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1:少し悲しい愛のはじまり
投稿者:
六年一組 榊達也
週の初めのその日、僕の隣の席に松元華子さんはいなかった。
「松元さんは、少し体調が良くないそうで、暫くお休みします」 担任の佐伯恵美先生はそう言った。 松元さんは結局、金曜日まで登校しなかった。 なかなかの美人さんで勉強も体育も得意な松元さんが、こんなに休んだのことはこの六年間で一度もなかった。 ご近所でしかもずっと同じクラスだった僕は、少し不思議に思った。 「少し体調が良くない」くらいで一週間もお休み― 松元さんの机の上には、一週間分の配布物が重なっていた。僕は放課後、こっそりとそれらを紙袋に詰め、 僕の家から三軒隣の松元さんのお家に届けることにした。 低学年の頃は、一緒に登校したり、鬼ごっことかかくれんぼとかしてよく遊んだのに―。段々綺麗になってゆか松元さんに気後れするようになり、呼び方もいつの間にか「華子ちゃん」から「松元さん」に変わってしまった。 そんなことを考えながら歩いていると、松元さんの家の前にパトカーが止まっていることに気がついた。 「じゃあ華子、お母さんはこれから警察署で事情を聞いてくるから、しっかり戸締まりするのよ」 松元さんのお母さんを乗せたパトカーが走り去った。 怪訝に思いながらも、僕は胃を決してブザーを鳴らした。 「どなたですか?」 緊張した松元さんの声が聞こえた。 「六年一組の榊達也です。配りものを届けに来ました」僕は丁寧に答えた。 家の中から走る音がしてドアが開いた。 「達也くん、持って来てくれたんだ、ありがとー。ねえ、上がって上がって」 意外と元気そうな松元さんに、少しほっとした。 「い、いや、ここで―」遠慮する僕に松元さんは表情を厳しくして言った。 「いいから上がって」 僕は松元さんに付き従い居間に入った。この家に入ったのは何年振りだろう―。松元さんはオレンジジュースを用意してくれた。 「そこに座って。お母さん、今、出掛けてるの」 僕の座った反対側のソファーに松元さんは腰掛けた。 「さっきパトカーが止まってた―」 松元さんは少し悲しげな表情をみせた。言わなければ良かったと思った。 「ねえ、達也くん。少し刺激が強いことかもだけど、達也くんにだけ教えてあげる。今から言うこと、絶対誰にも言わない、って約束してくれる?」 松元さんの厳しい目付きに気圧された僕は二度も頷いた。 「良かった―。じゃあ、指切りゲンマンね」 僕は緊張しながら松元さんと小指を絡ませた。 「犯人たちが捕まったみたいなの。お母さんはね、その説明を聞きに警察署に行ったの」 松元さんは少し嬉しそうだった。 「はんにん?―」僕は余りいい予感がせず視線を落とした。 「実はね、達也くん。私、先週の金曜日の下校中にね―、不良みたいな男たちに捕まって―、乱暴されたの」 「う―、ら、らんぼう―」僕は言葉が続かなかった。 「先月、学校で教わったから、達也くんももう知ってるわよね。男子と女子との性のことは。私ね、無理やり暴力でやられちゃった―」 朗らかに振る舞う松元さんが痛ましく、僕は顔を上げられなくなった。 「あの日はね、夕方まで卓球教室があって少し帰りが遅くなったの。早く帰ろうと思って立ち入り禁止になってる工事現場の脇を突っ切ろうとしたの。私が馬鹿だった。そこには高校生くらいの不良がたむろしてて―いやらしい目付きで私を見るの―。私は怖くなって駆け出したら、追いかけてきて―、押し倒された。私、泣き叫びながら必死に抵抗したの―、いや、やめて、助けて、って。でも数人の男たちにかなう筈もなくて―。服を剥ぎ取られて、下着を引き下ろされ、全身にキスされて、もみくちゃにされて、そして大切なアソコに―、挿入された―。余りの痛さに絶叫して身体が跳ね返った。でも男は許してくれず、腰を動かせながら興奮して―、私の腟内に―、大量に発射したの―。まさかこんなことに、なるなんて―。でもまだこれで終わりではなかった。違う男が次々と襲い掛かってきて―、同じように私は犯された―。色々な格好をさせられ、何度も何度も何発も―。もう無茶苦茶だった―。私は訳が分からなくなって、最後のほうでは喘いで身悶えまでしてた―。心は嫌なのに身体が勝手に、ね―。好きになって感じたんじゃないの、達也くん信じてくれる?」 なんてことだ―、僕は怖くなって涙が出て来て、言葉もでず、ただひたすら頷き返した。 「良かった、達也くんに信じてもらえて」 松元さんは僕の隣に座り直し、うち震える僕をむしろ心配して介抱してくれた。松元さんの暖かい体温と甘い香りを知覚して、僕は少し落ち着いてきた。 「松元さん―、何で僕にこのことを?―」 「私ね、達也くんのことが好きだった。最近、達也くんは私のことを余りかまってくれなくなっちゃたけど、私、好きだった。」 松元さんは顔を赤らめていた。本当なのか― 「だから初めての体験は、将来いつか達也くんとできたらいいなって思ってた。まさかこんな惨めな処女喪失なんて―、悔しくて―。大好きな達也くんには、あの男たちとは違う、優しい男子になって欲しいの。もし彼女ができたら、優しくしてあげて欲しいの。私がされたようなことと正反対に愛情をこめて、ね―」 何かを吹っ切ってしまったような悲しげな松元さんに、僕は少し憤りを感じた。 「その、僕の彼女、松元さんじゃダメなの?僕も昔から松元さんが大好きだつだ」 僕は自分の勇気に少し驚いた。 「だ、だめよ―」 「どうして?―」 「だから―、今話したでしょう。私、あんなにぐちゃぐちゃにされた、エンガチョだから―」 「そんなことないって。松元さんは綺麗なまま変わってないよ」 僕は我慢ができず、強引に松元さんにおしかかりキスしようとした。 「いや、やめて、達也くん、だめ暖」 松元さんに激しく抵抗され、僕はハッとした。そうだ、このままではあの男たちと同じになってしまう。僕は力を緩めた。 「そう、達也くん―、優しくね―」松元さんは瞳を閉じた。 「松元さん―大好きだ―」「昔みたいに私を呼んで―」「華子ちゃん、大好きだ―」 唇を合わせた。柔らかく美味しかった。
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2018/07/01 14:10:21(eKl8CJ3v)
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