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1:日常
投稿者:
純平
女の子たちが、薄着になってきた。
女子中学生の制服の夏服といえば、定番は半袖ブラウスと、紺のプリーツスカートだろうか。最近はスカートがチェック柄だったりもする。 地方の大学生の僕は、完全なロリではないが、ちょっと年下の女子中高生が好みなので、初夏の頃になると、街行く彼女らを眺めるだけで心が浮かれて来る。 同じ大学でも、教育学部なら家庭教師の求人があるので、女子中高生との接点があるが、工学部の僕にはコンビニバイトがせいぜい。お客で女子中高生が来れば、精いっぱい愛想よくするが、大してイケメンでもないので特に気にとめてもらえるようなこともなく、平凡な日々が過ぎていた。 しかしあの日、そんな日常が一変した。 震度5の中規模地震。 大学からの帰り道、地面が大きく揺れ、僕は道路に這いつくばった。 『結構揺れたな』 立ち上がって周囲を見回したが、建物が倒れたり、火災が起きたりはしていないようで、ひとまず安心した。 アパートに辿り着くと、部屋の中はぐちゃぐちゃ。しかし、落ちた物や壊れた物を片付ければ、住めない程ではなかった。ところが、水道が出ない。電気も点かない。 やがて、市の広報車が回ってきて 『地震で電気と水道の被害が大きく、復旧の目途が立たないので、避難所へ移動してください』と呼びかけた。 ひとり暮らしのアパートで、備蓄の水もない。日が暮れれば真っ暗だ。雨風がしのげる部屋が無事でも、これではお手上げだ。気が進まなかったが、とりあえず一晩は闇の中で過ごし、翌朝僕は、最低限の荷物を持って、避難所となっている小学校の体育館へ向かった。 鉄の扉を開けると…まぁ、ドラマみたいな展開が待っていた。ジーンズ姿、ショートカットの女子中学生が、「お兄ちゃん!」と叫んで駆け寄り、そのまま抱き着いて来たのだ。髪からシャンプーと、女の子の汗のにおいが立ち上がり、クラクラした。 僕には妹はいない。家族は他県に住んでいる。戸惑っていると、彼女は小声で 「話を合わせてください!おねがい!」 と言った。 少女の背中越しに周囲を見回すと、何人かの中高年のオヤジ、家族で避難して来ていたり、ひとりだったり…が、明らかに僕のことを、忌々しそうに睨んだり、失望の表情で目を背けたりしている。僕は事情を理解した。 「分かった」と僕も小声で返すと、少女はやっと身体を離し 「お兄ちゃん、無事でよかった!お父さんとお母さんは?」と聞いてきた。 「…探したけど、まだ会えてない」 「そう…じゃ、こっち…」 そう言って彼女は、僕の手首をつかみ、僕を引っ張っていった。 連れて行かれた場所は、簡易なパーティションで区切られた、彼女のスペース。出入り口になる所は、カーテン代わりのブルーシートが垂れ下がっていた。これではとても、プライバシーは守れそうにない。 彼女はその一画に僕を座らせると 「ごめんなさい、ありがとう。あのオジサンたち、怖くて…」 「ご両親は?」 「ふたりとも、倒れてきた家具で怪我しちゃって、入院して…私も一緒に居たかったけど、怪我してない子を泊める余裕はないって、避難所へ連れてこられちゃって…」 なるほど、これが小学生なら児童相談所とかに預けられる所だろうが、急な震災で病院も児相も余裕がないのだろう。確かにここなら、女子中学生がひとりでいても、暑さ寒さや食事の心配は内だろうが… 「あ、私、あゆみです。中学2年で…」 今更ながら、あゆみは自己紹介した。 「あゆみちゃん、あいつらに、何かされたの?」 あゆみはゆっくり首を横に振った。 「親切に…してもらってます。色々声掛けてくれて…でも、昨日の夜中、ブルーシート捲られたんです。私がすぐ目を覚ましたから、行っちゃいましたけど…」 この話を聞いて、僕はひどく腹が立った。善人のフリをして、こんな子どもの弱みにつけ込むなんて… 「でもまあ、これで兄貴と一緒だって思い込ませたから、一安心だよね」 僕も無意味に長居して、あいつらと同類と想われたくなかったので、早々に立ちあがろうとした。するとあゆみが 「行かないで!」と小声で叫んだ。 「あの人たち、きっと確かめに来ます。一日に何度も、様子を見に来るんです。足りない物はない?とか言って。その時あなたがいなかったら、ウソがバレちゃう…」 「…でも、僕も男だよ?怖くない?」 「…次に避難所へ来る人が、若い男の人だったら、お兄ちゃんのフリをしてもらうって、決めてたんです。若くて、彼女さんとかいそうな人なら、他の女の子を襲ったりしないから…」 いや、この分類はとても危険だと思う。 現に僕はこの時彼女ナシだったし、僕の周りにも、女に飢えている若い男はいっぱいいた。 この状況は異常だ。いくら飢えていて、JCに興味があっても、日常で彼女らの、扉と鍵に守られたり家に、よばいをかけようと考える男は稀だろう。しかし、わずかにブルーシート1枚向こうに、育ち盛りの女の子が寝ているとなったら…? しかしそんなことを殊更に説明してあゆみを不安にしても無意味だろう。実際に選ばれた僕は、たとえ同じパーティションの中で寝ていても、彼女をレイプするなどあり得ないのだから。 「お願い!お父さんたちが退院できるまで、一緒にいてください!」 「…会ったばかりの僕を、信用するの?」 「信じます!だから…」 あゆみは深く頭を下げた。 これが、彼女がこの状況でオジサンたちから身を守る、精いっぱいの方法なのだろう。 平凡な、女子中高生とはまるで縁のなかった僕だったが、こうして思いがけず、中学生のあゆみのナイトを勤めることになった。
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2024/06/07 08:56:16(TrRIfVka)
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