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業界の常識
「業界の常識ですよ」 葵は僕に言った。続けてこうも言った。 「ピル飲んでるんで中出しオッケーです」 戸惑う僕に葵は戸惑う。 「あのう、聞いてます?」 「僕は写真集の撮影に来ただけで」僕は無言になるのが怖くて続けた。「先輩がコロナで。だからヘルプで来たんです」 ははんと状況を察した葵が困り顔の僕にさらに言う。「消えますから。そんな奴はすぐに消えます。アンアンのモデル志望の若い女の子たちが仕事欲しさにカメラマン誘惑して仕事取ってるって業界の人ならみんな知ってますよ」 「噂ぐらいしか」俯いた僕にすかさず葵は言う。「だから私は業界に残ってるんですよ。いま活躍してる人ってみんなそうやって残って来たんです。この業界、そんな甘くないですよ。ガキの通う学校じゃないし、両親に守られた温かい家庭じゃないんです。おっさん、たぶん業界に入って短いから知らないと思うけどさ」 僕は顔を上げ、恐る恐る言った。「去年です。早期退職に応募して無事に早期退職したんですけど、いざ辞めてしまうと生き甲斐がなくなって、だから若い時に夢だったカメラマンになったんです。まだまだ先輩にこき使われる見習いですが」 葵は鼻で笑った。「先輩に聞かなかったわけ?」 「冗談だと。まさか本当だなんて思いませんでしたよ」 葵はまた鼻で笑った。「高額なギャラって宣伝費用とか表の帳簿に載る費用だけじゃないんですよ。裏の帳簿というか、こういう費用も込みなんです。わかりました?」 「わかったかと言われたらわかったんですが」 葵は優柔不断で態度を決めない僕に痺れを切らして本題に入ろうと率直に言った。「だったらやりますか?」 僕はもじもじとし、葵はまじまじと俯き気味の僕を睨んだ。「説明はしたからおっさんももう同罪ですからね」葵は笑った。 葵は全裸だった。上下白の水着はベッド前のカーペット上に落ちていた。後ろを見ず、葵はベッドの上にダイブしてスプリングで何度か宙に舞い、何度か目にベッドに沈んだ。 僕はあたふた手や口を動かし、葵を見ている。「バックが好きだった? ああそうか、フェラからがよかった?」 「やっぱりこれは」と言いかけたが運動神経のいい葵は前屈みになりすかさず言う。「勃起してんじゃん。嘘吐きというか、身体は正直なんだね」 気付けばジーンズのチャックは開き、革ベルトのするする外し、トランクスを足元に引いて脱がすと包皮の向けた赤い亀頭が、葵の鼻先にあった。葵は、腫れぼったい唇を丸く開け、僕の亀頭を咥えた。 ああと、たまらず僕は声を出した。かまわず葵は僕のペニスを前後に唇出し入れでしごき、さらに太く硬くなる僕のペニスを味わう。 「意外にでかいのね、おっさんの」 僕は声が出ない。喘ぎを我慢するので精一杯だ。まさかほんとうに業界ではこんなことがさも当たり前のように行われているなんて。信じられなかったが、目の前の光景はその証拠に他ならなかった。 「みんなやってるんだね」 葵は僕の質問を無視し、僕のペニスにしゃぶり付いている。いままでこうやって業界で生き残って来たのか。葵に同情しそうになる。「でもなんで誰も訴えないんだい?」 葵は馬鹿を見るみたいな表情になって、フェラを途中で中断した。「おっさん馬鹿? 売れてるからだよ。売れてるから訴えない。メリットないじゃん。等価交換、等価交換。訴える奴なんかどうせ実力不足で中途半端に売れなかった奴の逆恨みだよ。負け犬、負け犬の遠吠えと同じ」そう言って葵は笑った。 「で」葵は真面目な顔付きになる。「バックがいいの? それとも騎乗位? 正常位は最後がいいんでしょ?」 「ああ、それか」 葵はたまらず僕を抱きしめ、ベッドに後ろ向きにダイブした。何度か跳ねて何度か目にベッドに沈んだ。 「抱いてよ」葵が続ける。「撮影スケジュールあるし、後も混んでるんだから」 僕は慌てて振り向くと、半開きのドア隙間から借家廊下で腕を組んだ撮影監督が仁王立ちで居るのが見え、さらに肩先がら後ろに立つ助監督が壁を何度か拳で乱暴に叩いたのがわかった。 「すみません。すぐにやります」 僕は頭を下げ、葵を見下ろす。葵は笑った。僕も笑った。 「うまくやれるかわからないけど」 「うまくやる必要はないから。仕事。一生懸命に取り組めばいいから」 「そうだね、勉強になるよ」 僕らは笑い合った。 コンドーム無しの、それも正常位無しでの中出しは初めてだったが、実は葵は古い言い方をするとデビューしてから結構長いオナペットだから、もちろん葵に伝えないけど、葵とのセックス、僕はなぜだかちゃんとできるような気がして、気付けば膣に挿入し腰を前後に振り、葵の喘ぎ声と僕の生っぽい吐息は混じって、頭の中はぐちゃぐちゃだけど、僕は秒で、というか数秒で膣の中に射精して果てると、僕は代わっていた。 邪魔だと退かされた僕は壁に背をつけ、撮影機器の準備に手こずった撮影監督に代わって、葵は僕と違った妖艶な表情を息の荒いその男に向けて、これも業界で生き残る処世術なんだと妙に納得し、手にジーンズとトランクスを丸めて持った僕は下半身裸のまま廊下に追い出され、ドアの隙間から室内を覗くと助監督がハンディカム片手に撮影監督と葵の濃厚なセックスの様子を撮影していて、これもきっと何かの担保なんだと僕は僕を納得させ、ドアをゆっくり閉めて、廊下の壁にもたれて座り込んだ。 廊下には撮影監督の荒い息遣いと、葵の営業というか宣伝用の異様に高い喘ぎ声が交互に響き、僕は卑猥なその音響と室内で繰り広げられる妄想で、勃起したペニスは二度射精した。アダルトビデオを観てしごくオナニーのように。違うのは亀頭をティッシュで覆っていないから床が僕の精子で白く汚れた。 射精後も変わらず撮影監督と葵の艶めかしい共同作業は続き、僕のペニスがゆったりと勃起するのがわかって恥ずかしさで僕は笑った。
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2024/03/04 00:00:12(ZjAe4635)
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