「ああん…ああん…ああぁ…」
『美美さん…感じて』
「あんん…イくう…」
『美美さん…あああ…俺も…イ……ああぁ』

荒い息の元で胸をおさえ、パソコンのモニターに映る男性を見た。股間の汚
れを拭いているそれを、まだ私は見慣れてはいない。


チャットレディという仕事を始めて、ようやくひと月が過ぎた。ただの好奇
心から始めたこの仕事は、私に想像以上の刺激を与えてくれた。
結婚して２０数年。男は主人しか知らない。いつからか、主人以外の男の人
と話をする機会さえ、ほとんどなくなっていった。

このまま私は終わってしまうの？
もう女として終わってるの？

そう思っても、何をどうしていいのか判らずに時間ばかりが過ぎていってい
た。そんな時だった。
〔こんな仕事があるよ。アルバイト感覚で始めてみたら…〕
メル友に薦められるまま登録のページを見つめて。

変われるかもしれない…

不安がなかったと言えば嘘になる。ライブチャットと言う世界の事なんて何
にも知らないのだから。だけど、胸の奥で疼く甘い期待感と好奇心には逆ら
えなかった。
仕事だから…。
いつも頭の片隅にその言葉を置きながらチャットをする。でも、本当は判っ
ている。その言葉を言い訳にして、のめり込む様に擬似恋愛を楽しむ自分が
いる。

何人かの男性に口説かれた。そのうちのひとりの人とメル友になり、いつか
会う約束までしてしまう。本当に会えるかどうかなんて判らなくても、そん
な約束をしてしまう自分が信じられなかった。また、若い男性からも口説か
れて。やっぱり会う約束をしてしまう。危ないだろうとは思うのに。いけな
いことなのにとも思うのに。長い長い間、ずっと我慢ばかりしてきた反動か
らか、自分の気持ちを抑えられなくなってきているのが、怖いのにとめられ
ない。どうしていいのか判らない。判らないのに時間だけが過ぎて。

そんな頃に彼に出会ったのだ。
どきどきする気持ちをたしなめつつ、その夜もチャットにインした。待機時
間がいつものように過ぎていった時、彼がインしてきた。
『こんばんは、久しぶり』
「こんばんは、来てくれてありがとう」
いつものように笑顔でカメラに向かっていたら、
『もう誰かに会った？　それか、会う約束した？』
「え…」
それはあまりに突然の質問だった。ふいをつかれて…、いや、きっと違う。
彼は顔は見せてはくれないけれど、その代わりに声を聞かせてくれる。セク
シーで素敵な声。初めてインして来てくれた時、その声に翻弄されて疑似体
験させてもらった。彼の声には抗い難い優しさが溢れていて、私は好きにな
っていた。だから…。
「適わないなぁ…、なんでわかったん？」
『うん…、なんかね、何かを決心した目をしていたから…』
「そうなんだ…」
『あたり？　やっぱり…、でもな…』
私は彼に見抜かれたことに、正直ほっとした。どうしていいか判らない気持
ちを抱えて、選んでしている仕事の中のこととは言え悩んでいたのだ。
『危ないで…、ネットでしか知らない人に会うのは危ないから。それやった
ら』
「うん…」
『俺を選び…、絶対大丈夫だから』
「うん…」
『信じて、大丈夫だから…』
「うん…信じる…」

あなたを信じる…

あんなに怖いと感じていたものが、彼となら感じることはなかった。どうし
てなのか判らない。
けれど、私は自分の直感を信じたいと切に願った。
これも一つの縁なのだと思う。

それからは、彼と私は、世間で言う不倫・浮気の関係を続けている。互いの
パートナーには絶対に知られないように大人の関係を。
住んでいる所は遠く離れていて、あえても２ヶ月に一度くらいしかないけれ
ど。会えないときは、メッセンジャーで話をしている。
ウェブカメラで彼にはいつも見てもらっている。秘所に指を入れているとこ
ろも。
彼に促されて初めて入れてみたのだけれど。そんなこともできるようになっ
た自分に、本当に驚いている。
彼が私の女を目覚めさせてくれたから。
私は、彼によって雌に変えられていく。
それは悦びでもある。女として。

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