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1:(無題)
投稿者:
ma
修学旅行は、京都へ行った。ほとんどの時間が寺巡りで占められていて、
今なら、たまにはこういうのも悪くないと思えそうなものだが、当時の僕に は甚だ退屈でしかなかった。僕以外も、男子はたいていそういう考えであっ た。中学生男子が興味を持つのは、友達、スポーツ、テレビ、ゲーム、漫 画、それから、女、といったようなもので、面白がって寺を見たり仏像を見 たりする奴は、極めて稀有であった。その上僕は、班行動の際に組む班が、 白井と別になってしまったので、そのことが悔やまれるばかりで、男子とは 仲のいい奴と組めたものの、やはり面白くなかった。 三泊四日の、一日目は、団体行動で、昼頃に現地に着くと、クラスごとに 公園などを歩き回った。鹿がたくさんいた。自由行動のときに、クラスでも 公認のカップルが二人きりで散歩をしていた。クラスメイトの目をはばから ずにそんなことをするものだから、彼らはさんざんに冷やかされた。僕も一 緒になって冷やかした。けれども、僕も白井と二人きりでそういうことをし たい、冷やかされたって幸福だ、と思っていたのだから、本当は僕に彼らを 冷やかす資格はなかった。 二日目は、班行動だった。あらかじめ設定されたコースがいくつかあっ て、班ごとに自分たちの気に入ったコースを選択して、そこを巡り歩くこと になっていた。コースは重複してはならないことになっていたので、僕は白 井と同じ班どころか、同じコースを歩くことすらできなかった。男友達とは 仲良く話をしながらも、どこか面白くない気持ちで寺などを巡っていると、 そんな寺の見物など、まるで意味のないもののように感じ始めた。興味のな いものを強制的に見せられて、何になるというのであろう。しかも、寺の見 物には数百円の金がかかるのである。それはもちろん、あらかじめ親から渡 してもらった金だけれども、全く無駄な出費であると思った。そこで僕は、 班の者たちに、見たければ見に行くがいい、俺はここで待っているというこ とを言って、寺の入り口の辺りで待つことにした。時間はもったいないが、 少なくとも金は払わずに済む。親は寺の見物料でなくなると思っている金だ から、こうして余った金は好きなように使える、と狡猾なことを考えた。男 子は僕の考えに賛成したが、こういうとき、女子というのは真面目なもの で、きちんと金を払って中へ入っていった。寺の外で待っていると、別のク ラスの、同じコースを選んだ班の連中が来た。男だけで待ちぼうけている 我々を見て、当然、どうしたのか問うた。先の経緯を説明すると、その連中 も、男子は賛成し、女子は反対、というほどのものでないかも知れなかった が、決められたことをやらないことに気が咎めるらしく、やはり僕の班の女 子同様、男子を置いて入っていった。 女子が戻ってくる前に、運悪く、先生が来てしまった。当然、何をしてい るのだと言われ、うまい言い訳も思いつかない僕たちは、お互い顔を見合わ せながら、興味がないのに見物をするのは、金がもったいないからここで待 っているのだと言った。先生は怒り、そんなことは許さんという意味のこと を言って、それからは僕たちについて行動するようになり、それ以降の寺な どは、嫌でも見て回らなければならなくなった。 その日の行動を終了し、旅館に戻り、夕飯を食べた後、先生たちの呼び出 しを受けた。金をけちって寺を見物しようとしなかったことで説教を受ける ようだった。つまらないことになったと思いながら、指示された、旅館の中 の少し広めの部屋に行くと、僕たち以外にも呼び出されているのがおよそ三 十名ほどいた。みんな、同じ理由でそこにいるらしくて、考えることはみん な同じなんだなと、僕は苦笑した。 説教が始まると、僕は俯き加減に、神妙な顔を繕って、反省しているふり をした。説教は長かったが、内容は、まあ、お前らは京都まで何をしに来た のだ、修学旅行というのは遊ぶためのものでなくて、あくまで学ぶためのも のなのだ、というようなことを、くどくどと言っているに過ぎなかった。最 後に、一人一人反省の弁を述べていくことになった。みんなそれぞれ、明日 からはちゃんと見物をしますとか、班行動に協力します、とかいうこと述べ ていった。なるべく、前の人とは違うことを言ったほうが、真似らしくなく て、より反省している風に見えそうであったが、なにしろ三十名ほどもいる のだから、後の人ほど、そうするのに苦心しているようだった。一人馬鹿な 奴がいて、俺は寺なんか興味ないから明日も見ない、などと言っていた。先 生は、それならお前にこの旅行は無意味だから、今からでも帰ってもらうが いいかと言った。そいつは後に引けず、ああいいと言って、その部屋から力 ずくで追い出されてしまった。本当に帰されたのかと思ったが、翌日、そい つは班から外され、先生がつきっきりになって京都を巡っていた。僕は、見 たくもないものを見る以外は、友達とわいわい旅行ができて楽しいのに、わ ざわざ、せっかく思い出にもなりそうな旅行をそんな形で終わらせるそいつ を、哀れにも、愚かにも思った。 話は前後する。説教が終わって、その部屋から出て、教師の目の届かない ところに来ると、みんなすぐにへらへらとしだした。僕の中学は、荒れてい るわけでも、教師が生徒に舐められているというわけでもなかったが、その 程度の説教で、本気に反省する者など皆無であった。それは僕も同様であっ た。もう、さっき言われたことを忘れて、自分の部屋へ戻ろうとした。その とき、浴場へ行くらしい白井と会った。いつもの制服姿とは違う、白いTシ ャツに、ピンクのジャージという姿であった。洒落っ気のない、粗野な格好 ではあったが、白井はやはり美しかった。他の女子が同じ格好をしても、こ うはいかない。また、白とピンクという色は、いかにも白井によく似合って いて、可愛らしかった。 僕は怒られたことなどは何とも思わなかったが、これはまずいところを見 られたかなと思った。好きな人に格好悪いところは見られたくないものであ る。白井は、同じ班の女子二人といたが、足を止めて、僕に話しかけた。 「金子も怒られたんだ」 白井は笑いながら言った。事情はわかっているようなのに、さして軽蔑し ている態度でなかったので、僕は安心した。 「うん」 「いけないんだ」 「だって、興味もないのに、金払って見るなんて、意味ないよ」 「ね。ホントだよね。私もそう思う」 真面目で大人しい白井の口から、そんな言葉が出てくるとは予期していな かったので、僕は少し驚いた。白井は言葉を続けた。 「修学旅行って言ったって、学ぶ意思がなければ、何を見たって意味ない わ。忘れるだけよ。私は、お寺や仏像より、美味しい料理屋さんとか、綺麗 な景色のほうがよほど興味がある。そういうのを知っておくほうが、どれだ け自分のためになるか、わからないわ」 僕は、全く同感だと思った。好きな人の意見だから、そう思ったのかもし れない。けれども、白井が僕の意見を少しでも肯定してくれたことは、嬉し かった。それに、女友達と一緒にいたのに、わざわざ足を止めて、僕に話し かけてくれたことも、嬉しかった。そうすることに、彼女がなんの不自然さ を感じていないらしいことも嬉しかった。彼女にとって、僕が、それだけ気 安い存在になっているのだと思うことができるのが嬉しかった。数歩先に進 んで待っていた友達に急かされて、白井は行った。 三日目は、自分の班で決めたところにあちこち行くことになっていた。前 日と違うところは、行き先や道順があらかじめ決められているのでなくて、 それらを自分らで決めるというところで、それらには、自主性を持って、か つ計画的に行動すべし、という意図があるらしかった。しかし、行くところ や見るものは前日と同じく、ほとんど興味の湧かないものばかりであったの で、なんのための自主性であろうかと思った。強要されているのには変わり がなかった。また、小馬鹿にされている気もした。十五にもなれば、自分の 行きたいところくらい、自分で決められないわけがないだろうと思った。 色々回って、もう何を見たのか覚えていないが、旅館に戻って、夜になっ た。その日の夜は、修学旅行最後の夜ということで、教師たちの夜の見回り がなかった。せっかく、大勢の友達と同じ部屋で寝る機会だから、少しは夜 更かししたいものである。その日くらいは大目に見ようということであろ う。 部屋は当然男女別々になっている。僕は白井と一緒に寝られたらどんなに 幸せかと考えたが、実現するにはあまりに人目が多すぎるし、第一僕と白井 がそういう関係になっていないのだから、それは最初から諦めるしかなかっ た。男子が一つの部屋に集まって夜更かしするとなれば、当たり前のことの ように、誰が誰を好きなのか、順に言っていくことになった。やはりなとい う名を挙げる人もいれば、意外な名を挙げる人もいた。恥ずかしがって、好 きな人はいないと言って、みんなに嘘だ嘘だと追い詰められて、結局白状す る人もいた。本当かどうか知らないが、本当に誰も好きな人はいないと言い 張る人もいた。僕は正直に言った。みんなは、やはりなという反応をした。 「白井もたぶんお前に気あるよな」 誰かがそう言って、他のみんなも同意した。自白すると、僕自身、その可 能性はなくはないと考えていた。そのときみんなが言ったように、白井と最 もよく話す男子といえば、僕だったからである。けれども、そんな考えを言 うのはあまりに図々しいという気がしたので、そんなことないよなどと言っ て、しかし、やに下がった。すると、話が、白井に告白をしろという方向に 行って、僕は狼狽した。いつかはしたいと考えつつも、まだまだいつという のは決めてなかったからである。 「明日の最後の自由行動のときに、告白しろ!」 勝手に、そういう話で盛り上がってしまって、どうにも許されない雰囲気 になったので、僕はしかたなく承諾した。どうせいずれするつもりだったの であるから、これを機会に言ってしまおうと思った。考えてみれば、修学旅 行というのは中々恰好の機会ではないかとも思われた。 はじめは、今夜はオールナイトだなどとはしゃいでいたが、一人が耐え切 れずに眠ると、また一人、また一人と眠りに落ちていき、夜明けを迎えるこ となくいつしかみんな眠ってしまった。それでも、日付が変わるまではほと んど全員起きていたから、普段からすれば十分夜更かしをした。おかげで、 目覚めたときは、みんなひどい有様であった。他の部屋でもだいたい似たよ うなことをしていたらしく、移動のバスの中では、クラスの半分くらいの人 が寝息を立てていた。 もう覚えていないが、京都府内のどこか由緒ある公園で、昼食を食べた。 それからそこで一時間ほど自由時間が与えられた。僕は、友達に目で合図さ れて、白井に話しかけた。いつもなら白井と話すのは嬉しいのに、強制され てというのが気になって、少し不快を感じた。けれども話し出せばいつも通 りであった。 「あはは。お互いひどい顔だね」 白井も遅くまで起きていたらしく、目の下にクマを作っていた。僕はそん な顔も美しい…とは流石に思わなかった。しかし、元を知っているのでそれ を嫌とも思わなかった。 「ちょっと、そこらへん歩かない?」 白井は友達と一緒にいたので、ここでは言えないと思って、二人になろう とした。白井はその友達の方をちょっと見て、それからまた僕に向き直っ て、 「二人で?」 と小声で言った。 「うん」 平生よく話していても、すすんで二人になろうとするのは、このときがは じめてであった。いわば、これだけで僕の言いたいことは言ってしまったよ うなものであった。白井もそれを察したらしく、赤い顔をした。僕の心臓は 鳴りっぱなしだった。 「いいよ」 そう応えてくれたのが嬉しかった。僕はくるりと回れ右して、すたすたと 先に歩き出した。その方が彼女がついてきやすいだろうと思ったのである。 白井は、友達から十分離れたところまで来てから、僕に追いついた。 「きれいなとこだね」 「うん」 「てらなんかよりこういうほうがずっといいよね」 「うん」 いつも心安い二人も、全く白々しい態度をしていた。いつもは、明るく何 でも話す白井も、無口になっていた。僕は胸が苦しくて、息がやたら荒れ て、変な奴と思われていないか心配した。 僕は心を決めた。 「俺、白井のこと好きなんだ」 僕はこの上なく緊張しながら白井の返事を待った。白井は、瞳を潤ませ て、心なしか微笑しながら、しばらく無言でいた。僕は、綺麗な桃色の、肉 の薄い唇を凝視した。やがてそれが細く開いた。 「みんなが見てないときに、また言ってね」 にっこり笑って、白井はそう言った。そうして、僕の背後に視線を向け た。僕はその視線を追ってみると、茂みがあった。僕が振り向いた瞬間、そ こから逃げていくような人影が見えたので、感付いた。友人らが面白がって 盗み見していたのである。僕は白井に向き直って、顔の前で両手を合わせ た。 「ごめん! 本当にごめん! あいつら…」 僕は気まずさで白井を正視できなくて、きょろきょろした。信頼を失うよ うなことになってしまって、取り返しがつかないかもしれない、と失望し た。 「だから、また言ってね」 しかし白井は、そう言って、微笑んでいた。先までの恥らう乙女のような 姿と違って、臆するような態度は微塵もなかった。僕は目を丸くして、こく こくとやたら首を縦にふることしかできなかった。 すごい女だと思った。その、頼もしさ。この女しかいないと思った。 また、白井の言葉からすれば、僕はもう勝利を得たも同然だと考えられた ので、僕は天にも昇るような心持ちで、東京へ帰った。 ちなみに、最後の夜、白井は、友達と過ごすことは過ごしたが、あるとこ ろで性欲が我慢しきれなくなって、トイレに行って、ピンクのジャージと黒 い下着を足首のところまで降ろして、すでに濡れはじめているまんこを、イ クまで指で掻き回したという。部屋では、他の女子たちが、某ちゃんは某く んが好きなのー? うそー? ほんとー? とか話しているときに、性器を いじりまわして、目は虚ろに、口は半分開いて涎を垂らし、まんこからも違 う涎を垂らし、ぴくぴく痙攣していたという。これも後になって、セックス が終わって、僕の腕枕に頭を乗せながら、楽しそうに、白井本人が話した。
レスを見る(2)
2006/08/26 23:25:16(CWoe7.LF)
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