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照りつける日差し。
耳を劈く蝉の声。 真夏のとある山あいの村にスーツ姿の男がひとり。 彼の名は「畑野 和也」 大手農機具メーカーの若手セールスマン。 裕福な専業農家が多いこの村に、新型の農業機械の売り込みにやってきた。 田舎のマイペースなタクシーを降りるなり、そのうだるような暑さを嘆く。 『うげぇ、マジで暑ぃな』 すぐに額に汗が滲む。 『しっかしまぁ、すっげぇ田舎だな』 辺りは昔ながらの農家の屋敷が点在するだけで、ほとんど見渡す限り畑か田んぼが広がっている。超が付くほどの田舎だ。 彼がスマホで地図を確認していると、1台の軽トラックが彼の前で停車した。 『よぉ、兄ちゃん、ここらじゃ見ねぇ顔じゃな。そげなむさ苦しい格好で何しとんじゃ?』 『あっ、こんにちは。農機具メーカーの者です。東京から来ました』 『なんじゃ、はるばるトラクターば売りさ来たと?』 『ええ、まぁ。他にも色々あるんですが、お話だけでもいかがですか?』 『丁度ええ、今から家に帰るとこじゃて、暑いじゃろうから乗ってけや。冷てぇ茶でも飲みながら話そうや』 そう気さくに話しかけてくれた農夫の車に、彼は同乗させてもらうことにした。 この猛暑のなか歩かずに済んだ、と和也は農夫の親切心に感謝した。しかも商品を売り込むチャンスまで得られたのだから願ったりだ。 乗り心地が良いとは言えないその薄汚い軽トラックは、荒れた農道を走るとすぐに立派な門構えの敷地へと入り、大きな屋敷の前で停車した。 『着いたで。中さ入って一服すんべ』 そう言って、助手席から降りた和也を連れて屋敷の玄関をくぐる。 たしかに裕福そうな広く趣のある玄関に和也は密かに期待した。 『母ちゃーん、今帰ったぞ』 奥からパタパタと足音が聞こえ、奥さんらしき女性が顔を出した。 「あんた! 朝からどこほっつき歩いて、、、、あらやだ、お客さんかい?」 開口一番に旦那を叱りつけようとしたようだが、客である和也を見つけ口籠った。 『このクソ暑いなか、そこの道で突っ立ってしんどそうじゃったから連れて来たで。客人さ茶出してやってくれや』 「ささ、お客さん、靴ば脱いでどうぞ、あがってくんさい」 険しい顔をしていた奥さんは急にしおらしくなり、笑顔で和也を家の中へと招き入れた。 和也は広い畳敷きの居間に通された。 古めかしい昭和の扇風機がカタカタと首を振っている。 彼がふと居間の壁を見ると、目を見開き赤く憤怒した表情の天狗とその隣には白粉を塗ったように真っ白な肌に切長の目をした美しい狐の面が対に掛けられていた。 どちらの面も額から鼻までを覆う半面の作りで口元は開いている。 『ずいぶん立派なお面ですね』 和也が聞くと、旦那は誇らしげに語りはじめた。 『そうじゃろ~、天狗様と女狐様はこの村じゃ夫婦円満と子宝成就の神様なんじゃ』 『神様、、ですか?』 『ああ、ほんだ。昔っからの言い伝えがあっての、昔この村さ狐みてぇに真っ白い顔した綺麗な嫁さんがおったそうなんじゃが、なかなか子ができんで旦那と喧嘩ばりしとったそうじゃ。ほんだらある夜のこった、天狗様が嫁さんの枕元に現れてな、そのでっけぇ天狗っ鼻ば嫁さんのオメコさぶっ挿したらばすぐに子ば孕んだんだと。そんで今でも村のもんは天狗様と女狐様ば神様としてお祀りしとるっちゅうわけじゃ』 旦那が興奮気味に話終えたところで、やや呆れ顔の奥さんが冷えたお茶を運んでやって来た。 「あんた、またお客さんさアノ話ばしとっと?」 『なぁに、神様の話ばしとっただけじゃ。なぁ兄ちゃん』 「ごめんなさいねぇ、この人すぐにヤラしいことばかり言うもんでさぁ」 奥さんが旦那のかわりに恥ずかしげに謝罪する。 和也は苦笑いを返しながらも、奥さんの体つきを観察していた。 この奥さん、スレンダーな体型にはアンバランスな大きな胸の膨らみを持っている。安産型の膨よかな臀部のおかげで腰のくびれがより一層強調されている。男心をくすぐるソソる体にピッタリと張り付いたTシャツには、その下に隠れたフルカップブラの刺繍柄がクッキリと浮き出ている。顔もよく見れば色白で美形の類いだ。歳は40代中頃とみた。まさに女盛りの熟れ頃の齢だ。 そんな魅惑的な奥さんを見る和也の視線に旦那が気付き、彼をそそのかす。 『なぁ、兄ちゃん。うちの母ちゃん、なかなかいいケツしとるじゃろ? この歳になってもまだヒィヒィ言いよるで。今晩一発どうじゃ? 笑』 「あんた! お客さんの前でへんなこと言うんじゃないよ!まったく、、」 奥さんは顔を赤らめ、スケべな旦那に心底呆れながらも照れた様子でそそくさと奥に下がっていった。和也は彼女の艶かしい後ろ姿を最後まで名残惜しそうに目で追った。 『え、えっと、例のお話なんですが、、』 和也が気を取り直して、本題を切り出した。 『ん? なんの話だっけかの?』 『機械の話です。他にも便利なものがたくさんあるんですよ。例えばこんな、、』 和也の営業魂に火がつき、ここぞとばかりに前のめりになりながら鞄から素早くカタログを取り出してテーブルにずらりと並べた。 『まぁまぁ兄ちゃん、落ち着けや。いくら金が腐るほどあるっちゅうても、トラクターは2台も要らんわい』 『では、こちらの小型の耕耘機はどうです? 奥様でも扱いやすいですよ』 『いんや、あいつはああ見えてトラクターば回しよるからな。そげなオモチャみてぇな耕耘機なんぞ使わねぇよ』 『ではでは、こちらの芝刈機なんていかがですか? 綺麗に刈れますよ~』 『ウチに芝生なんかねぇ』 『では、、、こちらの除草剤は、、』 『いらん!』 奔放な印象とは裏腹に財布の紐が堅いこの旦那を相手に、和也はあっけなく玉砕し意気消沈してしまった。 『まぁそうガッカリすんなや。なぁ兄ちゃん、今晩近所の男衆ば集めてうちで酒盛りするんじゃがの、どうじゃ一杯やっていかねぇか?』 『お誘いはありがたいのですが、、』 『田舎の男は酔ったら太っ腹じゃぞぉ~』 『ぜ、ぜひとも参加させて頂きます!』 和也は起死回生、さらなる売り込みのチャンスを求めて村の宴会に参加することにした。 つづく
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2018/08/02 12:08:50(7BVj3Hlt)
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