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後悔10
カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:シナリオ 官能小説
ルール: エロラノベ。会話メインで進む投稿小説
  
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1:後悔10
投稿者: まさ ◆72/S7cCopg
 バーベキューを終えた。きっと服や体に染み付いているであろう、焼き肉
の匂いを消すことも兼ねて、温泉へ行った。そこは今時よくある、スーパー
銭湯というやつで、温泉に入る他、食事をしたり、座敷で休憩したり、マッ
サージを受けたりできるところであった。五人はひとまず湯に入りに行っ
た。当然、男四人は男湯へ、朝香だけは女湯へ行った。
 浴場は、浴室、浴槽ともに十分広く、サウナもあった。露天風呂もあり、
そこからは富士山が見えるはずだったが、残念ながらすでに日が暮れていた
のでよく見えなかった。その代わり、空は満天の星空であった。街が明るす
ぎるために、星のよく見えない東京の空と比べると、数倍もの数の星星が見
えた。そんな絶景を眺めながら、熱い湯に浸かっていると、身も心も癒され
るようであった。健介は、のんびりと温泉を満喫しながら、女湯にいる朝香
のことを思った。自分は友人らと一緒にいて楽しいからいいが、朝香は、せ
っかくこんなところに来ても、一人なのは少し可哀想だ、もう一人くらい女
の子がいたらよかったのにと思った。
 健介は、あまり長湯できる性質でないので、他の三人より早くあがった。
汗を拭いて、服を着て、ラウンジへ出た。浴場もそうだったが、そこも他の
客がけっこういた。ラウンジからは中庭に出られるようになっていた。中庭
にはベンチがあるので、健介は、火照った体を夏の夜の風にあてながら、皆
を待とうと考えて、中庭に出た。
 ベンチには、すでに朝香が腰掛けていた。朝香は健介に背を向けて座って
いたが、気配を感じたらしく、振り向き、健介を見て、微笑んだ。二人がそ
こで邂逅したのは偶然に違いなかった。が、健介は不意に、運命、という言
葉を思い浮かべた。
「随分と早いのね」
 朝香は弾んだ調子で健介に話しかけた。
「小嶋こそ。女の人ってもっと長いもんじゃないの?」
「一人で、長いこと浸かっていても、退屈なんだもの」
「そうか。そうだよね」
 健介は、座っている朝香の前に立った。何となく直人に悪い気がして、隣
に座ることが憚られたのである。朝香は不思議そうに健介を見上げ、
「座りなよ」
 と言った。健介は、許可を得たというような心持ちで、腰を下ろした。や
はり遠慮がちに、少し体を離して。
 そのベンチからも、露天風呂同様、素晴らしい景色が見えるはずだった
が、やはり真っ暗で、山々の輪郭が確認できる程度であった。それでも、ふ
もとに広がる田園風景や、木々の生い茂る山々などは、平生石や鉄で出来た
都市に暮らしている彼らに安らぎを与えるものであるのは確かだった。
「いいところだね」
 健介は言った。
「ね。空気からして全然違う」
 と朝香は応えた。確かに、空気は澄んでいて、時折吹く風は爽やかに彼ら
の体を撫でた。火照った体にはそれが至極心地よかった。
「川上とは、他にも色々なところに行ってる?」
「うん。行ってる」
「やっぱり車で行くんだ?」
「そうね」
「そんなら、楽しいね」
 朝香は沈黙した。その沈黙には如何なる意味があるのか、それとも意味な
どないのか、表情を見ればわかるかもしれなかったが、健介は真っ直ぐ、景
色のほうを見ながら話していたのでわからなかった。横を向いてみればいい
だけのことだったが、言いにくいことを追求しているというような気がし
て、できなかった。
「小嶋は幸せものだな」
 勝手に断定してしまった。それで、イエスと応えてくれればよし、と健介
は考えた。ところが朝香は、
「そう見える?」
 と言った。健介は驚いて、朝香のほうに首を曲げた。朝香も健介のほうを
向いていた。自然と、二人は見つめあう形になった。少し体を傾ければ、唇
と唇が触れあるくらいの至近距離で。
 辺りは暗かったが、ラウンジから漏れる光と、中庭に設置されている照明
で、朝香の顔ははっきり見えた。切なげな表情であった。濡れた髪の毛に光
が反射して、美しく黒光りしていた。健康的な桃色の唇にも、たっぷり水気
が含まれていた。ほのかに甘い、石鹸の香りがした。健介はそれらに、官能
的な気配を感じた。彼は思わず朝香の胸元を見た。夏だから、彼女はシャツ
一枚であった。もともと乳房の肉は豊かな方でないが、薄着のため体の輪郭
はわかりやすかった。風呂上りのためであろう、鎖骨のあたりも湿っている
ように見えた。健介は我知らず、性欲的興奮を覚えた。
「やっぱりわかった? 見ただけでばれちゃうなんて、私はよほど幸せね」
 と朝香が急に明るい声を出したので、健介は我に返った。朝香は照れ臭そ
うにしていた。嘘のなさそうな態度であった。
「そうさ」
 などと何の気なしに返事をしつつ、健介は、今、ほとんど自我を失いかけ
ていた己がいたことに気付き、慄然とした。それ以上その場に留まって、朝
香に引きつけられることを恐れた。それに、そんなところに二人でいるのを
直人に見られては、甚だ具合が悪いと思われたので、
「そろそろ皆あがってくる頃かな」
 となるべくさりげない口調で言って、立ち上がり、ラウンジの方へ体を向
けた。
「そうね」
 続いて朝香も立ち上がった。二人はラウンジへあがった。
 健介は、自分が朝香に対して、直人と色々なところへ行くのは楽しかろう
と言ったのは、朝香に対する問いというよりも、朝香が、直人の恋人でいる
ことに楽しみや、幸福を感じていてほしくて、決まった返答のみを期待して
言ったことだと思った。そうでなければ、朝香を諦めたことが、あまりにも
報われないからである。楽しい? 幸せ? という言い方でなく、楽しい
ね、幸せだな、とやや決めつけるような言い方をしてしまったのもそのため
であった。健介は朝香に、今楽しいのかどうか、幸せなのかどうかを尋ねた
いのではなくて、朝香の口から、楽しい、幸せだという言葉を聞きたかった
のである。その目的は、最終的には達せられた。しかしその前に見せた、朝
香の表情が気になって、どうしても釈然としないものが残った。照れる朝香
の態度も、本当らしく見えた。が、その直前の、切なげな表情のほうが、よ
り真剣味があって、心の深層に迫ってくるような感じが、健介にはしたので
ある。
「しかし、だからなんだというのだろう。よし幸福だと言うのが嘘だとして
も、嘘というほどでなくても、幸福だと公言できるほど幸福を感じていなか
ったとしても、この俺になにができるのだろうか。俺は、彼女を幸福にする
ために何かをする権利を、何ら有してはいないではないか」
 健介は結局、半ば強引に、己の考えを押し込めた。直人を信じる外ないと
思った。もともと、直人なら自分よりもと思って、身を引いたのだから、直
人には何としても、朝香を幸せにしてもらわなければならないと思った。
 ラウンジに戻ると、程なくして、直人とAとBは男湯の暖簾をくぐって出
てきた。すでに肉をたらふく食べた後だから、全員食事をする気にはならな
かったが、風呂屋では定番の、牛乳などを飲みながら、座敷に寝そべったり
してしばし休憩した。程好く休憩して、キャンプ場へ戻った。戻る途中、や
はり朝香は直人の助手席に座り、そうしてやはり、直人の彼女らしく、楽し
そうにしていた。健介は、どうしてあんなことを言ったのだろうと思った。
 
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2006/12/12 22:00:55(tFf/ML1M)
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