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1:祈
投稿者:
サー
恋愛は時に宗教にまで発展することがある。
愛や恋などといった陳腐な言葉では言い表せない、ある種、神聖なまでの感情。 通常、男女は肉体的、そして精神的に一体となることにより充足感を得る訳だが、宗教にまで発展した恋愛は、絶対者である相手に対して自分は無であり、決して語りかけてくることの無い相手をただただ崇拝するのである。 今から五年前、俺は千津子という運命の女性と出逢った。 完全な一目惚れであった。 顔、声、身のこなし方、その全てが魅力的で、会話からは頭の良さが伺えた。 千津子は人見知りのする女性だったが、一度気を許すと、持ち前のざっくばらんな性格を露わにし、俺はすぐにうち解けることが出来た。 俺達はとても気が合った。 頻繁にメールのやりとりを行うようになり、飲み会の席ではよく話をした。 趣味や物の考え方、過去の事など、千津子は色々なことを話してくれた。 俺は千津子のことを深く知るにつれ、彼女の人間的な魅力に惹きつけられていった。 様々な国を旅してきたという千津子は、あらゆる意味において経験豊富で、服のセンスや態度なども周りの同年代の女性に比べ、圧倒的に洗練されていた。 おっとりとした話し方だが、ハッキリと意見を言い、その歯に衣着せぬ発言に、周囲から生意気な女ととられる事があるかも知れないが、内実は、相手を思いやる優しい心の持ち主で、男女問わずみんなに好かれていた。 そんな魅力的な女性を世の男がほっておくはずは無く、千津子は独身だったが、彼氏がいた。 その彼氏とは10年くらい付き合っているらしく、千津子は時折その彼氏の話をした。 俺はそれを聞く度に胸が痛んだ。 俺は千津子に恋していた。 千津子の言動に一喜一憂し、彼女を想うと胸が苦しくなった。 千津子からのメールが待ち遠しく、日に何度も携帯を見てしまう。 そして、彼女からメールが送られてくると、嬉しさに心は踊った。 久しく味わったことの無い甘い感覚だった。 俺は事あるごとに千津子と会う機会を設けた。 いつも複数ではあったが、千津子と過ごす時間は楽しくて仕方なかった。 ただ一緒にいるだけで、何か自分が肯定されているような気がした。 美しいものと一緒にいると、人はそういう気分になるものなのだ。 俺は日毎に募る、千津子への想い、で悶々としていたが、決してそれを気付かれないように努めた。 自分が自意識が強く消極的な人間であることを自覚している俺は、心の内を他人に悟られる事を何よりも恐れていて、いつも‘あるキャラクター’を演じる事でそんな自分を隠すのだ。 千津子は俺より3つ年上で、そんな千津子に対して俺は屈託のない明るい弟のように接した。 千津子もそれを楽しんでいるようで、軽口をたたく俺を姉のようにたしなめる。 そんな関係を続ける中、俺は幾度か千津子への想いを冗談交じりに打ち明けた事があった。 しかし、千津子はそんな俺を子供扱いして、取り合ってくれなかった。 俺の想いは日増しに強くなる一方だった。 そんな俺をよそに、千津子は彼氏との旅行の事など、何気なく話すのだ。 俺は平然を装いながらも、彼氏と性行為にいそしむ千津子を思い、気が狂いそうなほど嫉妬した。 あらゆる格好で交わる千津子のイメージが頭の中を次々と駆け巡り、離れない。 それは拷問だった。 そして、俺は千津子へのふしだらな想いを、自慰行為で慰めるようになった。 千津子の写真を見ながら様々な妄想をした。 千津子を用いて行う自慰行為は、今まで行ってきたそれよりも数倍強い快楽だった。 そして、それに伴い射精後の虚しさも強く、ひどい自己嫌悪に苛まれた。 妄想とはいえ、千津子を汚す事には後ろめたさを感じ、俺は事を終える度に落ち込んだ。 しかし、そうした自責の念に苦しみながらも、俺は止める事が出来なかった。 その行為は毎晩行われるようになり、妄想は次第にエスカレートしていった。 それまでごく普通の性的欲求しか持ち合わせていなかった俺だが、千津子に対する欲求は止まることを知らず、常軌を逸したものになっていた。 俺は千津子の全てが愛おしく、その全てを受け入れたい、という欲求は抑えきれないところまできていた。 もう以前のように、千津子の前で陽気に振る舞う事は困難になっていた。 激しい欲求と、それに対する罪悪感からとで、千津子の顔をまともに見れないのだ。 感の鋭い千津子は、そんな俺の変化を見逃さなかった。 千津子は俺の想いが真剣である事を悟ったようで、それは節々に感じられた。 自意識過剰の俺は、恥ずかしさから段々千津子を避けるようになり、メールでのやり取りもなくなっていった。 俺は悲しくて仕方なかった。 千津子は俺にとって特別の女なのだ。 何もかもが最高だった。 そして男がいる事を承知の上で、俺は千津子を愛した。 一方的な愛ではあったが、これほどまでに一人の女に恋い焦がれる事はこの先も無いだろう。 俺は千津子と愛し合う事の出来ない運命を呪い、そして何よりも自分自身を呪った。 愛は一転、暴力衝動へと変わり、増悪に燃えた俺は、妄想の中で千津子をメチャクチャにした。 引き裂かれ、血と排泄物にまみれた千津子、その腹は抉られていて、俺はそこにペニスを突き立てると狂ったように掻き回す。 みずからの排泄物で汚れた千津子の顔を貪り舐め、血まみれの内臓に射精するのだ。 妄想に終わりは無い。 スカトロにカニバリズム。 俺は延々と自慰行為を行い、射精を終える度、泣いた。 妄想の世界に閉じこもり、一日中千津子を貪った。 俺はただの変態性欲者かも知れない。 そんな毎日を過ごしていたある日の事、その日も数え切れないほどの射精を行い、精の枯れ果てた俺は、虚ろな目で千津子の写真を見ていた。 写真の中では汗ばんだ顔の千津子が笑顔でこちらを向いている。 しばらくそうして見つめているうち、俺は欲情とは違う何か神聖な感覚に包まれた。 千津子の姿は神々しく、俺は全てを許されているように感じた。 その時、俺は全てを理解した。 神託だった。 俺が持つ、千津子に対する変態的な欲望は‘人類が抱くある根元的な欲求’に過ぎなかったのだ。 人類は誕生したその時から不完全な存在だった。 そして、みずからの内にあるスッポリと空いた空白を、人は‘セックスによる一体感’、或いは‘狩猟時の暴力’で埋めようとした訳だ。 では、そのセックスによる一体感とは何か?何故人はセックスの時抱き合うのだろう。 それは相手と同化したい、という願望があるからだ。 簡単に言えば、自分の内臓と好きな相手の内臓を混ぜ合わせて一つになりたい、という欲求を人は潜在的に持っているのだ。 そうした欲求は子孫繁栄の為の動物の本能などではなく、人類が不完全であるがゆえに生まれたものなのである。 そうして、人類はセックスと狩猟によってみずからの空白を満たしていた訳だが、言語が生まれ、社会を持つとそれは一変した。 アダムのリンゴの話ではないが、恥の意識を持つようになった人間は、それまで公然とおこなわれていたセックスを闇へと押しやり、それは隠れて行うものとなった。 そして、社会という群をなすようになった人類は、リスクの高い狩猟を捨て、より効率の良い農耕を選んだ訳だ。 この大変化により人間の性と暴力は歪められていく。 社会は法を生み、それまで公然と行われていたであろう‘暴力を伴う性行為’は禁じられた。 セックスと暴力は次第に抑圧されていく。 しかし、不完全である人類は、それを補うための根元的な欲求であるそれらを絶対に捨て去る事は出来ないのだ。 農耕社会の誕生と共に、充足する事が困難となった人類は、その代替え品として様々なものを生み出していく。 宗教、薬物、SM…。 それらは全て代替え品なのだ。 そして今、俺は千津子を通して、人間の生まれ持つ根元的欲求に気付いたのだ。 俺の中から自己嫌悪の念や後ろめたい気持ちは消えた。 俺は千津子に対し、その根元的な欲求をひしひしと感じている。 その欲求は満たさなくてはならない。 だが、現代に生きる俺は狩猟民族のように行う事は出来ない。 すなわち、千津子をレイプして欲求を満たすという事だが、まず犯罪行為である上、‘社会から植え付けられた良心’が許さない。 では、どうすれば良いのか?まずは本人合意の上でのセックスだが、その可能性は極めて低く、仮に万が一千津子がそれを許したとしても、俺の欲求が完全に満たされる事は無いだろう。 残る方法は一つ、人類が作り出したあらゆる代替え品を用いる事によって人工的に己を満たすのだ。 俺はさっき感じた神聖なる感覚を思い出した。 宗教的な悦楽だった。 あの時、千津子は俺の神であり、俺は満たされていた。 古来より、宗教と薬物とセックスは密接な関係にあり、人々はそれらを用いて空白を埋めようとしてきた。 最近ではオウム真理教などがそうだ。 何故宗教が人類の空白を満たす事が出来るのか?一つは、絶対者である神の御前、人々は無になる事が出来るからだろう。 無になり自我を消滅させる事により空白を消すのだ。 空白とは自我の中にある。 もう一つは、信仰する事により神との一体感を図るというものだ。 ひたすら信仰を続ける事で、時に神は我々の心に現れる。 幻想と言えば元も子もないが、降臨したとの一体感とは、まさに至福の極致であろう。 俺は後者の方法を選んだ。 その日以来、俺の恋愛は宗教となった。 妄想は信仰となり、ひたすら神である千津子との一体感を求めたのだった。 千津子の写真を広げ、その御前にて儀式は始められる。 俺は写真の中の千津子に向かい、その御名を呼び求める。 あらゆる御姿を想い、ひたすら降臨を願う。 それは膨れ上がったペニスから精が吐き出されるまで続くのだが、薬物を使う事によって長時間に及ぶ儀式が可能になり、それは数十時間に渡って行われる事もあった。 俺はあらゆる罪を告白していく。 千津子に対する際限のない肉欲を懺悔し、許しを乞うのだ。 その間、ずっと千津子の顔を見つめながら…何十時間も…。 そうした熱心な信仰を続けていると、時折千津子はその御姿を現した。 突然千津子の顔が神々しく輝き始め、独特の生ぬるい声が聞こえてくる。 俺は必死で許しを乞う。 すると、千津子は醜い俺の欲求を受け入れてくれ、長時間の行為で疲れ切った俺を、射精へと導いてくれるのだ。 俺は赤子のように千津子の体へと取り込まれていく。 千津子の体液に全身を被われ、匂いに包まれる快楽。 その一体感たるや凄まじく、俺は神の悦楽の中で射精する。 そして、射精の瞬間はとても長く感じられ、その永遠に続くような快感に酔いしれながら、俺は空白が満たされていくのを感じるのだ…。
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2008/08/19 21:23:30(WwcAZpMy)
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