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1:可愛い弟子29
投稿者:
タカ
◆mqLBnu30U
灯りも点けずに待っていた。
主のいない部屋の中だった。 互いの部屋を行き来するようになってから、タカは、鍵の隠し場所を変えた。 電気メーターの裏側。 シホの部屋と同じ場所。 シホは、すっかりパジャマも脱いで、スリップドレスー枚の姿になっていた。 買ってきたばかりの新しい下着を、早くタカに見せてあげたくて、コトリが、ベッドの中 で寝入ってしまうと、すぐにこの部屋を訪れた。 でも、用事が終わったらまっすぐに帰ってくると言ったはずなのに、タカはまだ帰ってい なかった。 不安になって、電話をしてみようかとも思ったけれど、やめた。 シホの目の前で、存在を訴えるかのように明滅していた、緑色の小さなデジタル文字。 きっと時間合わせをしていないのだろう。 シホは、ソファの上から静かに立ち上がると、テレビに近づいて電源を入れた。 そして「00:00」の文字が瞬くだけのDVDプレーヤーのリモコンを手に取った。 確かあれは、白地に無地のレーベルだった。 あの病院で、コトリのベッドサイドに、忘れたように置かれていたDVDディスク。 テレビに明るさが蘇ると、眩しい光が白い身体を照らし、その光を頼りに、シホは、テレ ビ台の中を探っていった。 プレーヤーの横には、何枚かのディスクが乱雑に並べられていて、まさかと思ったけれ ど、似たようなディスクを見つけて、試しにプレーヤーにセットしてみたら、それは、い きなり始まった。 おそらくタカが途中まで見ていたのだろう。 見つめる画面の中で、4人の男女が絡み合っていた。 胸に縄を掛けられた女が床の上に横たわっており、その身体を跨ぐように、線の細い女の 子が四つん這いになっていた。 二人は身体の上下を入れ替えて、仰向けになっていた女は、しきりに女の子の股間を舐め ている。 女の子の前後を、ふたりの男が挟んでいて、ひとりは、小さなお尻を握りしめながら壊さ んばかりに腰を叩きつけ、もうひとりは、苦悶に喘ぐ女の子の口の中に、裂けそうなほど 巨大な肉塊を押し込んでいた。 嘔吐くほどに深く押し込まれて、少女は何度も、耐えきれないかのように口から外し、胃 液にも似た液体を大量に吐き出した。 息も整わぬうちに、また髪を掴まれて押し込まれ、喉の奥まで突き刺されて、白目になり かけたところで、また抜かれる。 陰惨さを極めた、ぞっとするほど恐ろしい光景だったが、足が震えたりはしなかった。 「ミノリ・・・。」 かつて自分も同じ事をされたことがある。 シホは、苦しげに胃液を吐き続けるミノリを、冷たい眼差しで眺めながら、 (天罰よ・・・)と、腹の中で笑った。 昼間は、雑多な人たちの喧噪でにぎわうロビーも、夜ともなれば、まったく静かなもの だ。 死んだような静けさ、と言うが、まさしくここは、人の魂が肉体から離れていく場所。 再生の場でもあるが、運悪く突然の旅立ちを迎えてしまった者は、まだ死を理解できず に、この辺りをさ迷っているのかもしれない。 (あそこのロビーで、夜中に白い服を着た女の人を見た、って女の子がたくさんいる の。) (し、白い服って看護師さんじゃ・・・ないの?) (ううん。うちの女の子たちの服はね、階によって色が違うの。薄い青の子もいれば、ピ ンクの子もいるけど、白のナース服ってないのよ。) (そ、そうなの?・・・) (うん。それにね、地下に遺体安置所があって、それがどうもロビーの真下になるらしい の。だから、まんざら嘘って話にも聞こえなくて、怖がってる女の子も多いのよ。) (へ、へぇ・・・シ、シホちゃん、よく、知ってるねぇぇ・・。) 聞かなきゃ良かった・・・。 やな事思い出しちゃったなぁ・・・。 このロビーの下には、遺体安置所。 今夜も、そこには、誰かが眠っている・・・のか?。 夏だというのに、妙な涼しさがあった。 涼しいというよりも、それは、寒い、と表現したほうが正しいのかもしれない。 背中から、忍び寄るような冷気に、肌が泡立っていくのがわかった。 底冷えのするような冷たさは、この時期には異常すぎる。 不意に背後から、コツ、コツ、と足音が聞こえた。 それは、一定のリズムを刻んで、ゆっくりとオレに近づいてきた。 すっかり灯りの落とされたロビーは、受付のカウンターにわずかな光があるだけで、その 受付にも誰もいない。 と言うか、このロビーにやってきてから、ただのひとりも、人影を見ていない。 ここは、まるで現実の世界から切り離された異空間。 オレは、いつの間にか、違った世界に迷い込んでしまったのかもしれない・・・。 恐ろしくて、振り返ることができなかった。 足音が、すぐそこまで近づいてくる。 そして・・・オレの真後ろで、ぴたりと止まった・・・。 ひぇぇ・・・ナンマンダ・・・。 「お前、風邪ひくぞ。」 「えっ?」 缶コーヒーを手にしたシゲさんだった。 「エアコンの真下じゃ、風邪をひくと言ってるんだ。こっちへ行こう。」 エアコン? 真上を見上げた。 吹き出し口がある。 ああ!なるほど! 寒いはずだわ・・・。 整然と並べられたイスのひとつに腰掛けていた。 シゲさんが、買ってきた缶コーヒーを手渡してくれる。 「ほれ。」 「ありがと。」 オレの隣にドサリ、と座ると、シゲさんはフタを開けて、コーヒーを喉に流し込んでいっ た。 「どこから話せばいいのやら・・・。」 缶を口から離すと同時に、ふぅっ、と大きなため息を吐き、まるで独り言のように、つぶ やいた。 顔は正面を向いたままで、決してオレの方を見ようとはしなかった。 「なあ、タカ・・。」 「ん?なに?」 「オレが青森で何をしていたか・・・お前に話したことは、あったか?」 シゲさんが、青森で? そう言えば知らない。 「いや、これと言って聞いてないけど・・・でも、今と同じ役所に勤めていたんじゃない の?」 シゲさんは、異動で俺たちの街にやってきた。 だから、勝手にそう思っていた。 「ああ、確かに役所には勤めていた。県庁の人間だったがな。」 「県庁?」 「ああ、県の役人だったんだ。」 「へえ、すごいね。」 県庁の役人と言えば、採用試験も遥かに難しくなる。 もっとも、上級試験に合格しているシゲさんなら、そのくらいは当たり前にも思えるが。 「別に、すごくはないさ・・・。県庁と言ったところで役人は役人だ。今のお前たち と、やっていたことは、たいして変わらんよ。」 「ふーん。」 それでも、すごいけどね。 「上級で入いるとな、色々なところを回されるんだ。これを俺たちは「丁稚奉公」と呼ん でいたがな。 色々な部署を経験させることによって、見識を深めさせ、適性を判断して、将来的に配置 する部署を決めていくんだ。」 「へぇ・・。」 「そして、俺は、その丁稚奉公の中で、今から10年ほど前、2年間だけ「児相」に居た ことがある。」 「ジソウ?・・・。」 「児童相談所だ。臨時の行政職員として配置されたんだ。」 「へぇ、シゲさん児童相談所にいたんだ。」 意外な職歴だった。 児童相談所なんて、福祉関係の人しかいかないもんだと思ってた。 「児相での2年間は、俺にとっても良い経験になった。 どうして世の中には、これほど不幸な子供たちが多いのか、と疑問に思ったし、そし て、ただの役人では何もできないってことも痛感させられた。」 シゲさんは、遠くを見るような目つきになった。 その瞳には、苦渋の色がありありと窺えた。 「俺も初めは、児相なんぞと高を括っていたが、その業務の複雑さと繊細さには、目から ウロコが落ちる思いがしたよ。 なにせ、子供を相手にする仕事だからな。 それも、ただの子供じゃない。みんな保護を必要とする子供達ばかりだ。 職員のみんなは、神経をすり減らすような業務を親身になって熱心にこなしていた。 彼らが深い愛情を持って、子供たちに接していることがわかってからは、その熱にほださ れたわけじゃないが、2年目に入った頃には、俺も子供たちのために何かをしてやりた い、と真剣に思うようにもなっていた。 将来的には、福祉の道を目指そうとも、まじめに考えていたんだ。 この俺がだぜ・・・。」 シゲさんが、薄く笑う。 だが、すぐに表情は硬くなった。 「だが・・・ある事件が起きて・・・・。」 シゲさんの目に、怖いくらいの怒りの色が浮かび上がる。 「ひとりの少女に出会ったことで、俺の生き方は、大きく変わったんだ・・・。」 9年前・・・。 青森県警本町署の緊急警報監視盤に、突如、発報を知らせる警報音が鳴り響いたのは、ま だ、真夏の太陽が燦々と降り注ぐ、昼下がりのことだった。 通報の内容を示すデジタル表示板に、「K187」の赤い文字が浮かび上がり、それが 「Knifeによる殺人」を意味する秘匿コードである、とすぐに理解したオペレーター は、かすかな緊張感を覚えながら、すぐさま緊急広域追跡用に開発された「NSWシステ ム」の端末に向かうと、所定の操作を開始した。 本町署の刑事部捜査第一課および特別機動捜査隊待機ブースに、事件発生の事実が直ちに 通報され、まったく同じ内容の指令が、警ら中であったすべてのPC(パトカー)へと伝 達される。 NSW小型携帯端末によって、事件発生位置を小さな液晶画面に確かめたPCの中で、近 傍を走行中だった車両は、直ちに赤色灯を回転させ、けたたましいサイレン音を響かせな がら、現場へと急いだ。 本町署生活安全部のオフィスにいたシンドウは、急に署内が慌ただしくなり、大きな事件 が発生したのを予感したが、その時には、まだ自分がその事件に関与することになるとは 思っていなかった。 しばらくして、緊張した面持ちの係長から呼ばれて、「すぐに出る支度をし ろ・・・。」と、告げられた時、シンドウは、この事件に未成年者が関与していることを 直感して、にわかに緊張の色を強めた。 事件発生現場は、本町の繁華街外れにある「インペリアル青森ホテル」であり、地上10 階建ての中規模ホテルには、すでに何台かのPCが横付けされていて、正面の玄関に は、マスコミ対策の見張り要員も立てられていた。 係長と、やはりシンドウと同じ生活安全部の少年犯罪課に所属する女性警察官の3名 で、「青森県警立入禁止」と書かれた黄色い帯をくぐって玄関に向かうと、手配されてい たらしい一課の刑事が出迎えに来て、少なからずシンドウを驚かせた。 刑事部捜査第一課は、言わば警察内部でもエリート集団であり、昇任試験、推薦、並びに 適性審査と数ある難関を突破した者だけが配属を認められる特異部署である。 それに比べれば、生活安全部は、地域密着型の雑事的な事件を担当するポジションでしか なく、そこに所属する彼らを一課のデカが迎えに来るなど異例でしかない。 だが、この刑事の出迎えは、それだけ複雑な事件であろうという事を、シンドウに想像さ せるに十分だった。 刑事の案内で、エレベーターで5階へと向かい、長い廊下に足を向けると、その先で機動 鑑識課員が慌ただしげに動いているのが見えた。 あそこが現場かと、先へ向かおうとした時「お前らは、こっちだ。」と、案内してきた刑 事は、違う部屋を指さした。 その指さした部屋の扉を開いて、視線の先にあったものを見たとき、シンドウは絶句し た。 正面に、ぼんやりと佇んでいた、あどけない少女。 その低い背丈から、年の頃は、まだ中学生にも見えなかった。 おそらく服を着ていないのだろう。 白い素肌に白いシーツだけを掛けられ、背中まで伸びた長い髪は、まるでビーナスの姿を 思わせもしたが、彼女の顔一面は血にまみれて真っ赤になっていた。 血は、顔ばかりでなく、腕や細い足も赤く染めていて、髪までが血に濡れており、大量の 出血は、もはやこれが、たんなる傷害事件ではないことを、シンドウにすぐに悟らせた。 少女は、自分の足で立っているのだから、大きな怪我をしているとは、思えなかった だが、つぶらな瞳は、シンドウ達に向けられているものの、その瞳の中には、まるで何も 映っていないかのようであり、少女が放心状態になっているのが、すぐにわかった。 少女は、血まみれの手で、大きな包みを大事そうに身体の前に抱えていて、シンドウ は、彼女を刺激せぬように、ゆっくりと近づいていくと、抱いていた包みを上からのぞき 込んだ。 目があった途端に、その物体は無邪気に笑い、シンドウを唖然とさせた。 まだ乳飲み子でしかなかった赤ん坊。 少女と同じように、つぶらな瞳をした赤ん坊が、シンドウを見あげながら、嬉しそうに 笑っていたのだ。 シンドウは、すぐに女性警察官を呼んで、少女の手から、その赤ん坊を取り上げようとし た。 およそ尋常と思える状況ではなかった。 だが、少女は、赤ん坊を腕から離そうとしなかった。 取り上げようとすると、ぐっと腕に力を込めて、赤ん坊を抱え込んでしまう。 瞳は、生気のないままだった。 女性警察官が呼びかけても、返事どころか反応さえもしなかった。 しかし、赤ん坊だけは、何度取り上げようとしても離さなかった。 「ずっと、ああなんだ・・・。」 案内してきた刑事が、シンドウの耳元で囁いた。 それで、シンドウは合点がいった。 おそらく、一課のデカ共は、この少女の扱いを持て余したのだ。 がさつで無神経揃いの奴らに、繊細な女の子の扱いができるわけがない。 ましてや、赤ん坊を抱いているから、危害を恐れて、女性警察官を擁する少年課に応援を 要請したのだろう。 「いったい、何があったんですか?」 この状況は、とてもじゃないが、まともとは言い難い。 車中で、係長から概容の説明は受けていた。 未成年者による、殺人未遂事件。 だが、現場に来なければ、事件の詳細は掴めない。 まさか、目の前にいる、この少女が人を刺したとは思えなかった。 ましてや、赤ん坊がいるなどとは、聞いてもいない。 状況を掴まなくては、対処の方法も制限される。 『Safety First』 安全第一主義。 子供達には、絶対に怪我をさせない。 これが少年課の大原則だ。 だから、正しい方法で、正しい処置をするためには、ある程度の状況を把握しておく必要 がある。 だが、シンドウの質問に、刑事は、渋面をつくるだけで、答えを返そうとはしなかった。 まるで、聞こえていないかのように無視までしている。 こんな状況でも縄張り根性かい・・・。 警察官同士の縄張り意識による軋轢は、もはや末期的状況で救いようがない。 彼らは自分たちが得た情報を、絶対に外に出そうとはしない。 捜査の手柄を横取りされるのを、何よりも恐れるからだ。 少年課が安全第一主義であるならば、捜査一課などはさしずめ「隠密主義」と言えるだろ う。 徹底して知り得た情報を隠匿することが、彼らは使命であるとさえ信じて疑わない。 そして、情報の隠匿は、それがたとえ同じ署内に籍を置く身内に対してであっても変わら ないから、始末が悪い。 捜査一課は、強行班が7つあるが、情報を隠したあまりに、同じ事件を4つの強行班で捜 査したという、笑えない話まであった。 シンドウは、隣の刑事を睨みつけたが、涼しい顔をしているだけで、悪びれた様子もな かった。 「おい、帰るぞ。」 一生懸命少女をなだめていた女性警察官に声を掛けた。 「俺たちは、用無しだそうだ。後は、こちらの方々が、すべてやってくださるとさ。」 たとえ一課のデカだろうが、こっちだって刑事だ。 コケにされてまで、コイツらを助けてやる義理はない。 シンドウが、振り返ろうとしたところで、肩を掴まれた。 「そう慌てんなよ・・・。気の短けえ野郎だな・・・。しょうがねえな。簡単な、あらま しだけなら教えてやるよ。」 そう言った刑事は、軽く溜め息をついた。 向こうから簡単に折れたということは、よほど、この少女を持て余していたのに違いな い。 「今から、一時間ほど前だ。この先の部屋で男が刺された。あの娘は、その被疑者だ。」 「えっ!?あの子が!!まさか・・・まだ子供じゃないか!?」 「ああ、確かに子供だな。だが、あの娘は、あんな幼い顔をしながら、男をメッタ刺しに しやがった。」 「メッタ刺し!?・・・・理由は?」 刑事が、大きく息を吐いた。 「理由は、わからん。それは、これからお前らが調べるんだろ・・・。」 そうか・・・あの子は未成年者だ。 おそらく12歳以下とコイツらは踏んだのだろう。 あまり広くには知られていないが、たとえ未成年者であっても、刑事事件の場合は、刑事 部が担当する。 それは、12歳以下であっても変わらない。 だから本来なら、あの少女は、刑事部である一課で取り調べを受けることになる。 メッタ刺しであるならば、これは立派な殺人未遂事件であり、もしガイシャが死ぬような ことにでもなれば、すぐさま殺人事件に切り替わるだろう。 女性警察官が立ち会うが、きつい取り調べになることは間違いない。 だが、例外がある。 未成年者の刑事事件を刑事部が担当するのは、あくまで基本であって、12歳以下の場合 は、少年課に回されることが多い。 心身の未発達な少年少女達が、刑事部の取り調べに耐えられないからだ。 少年犯罪が多発するようになり、今では、一般的な警察官でも少年事案に対処できるよう に指導は強化されている。 しかし、やはり少年犯罪を専門としている少年課の蓄積された技術とノウハウには遠く及 ばない。 そして、本町署では、刑事事件であっても12歳以下の場合もしくは年齢不詳の場合 は、少年課に担当させるのが慣例となっていた。 だから、あの少女は、少年課で取り調べを受けることになる。 「しかし・・・どうして、あんな子が・・・。」 シンドウは、少女を見やりながら、うなるようにつぶやいた。 痛々しいほどに細い手足だった。 まだ、胸なども、ほとんどないかのように思えた。 血で真っ赤に染めているが、その素顔は、きっと可愛らしいに違いない、とその輪郭から 容易に想像させた。 「刺されたガイシャの方は?・・・。」 亡くなれば、この子は殺人者になる。 「虫の息だったが、救急隊員の話じゃ致命傷は避けたようだ。おそらく必死に抵抗したん だろう。手や足には深い傷もあったが、腹には傷がなかった。足を刺されたおかげで逃げ そびれたらしく、背中はメッタ刺しにされてたがな・・。 だが、どれも致命傷には至らなかったようだ・・・。」 それを聞いて、シンドウは少しだけ安堵した。 生きているならば、少しは量刑も変わってくる。 少年が刑事事件を起こした場合、鑑別所を経て少年院に送致されるのが通常だが、14歳 以下ならば児童自立支援施設に送られる。 そこで、普通の子供達と何ら変わらない生活を送りながら、矯正されるのだが、出所の時 期が変わってくる。 何よりも殺人と未遂では心の傷が絶対的に違う。 生きているならば反省をして立ち直ることもできるが、人を殺してしまえば、それは生涯 消えることのない傷となって残る。 「それで、そのガイシャの身元は?」 「まだ、はっきりしたことはわからねぇ。それは、これからこっちで調べるが、どうに も、ここら辺りの男じゃねえようだ。」 「なぜ、わかる?」 「運転免許があった。おそらくガイシャのもんだろう。免許の住所は、北海道になってい た。それをこれから確かめる。」 「北海道?また遠いな・・・で、ガイシャとあの子の関係は?」 「さあな。それもこれから調べるんだ。だが・・・。」 「だが・・なんだ?」 「ガイシャの野郎は、3日前からこのホテルに泊まってた。ひとりでだ。 それが今日になって、いきなりダブルに切り替えた。それが、現場になったあの部屋 だ。あの娘は、今日の昼丁度ぐらいにガイシャに会いに来たらしい。赤ん坊を抱えて、で かいトランクを引いていたから、目立ったらしく、フロント係がはっきりと覚えてた。ロ ビーでガイシャと待ち合わせしてたそうだ。」 「ツイン・・・トランク・・。親子か?」 父親が先に来ていて、娘が後から訪ねてくる。 どんな経緯があったかは知らないが、激情に駆られた娘は衝動的に父親を刺してしまう。 あの年代の女の子は、いったん衝動的になると気がふれたようになる傾向が強い。 ならば、メッタ刺しというのも、何となく肯ける。 だが、一課の刑事はかすかに首を振った。 「親子じゃねえよ・・。」 「なぜ、そうだと言い切れる?」 「なんでかって?」 刑事の顔にいやらしい笑みが浮かんだ。 「ガイシャが親父なら、あの娘はガイシャが10歳前後でつくったことになる。」 「ガイシャって、そんなに若いのか!?」 「ああ、免許を見た限りじゃ、まだ二十歳だ。確かに顔も若そうだった。おそらく免許通 りの年齢だろう・・・。」 「じゃあ、兄妹か?」 「いや、それも違うな・・・。 確かにガイシャは、ダブルに切り替えるときに、妹が来るから、とフロントには言ったそ うだ。ツインもありますが、と勧めたら、料金が掛かるのでダブルでいいと答えたらし い。 しかし、奴の財布の中には、30万近い札が入っていた。 人それぞれだから一概には言えねえが、わずかな金をケチるのは、持ってた金の額に比べ りゃ納得がいかねぇ。」 「それが、兄妹じゃない理由になるのか?」 「まだ、わからねえのか?にぶい野郎だな。」 「なに?」 「そう尖るなよ。あの娘がトランクを引いてた、ってのは言ったな。」 「ああ・・。」 「そのトランクは、ガイシャの部屋にあった。ピンク色の奴だ。おそらくあの娘が引いて たトランクに間違いねえだろう。 中身がなんだったか、わかるか?」 「いや。」 「服が入っていた。ロリータって言うのか?今、東京辺りじゃ流行ってんだろう?あのヒ ラヒラしたドレスみたいな服さ。」 「服?・・・。だが、それだけじゃ、兄妹じゃないって証明にはならんと思うが。」 「まだある。」 「なんだ?」 刑事が、初めて正面からシンドウの顔を見据えた。 「バイブが5本と、手錠が入ってた・・・他にもローションとか色々な。」 「そ、それって!?」 刑事が、満を持したように口を開いていく。 「ああ、たぶんウリ(売春)だろう・・・。」
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2010/11/21 01:06:19(neiTv0bz)
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