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官能小説『狭間』
カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:ノンジャンル 官能小説   
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1:官能小説『狭間』
投稿者: アナゴ ◆2PrHYfpz5k
聞いた話では、どうやら台風が接近しているらしい。表では強く弱く雨音と風鳴り。どこかの看板だかゴミ箱だか、ガンガガンガンと左から右へ。外は真っ暗でよく解らないけど、街灯の下で雨と風は相当激しい。シャッターも閉まり看板も消えた真夜中にポツリ、とあるコンビニ。こんな日に客など一人も来やしない。私は心細さに漫画を読んだり、眼鏡を拭いてみたりする。
 自動ドアが開く。と同時に湿った風と激しい雨音。そして暗闇の中から濡れねずみになった中年の男が入って来た。
「いらっしゃいませー」
 男は骨が一本折れたビニール傘を畳み、真っ直ぐレジへとやって来た。私は公共料金の支払いかと思い、レジのタッチパネルに指を置く。しかしその男は私の前に立つなり、いきなり大きな声で怒鳴った。
「おい、ねぇちゃん。お前んとこじゃ腐ったもん食わせんのかよ」
 カウンターの上に食べ残しのおにぎりが無造作に投げ出された。
「あ、え……と」
 頭の中でこのような苦情に対する対処法マニュアルを必死になって思い出そうとした。何度かこういう客が来たこともあるが、たいてい偏屈な婆さんかボケかけた爺さんだった。賞味期限を確認しようと思ったが包装は無く、海苔と米粒だけが剥き出しのまま、カウンターにその無惨な姿を晒している。
「あの……包装されていたビニールなどは?」
「んなもん捨てたに決まってんじゃねぇか」
 とりつくしまもない。
「い、いつ、お買い求めですか?」
「今日に決まってんじゃねえか」
 この時点で頭の中のマニュアルはただの紙切れとなった。神経質そうな細い目。歳は四十も終わりぐらいか。酒臭い息で酔っ払いだとすぐ分かる。顔を赤くしてツバを飛ばしながらレジの向こうでがなり立てている。何を言っても無駄かも知れない。そう思うと、だんだん怖くなってきた。
「店長いねぇのか店長!」
「す、すいません、あいにく今日は居ないんです」
「じゃぁ、あんたが責任者になるんだな。どうしてくれんだよ、腐ったモン食わしやがってよ!」
 いや、私はただのアルバイトで、今日もさっき出勤したばかりだし。
「あ、あの、お代はお返しいたしますので……」
 
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2012/02/07 07:48:09(S1AoSI9D)
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