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1:可愛い弟子25
投稿者:
タカ
◆8pDveiYQdk
「ああっ!・・大きすぎるよ!・・・壊れちゃうよ!・・・。」
ツグミに何度か仕掛けさせたが、うまい具合に事は運ばなかった。 「そうか・・・大きすぎるか?だが、許したりはせんぞ。ほらっ!」 さすがに、魑魅魍魎が跋扈(ばっこ)する政界で、長いこと生き抜いてきただけのことは ありやがる。 人並み以上の用心深さにゃ、こっちも苦労させられたぜ。 「ああっ!ママ、助けて!壊れちゃうよ!・・・ツグミ壊れちゃうよっ!」 苦し紛れに投じた一計だった。 『実はですね、あれの母親もウチで囲ってるんですわ。あそこは、母子家庭でね。で、先 生・・・なんだったら、ふたり並べて遊んじゃみませんか?』 トリが吐いた偽りの甘言。 期待なんぞもしていなかったが、意外にも簡単に、奴は食いついた。 「ほれ、お前の娘が助けてくれと泣いとるぞ。おお・・可哀想に。こんな小さな穴にずっ ぽりと入れられて・・・。」 本物の母親だと信じて、疑いもしやがらなかった。 「どうじゃ?腹を痛めて生んだ自分の娘が、目の前で犯されるのをビデオに撮る気分 は?」 あれほど警戒していたビデオ撮りも、なんなく許すたぁ、間抜けな野郎だ。 「ああ!先生、そこはイヤ!ママが見てるから、そこだけは堪忍して・・。」 荒縄に乳房を括られた女が、手に構えていたのは最新型のハンディカム。 「くくっ・・見せつけてやれ。コイツのせいで、お前がどんな目に遭ってるか、とっくり と、見せつけてやれ・・・。」 母親の目の前で娘を犯す愉悦。その魔力にゃ敵わなかったらしい・・。 「しっかりと撮っておけよ。お前の娘の晴れ姿じゃ・・。」 やっと巡ってきた千載一遇のチャンス。ブタ野郎を追い込むための罠。 「ああっ!!お尻が壊れちゃう!ママッ!死ぬっ!!死んじゃうよ!!」 「ははっ!殺してやるぞ!悪いのは、すべてママだ!恨むんなら、お前のママを恨め!」 けっ!バカ野郎・・死ぬのは、お前だよ・・・。 「どうして、そんなビデオを撮らせたりしたんです!!」 青森シェラトンホテル1203号室。 権力を握った老人が、唾棄すべき行為に耽り続けた部屋 重丸は、憔悴しきった顔でソファに座り込む五所川原を見下ろしていた。 「あ、遊びのつもりだったんだ・・・。 無論・・証拠など、残すつもりもなかった・・・。 ちゃんと中身は取り返したんだ! それが・・・なぜか奴らの手に・・・。 だ、騙されたんだ!うまく・・・あの小娘に・・・してやられた・・。」 俺の目を盗んでまで、欲しがった快楽。 母子を同時に犯す悪魔の愉悦。 「テープの中身は、空だったでしょう?」 「うっ・・・。」 単純なカラクリだ。 おそらく、奴らはテープではなく、メモリーに録画したんだ。 「うまくハメられたんですよ。」 あってはならない事態が起きてしまった。 まさしく、アイツに命を握られた。 「わしは・・・わしは、一体どうすればいい?」 「取りあえず、今は、奴らの言った条件を呑むしかないでしょう・・。」 この先生の一声で、工事の発注先などいくらでも変えられる。 ヤツの狙いは、まさしくそこだ。 「そんなこと・・・そんなことは出来ん!! 今更、工事の取り消しなどしたら、わしがアイツらに殺される!!」 「では、どうするつもりですか!!?もう、時間はないんですよ!!」 なぜ、もっと早く言ってくれなかった!? リミットは、とっくに過ぎてるじゃないか! 「・・・るさん。絶対に、許さんぞ。あの小娘め・・・。」 唇がわなないていた。 皮膚は土気色になり、およそ人間とは思えない顔が、そこにあった。 「わしを・・・わしを甘く見たことを後悔させてやる・・。」 狂気の炎を宿した瞳が、ゆっくりと向けられた。 「芸津ビルの奴らを呼べ・・・。」 なっ!? 和磨・・・追い詰められたのは・・・どうやら、お前の方らしいぞ・・。 県の主導で動き出した、新臨海工業地帯造成工事。 過去にも例がないほどの、国を捲き込んでの一大プロジェクト。 本来、これだけのでかい工事ともなれば、大手ゼネコンや総合商社あたりが幅を利かせる ところだが、マニフェストに地元企業の保護を掲げてきたこの先生の強い働きかけもあ り、多くの工事は地元土木業者に発注される。 もし、権利を得れば、長期に渡って莫大な利益が転がり込むは必然。 当然、多くの業者が、この事業への参入を希望した。 「もう、動き出しているのだ・・・。誰にも止めることなど出来ん・・・。」 だが、この入札は初めから出来レース。 一部の地元業者は、互いに結託し合い、すでに工事の発注先までが決まっている。 その元締め役として、陰で糸を引いていたのが本間興業。 この大先生を、ずっと裏で支えてきた自称コンサルティング会社。 地元では、少しは名の知れた大手企業だが、その実態は紛れもない暴力団。 「本間会などに頼らなくとも、わしの力だけで何とかしてみせる・・。」 この先生のバックには、本間会がついている。 その力を背景に、これまで幾多の選挙を勝ち抜いてきたし、影をちらつかせながら、議会 に派閥を広げもした。 しかし、今回に限っては、その本間会を当てにすることは出来ない。 これが本間会の知るところとなれば、この先生の立場が危うくなるは明白。 よりによって、敵対する阿宗会に情報を漏らしていたのだ。 その阿宗会が、今まさに本間会の牙城を揺るがそうとしている。 「先生!待ってください!芸津ビルの奴らって、まさか・・」 昨今の日本の国際化は、なにも大都市ばかりに限ったことではなく、この本州の最北にあ る青森にあっても例外ではない。 勢力としては極少数だが、本町あたりの繁華街には、実態が明らかになっていない外国人 マフィアが少なからず存在する。 中でも比類ない凶悪さで、ヤクザよりも恐ろしいと噂されているのが、芸津ビルに巣くう タイペイマフィアの一味。 2年前に起きた中国人売春婦殺害事件は、他の組織に鞍替えしようとした女を、報復目的 で奴らが殺したものだ。 若く美しい女性であったらしいが、他の女たちへの見せしめもあり、彼女は両の乳房は切 り取られ、性器をナイフで抉り取られて、顔はバーナーで無惨に焼かれていた。 幾多の凄惨な事件現場を目撃してきた鑑識課員でさえ、あまりの惨たらしさに嘔吐した者 がいたというのだから、その残忍さが窺える。 そのタイペイマフィアを使おうというのか?・・・。 「奴らなら、わずかな金で簡単に動く・・・。」 「そんなことをすれば、益々立場が危うくなるだけです!!」 市政、県政と着実に歩を重ね、次にこの人が狙うのは国政への参加。 衆参同時選挙が行われる来年には、衆院戦への出馬を表明する。 地盤固めも、ほぼ終えて、後は運命の選挙を待つばかり。 そこに降って湧いたスキャンダル騒ぎ。 よせばいいものを時流に乗るとかで、他党が開いている児童ポルノ規制法案の勉強会に顔 を出した。 折しも、ちまたでは援助交際が社会問題となり、マスコミが児童ポルノ法を、しきりに活 字にして騒いでいた時期。 政治家などというものは、ハクを付けるためなら、どんな薄いメッキでも付けたがる。 そこで懇意になった衆院議員。 おそらく奴も、顧客のひとりだったに違いない。 元々、児童ポルノ法など話題集めでしかなかったこの先生は、あっけなく、この悪徳代議 士が教えた遊びに夢中になり、児童虐待の被害者を救済するどころか、加害者側に回って いった。 どんなに頼んでも、やめてはくれなかった。 そして、ツグミが母親と称して連れてきた女。 あれに母親は、いない。 トリヤマと、この先生の間で、どんな会話がなされたのかは、すぐに想像がつく。 ヤツは、先生から俺を引き離したがっていた。 絶対に証拠を残さぬようにと、口が酸っぱくなるほど言い聞かせてきたのに、先生は、ま んまとその言葉に乗せられた。 俺の目を盗んでまで、抱きたがった女たち。 か弱き娘とその母親。 金で自由に弄び、あまつさえその行為を母親にビデオで撮らせた。 これが事実であるならば、倫理もクソもない、まさしく非道で卑劣な行為。 そして動かぬ証拠を握られ、それを利用されて、今、まさに瀕死に喘いでいる。 言わば、自業自得だ・・・。 俺は、こんな奴のために、なぜ必死になってるんだ・・・。 県議会の中では、絶大な影響力を持つ人だった。 たとえ黒い噂が断たなくとも、政治家としての力は魅力的だった。 この人の後押しさえあれば・・・。 見知らぬ土地で、なんの後ろ盾も持たない俺が、政治家としてのし上がっていくために は、どうしてもこの人の力が必要だった。 理念は、後からついてくる。 自分に、そう言い聞かせていた・・・。 だが・・・。 もはや、そんなことなど、どうでもいい。 自分の身を守るためには、タイペイマフィアまで使おうというのだ。 それが、現実のものとなれば、間違いなくあの子は、この世から姿を消す。 「私に時間を下さい。考えがあります。必ず、先生の意に添えるよう努力致します!」 何とかしなければ。 あの子には、なんの罪もない。 ツグミは、和磨を慕うがゆえに、過ちを犯していたに過ぎない。 「一体何をしようというのだ? もはや、時間は限られているのだぞ。」 とにかく、今はビデオを取り戻すことが先決だ。 アイツらのためにも・・・。 「奴らと交渉します。 必ず手を引かせますので、芸津ビルの奴らを使うことだけは、どうか、お考え直し下さ い。」 この先生は、俺と和磨の繋がりに、まだ気づいてない。 そこに、一縷の望みがある。 「君がそこまで言うのなら考えなくもないが・・・しかし・・。 やはり、あの小娘だけは、許せん! それに、あの娘にのうのうと生きていられたのでは、わしは枕を高くして眠れん! あやつは、間違いなく生き証人なのだ! 絶対に、生きていられては、困るのだ!!」 どうしても、ツグミを襲うつもりか? 当たり前に口走っているが、殺人を示唆するなど、もはや、まともな判断力を失ってい る。 「わかりました。それに関しては、私も何も言いません。 先生のお好きになさって頂いて結構です。」 ここで、どんなに説得したところで、おそらくこの先生は承知しないだろう。 窮鼠猫を噛むの喩えがあるように、追い詰められた人間は、何をしでかすかわからない。 早急に、和磨とツグミを引き離さなくては。 娘を・・・ふたりも奪われてたまるか! 「うむ。」 「つきましては、先生にお願いしたいことが、ひとつだけ・・・。」 「なんだ?」 和磨、お前にゃ悪いが、しばらくの間、塀の向こうに行ってもらうぞ・・。 「先生が、いつも遊びに使われていたあの白い粉・・・。」 しわ襞の刻まれた老人の顔が、わずかに狼狽えた。 「あれを少々・・・私にお貸し下さい。」 THRUSH最上階。 ミノリの部屋。 「ああ・・・ツグミちゃん・・・。」 「可愛いよ、ミノリちゃん・・・もっともっとエッチな子にしてあげる・・・。」 円い大きなベッドの上。 まるで軟体動物のように、ふたつの白い裸体が、足を絡ませながら、もつれ合っている。 うごめきあう妖しい身体。 ツグミは、ミノリにぴったりと肌を重ねて、まるで、まとわりつくように離れない。 わずかに膨らんだ胸を背中に押し当てていた。 首筋に唇を寄せながら、指は、いやらしくミノリの性器を弄んでいる。 ピチャピチャと股間から聞こえる卑猥な音。 「ほら・・・こんなに、はしたなくなった・・・。」 びっしょりと濡れた指をミノリに見せつけて、可笑しそうにツグミが笑う。 「いじわる・・・。」 泣きだしそうな顔が、とても可愛らしくて、ツグミは、愛しさを教えるように唇を重ねて いった。 ふたつ年下。 色白で、ひどく線が細い。 人形のようにきれいな顔。 白いドレスを着せると、まるでお姫様のように可愛らしかった。 笑うと、右の口元にだけ八重歯が覗く。 ツグミを見つけると、いつも嬉しそうに微笑んでくれた。 まるで、あの子みたいに・・・。 「ああ・・・ツグミちゃん・・・気持ちいいよ・・・。」 悦びに酔いしれるミノリの顔が、ツグミには至福。 愛すれば、愛してもらえる。 愛してもらえないのは、愛し方が足りないから。 ツグミの愛し方は、相手を悦ばせることだけ。 それしか、知らない・・・。 舌を這わせながら、ゆっくり下へと、顔をずらしていった。 赤ちゃんのような無毛の性器。 わずかに生え始めたばかりの薄い性毛は、ツグミと同じように丁寧に処理されて、なだら かな丘になっていた。 その丘には、小鳥のマーク。 唇で何度もキスをして、優しく溝の中へと、舌を這わせていった。 「ああっ!ツグミちゃんっ!!ツグミちゃんっ!!」 ミノリは、腰を浮かせて、ツグミの舌を欲しがった。 涙を流しながら、ツグミの頭を抱え込んでいく。 そんなふたりを、じっと見つめていた瞳。 この・・・バケモノ・・。 豊かに膨らんでいた両の乳房。 成熟した生々しい裸身。 わずかに崩れた身体の線が、返って、悩ましさを強調する。 背中には、幾筋もの鞭の痕・・・。 女は、両足をしっかりと閉じながら、膝の上に置いた拳を固く握りしめていた。 「ママっ!助けて!おかしくなっちゃうよ!・・ミノリ、おかしくなっちゃうよ!!」 必死に伸ばすミノリの腕の細さに、身体が震えてとまらなかった。 いっそ駆けだして、ツグミを突き飛ばしてやりたい衝動を必死にこらえた。 このままでは、ミノリは死ぬ。 このバケモノに取り殺される。 ミノリ、待ってなさい・・。必ず助けてあげる。ママが必ず、このバケモノから救ってあ げる・・・。 狂いきれなかった強靱な精神力。 いっそ、狂ってくれた方が楽だったのかも知れない。 二度と、陽の目を見ることはないと思っていた。 「まだ壊れてねえなら、演技くらい出来るだろう。」 思わぬことで、再び垣間見た外の世界。 ツグミと一緒にホテルに差し向けられた。 まぶたの裏に焼き付いているのは、モニタールームでツグミが押していたエレベーターを 操作するボタン。 部屋の扉は、電磁ロックで、中からは開けられない仕組みになっている。 すべては、モニタールーム任せ。 の、はずだった・・・。 ここにやってきてから、一度だけ訪れた停電騒ぎ。 火事と勘違いした客が、慌てて廊下へと飛び出した。 暗がりの中に射しこんだ非常灯の光。 中からは、開かない扉のはずだったのに・・・。 あの明るい世界に、もう一度ミノリを戻してやりたい・・・。 5階の部屋のほとんどは、4階までの部屋と、ほぼ同じ造り。 年かさのいった蝶を押し込める部屋が、急ごしらえで造られたのは、この数年後。 立派なバスルームに併設された洗面台の上には、身だしなみを整えるためのドライヤー。 故意に停電を起こすことなど、簡単なことだった。 後は、隙を見つけるだけ・・・。 モニタールームで、暗い瞳が、もつれ合う白い肌を見つめていた。 ツグミの野郎、エラく気合いが入ってやがるな。 仕込め、とは言ったが、どうにもそればかりじゃねえらしい。 ガキどもにいらぬ感情を持つのは、好ましいことじゃねえ。 後で、きっちり灸を据えてやるか・・・。 「オジキ、五所川原の野郎から、連絡がありました。」 静かに部屋に入ってきたのは、トリヤマ。 「そうか。で、返事は?」 「条件は、すべて呑むそうです。ですから、すぐにビデオを流すのを止めろと・・・。」 「くくっ、最初からおとなしく従ってりゃぁ、てめぇのケツを人様に晒すこともなかった ろうに。」 「それで、あの県の役人の野郎が、会いたいと言ってきてますが・・。」 重丸が?・・。 「オジキと、サシで話しがしたいそうです。」 「そうか・・。」 何を企んでるかは知らねえが、もう、お前には止められねえよ。 「せっかくのご招待だ。ちっと出張ってくるから、後は頼むぞ。」 「へい。」 「ああ、それとな・・・ミノリの母親は近いうちに始末する。黄の野郎を、呼んでお け。」 「へぇ、それはかまいませんが、急にまたなぜ?」 「壊れねえ人形は危険だ。いつ操り糸が切れて、何をしでかすかもわからねえからな。そ れに・・・。」 「それに、何ですか?」 「アイツは、五所川原の顔を知ってやがる。客にでもチクられたら、元も子もねえ。だか ら、今のうちに消えてもらうんだ。」 「へい、わかりやした。」 「彫り師のリンも忘れずに呼んでおけよ。ミノリは、これから蝶で売る。」 「へい。」 かええそうに。 せっかく壊れずにすんだが、それが仇になったな。 今度は、砂漠か? 蛇頭は、どこに売るかわからねえからな。 しかし、二度と日本の土を踏むことがねえのだけは、確かだ。 これからは、ここなんぞよりも、もっとひでぇ地獄に送られる。 そこで静かに壊れてくれや・・・。 娘は、ちゃんと面倒見てやるぜ。 早速、リンを呼んでおくか・・・。 だが、その夜・・。 「おい!!居たか!!?」 「母親の方は、そこのビルに隠れてたのを、とっ捕まえました!!しかし、ガキの方が見 つかりません!!」 「クソッ!!どこに行きやがったんだ!!?」 あのクソ女、何をとち狂いやがった! 娘を蝶にされて感づきやがったのか!? 「捜せ!!!捜すんだ!!これがオジキに知れたら、ただじゃ済まねえぞ!!死ぬ気で捜 すんだ!!!」 明け方近くの青森駅構内 「ママ・・・ママ・・・。」 白いドレスを着て、ふらふらと歩いていた少女。 足は、素足のまま。 「君、どうしたの?」 いち早く異常に気づいて声を掛けたのは、鉄道公安官。 「ママがいないの・・・。ママが・・・どこにも、いないの・・・。」 「君、名前は?」 「ママ・・・どこに行ったの・・・。ミノリをひとりにしないで・・。」 目の焦点が合っていなかった。 「君、どこから来たの!?」 「ママ・・・こんなの消すから・・・だから、ママ・・・ミノリをひとりぼっちにしない で・・・・。」 こうしてミノリは、警察に保護された。 青森シェラトンホテル地下駐車場。 「カズ、約束は守れよ。」 「ああ、だが、いっちゃんも俺を裏切るんじゃねえぞ。本当なら、取引が済んでから返す もんなんだ。先に返したんじゃ取引にならねえからな。いっちゃんだから、返すんだ。そ れを忘れるな。」 いっちゃんとカズ。 それが、昔からのふたりの呼び名。 「3日後だ。3日後に例のブツは返す。」 「ツグミに持って来させろ。」 「なぜだ?」 「あの子に話したいことがある。」 「また、説教か?無駄だとは思うが、いっちゃんがそう言うなら、ツグミに持たせてやる よ。」 「貴様、自分の娘にあんなことをさせて恥ずかしくないのか!?」 精一杯凄んで見せたが、和磨は、可笑しげに笑うだけで堪えた様子もない。 「人の娘より、自分の娘の心配をしろよ。もう、いい年頃だろう?結婚はしたのか?」 娘? シノか? いや・・・コイツが言ってるのはシノじゃない。 もうひとりの、俺の娘・・・。 「あの子は、まだ子供だ・・。」 重丸の中で、確かに、もうひとりの娘は、まだ幼い子供のままだった。 顔も見たことのない娘。 誕生日だけは知っている。 だが、それだけだ。 後は、何も知らない。 知る前に、彼女は消えてしまった・・・。 「どうしても、ツグミを自由にするつもりはないのか?」 「ああ。」 ライターが見あたらないらしく、和磨はスーツのポケットを手探りで探している。 重丸は、自分のスーツのポケットに手を伸ばした。 タバコを掴んだ手のひらに、一緒に握った小さなビニール袋。 中身は、先生から借りてきた白い粉。 もはや、何を言っても無駄か・・・。 ポケットからタバコを取り出そうとして、ライターがこぼれ落ちる。 それを拾う振りをして、足元のマットの下にビニール袋を押し込んだ。 「ほら」 拾ったライターで、和磨の前に火をかざす。 和磨が、にやりと笑った。 重丸もタバコをくわえると、ふたりは、ひとつの炎で火をつけた。 思い出を吹き消すように、紫煙を大きく吐き出していく。 ふたりは、タバコの煙を燻らせながら、ぼんやりと正面を見つめていた。 互いに、目を合わせようとはしなかった。 「いっちゃん・・。」 ようやく沈黙を破ったのは、和磨だった。 「ん?」 振り返ると、和磨が真剣な眼差しを向けていた。 「俺を裏切るなよ。俺を裏切ったら、たとえいっちゃんでも承知しねえからな。それ を、忘れるな。」 重丸は、答えなかった。 ただ、じっと和磨の顔を見つめていた。 「3日後だ。3日後にツグミに持って行かせる。」 それだけを言うと、和磨は、もう話すことはないと言いたげにキーを回して、エンジンに 火を入れた。 重丸は、車を降りた。 真っ黒なベンツが、重厚な咆哮を響かせながら、去っていく。 その後ろ姿を見送りながら、重丸はつぶやいた。 「悪いなカズ・・・。裏切らせてもらうぞ・・・。」 3日後、約束通りビデオは重丸の元に届けられた。 「黒のベンツAMGだ。助手席のマットの下にある。ナンバーは・・・・。」 その翌日、和磨は警察の一斉検問に引っかかり、麻薬の不法所持で逮捕される。 そして、さらに数日後、ツグミも、この街から姿を消した・・・。
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2010/01/25 00:28:49(2BGSBWxQ)
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