（さて、これから何をするか・・・・・）
退院して１週間。僕は自分のマンションに戻っていた。
僕の親は田舎の資産家で、このマンションは兄と２人で暮らしている。
兄はお金持ちの子女が多く集まる某私立大学の文学部でフランス文学を専攻している。
もちろん変態な兄が、フランス文学などという極めて芸術的な分野に興味を覚えているはずもなく、目的はそこに集まる良家の令嬢を陵辱することらしいのだが、それはまた別の話・・・・。
きっと今日もどこかのSMホテルで、弱みを握った女をヒィヒィ言わせているのだろう。ヒヒヒヒヒヒ・・・・・さすがは僕の兄さんだ。尊敬に値するぜ。
（いかん、いかん・・・妄想にふけっている場合じゃないんだ）
僕は軽く頭を２，３回振って邪念を振り払うと、今後の計画について思いをめぐらせる。計画とはもちろん＜マスター＞と裏切った写真同好会２人に対する復讐劇についてだ。
（学校に戻るのはまだ・・・・早い）
スパイを使って学校の様子を探る。これが最初に出した結論であった。学校に戻ったところで、また＜マスター＞に操られた者に暗殺されたのではたまったものではない。それに・・・・・
（委員長のことも心配だしな）
僕は委員長を愛していた。たとえそれが捻じ曲がった、そして間違った愛だとしても僕は委員長のことを愛していた。だから、自分自身が学校に赴けなくても、誰かを使って早急に学校の様子を策的させることは必要不可欠なことであった。
（・・・・・・誰かを使ってか・・・・・）
僕は右手に握り締められている木刀に目線を移す。そこには＜影斬の木刀＞がシン、と水を打ったような厳かでそこに佇んでいた。＜マスター＞の力に対抗できる唯一の武器。
効果については、入院していた病院で立証済みであった。基本的には相手の影を一閃すると相手は自分の言うことに服従するのだが、その効果には限界があった。
つまり陽が陰り、影が消失してしまうと、その服従の効果はなくなってしまうのだ。しかも、その効力の強さは個人差があるということが判明していた。
つまり、自分を警戒していないものに対しては影を斬るだけで簡単に、肉体のみならず、その精神までも屈服させてしまうことができるのだが、自分の姿を見て警戒している者に対しては影を斬っても行動を制限するにとどまり、精神までも支配することはできないのだ。
担当の看護婦は自分のことを患者としか見てなかったため、簡単に＜斬る＞ことができたが、他の入院患者に対して同様のことをしても、自分の命令に対して身体こそ言うことは聞くものの、口では「やめて、やめて！」と激しい抵抗をして、精神支配までには至らなかったのだ。
（まぁ、それはそれで、嫌がる女が無理やり自分にマタを開くわけだから、いいんだけどな・・・ふひひひひ）
まずは＜斬斬の木刀＞を使い、僕の子分を作る。そして学校の様子を探り、今後の対抗策を練る。地味ではあるが、戦国時代においても策的を用いて敵国の実情を掴むのは常套である。信長の野望でもそうだったはずだ。そして三国志でも・・・。
（それにしても・・・）と僕は大きくため息をついた。
陽が灯る時のみの剣士。影がないと何もできない。曇りに弱く、雨に弱く、夜に弱い・・・・・。
（なんて弱そうなんだ・・・・）
前途多難だぜ、と僕はつぶやいた。
　　　　　　　　　　　　　

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