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1:引明けに咲く花
投稿者:
溯
◆t3t4fyDiJo
第1章 桜
ーーー早く高校生になりたいーーー 幼い頃からそんな風に思っていた。 頭上に咲き誇る花に春の香りを感じながら新品のローファーをコツコツと鳴らして歩く。 数日前に高校の入学式を迎えた彩香は桜が満開に咲く通学路をまだ慣れない足取りで学校に向かう。 彩香の入学した照星高校。地元では照高(てるこう)と呼ばれるこの高校の偏差値の高さは市内でも三本の指に入るほど高い。 彩香がこの高校を選んだのにはある理由があった。 杉崎彩香。成績優秀、スポーツは中学でテニス部に入り、3年生の時は部長を務めた。明るく優しい性格は皆に好かれ、160センチの身長からすらっと伸びる手足、端正な顔立ちでセミロングの髪をなびかせ、つい最近着始めたはずの照高のセーラー服も完璧に着こなしている。 しかし、彩香は決して完璧な天才というわけではなかった。 田島健人。彩香が見つめる先には常に彼の存在があった。長身だが程よく筋肉が付き、髪は短いが無造作にボサッと立っているのが印象的な健人は、成績はそこそこだったが、バスケットボールで選抜チームにまで選ばれ、健人はバスケットボールが盛んな照星高校に推薦入学することが決定していた。 彩香と健人は小学校の頃から幼なじみで家が近かったため、小学校の頃はよく一緒に遊ぶ仲だったが、中学に入学した後、クラスが一緒にならなかったこと、またお互い恥じらいなどがあったため、次第にすれ違った時に挨拶を交わす程度になってしまった。それでも彩香はずっと健人に想いを寄せていた。 (オレ、高校は照星に行ってバスケやるんだ。) 小学生の時に健人が何気なく言ったこの言葉から、彩香は健人を追いかける一心でスポーツ、勉学共に努力し、照星高校へ入学を果たしたのだった。 入学式の日には彩香は飛び跳ねるほど喜んだ。幼なじみの健人と同じクラスだったのだ。 彩香は今日も健人に会えることを楽しみにして学校に向かった…。 授業終了のチャイムが鳴る。 彩香の席から斜めに4席ほど前に座る健人の後ろ姿を見ながらまだ授業とは言えないオリエンテーションを終えて放課後になった。 真希「彩香!じゃあね!」 彩香「うん!また明日!」 入学式の日から仲良くなり始めた友達の真希と挨拶を交わし、彩香は教室で健人の姿を探すが、すでにその姿は無かった。 彩香「いるわけ…ないよね…。」 部活動が始まっていない今だったら健人と一緒に帰れるかもしれない。そんな淡い期待をしていた彩香は少し残念な気持ちで教室を後にする。 新入生が次々に下校して行く中、彩香も昇降口に行き靴を履き替えようとすると、遠くから聞き覚えのある音が聞こえてきた。 それは体育館に響くボールの音だった。 彩香は靴を履き替えるのをやめると足早に体育館に向かった。おそるおそる覗き込むと、そこには一人でバスケットの練習に励む健人の姿があった。 180センチの長身から放たれたスリーポイントシュートが見事に決まる。隠れて覗き込んでいた彩香だったが、思わず健人に見とれてしまい、ただ見つめてしまっていた…。 何本目かに健人が放ったシュートがリングに弾かれ、まるで彩香に向かうかのように体育館の入口へと転がった。ボールを追いかけた健人は自分を見ている彩香の姿に気づく。 健人「あ、杉崎…。」 少し照れ臭そうにしながら健人が会釈する。 彩香「ごめんなさいっ!…覗くつもりはなかったんですけど…。」 久しぶりに想いを寄せる健人と話したことで敬語になってしまう。 健人「なんだよかしこまって。昔からの仲だろ。」 笑顔で答える健人と目が合い、彩香は平静を装いつつも耳が真っ赤になるほど照れてしまう。 彩香「ご、ごめん…バスケット、頑張ってるね。」 健人「え?…ああ、このまま帰ってもやることなかったし…。そろそろ帰ろうかと思ってたんだ。 彩香の「あ…そうなんだ…。」 彩香は勇気を振り絞って一緒に帰ろうと言おうとするが、どうしてもその一言が言えない。 健人「…あのさ…良かったら…一緒に、帰るか?」 彩香「え…?う、うん!」 思ってもみなかった健人からの誘いに彩香は全力の笑顔で答えた。 帰り道…。2人は自転車を押しながら横並びに歩く。 健人「そういえばさ、杉崎は高校でテニスやるの?」 彩香「どうしようかな…。あたし、本当は運動って得意じゃないから…。」 健人「元テニス部の部長が何言ってんだよ。杉崎ならいいところまで行けるって。」 彩香「そ、そうかな…。」 彩香は高校でテニスを続けることはもちろん視野に入れていたのだが、高校の部活にはマネージャーという役職があることも知っていた。 彩香「テニス部もいいけど…あたし…バスケ部のマネージャーになっちゃおうかな。」 いたずらっぽく笑いながら健人に答える。 健人「ちょっと勿体無い気がするけど…杉崎がそうしたいなら…オレはいいと思うよ。」 彩香は健人の返答を聞き、健人の夢を応援したい…その気持ちからバスケ部のマネージャーになるという選択肢も視野に入れるようになっていった。 会話は弾み、いつの間にか自転車を押す2人の距離も近づいていった。彩香はずっとこの時間が続けばいいとさえ思ったが、とうとう彩香の自宅前に到着する。 健人「それじゃあ、また明日!じゃあな!」 彩香「うん!健人くん、またね!」 彩香が手を振ると健人は自転車に乗りながら手を上げて答える。彩香は自転車をこぐ健人の後ろ姿をしばらく見つめていると、健人が急に自転車を止めた。 健人「また一緒に帰ろうな!」 振り向きざまに彩香に向かってそう言い放つと健人は再び自転車を漕いで帰っていった。
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2018/04/15 02:04:20(fCAdmIyP)
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