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1:若き淫獣
投稿者:
ユウイチ
十一月半ばの夕刻は陽の落ちるのが早く、六時を過ぎると外はもう真っ暗になる。
守田雄一は六畳の居間の座卓に向かい、母の手作りの夕食を食べていた。 「雄ちゃん・・お母さん出かけるわね」 閉ったままの居間の戸の向こうから、母の真由美の気弱げな小さな声が聴こえてきた。 黙ったままの雄一の返事を待つことなく、母が玄関に向かう気配がした。 重い鉄製の玄関ドアが閉まる音を聞いて、雄一は箸を止めてすっかり暗くなった窓の外に力のない視線を向けた。 土曜日の夕餉のこの時間に、母はおそらく入念に化粧を施して外出したのだろう。 夕刻のこの時間帯に母の真由美が、息子の雄一に申し訳なさげに出かける場所を雄一は知っていた。 今日の昼過ぎに雄一の携帯にメールが入っていたのだ。 (今夜、ダチが来る。お前の母親を抱きたいと。その後でお前だ。待ってろ) それだけの短く簡潔なメールだった。 送り主が誰なのかは雄一には当然わかっていた。 ぼんやりと暗い窓に目をやっていた雄一の胸の中で、色々な複雑な思いが交錯していた。 箸を茶碗の上に置いて雄一はそのまま上体を後ろに倒し、カーペットの上に寝転んだ。 今しがたの母の気弱な声を聴いてから、雄一の食欲は見る間に失せていた。 小さな染みがあちこちに浮かび出ている木目模様の天井を見るともなしに目をやっている雄一の心の中には、何か得 体の知れない小さな動物がいて、狭いスペースの中で何かむず痒く蠢いているような思いに捉われていた。 誰にもぶつけようのない忸怩感と、やり場のない慙愧と悔恨の思いと、雄一にしかわからない身を焦がされるような くらいの焦燥感が渦巻いていた。 そして雄一の頭の中の血を最も熱く煮え滾らせていたのは、それこそ誰にも話すことのできない母の真由美へのどす 黒い嫉妬の思いだった。 雄一の胸の中にさらにもう一つの嫉妬心があった。 それは今母が訪ねようとしている人物に対してのものだった。 母は同じこの市営住宅の三階に住む男の一室をたずねて行くのだ。 三階の三百二号室に住むその男の名は津川明といって、年齢は二十七歳という若い独身の男で、半年ほど前にこの市 営住宅に転居してきた人物である。 片親の母親が病気で長く病院に入院していて、今は一人暮らしをしている。 雄一への不快なメールの送り主がこの津川だった。 母は自分の息子よりもまだ五つも若いこの津川に抱かれるために、室を訪ねようとしているのだった。 普段はあまりすることのない化粧を施して、母の真由美はいつも行先を告げることなく出かけていくのだ。 それは週に一回の時もあれば、多い時は三、四回になることもあった。 母の真由美の年齢は六十三歳である。 普通にいえば女としてはもう老い枯れた年代である。 それが自分の息子よりまだずっと若い男に抱かれに行くのだ。 二廻り以上も年下の若い男のほぼ言いなり状態になって、息子の雄一からすると今は足しげくとさえ思えるほ ど津川の住む室に通い詰めているのだった。 そういうことがもう三ヶ月以上も続いている。 そうなるには当然の理由と事情があって、当事者の母の真由美と息子の雄一と、そして相手の津川の三人だけ である。 半年ほど前、病気療養中の母と二人で津川はこの市営住宅団地に転居してきた。 母親は病院に入院したままで、室に住むのは若い津川一人だけだった。 大学時代にラグビーに所属していたという津川は、身長は百八十六センチで体重は九十五キロというまるで 岩のようながっしりとした体躯をしていた。 大手の警備保障会社に勤務しているとのことだった。 雄一の母の真由美は持ち前の明るい性格と誰とでも屈託なく話せる性分もあって、団地の自治会の役員をもう 長く勤めていた。 当然のように新しい入居者、特に母親が病気で入院中という若い津川に対しても、団地の決め事や行事などを 親切且つ細やかに教えた。 息子の雄一から見ても、おせっかいなほど人の世話を焼くのが好きな母だった。 母の真由美は六十三歳という実年齢よりは、色白なせいか外見的にはかなり若く見える。 ほとんど白髪状態の髪を染めることなく裾を短く刈り上げたボーイッシュなヘアスタイルで、目鼻立ちもくっ きりしていて、背丈も百六十センチを有に超えながら体型的には細身というよりは華奢な感じに見える。 輪郭のすっきりとした顔立ちで、濃い眉の下の少し奥目がちの切れ長の目とつんと高く尖った鼻先と、かたち のいい唇が息子の雄一も気に入っていたところだった。 六年前に夫を不慮の病で亡くしてから、息子の雄一との二人暮らしである。 若者一人だけの団地暮らしで戸惑っていた津川に、雄一の母の真由美は人一倍の親切心を発揮して援助を惜し まなかった。 その母を津川は入居して二か月も経たないある日の午後、自分の室で力尽くで蹂躙し犯したのだ。 雄一はその日、仕事の出張で遠方に出かけていて不在だった。 後日に分かった話で、母は朝方近くまで津川の室に閉じ込められ、おぞましい凌辱の限りを尽くされたのだっ た。 雄一がそのことを知ったのは、それから二ヶ月も過ぎてからのことである。 それも加害者である津川自身の口から雄一に直接知らされたのだ。 そして母の屈辱の事実を知らされた日、津川の住む居宅の中で、男である雄一もいきなり襲われ、母と同じよ うな陵辱の憂き目に遭わされたのだった。 男である津川に男の雄一が衣服を引き剥かれ、唇を思うさま吸われ、身体中の至る部分に舌と手を這わされ、 臀部へのつらぬきを長い時間受け続けさせられたのである。 雄一には当然初めての驚愕の体験だった。 布団の上に素っ裸で四つん這いにされ、雄一は夜の遅い時間まで何度も津川の太いものによるつらぬきを受け 続けたのだった。 この時のことで雄一が鮮明に記憶していることがあった。 自分よりも年下の男の暴力に屈し、男でありながら犯された雄一が惨めな敗北感とおぞましい屈辱感に打ちひ しがれ帰り支度をし始めた時、 「おい、お別れのキスぐらいしていけや」 と布団の上に仰向けになっていた津川の声が聴こえた。 津川の太い丸太のような足元で身を細めるように正座していた雄一だったが、拒む姿勢も見せずゆっくりと振 り返り、まるで自然な動きのように煙草の煙を上に吹き上げている男の顔に顔を近づけていった。 津川の汗にまみれた大きな胸板の上に身体を預け載せるようにして、雄一は自分の顔を相手の顔に近づけてい った。 津川の分厚い唇に雄一はまるで自らの意思でもあるかのように、静かに唇を重ねにいったのだ。 この数時間の汚辱の時間で何度も嗅がされたビールと煙草の入り混じった臭いが、雄一の口の中に一気に充満 した。 そしてこの時の雄一にはこの臭いに対する嫌悪感はほとんど失くなってしまっていたのだった。 「また・・抱いてほしいか?」 長く口の中で舌と舌を貪り合った後で、その頑丈な体格には似合わないような猫なで声で、津川が尋ねてきて、 雄一はどうしてか、こっくりと首を頷かせていたのだった。 それが二ヶ月ほど前の出来事である。 ある日の午後、休日だった雄一が買い物から帰り階段横の郵便受けを覗くと、宛名も差出人も書かれていない 白い封筒が入っていた。 また新しい類の広告か何かだと思い、雄一はそれを室まで持ち込み他愛もなく封を開けた。 数秒の間もなく雄一は怒髪天を抜くような驚愕に晒された・・。 この団地にもう長く住む母の真由美は自治会の の市営住宅で一人で暮らしている。
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2020/10/21 16:05:04(94XuzdOR)
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