蛇口から38℃のお湯が一気に噴出した。熱いお湯は高血圧には良くないと
聞いたから2度温度を下げている。あたりに幾らでも居るただのおっさんで
ある。排水とは打って変わって満たすのになんと時間の掛かることか。跳ね
上がり浴槽の内壁に飛び散り張り付くことが出来ぬまま滑り落ちる無数の水
滴が糸を引きながら底に集い始め 次々打ち付けられるお湯に押しのけられ
つつも次第に輪を小さくしてゆく。『独り か!』湯船の縁から顎を離すと
立ち上がった。「着替え 着替え」探しては見たがパンツ一枚見つけられな
い。明日は休み慌てる事ないか。何より人の目が無いのだ。裸で構うもの
か。「醜い自分の身を包む必要などないしなぁ。」裸で居間を 廊下を 台
所を歩いてみた。ある種心地よささえ覚えた。が 洗面台の鏡に映った姿に
ぎょっとした。筋肉が落ち老いを隠せない腕 ぷっくり盛り上がったお腹
何よりダラリ垂れ下がった黒ずみが納まり所を失いうな垂れため息をついて
いた。