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1:コンビニ妻
俺の名は嶋田恭平、今年27歳になる地方のコンビニ経営者だ。
経営者と言っても若いころはやりたい放題遊び倒し、今だにフラフラ遊び歩く俺を見かねた両親が全てお膳立てしてくれた店なのだが、一応店長は店長なのでそれなりに忙しい日々を過ごしている。 バイトの確保状況にもよるが、夜勤や深夜勤で勤務することも多い ある日夜勤から深夜勤に通しで入るシフトになっていた俺が店に行くと、昼勤の亜希が話しかけてきた。 亜希とは昼勤専属のアルバイトの人妻で、顔はどちらかと言えば中島美香似で目鼻立ちがはっきりとした見た目が少し派手で遊んでそうな25歳の女だが、胸は無く細身で低身長なので顔以外はあまり好みではなかった。 勤務態度は真面目だったので、まぁありがたい存在だ。 「あの、店長・・ちょっといいですか?」「なんですか?」「できれば、シフトを少し増やしてほしいんですけど」 亜希はなんだか申し訳なさそうに言った。 「あぁそうゆう話でしたら私としては凄くありがたいのですが、佐山さんは大丈夫ですか?ご結婚されてるのに」 「はい。お願いします。」「んー分かりました。じゃあ今日でもいいんですか?」「はい。お願いします。」 (よーし。今日休めるかもしれないぞ)俺は心の中で喜んだが、次の瞬間会話を聞いていたのだろう矢部君という夜勤アルバイトが口を挟んできた。 「それなら店長、俺今日休みたいっす!」(なんだとー)「え、いや矢部君は明日も休みだし・・・ね」「そうですけど、お願いします。」「うぅ・・わかったよ」アルバイトのご機嫌を損ねて辞められたりでもしたら結局あおりを食らうのは自分なのだ。 「それでは佐山さんは、10時までお願いします」「え、あのぉ月末の締めも近いのでできれば朝まで働きたいんです。」「え、そんなぶっ続けて大丈夫?朝5時までだよ?」「大丈夫です。頑張ります。」女性が深夜勤というのも初めてだったので、その日は深夜勤の方をお休みにしてシフトを組み直し俺と佐山亜希とで朝まで勤務することとなった。 その日は大雨で夜間帯の客足も疎らで、11時を過ぎた辺りからパッタリと客がいなくなった。 「んー暇になっちゃいましたね。」「あぁ・・そうですね。でも、深夜にはまたお客さん来ますよ。」「そうですね。」 (この子はそんなにお金に困っているんだろうか?確か子供はまだいないはずだし・・・) 暇ということもあり俺は軽い気持ちでいくつか質問していた。 「佐山さんは結婚何年目なんですか?あぁこうゆうの嫌だったら答える必要はないですからね。」「いえ、2年目です。」「そうなんだ。結婚生活ってどんな感じですか?いや、私はまだ独身なのでね。」「・・・あまりいいことないと思いますよ・・・」亜希の顔が少し曇ったように見えた。 「どうして?2年目っていったらまだまだ楽しい時期じゃないんですか?」「普通だったら、そうかもしれませんね。」「ん?佐山さんちは普通じゃないんですか?もしかしてシフト増やすことと関係があるんですか?」 俺は何故かずけずけと質問を続けた。 「・・・夫が派手好きで、困ってるんです。」「派手好き?」「はい。」「派手好きってたとえば?」「仕事を変えたり、休んでパチンコ行ったりして浪費するのに、車は高級な車を買ったりで、支払いが大変なんです。」「そうなんですね。でも、佐山さんも働きすぎると体に悪いですから、ほどほどにしてくださいね。」「はぃ。本当に毎月ギリギリで・・・」(そうなのか。年下なのに結構苦労しているんだな。遊んでいそうなんて見た目で判断して悪かったかな。よし!) 「大変なんですね。私にできることはないですが、昼間の勤務の時の時給を特別に20円アップします!」 「えっ!本当ですかっ!?ありがとうございますっ!」亜希の表情が一気に明るくなり彼女は深々と頭を下げた。 「佐山さんは笑顔が可愛いですね。おっとこれはセクハラになりますか。あはは」「うふふ。ありがとうございます。大丈夫ですよ。それに、そんなことを人に言われたの久しぶりで嬉しいです。」「でも、時給のことは他の人に言っちゃ駄目ですよ。私とあなたの2人だけの秘密にしてくださいね。」「・・はい。」はにかんだ様な亜希の表情に私は引き込まれ一瞬にして好きになってしまった。 雨は勢いを無くさず降り続き、客足は無いまま時間が過ぎていく・・・ 「佐山さんは、旦那さんとどうやって知り合ったの?あーこれまた無理に答えなくていいですからね。」 「いえ。夫とは昔バイトしていたパン屋さんのお客さんと店員として知り合いました。」 「そうですか。お互いに一目惚れとか?」「そうゆうのではないですが、毎日話しかけてくれて、ある日デートに誘われたんです。私男性と付き合ったこととか一度も無かったから、デートとか嬉しくって」「それまで一度も無かったんですか?」「はい。」「それじゃあ旦那さんが初めての?」「えっ、店長それはセクハラですよぉ」亜紀は恥ずかしそうに言った。「えっち、ちがうよ、変な意味じゃないよ。デートの話だよ。」「あ、ごめんなさい・・私」「いや、質問の仕方も悪かったかもしれません。」「あ、敬語・・」「はい?」「あの、さっき店長一瞬敬語じゃなかったんですよ。」「あぁすいません。」「そうじゃなくて、敬語やめましょう。店長年上ですし、なんだかいつも申し訳なくて・・・」「そうですね。わかった!じゃあそうする」「はい。」亜希はニコリと微笑みながら言った。 (それじゃあ旦那に処女を奪われたってことか・・・)平静を装いながらそんなことを考えていた。 「それから佐山さんは、徐々に旦那さんを好きになっていった感じ?」「うーん。流されるままっていう感じですね。あっという間に結婚・・・みたいな」「そうなんだ。」「はい。店長はどうなんですか?彼女さんとかはいるんですか?」「え、いないよ。」「いつからですか?」「んー3年前に手痛く振られてね。っていうか佐山さんも敬語辞めようよ。俺もやめたし、年もそんなに離れてないんだし」「でも、他のアルバイトの人達もみんな敬語ですし・・・」「じゃあ、2人しか勤務していない時だけお互い敬語やめるっていうのは?」「うふふ・・・なんだかワクワクしますね。」悪戯っぽく笑う亜希の表情が可愛くって思わず俺の顔が緩む。 「あーじゃあ、じゃあ呼び名も決めよ、秘密の呼び名うふふ。私は亜希でいいよ。店長は?」「んー俺は恭平でいいよ。」「えー、じゃあ、きょーちゃんでいい?」「お、おう」「うふふ。なんだか楽しいね。きょーちゃんはその彼女と別れてからずっといないの?」「いないね。」「寂しい?」「もちろん。寂しくなる時はあるけど、忙しいしね。」「そっか。その前は?何人くらいと付き合ったの?」「全部で3人かな」「そっか。今でも会いたい?」「いや、そうゆう時もあったけど、今はそうは思わないかな」「今は好きな人もいないの?」「んー好きになりそうな人は一人いるけどね・・・」「そうなんだ・・・」(君のことなんだけどね。) 「あのさ・・」「なに?」「いや、亜希さ。さっきの旦那さんの話で気になったんだけどさ。」「うん。」「いや、立ち入った話で聞いていいのか分かんないんだけど、酷いこととかはされてないよね?」「酷いこと?DVとか?」 「うん。いや、なんかドラマやニュースの見過ぎかとも思ったんだけど、ちょっと考えちゃって」「・・・どうなのかな・・大きい声で怒鳴られたりは・・・あるよ。あと・・」「あと?なに?」「・・・言えない」「どうして?何かあったら危ないじゃん。教えてよ」「・・・そうゆんじゃないと思う・・」「大丈夫?」「うん。きょーちゃん優しいね・・・この話はもうやめよう。楽しい話がいいの。」「・・・わかった」何があるのか気になって仕方なかったが、感情を抑えた。 その後も客足はまばらだったこともあり俺たちは色んな話をして勤務時間の終了を迎えた。 数日後、楽しみにしていた夜勤で亜希と一緒になる日を迎えた。 あの大雨の日とは打って変わってその日は頻繁に客が出入りし亜希と話す時間もないまま午前一時になり、やっと2人きりになった時だった。 チャイムが鳴り一人の小柄で派手なジャージを着た男性客が店に入ってきた。 (くそっ、せっかく話始めようとしてたのに何だよ!とっとと買い物して帰れ!)そう思っていたらその男は真っ直ぐレジに向かってきた。 「いらっしゃいませ」(タバコか・・・)「おい!てめーが店長か?」男は怒鳴るように俺に言った。 「ちょっと!たかのり!」すぐに亜希が大きな声でその男に言った。「うるせーぞ!黙れっ!」男は凄い剣幕で亜希を睨みつけた後、視線を俺に戻して続ける。 「おーこらぁ!てめー俺の女房とやったらしいなぁっ!おぅ!」「はい?なんのお話ですか?」よく見るとすごい剣幕のその男はどこかで見覚えのある顔だ。 「なんだとこらぁ!お前先週俺の女房を無理矢理朝まで付き合わせてやっただろーが!あん?」「・・・お客様。そのような覚えはありませんが」「うるせーぼけっ!お前俺を誰だと思ってんだ?ちょーしくれてっと海に沈めんぞボケェッ」その時俺はこの男のことをはっきり思い出していた。 「たかのりやめてよっそんなことしてないっ帰ってっ」亜希が止めに入る。 「黙れって言ってんのがわからんのかっ!今こいつと話してんだろーがっこのバイタがっ」「やめてよぉ・・うぅ」亜希が泣き出す。 「あぁっ!てめー人の女房に手ぇ出して知らんぷりはいかんだろう?この落とし前どうつけるんだコラッおうっ?」「ハァ・・・私には身に覚えのないことでございますが、どうされたいのですか?」「ああっ!?そんなのわかるだろーがっボケェ!誠意見せろや誠意をよぉ!」「お客様、誠意というのは具体的に何でしょうか?」「あーっお前頭悪いなーボケ!誠意ったら金だろうがっ!とりあえず今日は10万だせやっ!その後きっちり請求するからよぉ!そんくらいあんだろぼけっ」「うぅ・・もうやめてよぉ・・」亜希は泣いている。 「お客様、かしこまりました。奥の方へ来ていただけますか?ここでは他のお客様の迷惑になりますから」「上等だボケッお前みたいな素人はとことん追い詰めてやるからなぁ」俺は泣いている亜希を少しなだめてレジを任せると店のバックヤードへ男を招き入れた。 「おー早く持ってこいや!なんだったら20万でも30万でもいいぞどーせそれなりの落とし前つけるからなぁ」 「ほぅ。お客様は最終的に幾らくらいをご希望なのですか?」「あーっ!そうだなぁ・・・・一括で払うんなら500万で許してやるよ」「・・・ぷっ・・ぷぷっ・・あははははっ!」「あ?てめーなに笑ってんだコラッ殺されてーのかっ」「なんだとこのクソが、やってみろこらっ!」「あぁっ!なんだてめー」「お前何か大事な忘れてるんじゃねーのかボケっ俺は嶋田恭平だぞ?クソのり、そんなに苦い記憶を思い出してーなら思い出させてやろうか」 そう、この馬鹿丸出しの亜希の旦那は中学、高校と有名な嘘つきで学校の嫌われ者だったため何度も締め上げたクソ野郎だったのだ。 「・・え、え、あーっ!」「やっと思い出してくれたのかクソのり君、思い出したんならさっさと正座しろや」 クソ野郎こと佐山たかのりは思い出したのかすんなり従った。 「お前なぁ、俺はここの店長でお前の女房はアルバイトだぞ?一緒に勤務しただけで変な妄想されたらかなわんだろうがボケ!」「ご、ごめん」「うるせーよアホ!それからお前のさっきの恐喝はしっかりカメラに写ってるからな?警察行くか?」「え、いや、あの、本当にすいません。」「ふん。お前仕事もしてないんだって?」「あー、いや、はい。すいません。」「ハァ、お前さぁ今日は見逃してやるけどな。このことであの一生懸命ウチで働いてくれてるお前の女房に一言でもモノ言ってみろ。本当に地獄だからな?」「はい!」「それから、二度と俺に見つかるなよ?次はねーぞ?」「はい!」「帰れっ!ボケッ!」佐山たかのりは女房の亜希に目もくれず逃げるように店を後にした。
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2020/03/01 20:13:58(6XLAn4kt)
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