすき…」 「ほんとかなぁ、うそだろーなぁ。あんたがすきなの、兄弟だもんなぁ。」 ちゅく、ちゅく、と繋がりかけた箇所がいやらしい水音を立て、気が逸される。 「や、あ、あぁ…んっ、きっ、だっ…しゅき、しゅきぃっ…」 拷問のような責口に、とうに正気は手放していた。 早く、早くこの燻った欲を満たして欲しい…! 穴を埋めて、虹色の景色を見せて欲しい…! 「…じゃ、ね、あいしてるってゆってよ?」 ゴツゴツとした手の甲が頬を撫でていくのさえ、官能的で、けっして逆らえない、逆らおうと思えない。 「ふ…あ、あい、してるぅっ…」 安易に虚言を繰り返す。 虚言。 「えー?うそっぽいなぁ。」 その通りだ、全てお見通しだが、どことなく嬉しそうに目だけで笑っている。 「うそじゃ、な…ね、はやくっ、はや、くぅっ…」 とぎれとぎれに、急かした。 愛?してはいない! さっぱりとしていて気兼ねないとか、年の離れたかわいい弟のようだとか、セックスの相性がいいとか、そういう類の。 征羽矢本人は自分を忘れられないようにと望んだけれど、くしくも、女の頭の片隅に光世の不機嫌な顔が思い起こされる。 「…あいしてるよ…おれはね…ずっと、ずぅーっと、あいしてる…」 ず、と、硬いものの先端が、身体を割って侵入してくる。 それだけで電流が走ったような激烈な快感に身震いした。 背徳。 「…なんでおれじゃねーの?…ほんとは、兄弟にだって、ゆずりたくねーよ…」 それは征羽矢が兄より常識人であるからだろう。 狂っていないと、ぶっ飛んでいないと、女を引き止めることはできない。 たとえば公衆の面前でえげつないディープキスをするとか、良心が咎めるほどの暴力的なセックスをするとか。 「あぁ…かえってきちまうよ、もっと、このまま…」 今こそ、無計画に体の自由を奪って、熱を孕ませて焦らし尽くして、高圧的な言葉で責め倒して、女の理想とするところに近しく、実際、女はこれまでになく恍惚として淫靡に征羽矢を求めていた。 まるで光世にそうするように。 「…そんなことだろうと、思った、よ…」 光世が深々と息を吐いた。 「おかっ…えり、兄弟…まって、くれよ、いま、かわる…っ…」 切れ切れに喘ぐ女の膝を開かせ、その中心へと身体を打ち込み続けながら、征羽矢がうつろに唸った。 「…どけよ、そういう、決め事、ではなかったのか…?」 決め事。 男の2人住まいに女を連れ込まない。 そもそも、当たり前だが、恋人でない男や女とセックスなどしない、例のストーカー野郎とのいざこざが解決しない内には、周囲に誤解を与えるようなことはしない、という意味ではなかったか。 光世はけだるげな視線を、表情をだらしなくとろけさせている女へと投げかけた。 「しょーが、ねーじゃん…っ…こんなのっ…」 征羽矢は唾を飛ばし、その恵まれた体躯を揺するのをやめない。 床はミシミシと鳴り、女の手首がつながれたパイプベッドも軋んでリズミカルに音を立てる。 女は光世の帰宅に気付いてはいるのだが、反応ができずに目を回していた。 何度も最奥を叩かれ、オルガズムに達してなお、合意なく刺激が与えられ続けていた。 緩やかな余韻になど浸らせてはもらえず、どれだけ「もうむり」「もうゆるして」と懇願しても聞き入れられない。 そう、それは、女が望んでいるやり方に限りなく近く、踊る心で溺れていた。 「…兄弟…」 光世がすごんだ。 「…わぁったよっ!…チッ、ほんとじぶんかってだよなっ…!」 ぐ、と下半身を深く押しつけ、ようやっと欲を放つ。 膣内に満ちていく生ぬるい粘液の感触に、女は喉を震わせた。 「…いい…」 征羽矢がぽろりとこぼした短い感想を聞き届けて、光世はずいと一歩を踏み出した。 征羽矢は逃げるようにバスルームへと姿を消した。 「…おい、あんたが…仕掛けたのか…?」 女の手首に巻かれて固まったガムテープを力任せに破りながら、温度の低い声色で尋ねる。 涙の乾ききらない目、切れた唇、その周りにこびりついた粘着部分、乱れた前髪。 つい一瞬前まで、娼婦のように弟の身体の下で腰をくねらせていたとは思えぬドライな物言いが返ってくる。 「…に決まってるでしょう?」 裸のまま、自由を取り戻した腕を光世の首に絡みつかせて、ひとつキスをした。 「…きもちかった、ですよ?」 「…だろうな…愛していると、何度も…」 「あー、それは…まぁ、そういう、プレイですってば。愛、は…どーですかね?」 本当は、光世のことこそを好いている、はず、なのに、そんなそっけない言葉しか吐けない。 「…あまり、兄弟を、苛むなよ…本気に、するだろ…」 「するわけないじゃないですか、今さら。」 光世の硬い手のひらが、女の口と顎を押さえて遠ざけようとする。 同職の仲間の店舗とはいえ、慣れない環境でパフォーマンスをこなしてきた後で、少なからず疲労していた。 そこにこの追い打ちである。 眠気もあいまって痛憤はたやすく脳天を突き抜ける。 「…それと、しようのないことを、するなと、伝えたと思ったんだが…その意味が分からんのか…?」 「申し訳ないとしか。」 ごまかすために、機嫌をとるために、押しつけられた長い生命線に沿って舐めるように、また手のひらに口づける。 「…服を…着ろよ、なんでもいい、早く、しろ…!」 それを振り払い、つい、と顔を背けた。 この破廉恥なじゃじゃ馬女は、いったいどうしてやれば、少しは落ち着くというのだろうか。 矯正は簡単ではない、気安くカウンセリングなどできない。 緩慢な動作で錨マークの総柄プリントのTシャツにターコイズブルーのロングスカートを着込んだ女の腕を掴んだ。 「…行くぞ…!」 「え?あっ、どこにです?財布くらい…」 「…だめだ、早く…!」 シャワールームからは水音が聞こえてくる。 きっとまた頭から湯を浴びながら我に返って落ち込んでいるのだろう、学習しないな、と、女も光世も口には出さないけれど同時に思った。 海沿いの国道を走る。 通勤ラッシュ前に町中を抜けたので、助手席の現役レーサーと比べてまだ半人前以下の技術であっても、ストレスフリーに運転できている。 成長したものだ、と自画自賛する。 「…予定、は…?」 「んー、いまのとこなんもなしです。どこ連れてってくれるんです?」 「…」 実際のところ何も考えてはいなかった。 弟に組み敷かれて愛を喘ぐ女を目にして、正直たまらなく腹が立っていた。 そういうプレイとして、征羽矢が女に言わせていたんだろうと想像は難くなかったが、それでも。 衝動的に部屋を飛び出したといっても過言ではない事態だ。 そして、女が光世のことを好き放題に振り回すように、なにか仕返しをしてやりたい心持ちはあった。 女の手からカリーナの鍵を奪っていた。 ほぼ無理矢理連れ出したのではあるが、女はなんとも楽しそうに窓の外に広がる凪いだ海面を眺めている。 こっちの気も知らずに…! さしたる会話もなく、CDプレーヤーから流れてくる聴き慣れたクラブミュージックのビートを数えながら、淡々と、走る。 と、ピリリ、女のスマホが鳴り出した。 「モリシタさんです。出ていいですか?」 「…ああ、仕事か…?」 「昨夜のバズの件では?…はい、空知です。」 『おはよう、珍しいじゃない、午前中に起きたのね、あら、それとも今から休むのかしら?』 開口一番たいへんな皮肉をぶち込んでくる。 「デート中です。」 『まあ、ごめんなさいねぇ!ん?ミツヨくんが運転してるの?…はぁ、うらやまし、じゃなくて!』 放っておけばいくらでもひとりでしゃべっている。 相槌さえ必要ない。 『依頼よ、取材の。』 「いやですよ、雑誌もテレビも。」 『どの立場で断れると思ってるわけ?言う通りになさい、某有名ファッション誌よ?』 それを聞いて、女は、ぎょろ、と目を見開いた。 「?…ファッション誌?…あり得ないです。」 『わたしもなんの間違いかと思ったわよ!』 告げられた誌名は、とてもドリフトとは関係のないスタイリッシュな若者が好んで通読する人気マガジンの名であった。 女の頭の中はクエスチョンマークでいっぱいになる。 『脱がなくてもいいわ、ナチュラルなショット5、6枚と、インタビュー記事2ページくらいですって。OK出しといたわよ?』 「なっ!…んで、勝手に?…いやです、無理です。」 『謝礼、だいぶ多めよ、もう返事してあるから。あと、これだけ話題になってるのよ、正式にうちに所属しなさいよ、これを機に。』 女は驚いたように数秒黙ったあと、苦々しく吐き捨てた。 「…散々、リザルトに文句言ってきたくせに…!」 『状況が変わったのよ、今のユキちゃんなら対費用効果抜群だもの、当然だわ。こっちだって遊びじゃないのよ。』 ついに聞こえよがしに舌打ちをした。 『とにかく決まったことよ、また日程は調整するわ。それと!警察から電話があったわよ!?いいかげんにしてくれるかしら?』 あー、そういえば、と思い出す。 「それについては、申し訳ございません、どういった話で?」 『あなたの周りの人間関係とかいろいろ聞かれたけど、プライベートなことは知らないで通したわ。感謝なさい?』 「…ありがとう、ございます…」 森下はまだなにか言いたそうではあったが、女は半ば一方的に通話を切った。 「…ずいぶん、人気者、じゃ、ないか…?」 光世が前を向いたまま嫌味を言う。 「…ブロマイド、事前通販分は即日完売…当日の入場券が、売れている、と…」 「嘘ですよね?アイドルじゃあるまいし。」 全開の窓枠に肘を付き直して、女はむくれて運転手を睨んだ。 「…例のまとめ職人の投稿が、またバズってた、ぞ…?」 「ちょっと盛れてる画が撮れたからって?キスシーンすっぱ抜かれてるのに?」 「…俺に、問われても…」 はぁ、と、2人そろって、重いため息をついた。 目的もなく走るうちに、そうだ、こっち方面へ行くのならば、と思い立った場所がある。 光世自身も、学生時代に数度来たことがあるだけだった、それも電車を使って。 途中、道の駅の駐車場でナビアプリを慌ててインストールした。 チリン、ドアベルが優しい音色を奏でる。 「いらっしゃいませー。」 若草色の綿のエプロン姿の小柄な女性スタッフが、にっこりと2人に笑いかけた。 狭いカウンターテーブルがひとつあって、レジがわりだろう、タブレットが置いてある。 その奥に簡易的なキッチンの設備があるようだ。 その他には、扉がひとつ。 「…予約、ないんだ、です、が…」 光世がぼそぼそと話すのを、明るい、しかし静かな声で遮った。 「あいてますよー、当店はじめてですかー?」 「…ず、いや、ひ、ひさしぶりで…」 「鳥ちゃんとふれあえるお部屋でよろしいですかー?猛禽ちゃんはガラス越しに眺めるお部屋になりますが、どちらにしましょー?」 「…あ、え、ふ、ふれあい、で…」 「はーい、あ、後ろ、ドアきちっと閉めてくださーい。」 女は、今しがた入ってきた扉をぴっちりと閉め直して、きょろきょろと辺りを見渡した。 スタッフが部屋の扉を開けると、ふわっと動物の匂いがした。 「床で遊んでる子もいるので足元気を付けてくださいねー。こちらのお席どーぞー。」 大きなビーズクッションが据えられたローテーブルへと案内され、メニュー表と注意書きを手渡される。 「ワンドリンクお願いしまーす。鳥ちゃんのおやつはほんとは時間決まってますけど、空いてるので、よろしければお声がけくださーい。別途300円でーす。」 「…アイスコーヒー…あんたは…?」 「あ、わたしも。」 規則正しく並んだ細かな字をほとんど見ずに、当然あるであろうメニューを注文する。 それより、と、注意書きのほうをざらっと流し読む。 ぴちち、と鳴いてやってきた鮮やかな黄色の小鳥が、さっそく光世の膝にとまった。 ここは、いわゆる、小鳥カフェというやつか…! 「…セキセイインコ…」 光世の大きな手がそっと伸びて、ためらいがちに、人さし指でその胸元をつつく。 ほかに客は、もう一組、若い女性が2人、黄緑色の羽が印象的な小鳥と戯れていた。 「…あれは、セネガルパロット…」 壁際に設置された止まり木では、たくさんの鳥が羽を休めている。 「…上から、コガネメキシコインコ、キソデボウシインコ…その下の、兄弟みたいな頭のやつが、コキサカオウム…」 そこまで黙って聞いていた女が吹き出した。 「たしかに。似てますね。」 「…ふふ、そうだろう?…となりがズグロシロハラインコ…」 「色がパキッと分かれててきれいですね。」 「…赤と青のタイダイが、オオハナインコ…」 「すご、自然の色とは思えない塗られてる感…」 次々と、愛らしい鳥たちの名前を言い当てて教えてくれる、図体のでかくて柄の悪い男の様相が、なんだか不釣り合いで可笑しい。 自然と笑みがこぼれた。 クリーム色で、鶏冠と顔の橙の模様が特徴的な小鳥が、ちょこちょこと歩いてきて、女の手の甲をついばんだ。 「この子は、見たことありますね…オカメインコ、ですね?うわぁ、これは、かなり、かわいい…」 首を傾げるような仕草がなんともいえず癒される。 「…野鳥、探しに行くのは、いきなりは…ハードル、高いから、な…」 くす、と、光世も頬を緩ませた。 「怒っているのかと思いましたよ。」 頬杖をついて、女が光世を見上げた。 「…怒ってはない…いや、嘘だ、怒っては、いる…」 オプションで購入したひまわりの種を差し出しているがために、カラフルなインコまみれになっているから、いまいち怒っている感ははかれない。 「…どうせ、物欲しそうな顔でも…して見せてやった、のだろう…?」 女はローテーブルに置いたリンゴをつつくオウムへと視線を戻した。 「…兄弟は、純粋、なんだよ…あまりひっかき回すなよ…」 「もう最後にするって言ってましたよ。」 甘い果実に夢中になっているオウムは、女の人さし指を受け入れて頭を撫でさせてくれている。 「…どうだか…あんた次第、じゃあないのか…?」 「わたしだって、もうやめようって思ってるんですけどね…」 光世は、夜ごとアルコールを摂取して倫理観をいっそう失う女の動向を思い出していた。 「…禁酒…?」 「しませんよ、いっちばん、しないやつ。」 その返答は予想通りだ。 「…一日中見張っているわけには、いかないんだよ…節度を持ってくれよ…」 女は、へら、と、珍しい表情をした。 思い返している。 城本との情事について、バレていない? あれは征羽矢の救済措置だったのでは? あのままでいたら光世に勘付かれる、だから自身でマーキングし直す? 荒っぽいやりかただが、何を考えているか汲みにくい兄の逆鱗に触れるよりはマシ、女のためにも、城本のためにも、店のためにも、ひいては自身のためにも、など。 いや、ちょっと買いかぶりすぎかもしれない。 海は騒いでいる。 風力発電の風車がぐるぐると回っている。 砂を踏んで歩くたびに、ぎゅむ、と苦しげな音が鳴った。 存分に小鳥たちと戯れたあと、すぐそばの海水浴場をふたり並んで散歩している。 さすがに盆をすぎて夏休みも終わり月ももう変わる、陽射しは容赦ないし気温も申し分ない高さではあるが、泳いでいる者はない。 就学前ほど年頃の子どもが、優しげな父親に見守られながら貝殻を拾っているくらいだ。 手を繋ぐわけでもなし、とりたてて会話が弾むわけでもなし。 ロングスカートが風を巻き込んでバタバタと翻った。 衝動。 光世の長い髪もなびいて乱れている。 目を細める。 衝動に身を焼かれていた。 このままその細い腕を掴んで引いて波間に投げ込んでしまいたい。 後頭部を力任せに押さえて溺れさせて、動かなくなったそれを足蹴にしてやりたい。 なぜどうして自分以外の男に安易に抱かれる? 思い通りにならないのが憎い、自分のものにならないというならば、いっそのこと。 まばゆい太陽光が眼底まで突き刺さるようだ。 ちがう、そんなこと、考えてはいけない。 いちど、あの本丸で、失われていく命の温度をこの腕の中に体感してしまったのだ、もう二度とごめんだとも思っている。 置き去りにされる焦燥感、人間がこんなに脆いものだったとはという衝撃、形はどうあれ愛を注いでいた存在が消えていく絶望。 身震いする。 寒くはない。 両肘を抱くように腹をかかえた。 振り向いた女が不思議そうに首を傾げた。 あのときの審神者は、攻め込んできた時間遡行軍に、執拗に肚を貪られていた。 大典太光世が駆けつけたときには、下腹部から内臓がはみ出してなお意識はあり、手にした短刀で自害すべくその鞘をむしり取ろうとしているところだった。 暑い真夏の景趣の頃で、部屋では安物の浴衣を適当に着ていたので、そう、まるで、男に犯されているように、前がはだけて、そこに太刀が跨って、肚に、顔をつけて。 食っていた…? 記憶は曖昧だし、思い込みや勘違いがあるかもしれない。 大典太光世は紫色の炎のような禍々しい光を立ち上らせている太刀の背中を叩き切った。 その隙に横から素早く乱藤四郎が審神者の手の中の短刀を弾き飛ばした。 「そんななまくらになにさせんの!?」とかなんとか、掠れた声でふざけて言ってみせていた気がする。 まだ息があったのだ。 薬研藤四郎が乱藤四郎の悲鳴じみた呼びかけにすっとんできて、小柄な身体でひょいと抱き上げて、執務室の奥の隠し部屋へと連れて行ったんだった。 他にも、数十?もしかしたら百を超える敵がいたから、後ろ髪引かれるなど、そんな余裕はなかった。 その本丸は、とても戦績の良い優秀な本丸だった。 もともと霊力の強いサラブレッドなどではなかったが、こつこつと鍛錬を積むのが苦にならないタイプの性格が功を奏した、地味ながら実力のある、また、理系脳でタクティカルな思考が得意な審神者だった。 古参の刀剣男士は一様に練度は十分で、新人…ではない、新刀も、すべからく初状態でカンストしていた。 簡単には落とさせない! 当時たまたま第一部隊の編成員でありながら任務の合間で本丸に戻っていた大典太光世は走った。 各所で火花が散っている。 縁側の向こう、きらびやかに咲き誇るタチアオイの極彩色が、網膜を、焼く…! 「たちくらみですか?」 女の手のひらが光世の頬に触れた。 「…あ、いや…なんともない…」 それならよかったです、と後ろ向きに数歩とんとんと離れて、くるり、とターンする。 ダンスのアーケードゲームをしたときのように。 スリッポンタイプのサンダルをポイっと脱ぎ去り、裸足で踊る。 ひっくり返って放置されたそれらを光世が拾った。 「ブロマイドが売れたりファッション誌に載ったりするのって、ムカつきますか?」 踊りながら唐突に問う。 光世は首を振った。 「…仕事だろ、別に…」 「なんだ、つまんないですね。」 少しわざと不機嫌そうな顔を作る。 こんなことをするときはつまり機嫌がいいときだ。 「…嫉妬でも、して欲しいのか…?」 「んー、そうなのかも…まぁ、もし本当に妬かれたら、めんどくさいとか思っちゃいそうですけどね。」 「…じゃあなんて答えればいいんだよ…」 両腕をピンと空へ広げて伸ばして、勢いをつけて側転する。 手のひらの砂を払って、もういちど。 こんどは途中で失速して、バタンと砂浜にあおむけに倒れた。 「まっぶしー…」 質問の返事は来そうにない。 隣に腰を下ろす。 海を、見ている。 波の音を聞いて、潮風に吹かれている。 「海にね、絶対的な、憧れがあるんですよ…いつか、遠くへ行ってみたいです…」 ほんの一瞬、眠っていたかもしれない。 「やば、メガネ焼けしちゃいます。」 そそくさと立ち上がった。 衣服の砂をぱんぱんと叩き落としながら、光世を見下ろした。 「鳥は、まあ、空、かな、それから、海、ときたら、次は、山、ですね。」 砂のまとわりついたサンダルでは運転しにくいと、素足でペダルを踏んでいる。 信じがたい文化だ。 夕刻が近付き、まばらな街灯が灯り始めていた。 山道の入り口で、『マドカ峠スカイラインあじさいロード』の看板が目にとまった。 「…マドカ峠…あんたが、事故、した場所…か…」 「あれ?その話しましたっけ?」 「…サーキットで、少し、森下氏が…」 光世は歯切れ悪く答えた。 「そうでしたっけ。でも、あんまり、ってか、ぜんぜん覚えてないので、体験に基づく恐怖感とかはないんですよね。」 いくつかカーブを越えるたびに、だんだんと木々は深くなっていく。 空が夜の色にグラデーションに染まっていくから、女は早めのヘッドライトをつけた。 「…覚えて、ない…?そういう、ものか…?」 「さあ?脳挫傷だったので、記憶が曖昧なのかもです。」 脳挫傷がどういった怪我なのか、詳しくは知らないが、なにかしら酷い状況であることは予想がつく。 「後から聞いた話だと…このへん、あっ、ここですね。」 速度を落として、ハザードをたいてきついカーブの手前の路肩に停車した。 シートベルトを外して、車外へと出る。 ガードレールに手をかけて、ぐいと身を乗り出して崖下を見下ろした。 女に倣って助手席から降りた光世は、思わずヒヤっとして慌ててその肩を抱いた。 薄暗い谷に吸い込まれてしまうのではないかとの不安がよぎったのだ。 女は、すうっと、息を静かに吸った。 「…覚えて、ないんですよね…ここに、走りにきたこと。なんで…ひとりで?でも…事故の事実は、新聞にも…病院には、警察も…イチさんは全損…わたしは砕けたフロントガラスから車外へ投げ出されて、さらに下へと、転げ落ちたんですって。」 イチさんが誰かは気にならないこともないが、まあ、そういう名の車なんだろう。 語られる思い出を遮らないほうがいいと察した。 「倒木や岩に身体をぶつけながら、この下を流れている沢のそばまで、落ちたんですって。」 女の表情から、温度が、消えている。 人形のような無機質な面持ちで。 「通りすがりの車が、イチさんを見つけて、それで運転手がいないぞってなって、捜索して、見つかるまで少し時間がかかって…」 ゆっくりと、光世へと顔を向ける。 本人の言う通り、恐怖などではない、ただ、感情を失ったビー玉のような、ふたつの瞳で。 「頭かち割れてて、おなか、内臓はみ出してて、わからないけど、イノシシ、とは言わないけど、キツネかなんかが、つついたのかも、と、医者が…」 光世は、ごくり、と喉を鳴らして唾を飲み込んだ。 まさか! まさかまさかまさか! 大典太光世の記憶が、ぼんやりと重なってしまう、重なってしまうのだ。 「腸の一部分と子宮が、ダメになってて…でもその割に、他んとこの回復、異常に早くて、膵臓とかは、なんとか、持ちこたえたり…」 まさか! ありえない! どうして!? ちがう! だが… 「…覚えが、ないんですよ、それがね、なんか、ざわざわしたんです…ミツヨさん、なにか、ご存じでは…?」 まさか! そんなはずはないだろ!? 偶然… 偶然だ、ただの… 「…俺たちの、主人が…敵襲で、おそらく、同じ箇所を、損傷、した…」 口に出しながら、いや、やはり、これは、ちがうだろ、と思考がループしている。 「?…それは、大典太光世っていう刀だった?ときの話、ですよね?」 「…俺の最後の景色…血まみれのあんたを、腕に抱いていた…腹を、敵に、食い破られたかして、はらわたが飛び出していた…」 光世は、左手のてのひらで目を覆った。 辛い記憶をほじくり返させてしまっている罪悪感が、湧く。 「…本丸では、これ以上できる処置はないと、薬研…仲間が…政府のやつらは、俺たちの退路を断ち…箱庭に、俺たちと無数の時間遡行軍を閉じ込めて…なにも、なにもしてはくれなかった…」 光世の声が、聞いたこともない弱々しい鼻声になる。 女は気まずくなって、右腕で抱き寄せられるのに逆らわずに、光世の胸に身体を寄せた。 心臓の音。 「…聞いたのわたしだけど…ちょっと待って…情報量が…」 まぶたを閉じて、反芻する。 「…こんなの、どうかしてる…作り話だと、思うだろう…?」 SF小説か、流行りのアニメか、と、光世は下唇を噛んだ。 だが、存外、女はあっけらかんとして。 「いえ、属性オタクなので、いつなんどきでも、唐突に魔法戦士に選ばれたり、ロボットパイロットに任命されたり、異世界転生する覚悟はできてはいる、んですよね…」 「…俺は、真面目に話しているんだが…?」 つい今の今まで泣きそうになっていたはずなのに、つい薄い笑みがこぼれてしまう。 調子が狂う。 「…だめですね!頭痛くなりそ…帰りましょうか!お店、間に合わなくなっちゃいます。」 「…そう、だな…兄弟は、あまり思い詰めてなければ、いいんだが…」 「そういえば、そうでしたね。電話くらいしてあげればいいのに。」 「…そう、か…?」 車に乗り込んで、弟へ電話をかけてみる。 出勤の時間だ、身支度に忙しくしているかもしれない。 と思ったが、わずか2コールで通話状態になった。 「きょーだい!ほんっ、っとに、ごめん!謝って済むか分かんねー!けど、頼むから、戻ってきてくれよ…!」 スピーカーにしているわけでもないのに、怒涛の勢いで音が車内に響き渡った。 光世は面食らって目を白黒とさせる。 「…戻るさ、当然だ、いわば兄弟も、被害者じゃないか…」 「んん?言ってる意味が、ちょっと分かんねーけど!反省してる!頼むよ、てんちゃんも、帰ってきてくれよぉ…」 「わかった、わかったから。30分で戻る、心配するな、戻るから…」 幼い子どもをあやすように、優しい声で、薄っぺらな機器の向こうの弟へと柔らかく語りかける。 30分か… 簡単に言ってくれますね… セルを回した。 エンジンが唸る。 アクセルを踏むのとほぼ同時にサイドブレーキを思いっきり引くと、ぎゅるん、とテールスライドしてUターンした。 スコスコ、とテンポよくチェンジアップして速度を上げていく。 下りだ。 いくらでもスピードは出る。 口角が上がる。 異次元の自分の不穏な死のストーリーにも興味はあったが、それより、時間内に経営者を職場に送り届けるミッションが重要だ。 そんな映画があったな、と思い出している。 「…おい、制限、速度…」 荷品張本人がなにか文句がありそうにしているけれど、焚き付けたのはそっちじゃないか、と横目で睨みつけてやった。 「セーフ!」 裏口のドアを勢いよく開ける。 「おわ、早ぇな、そろそろ捕まるぜ?」 征羽矢が目を丸くした。 さっと身体を横に向けて顔を合わさないようにして、小グラスに生ビールを注いだ。 「…今朝のことは…悪かったよ、すまん!」 両手に1杯ずつのビールをふたりに差し出しながら、頭を下げる。 「わたしは、べつに、むしろ、ごめんなさいといいますか。」 女はそうなだめつつ、しっかりとグラスは受け取りカウンターチェアに座る。 「…兄弟だけが悪いわけじゃない、俺も、つい、かっとなって、飛び出してしまって…すまなかったよ…」 堀江がテキパキとステージの準備をしているから、光世も女の隣に腰かけてさっそくグラスに口をつけた。 「めずらしーっすね、ケンカしたんすか?」 濱崎が懐っこく話しかけてくる。 「そんなとこ。いまだいたい解決したから、ほれ、表、開けてきてくれ。」 「はいはーい!ケンカするほどなんとやら、っすね!」 なんとやらに置き換えるほど難しいことでもない。 くす、と女が笑った。 どうにも濱崎には甘いところがある。 「どこ行ってたん?」 征羽矢は氷を削りながら尋ねた。 「ミツヨさん御用達の小鳥カフェと、海と、山です。」 「とりとめねーな。」 光世が、コトン、と音を立ててグラスをカウンターテーブルに置いた。 「…山、これが、1年前、事故したと…その現場を見てきた…」 「なにその特殊なツアー。」 グラスの中身がまだ残っているのを見て、素早く珪藻土のコースターを敷く。 「…本当に、審神者なんだな、と…」 「…どゆこと?」 「…あのとき、損傷した怪我…一致するんだ、その、事故のときの、怪我と…」 征羽矢が親指を顎に当てて考える素振りをして見せた。 「ん?まだ分かんねー…つまりどゆことだ?」 「…これは、例え話だが…重体の審神者を、政府が回収して、現代に戻した、などと…」 光世の、根拠のない、杞憂の色の濃い想像を、鑑みてみる。 しかし、やはり断定できないのならば語るだけ無駄である。 「なんのために?」 少しわざと突き放すような合いの手を入れた。 光世はその問いに答えられずに、言葉を詰まらせた。 「…それは…まだ…」 もごもごと言い淀むしかできない。 矛先が変わる。 「んで、てんちゃんは、なんか思い出したん?」 「いえ、うっすら引っかかりを感じた気がしたんですけど、ミツヨさんの話聞いてもピンとこないですし、こう、ドラマティックに記憶が蘇る!みたいなことにはならなかったですし…」 マンガやアニメでよくある、脳内にカメラロールが一気に流れ込んでくる、のような、主人公味あふれる展開に憧れがないわけじゃなかったから残念だ。 征羽矢はなぜか満足そうにひとつ頷いた。 「じゃあこの話はこれでしまいだ。てんちゃんは審神者だよ、主だ、間違いねーよ、俺の魂がゆってる。でも、今は、関係ねーだろ?」 その思索にこそ根拠は皆無だ。 急に魂について言及されても反応に困る。 だが、関係ないことは、事実。 「そりゃ、まあ…」 突きつけられる事実に、返す言葉はない。 「なに?兄弟はさ、てんちゃんに、思い出して欲しーの?あの本丸のこと。」 氷とアイスピックから目を離さないまま、半笑いで問う。 小馬鹿にしたようなそのリアクションだからこそ、 「…そういう、わけでは…」 光世は、別にそう望むつもりはなかったのだが、改めて、そうだった、思い出してもらいたいなんて考えてはいなかったはずだ、と冷静さを取り戻せた。 ぶに、と自分の頬をつねった。 それを見て、征羽矢は、くしゃ、と破顔する。 「はい!じゃーおしまいおしまい!労働労働!」 そのとき、開店とほぼ同時に入店してきた客があった。 征羽矢には見覚えがない顔。 その青年はきょろ、とあたりを見渡していて、後ろから付いて入ってきた濱崎が光世を呼んだ。 「ミツヨさん!ホシノさまご来店でーす!ミツヨさんの名刺!」 光世が営業用のスマイルをほんのかすかに浮かべて、意を決したように振り向いた。 「ユキちゃん!ミツヨくん!」 呼び声に女も振り返った。 「ホシノさん、こんばんは。」 女もまるで社会人の顔で挨拶をした。 「ってか、あの写真!わたし、納得はしてないですからね!」 光世は立ち上がってお辞儀をした。 「…先日は、仕事、邪魔してしまって…」 星野は右手を大げさにぶんぶんと鼻の前で振って見せる。 「いえいえ、とんでもなーい。えーっと、こちらのバチクソイケメンくんが弟クン?」 「ええ…兄弟、こちら、カメラマンの…」 光世がぎくしゃくと、征羽矢へと向き直りつつ、慣れないながらに紹介しようと試みるのを、いともたやすく遮ってピースサインを出した。 「星野だよー。ノース専属ってわけじゃないけど、クルマ業界中心で撮ってるからユキちゃんとは絡み多めだよー。」 名刺を取り出して征羽矢へ手渡した。 光世としては、これだから陽キャは、と思わなくはない。 「ども。副社長兼専務の三池征羽矢でっす。イケメンなんてとってもきょーしゅくっ。」 お返しに征羽矢もピースを額に当てる。 …これだから陽キャは…! 光世は奥歯を噛み締めた。 「座ってくださいよ、なに飲みますか?」 「ノンアルにしてくれる?車なんだよ。」 「…俺さ、このやりとり、てんちゃんがココ来るようになってさ、これからすごいする気がしてる…」 冷凍庫からカチコチに冷えたジョッキを取り出しながら苦笑する。 星野が、不思議そうに復唱した。 「てんちゃん?」 ちょっと、しまった、という顔をしてしまう。 「あ、ユキちゃんのこと。あだ名?的な?ついクセで言っちまうなぁ。」 きれいに泡の整ったノンアルコールビールのジョッキを星野に手渡した。 星野が首を傾げる。 「空、だから?」 「そうかも。」 この会話の流れで、かも、は、ないだろ、と、心の中で自身にツッコミをいれるけれど、テンポとムードでほどよくごまかされたのだろうか、星野はさほど気にするでもない。 ふーん、と、黄金色のドリンクをすすった。 「…あの、空知の、事故のこと、ご存じですか…?」 光世が、おもむろに問いかける。 兄弟はしまいだと言うが、どうにも、腑に落ちない、このままでは、仕事に集中できそうにないし、きっと夜も朝も眠れない。 だが星野は意地悪く笑った。 「どの事故?3戦目のXYでの単独全損?2年目の白牛スキー場のジムカーナでの横転?その次の年のあれ、あー、あれはどこだっけ…」 「そ、そんなに、あるのか…?」 思いがけない返答に、感情が迷子になる。 危険な仕事に対する不安、だがそもそも自業自得であろうという呆れ、純粋な驚愕。 「大小交々、年イチではやらかしてるんじゃない?」 年イチ… よくぞほぼ五体満足で生還してきたな、という感心。 「…いや、あの、その、マドカ峠の…」 「あ、去年のね、よく生きて戻ってきてくれたと思うよ。」 星野も同じ感想を抱いていたことを知って少しほっとする気持ち。 「…どんな、事故だったんですか…?」 征羽矢は、あまり興味ない、というよりは、聞きたくない、というような顔をして、自然とその場を離れた。 テーブル席に座った常連の4人組のところへ、自らオーダーを取りに行ったようだ。 「どんなって、いってもなぁ、ノースに連絡いったときにはもうインザ手術室だったらしーし、俺は後から聞いただけだからなぁ。」 「そう、ですか…」 光世は目を細めて、その左の目にかかる横髪を耳にかけ直した。 左隣に座っている女は、光世の長いまつげが落とすつんつんとした影が、その涙袋をしましま模様にするさまを、絵画のようだな、と思いながらじっと見つめた。 「わたしが全然どんなだったか覚えてないって言ったら、妙に気になるみたいで。」 肩をすくめる。 こんなに美しい、神がごとき存在を思い悩ませてしまって、申し訳ない、という胸中だ。 「お見舞いには行ったよ、腸を3分の1くらいなくしてるから、癒着に注意しないといけないからどうとかこうとかーって話をしたのを覚えてるな。」 「水分たくさん摂ればいいんじゃないかと思って、日々ビールをしこたま飲んでます。」 く、と短く、嘲笑じみた吃音を吐き、空になったグラスを持ち上げた。星野は顔をぎゅうっとしかめる。 「だめじゃん、それ。でも、やたら回復早くて、なんだろ、ダメージの割に治り方がキレイだよね。案外正解だったりして。」 それはもちろん冗談だ、が。 濱崎がジョッキにビールを注いで持ってきてくれる。 ふと、とあることを思い出して、星野はこめかみに指先を当てた。 「そうそう、これは森下さんが言ってたんだけど、集中治療室にさ、妙にバチバチのスーツのオジサンが何人かいて変な雰囲気だったって。普通、部外者、中入れないだろ?しかもスーツでなんてさ。」 光世の目の色が、じわ、と変化した。 つややかな烏の濡羽色から、血液を思わせるような鉄臭い赤へと。 星野は気が付いていない。 女はひそかに息を呑む。 「だからユキちゃんは実はどっかいーとこの社長令嬢とか、ヤクザの一人娘なんじゃないかって、だからパンピーとは違うなんか特別な処置がされて助かったんじゃないかしら!?って。」 後半は、下手くそに森下の言葉遣いと声色を真似て、おどけて言う。 「それ、聞かれましたね。わたしは全然、知らないんですよ、警察か記者だったんじゃないですか?」 女は濱崎へとアイコンタクトで礼を伝え、ジョッキの縁をくわえた。 光世は俯いたまま、ぽつりと呟いた。 「…時の、政府…」 「…?」 女も星野も、聞き取れず、両サイドから光世を見つめる。 だが本人はゆるゆると首を振った。 「…いや、なんでも、ない…」 それ以上はなにも発さずに、星野には、ぺこ、と会釈だけして立ち上がった。 瞳はすでにいつもの漆黒にかえっていた。 そこへ征羽矢が戻ってくる。 「そうだよ、話さなきゃいけなかったんだった。」 カウンターの内側の作業台に置かれたカゴに、乱雑に積まれたトマトをひとつ手に取ると、狭い流しで丁寧にそれを洗う。 「昨日の夜、電話しただろ?伊藤サンに頼まれてたんだよ。てんちゃん、オースの広告やってくれって。」 手際よく均等にスライスしてガラスの皿へ盛り付け、オイルと塩をかけ、ドライバジルを散らして、星野の前に置いた。 「広告?」 それを狙って、女が空いた席をひとつ詰めたので、光世は追い出されるように1歩後ろへ下がった。 征羽矢は、箸をそれぞれに手渡しながら、こんな片手間にすべきではないような依頼を持ちかける。 「カーオーディオの。クルマ雑誌とか道路情報系のフリーペーパーとかに載るやつだってさ、サンプルもらってたんだった、ちょい待ち。」 パンツの後ろポケットからスマホを取り出して、画面を女に向けて、すいすいっと何枚かの写真をスワイプして見せていく。 「こんなイメージだって。」 案の定、女は不満をアピールすべく大きなため息をついた。 「…わたし、職業ドライバーなんですよね…」 「スポーツ選手だってCM出たりするじゃん。」 征羽矢は面白がっているようだったが、女にとってはそれがますます腹立たしい。 「…気は、進まないですけど、これは、また断れないやつでしょう…?」 箸で、ひょい、とトマトをつまみ、口の中へと放り投げる。 「そんで代わりに兄弟をノースのカタログモデルに生贄としてささげますって。」 「…!!」 立ち去ろうとしていた光世が驚いて振り向いた。 「森下サンとはほとんどナシついてるっぽいぜ?」 「…勝手な…!」 派手に舌打ちする。 そんなの、兄弟がやればいいじゃないか…! じろ、と、モデルにも負けない端正で華やかな顔立ちの弟を睨みつけた。 「や、でも、これ、予感、しかない…俺に撮らせてよ、めちゃくちゃ口も手も出すけど!」 黙って聞いていた星野が、興奮した様子で征羽矢に詰め寄った。 もう頭の中には数種類の構図が浮かんでいるし、それを忘れてしまわないうちに、すぐにでもペンを握ってノートに向かいたい心持ちだった。 「うん、伊藤サンに聞いてみますわ、長いことてんちゃん撮ってきたカメラマンさんが格安で受けてくれるらしーぜって、言ってい?」 「格安は余計だなぁ。」 星野もトマトを一切れ持ち上げた。 バジルの香りが巻き上がる。 光世は呆れたのか諦めたのか、踵を返して奥の部屋へと姿を消した。 「そのくらいうまみねーとねじ込めねーっすよ。」 つまりはねじこむ意気に満ち満ちているのだ。 『彼奴らもまた我々と同じく生殖器が霊力の精製を担っていると考えたんだろう。』 『だが違った。それを破壊しても効力は衰えなかった。』 『それを喰らってもなんの力も得られなかった。』 『これをこのまま失うのは惜しい。なんとか繋げろ。』 『医療技術は充足している。ただ我々の対応を槍玉に挙げられる可能性が。』 『あれは正しい判断だった。』 『本丸からのゲートを突破されていたら組織そのものが危なかったのだ。』 『やむを得なかった。』 『だがロストした審神者は面倒だ。』 『無機物に情を寄せ過ぎるきらいがある。』 『教育方法の要改善。』 『要改善。』 『要改善。』 『ロストはしたが、これさえ生かせば、また作れる、育てられる、いくらでも。』 『記憶を改竄する。』 『いったん廃業させよう。メモリを消して、しばし一般生活を送らせて完全に初期化するのだ。』 『初期化。』 『初期化。』 『初期化。』 『初期化。』 『これは、これの時代では自動四輪の競技をしているはずだ、ちょうどいい、なぞらえて事故に見せかけよう。』 『自動四輪とは、レトロな趣味だな。』 『そう言うなよ、2世紀前だ。』 『残った刀剣男士は。』 『三池の霊刀が二振り。』 『行方をくらませているな。本丸はがらんどうだ。』 『堕ちたか。』 『堕ちたか。』 『堕ちたか。』 『発見次第、刀解を。』 『刀解を。』 『刀解を。』 ------------------------- 〜16に続く〜
レスを見る(2)
2025/10/03 17:40:09(2FMrjLWz)
コメントを投稿
投稿前に利用規定をお読みください。 |
官能小説 掲示板
近親相姦 /
強姦輪姦 /
人妻熟女 /
ロリータ /
痴漢
SM・調教 / ノンジャンル / シナリオ / マミーポルノ 空想・幻想 / 透明人間体験告白 / 魔法使い体験告白 超能力・超常現象等体験告白 / 変身体験・願望告白 官能小説 月間人気
1位娘の為に奴隷に... 投稿:裕美子 8216view 2位体液と匂い 投稿:なおと 5269view 3位抱かれるしかな... 投稿:レイ 4767view 4位他の男に処女を... 投稿:てんてん 4378view 5位近所のオバサンと 投稿:(無名) 4018view 官能小説 最近の人気
1位娘の為に奴隷に... 投稿:裕美子 55339view 2位ショッピングモール 投稿:純也 739287view 3位親友の子を産ん... 投稿:てんてん 4903view 4位お店のパートさ... 投稿:クリケット 1120243view 5位体液と匂い 投稿:なおと 29734view 動画掲示板
![]()
![]()
![]()
![]()
![]()
画像で見せたい女
その他の新着投稿
4日市北部-下着を置く女/東海 06:11 友人の巨根に-旦那の愚痴 05:56 小学生になりたい願望-欲求願望告白 05:44 温泉-スワッピング体験談 05:40 早く目が覚めちゃった-オナニー実況 05:27 人気の話題・ネタ
ナンネット人気カテゴリ
information
ご支援ありがとうございます。ナンネットはプレミアム会員様のご支援に支えられております。 |