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1:姉への想い -聖なる夜の贈り物-
投稿者:
ユキダルマ
街は煌びやかなイルミネーションで彩られ、鐘の音やこの日のための音楽とともに、道行くカップルや家族たちの楽しげな笑い声で溢れかえっている
赤と緑と白の完成されたバランスが、全ての場所で目を楽しませ、歩く先々から香ばしいチキンや甘いケーキの匂いが漂い、この日のムードを街全体で高めている なのに私は一人、部屋でテレビを見ている 家族もなく、愛する者は更に愛する者とともに小さなパーティーでも開いているのだろうから、私は必然的に一人でいるしかない 一人でいるのも寂しいので、特に用事もないが、昼過ぎになってから街を歩いてみたが、この街は一人でいる者を拒んでいるかのような空気が充満していたため、私は更なる孤独を感じ、そそくさと部屋に戻ってきた この日は、日本中どこの場所にいても同じなのだろう テレビ番組でさえもが私の気持ちを高めさせてくれない はぁぁ・・・優美子に会いたい・・・ 優美子は春菜と一緒に、可愛いケーキを目の前にフライドチキンやピザでも食べながら、このシーズンだけ販売しているアルコールの入っていないシャンパンもどきを飲んでいるのだろう 春菜にはプレゼントをもう渡してくれたのだろうか、優美子も小さな箱を開けてくれただろうか 喜んでくれているとは思うが、その表情も見ることができない はぁぁ・・・優美子に会いたい・・・ まぁいいさ、私は本物のシャンパンを一人で飲もう 街に出て唯一買ってきた“モエ・エ・シャンドン・ネクター・アンペリアル・ロゼ” このピンク色の本物のシャンパンは、ワインの豊富なお洒落な酒屋で7000円近くした アルバイトであろう若い店員はサンタクロースのコスチュームで、笑顔を絶やさず、このシャンパンをキレイにラッピングしてくれた 私は“これからパーティーに持っていくんだ”とでもいうような雰囲気を出し強がっていた ラッピングを待っている間、店内を散策すると、世界中のチーズが並ぶコーナーがあったため、じっと眺めていると店主らしき中年女性が、「サービスね」と言って、小さなチーズをくれた 今日は冷蔵庫に何もない チキンでも買ってくればよかったが、それだけはなぜかプライドが許さなかったので、小さなチーズを食べながら、高いシャンパンを飲むしか腹を満たす方法はない はぁぁ・・・優美子に会いたい・・・ ピンポーン♪ シャンパンを開けようとしたその時、インターフォンが鳴った ん? 何? 私は受話器の横にあるボタンを押し、モニターを点けると、真っ黒な映像が現れた え? あれ? 私は慌てて受話器をとり応答した 「はい?」 「おにいちゃーんっ! 来たよぉー!」 優美子の声とともにモニターがパッと明るくなり、そこに優美子の顔のアップが現れた 「え? 優美子? 何で?」 「いいから開けて、今から行くからっ」 「あ、あ、うん」 私は慌ててオートロックの解除ボタンを押し、自動ドアを開け、受話器を戻した 心臓がドクドクと波打つとともに、自然と顔がニヤけていることが自分でも分かった きた、きた、優美子が来たっ! やった! 嬉しい! ピンポーン♪ 部屋のチャイムが鳴った 玄関で待ち受けていた私はすぐにドアを開けた 「メリークリスマースっ!」 「え? あれ? 春菜?」 そこには、サンタの帽子を被り、両手にケーキの箱を重そうに持った春菜が満面の笑顔で立っていた その後ろには優美子が居て、同じように満面の笑顔を浮かべている 「あれ? あれ? あ、あ・・うん・・メリークリスマス」 「何、驚いてるのよ」 「え? えええっ? お姉ちゃんっ!」 優美子の後ろから更に、姉の恵美が出てきた 「いや、だって、来るって聞いてないし・・・」 「早く入れなさいよ、寂しいだろうと思って、ご馳走持ってきてあげたんだからさ」 「あ、う、うん・・」 私はあまりのことに頭の中をオーバーフローさせながら、3人を部屋の中に招き入れた 「わぁ、すごーい、ママの言ったとおりだぁー」 カーテンを閉める習性のない私の部屋に入り、春菜が窓越しに見える街の光を見て感嘆した 私は春菜に自慢のベランダを見せることよりも、優美子がここに来た経験があることを姉が知っていわけがないので、姉が春菜の言葉に疑念を持ったかどうかが気になり、姉の顔が見れず、黙ったまま春菜がテーブルに置いたケーキの箱を冷蔵庫にしまっていた 「ほんとぉ、すごいわぁ・・・ゆうちゃん、いいとこに住んでるのねぇ」 「う、うん・・そうでしょ・・・」 姉が窓を開けて春菜をベランダに連れていきながら私に言った 私は、気の利いた言葉も言えずにいた 優美子はそんな私を見てニヤニヤしていたので、私は姉と春菜が街の光を見ているすきに、声を出さず“どういうことだよ”と口を動かし優美子に問いかけたが、優美子はまるで“知らなーい”とでも言うようにそっぽを向いて、姉が持っていた食べ物をキッチンに運んだ 「さ、クリスマスパーティーの準備をしましょう」 「はーい」 はしゃぐ春菜を連れて部屋に戻った姉が言うと、さすがはこのルーツの頂点にいる者というか、姉の統率の下、3人がそれぞれの働きをテキパキとし、あっという間に私の部屋がパーティー会場になった テーブルにはグリーンのクロスが敷かれ、その上は、にレンジで温められたチキンやポテトフライなどがレタスやトマトとともに銀の皿に色鮮やかに並べられている 皿の端には、いつの間にか私がもらったチーズが三角に切られ置かれていた その周りには、4枚の白い皿と4本のフォーク、それに3つの細長いグラスと小さなコップが一つ、囲むように置かれている テレビの横には小さなツリーと中にユキダルマが入ったスノードームが置かれていた これは春菜が「うんしょ・・うんしょ・・」と言いながら一生懸命に箱から出して飾ったものだ 「さ、はじめましょう じゃあ、ゆうちゃんはこれを開けて」 シャンパンもどきを渡されたので、3人のいない方向に瓶の口を向け、指に力を入れた ポーンっ! 勢い良く蓋が飛んだ 「きゃあーーー」 春菜が大喜びするので、真っ先に春なのコップについだ 春菜はどこで覚えたのか「おーっとっとっとっとっと」と、居酒屋にいるオヤジが日本酒でもつがれるかのような仕草をし、私たちを笑わせた 次に姉のグラスにつぎ、最後に優美子につごうとすると、姉が口を挟んだ 「優美子、お酒飲めるんでしょう? ここに高そうなお酒があるわよ」 「ほんとに高かった」 「そうなの、いくら?」 「7000円くらい」 「あらぁ、一人の割に豪勢ね 優美子っ! こんな機会じゃなきゃ飲めないんだから、飲んじゃいなさいよ」 「あ、うん・・じゃあ・・」 私はシャンパンもどきと同じように、高いシャンパンを開けた ポーーーーンっ! こころなしか、本物のほうがいい音がした気がした 「おさけはいったほうが、キレイなおとがするぅ」 うん、うん、春菜はよく分かってるぞ 私は優美子のグラスと自分のグラスにシャンパンをついだ 「じゃあ、かんぱーーーいっ!」 グラスを軽くぶつけ合い、4人はそれぞれの飲み物を一口ずつ口に運んだ 「うまっ!」 「ほんと、おいしぃっ!」 私と優美子がシャンパンの味に感動し、それを見た姉が「美味しそうね 私はきっと美味しいとは思わないけど」と言い、シャンパンもどきにもう一度口をつけ「こっちのほうが美味しいよね、春菜」と春菜の同意を求めると春菜がこくりと首を振った 姉は春菜の皿に少しずつ食べ物をとってやっていた 私はそれを見ながら、自分の皿にとってやったチキンにかぶりついた 優美子はサラダとチーズを食べながら、私よりも早くシャンパンを減らしていっていた 春菜は姉が盛ってくれた食べ物を頬張りながら、私がプレゼントしたおもちゃのキャラクターの話をつたない言葉で途切れることなく話し続けた さっきまで暗く澱んでいた私の部屋は、3人の訪問により街で見た光景と同じような浮かれた空間となった 私の沈んだ気持ちを一気に高揚させてくれた ・・・ま、いいか、優美子と二人じゃないけど・・・やっぱりクリスマスはこうじゃないとな 私と優美子は二人でシャンパンを空け、あまり酒の強くない優美子は顔を真っ赤にしてソファにもたれ掛かり、ケーキなど食べられる状況ではなかったため、切り分けたケーキを3人で食べた チョコレートで出来たサンタの家は当然ながら春菜のケーキの上に乗せられた 春菜は口の周りをクリームやチョコレートで汚しながら、美味しそうに食べ、私はそんな春菜を見て、こんな小さな体によく入るな、と思いながら自分のケーキを少しずつ食べた ひとしきり食べ、腹を満たした私たちは、テレビを見ながらまったりとした空気を過ごした 春菜がテレビに夢中になっていて、優美子は・・・使えない状況になっていたのを見た私と姉は二人で後片付けを始めた 私はキッチンに皿を運ぶだけし、洗い物は姉がした 姉に、さっきまで一人でいたので少し寂しかったけどれど、3人のおかげで楽しいクリスマスになったことを話すと、姉は、春菜が誘ってくれたのだから、春菜に感謝しなさいよ、と言ったので、春菜にありがとうとお礼を言うと春菜は「どういたまして」と間違った言葉で返してきたため、姉と二人で吹き出した 優美子は完全に眠っていた 姉がコーヒーを入れてくれたので、二人でゆっくりと飲もうとすると、姉がキリマンジャロが置いていないことに文句を言うので、モカ派の私と対立し、軽く議論がなされた 「おばあちゃん、ねむーい・・・」 春菜が目を擦りながら姉に言う 「じゃあ、そろそろ帰ろうか」 「帰るって、こんな時間から帰ったら危ないよ」 「私たちそこのホテルをとっているのよ 来る前にチェックインしてきてるのよ」 「あ、そうなの? そうだよね 優美ちゃん、帰る時間だってさ ほら、起きて」 私が優美子の肩をさすると、眠そうな顔で起き上がった 「優美子も眠そうねぇ そうだ、私は春菜とホテルに戻るから、あんたはここで寝させてもらったら? 一人分くらい布団あるわよね?」 私は姉の提案にドクンと胸を弾ませた 「いや、ないよ」 「じゃあ、あんたはソファで寝れば?」 「あ、うん・・そうだね・・うん、それでもいいけど・・・」 「ツインでとってて、春菜と優美子は同じベッドで寝ることにしてたのよ 丁度いいわ」 「でも、優美ちゃんは・・いいのかな?」 私は自分でもおかしいと思うくらいわざとらしく言っていた 「私は・・・いいけど・・・」 優美子は、なぜか姉の顔色を伺うように答えた 「じゃあ、ご厄介になっちゃったらいいわ 明日の朝、そうね9時くらいにホテルのロビーで待ち合わせね」 「あ、うん・・・」 姉は、半分目を閉じている春菜を抱きかかえて玄関に向かった 「じゃあ帰るわね おやすみ」 「ママ、おやすみぃ」 姉と春菜が言う 私と優美子は二人を見送り、おやすみと返した 私は二人がエレベーターで降りたことをドアスコープで確認し、玄関の鍵を締め、部屋に戻ると、優美子がソファの上にクッションを置き寝転んでいた 私は由美子に駆け寄った 「優美子・・・まさか今日、二人きりになれると思わなかった・・・」 「うん・・・ゆみこも・・・」 「二人に感謝しなきゃいけないな」 「うん、そうだね・・・」 私は寝転んでいる優美子の髪に指を入れ、そのまま手を頬に滑らせ、そっとキスをした 「酔ってない?」 「うん、酔ってるけど、大丈夫」 「二人のクリスマスはこれからだね」 「うん・・・優・・・ベッドに連れていって・・・」 「うん・・」 私は優美子の膝裏に腕を入れ抱き上げた 優美子は私の首に腕を絡め、胸に顔を埋めた 私は、優美子を抱えたまま、ベッドに歩いていき、その途中で部屋の明かりを消した 部屋の中には、煌びやかな街の光だけが入り、星空の下にいるような空間となった 私と優美子、二人だけのクリスマス 独り者を拒んだ街は、二人になるとこんなにも優しく包んでくれるのか あぁぁ・・・優美子に会えた・・・幸せだ・・・ 優美子は優二に抱きかかえながら思い出していた 母に抱えられた春菜が、帰りがけ、優二に見えないように優美子にウインクしたことを 春菜を抱えている母が、優二に見えないように春菜を抱えたその手でブイサインを優美子に送ったことを ありがとう、春菜 ありがとう、ママ 最高の贈り物だよ ―― 完 ――
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2011/12/25 00:47:39(xS/cR8jK)
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