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1:黒い下着9
投稿者:
ま
◆72/S7cCopg
雨が降っていた。雨は僕らのさす傘をばたばた叩いていた。それでも、僕
らが並んで下校するのは、いつも通り、変わりがなかった。 白井は、F高校の制服は、今来ている制服よりずっと可愛いから、着るの が楽しみだと常々言っていた。なるほど確かに、我が中学校の女子の制服 は、白のブラウスに、紺のチョッキとスカート、冬はその上にやはり紺のブ レザーという、いかにも昔からある女子中学生の制服で、デザイン性という のはまるで感じられなかった。それに比べてF高校の女子の制服は、白のブ ラウスは同じだが、灰色地にうすい黒の格子縞のベストとスカート、冬はそ の上に濃紺のブレザー、何といっても、ブラウスの襟につける青と白の縞模 様のリボンがポイントであった。リボンの模様は赤と黒の縞のものもあり、 好みで使い分けてよかったが、正装は青のリボンとされた。格別派手ではな いが、よくまとまって落ち着いた印象を受ける服装で、好感が持てた。白井 はそれを可愛いと言って、早く着たがったのである。 しかし実は、それだけが白井の上機嫌の理由ではなかった。その日、白井 が、僕に向かって言った一言。 「早く、新しい制服着て、しよっ」 幼児のようにはしゃいでいた。 白井は、セックスをするとき、制服のどれか一部を身に付けたままするこ とを好んだ。そうしたほうが、エッチしているというより、エッチされてい る、すなわち犯されているという気分になって、いけない喜びが胸の内に湧 いて、興奮が高まるのだという。特に、スカートだけを残してすることを好 んだ。ブレザーやチョッキは、しわになると目立つし、汗をかくので、たい てい脱いだ。靴下も、履いたままするのは好まなかった。素足と素足を絡ま せたときの感触、温もりが、心地よいかららしい。ブラウスだけ残すとき は、ボタンだけを外して、ちらちらと胸を見せた。僕がその胸を覆っている ブラジャーを強引にずりあげ、乳首を舐めると、白井はとても綺麗な声を挙 げた。白井がもっとも好きな行為は、スカートだけを穿いたまま、僕の上に 跨って腰を振ることだった。僕は最初、そうすれば繋がっているところがス カートに隠れて見えなくなるから、見られるのが恥ずかしいためにそうする のだと思った。ところが白井は、 「見て」 と言ったかと思うと、腰を振りながらスカートをまくりあげ、結合部を見 せつけるようにした。僕は目を見張り、わけのわからなくなるくらい興奮し た。白井は、自分でそう仕向けたにも関わらず、 「また大きくなったよ」 とからかうように言って、くすくす笑った。そういうときの白井は、確か に正気でなかった。魅惑的、官能的、それが全てであった。僕も、完全にそ んな彼女の虜になり、正気を失っていた。 しかし、そんなことをしながらも、制服を汚すなと言うのは、おかしかっ た。そんなら脱げよと思った。一度、彼女のスカートに、誤ってわずかだが 精液を付着させてしまったことがあった。その時白井は、遠慮なく激怒し た。汚すなと言うのにと言って、ぷりぷりしながらティッシュで精液を拭き 取っていた。僕はそれでもそんなに腹を立てなかった。詫びを入れながら も、彼女のその理不尽な態度を、反って愉快に思っていた。だから、新しい 制服を着てセックスしようという彼女に、 「せっかく新しい制服が汚れちゃうよ」 と言ってやると、 「だから、汚さないでよ」 と応えるのが、半ば呆れつつも、可笑しかった。 それより僕は、白井のそういう嗜好には、本当に犯されたいという欲求 が、本人は意識していないにしても、どこかに潜んでいるのではないかとい う気がして、心配だった。犯されている気分になって快感が高まるというこ とは、実際に犯されても、つまりは強姦されても、それを快楽としてしまう のでないかと考えると、気が気でなかった。これは白井が痴漢に遭遇したら という想像と似た種類の想像であった。僕は、嫌だ嫌だと思いながら、白井 が強姦される想像をよすことができなかった。突如、暴漢に襲われ、暴行さ れる白井。はじめは抗うも、刺激を与えられると、受け入れてしまうように なる白井。強姦されて喘ぐ白井。想像がますます膨らんでくると、強姦犯は 単独でなく複数になり、白井は、僕の頭の中で輪姦され、さんざんに陵辱さ れた。それでも白井は、苦痛の中に、喜びの混ざった表情を浮かべるのであ る。僕はまた、死にたくなった。何としても、斧で眉間をかち割りたくなっ た。 僕は、しかし、こういうことも考えた。例えば、格闘技を好きな人がい る。観戦して、興奮して、喜ぶ。ルールの中とはいえ、人と人が痛めつけあ っているのを喜ぶのである。闘っている人に自分の姿を重ね合わせて、まる で自分が闘っているかのような気分にまでなる人もいる。しかしそれなら、 そういう人たちに、実際にやってみろと言っても、やらない。見るのは良く ても、自分が人を殴ったり人に殴られたりするのはごめんなのである。白井 の、犯されている気分になりたいというのも、こういう心理に近いのではな いかと思われた。犯されたいとは思う。けれども、実際に強姦されることな どはできるわけがない。白井はそういう心理で、犯されている気分、あくま で気分だけで、快感を得ているのではないだろうか。僕はそう考えた。そう すれば少しは心が楽になった。また、その考えは案外正しそうに思われた。 いくらなんでも、白井が強姦されたがっているなどとは思われなかった。そ もそも、それは僕が勝手に邪推したに過ぎないのだ。勝手に想像を膨らませ て、必死にそれを否定している自分を、心底馬鹿馬鹿しく思った。 セックスのことに関して、僕が不安に思っていることはまだあった。強姦 されたがっているかどうかなどというのよりも、その方が深刻で切実な問題 であった。白井が、僕とのセックスで満足しているのかということである。 白井が僕を愛してくれているのは確かである。それは、僕の自惚れではな い。直接、彼女の心を、僕の心が感じているのである。僕が甚だしき鈍物だ ったとしても、それだけは確かである。だから、彼女は僕を求めてくれる。 しかし、僕は、努力はするが、自分がうまいと思ったことがなかった。彼女 の欲求を満たしてやれているのかどうか、これは初めの頃から心配してい た。白井が実は、密かに僕のセックスに不満を抱いていて、それがために、 浮気。まさか。しかし、僕より遥かに女性を感じさせる技に長けている者な ど、いくらでもいそうに思われた。平生の白井だけならば心配はないが、欲 情する白井を知っている僕は、どうしてもその心配、不安を拭えなかった。 「考え事してるね?」 と白井に言われて、はっとした。白井は僕の顔を不安そうに覗き込んでい た。僕は常に考え事に熱中する癖があった。白井は、そのときの僕の顔はと ても恐ろしいと言った。 「ごめん」 「別に。で、何を考えてたの?」 と白井に言われたので、これは好機かと思った。この際、不安を打ち明け てみようと思った。何でも一人で考えすぎるのは良くない。彼女に関わる心 配事を黙っているのは、彼女に対して失礼である。恋人同士なのだから、な んでも相談しあうべきだと考えた。 「由紀は、エッチが好きだね?」 白井は顔を真っ赤にした。 「いきなりね。それは、好きよ」 「ときどき不安になるんだけど」 ここまで言って、迷った。このまま話を続ければ、僕は白井を疑っている と自白するのと同じことになる。疑われていると知ったら、白井はどんなに 傷つくだろう。そう考えると、その先を言うのがためらわれた。けれども、 一度言いかけたことをやめるわけにもいかなかった。僕は勇気を出して前進 せねばならなかった。 「俺で満足してる?」 それは、自分が無能であるということを認めたのも同然であった。僕はし んから情けなくなった。白井はちょっと眉をひそめた。怒っている風であっ た。僕はおどおどしかけた。ところが白井は、嬉しそうな顔に表情を変え て、 「焼き餅焼いてるんだ」 と言った。彼女には僕の心は全てお見通しであった。ああ、この子は、僕 のことをなんでもわかってくれるのだ。付き合い始める直前もそうだった。 本音を言えない僕の心を見透かして、先に言ってしまった。これだから、好 きなのだ。愛してやまないのだ。 白井が笑ってくれたのが嬉しかった。嫉妬されているとわかっていて笑う ということは、嫉妬されて嬉しいからであろう。嫉妬は、その人を好きだか らこそするのである。つまり、嫉妬されるということは、好かれているとい うことである。僕に、嫉妬されるくらい好かれて、白井は喜んだ。僕はその ことが嬉しくてたまらなかった。 「そんなに心配する必要ないと思うけどな」 白井はそう言って、少し歩みを速めてちょっと僕の前に出て、振り返っ た。その仕草は、良かった。雨が降っているのに、そんなこと関係ないよう に、彼女の髪は柔らかくなびいた。 雨が降っていた。雨は相変わらず僕らの傘をやかましく叩いていた。道は 狭かった。僕は、美しい彼女に見惚れていた。だから、後ろから接近する車 に気付かずにいた。 「危ない」 白井は僕をかばった。 白井の肩にかけていた鞄が、車のサイドミラーにひったくられて、彼女の 体は強く引っ張られ、続いて、ばりばりと音を立てて手に持っていた傘が車 輪に引き込まれて、その勢いで彼女の体は宙を舞い、くるくるっと花の車。 無造作に、アスファルトの地面に叩きつけられた。雨に濡れたアスファル トの上に、水面に浮かぶ花びらのように、美しく伏した。
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2006/09/09 12:07:43(n74NMGQI)
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