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1:憑クモノ島
投稿者:
たんたんタヌキの○○
もし…もしもだよ、差出人不明な荷物が届いたら…君なら開けるかい? 悪い事は言わない、止めときな。俺の様に為りたくなければね…。
「こんにちは!荷物をお届けに上がりました」 見た事も無い制服とロゴマークの業者。ここで気付くべきだったんだ。 箱にはよく判らないシールがベタベタと貼られている。友人が何か仕送りしてくれた物と思い込み何も考えずに開封してしまった。 シールをペリペリと捲くり、粘着テープを引き剥がすと…。 プシューー!! 玉手箱よろしく白い煙が噴き出して来た。 『ゲホッ!ゲホッ…』 床を這って壁まで辿り着き、窓を開けると少し視界が拓けて来る。 『な…何だ?誰かの悪戯か…』 悪友は沢山居るがここまで巫山戯るヤツは居ない。シャツで口元を押さえながら煙の元に近付いてそっと覗き込むと…。 『何だ?この紙切れ…』 ル○ンか?キャッ○ア○の仕業か?…んな訳が無い。そもそも狙われるお宝なんて無いんだから。などと浮かれていられたのはここまで…。 その古風な字で綴られた内容は…。 【汝 約束を違う事勿れ】 蛍光灯の光が壁にもうひとつの影を作り出す。 『…ッ!?』 咄嗟に振り返るも誰もいない…ただ窓の外に一匹のカラスが電線に留まっていた。まるで返事を待つかの様に…。 ・・・・ いくら世が高速化したとはいえ、それは首都圏や大都市近郊のみの話で、俺の故郷には関係の無い話だった。何度か電車を乗り継ぎ、辿り着いた無人駅の寂れた港町。この岸壁から微かに見える小さな島、そこが俺の産まれた場所、【伊城の島】。しかし地元では誰もその名では呼ばない。かつて古えの夫婦神が流した異形の子が流れ着いた場所、【遺棄の島】と伝えられているのだから…。 島へ渡るには二週間に1度、生活用品を納める為の船があるだけ。何故そんな陰欝な場所にわざわざ帰って来たのか?それは村に伝わる因習にあった。 島民200名位の小さな集落の割に不似合いな鳥居と社、それが伊城神社。島の殆どが神域であり、奉られている物は鬼とも魔物とも謂れている。百年に一度、18歳を迎える男子が御遣いとなり、女人に憑く魔を祓う儀式を執り行わねばならない。その百年目が丁度今年であり、該当する男子は俺しか居ないのだ。 そして女人の心当たりは3人。誰も幼馴染みな筈だ…。 3人とは村長の孫娘の楓、そして伊城神社の娘の椿姫、最後が従姉妹の桜。言い伝えではその異形の神は夫婦神の最初の子供である為、子供を宿した事の無い…つまり処女に憑くらしい。何せ百年に1度の祭事だから何処まで正確に伝わっているかも判らない。詳しい文献などは伊城神社の祭具殿に納められているらしいが、その行方は不明だ。女側からすれば根拠の薄い因習によって意に添わぬ相手と、しかも穢れの贄とされるのだから堪ったものじゃ無いだろう。 過去に選ばれた娘が拒絶し、想い人と祭の前に通じた際、娘と想い人その両方の家族が謎の死を遂げ、島も壊滅的な被害を受けたらしい。おそらくは地震に因る津波や台風などの偶然が重なったのだろうが、今となってはその真相は定かでは無い。 「着いたぜ、兄ちゃん…」 送って貰った礼に荷下ろしを手伝っていると後ろから声を掛けられた。 「あれ?珍しいね。新しいバイトの人?」 仕方が無いさ、この島に人が来る事自体稀なのにこんな時季、少しでもこの島の事を知っているなら近付きたくも無いはずだ。現にこの業者の男も蒼白な顔で帰り支度を急いでいる。 「そ…それじゃあな兄ちゃん。助かったよ…」 最大船速で離れていく船を見送る。これで二週間は滞在となるのか…。 改めて島の景色を見渡すと先程の声の主らしき女の子。マジマジと俺の顔を見詰めている。 「もしかして…剣人?」 ショートカットの髪に機能性重視のラフな服装。性格を表す様なつり目とトレードマークのクローバーを摸したヘアピン。間違いない、村長の娘の楓だ。 「やっぱ剣人だ、でかくなったな。見違えたよ」 『そういう楓こそ。驚いたよ、ビックリする位変わって……無いな』 頭の先から爪先まで一通り見渡して、ある一カ所で視線が止まる。 「ちょ…今、何処見て言った!?」 慌てて控え目な胸を両手で隠す。どうやら気にしていたらしい。 「…ったく、相変わらずスケベだなぁ」 『健康な男子の健全な反応と幼馴染みとしての素直な意見だが?』 たかだか10年じゃそうそう性格も変わるものじゃ無いか。ケンカ友達のスタンスは変わらないらしい。 『懐かしくて嬉しいって思ったんだよ。気にすんな』 「バ…ナニ真顔で言ってんだ?」 事実、帰ってきたんだなと思えるし、嬉しいのも本当だ。きっと女らしい楓には違和感しか感じないだろう。俺は浦島太郎なんだから。 「さぁ…コッチっても、知らない訳じゃ無かったな」 楓に連れられて村への道すがら景色を眺めながら歩く。本当に10年もの時間が過ぎているのかと疑いたくなる位に記憶通りの風景。都会では3年も経てば店の半分どころか街そのものが変わるというのに…。 『……ぁ』 いや、人以外にも変わった物があった。俺の視界に入ったうらぶれた廃屋、そうかつて俺の家族が住んでいた家。小さな家だったが屋根は落ち、窓ガラスは割れて今や見る影も無い。 「…人が住まないとどうしても…ね」 顔を伏せる楓。その理由は知っている。 「よう、お帰り楓ちゃん…その男は?」 閉鎖的な場所特有の排他的な反応か…。 「剣人だよ、知ってるだろ?」 「おお!あの悪ガキの鼻垂れ坊主が帰って来たんか?良かったな、楓ちゃん」 途端に表情を崩す男、しかしその目は笑っていない。 「う…煩い、余計なお世話だ!」 顔を背ける楓は耳まで赤くなっている。 「さ…さぁ行くよ」 俺の手を取り、早足で立ち去ろうとする楓。俺は軽く会釈をしてその場を後にした。 「楓ちゃん、お帰り」 「こんにちは、楓ちゃん」 流石は村長の孫娘、周りの方から挨拶をしてくる。そして必ず俺に向けられる冷たい視線と背後から微かに聴こえる「これで祭がひらける」の言葉。 「おお剣人、よく帰ってくれたな。見違えたぞ」 連れて来られたのは楓の家、つまり村長の屋敷って事だ。 『お久し振りです。その節は両親が大変ご迷惑をお掛けしました』 案内された奥の部屋に待っていたのは楓の祖父である村長と伊城神社の神主でもある椿姫の父親だった。二人とも村の実力者だ。 「ご両親の事は聞いている。大変だったね」 『いえ…村を出て行ったのですから当然かもしれません。逆に私を村に招き入れて頂いた寛大な御心に感謝致します』 しきたりを破り村を出た俺の家族は新居に向かう途中、事故に遭い両親はこの世を去った。後日知らされた事だが事故による車の破損に比べ、俺は奇跡と言える程に全くの無傷だったらしい。まるで何かに護られていたかの様に。 「この家では落ち着かんだろう、椿姫の所に部屋をとった故、ゆるりとするが良い。楓達も話をしたいだろうしのぉ」 『有難うございます』 一礼し部屋を出ると玄関に楓が待っていた。 「案内…は要らないだろうけど、まぁ椿姫に会うついでってやつ?」 『Thanks…』 道中も同郷であった俺を見る目やコソコソ話す声は気分の良い物では無く、実際楓が居なければ暴れていたかもしれない。 「気にし無くて良いからね。私がついてるから…」 俺の心を読み取ったのか、楓は繋ぐ手を強く握った。 最初の鳥居をくぐり、上へと続く山道の階段。この先に伊城神社がある。かつて楓達と無邪気に遊んだ境内、しかし懐かしさは感じない。あえて例えるなら異質な空間といった感じか。 「お~い、連行して来たよ~」 二ツの人影に楓が叫ぶ。一人は竹箒を持った巫女、もう一人は髪をツインテールに結わえた少女だ。 『連行って…おま…』 「散々私達に悪戯して泣かせてた悪人じゃない?」 泣かされてたのは俺だった気もするが敢えて口にしない。 「あら、楓ちゃん。という事はそちらの殿方が剣君?」 「うわっ!?剣兄ぃデカッ!」 口元にホクロのある巫女さんが椿姫姉さんとゆう事は、このツインテールが従姉妹の桜か? むにゅん♪ うわっ!?椿姫姉さんがナイスバディになるであろう事はおばさんを見て予想出来たが、巫女装束な巨乳にここまでの威力があるとは…。さらに童顔なくせに、押し付けて来るこの弾力。桜…、それは反則だろう? 恐るべきはオッパイ爆弾。それに引き換え…。 ズンッ! 『…っ痛ぇ~、何すんだ楓!?』 思い切り俺の足を踏み付けている。 「別に…何か腹立ったから」 超能力者かコイツ? 「う~ん、どちらかというと剣君が判り易過ぎるというか…」 「アハハ、剣兄ぃのH」 色々サイズが変わっただけで俺達は昔のまま…か、少なくともあと1週間は…。 1週間後、つまり祭の当日。伝承通りならこの3人の内の誰か、或いは全員に人為らざる物が憑く事になり、それを俺が封じなければならないのか。 「じゃあ自分の家のつもりでユックリしていってね」 流石、椿姫姉さん。そして見惚れる俺の後ろで【バ~カバ~カ、バ~カバ~カ】と呟く楓。 『何か言ったか?』 「…別に」 薄暗い部屋の中に揺れる蝋燭の灯、鈍い輝きを放つ刀を高く掲げる男。足元には四肢を縛られ猿轡を噛まされた少女が転がされている。そのはち切れんばかりに丸く膨らんだ腹部目掛け…。 バシューッ!! ピシャ…ピシャ… 『ーッ!?』 ―その夜、俺は夢を見た。とても…とても嫌な夢…。全身を滝の様に伝う汗。鼓動は早鐘の如く打ち鳴らされ、口はより多くの酸素を取り込もうとする。 …取り敢えず水分…、そして汗を拭こう。パジャマどころか下着までグッショリ濡れて気持ちが悪い。 俺の寝屋として宛がわれたのは境内から更に山奥の外れに在る離れ家の一室。そして何故か楓達もこの離れ家にそれぞれ部屋を与えられ今頃は寝息をたてている筈。つまり若い男女が一つ屋根の下、鍵も架からない襖一枚隔てただけの状況下にいるって事。 (余計眠れんわーッ!) 意識しだしたら更に眠れなくなってしまった。今ならまだ風呂の残り湯も温かい筈、取り敢えず汗を流そう。 『フゥ…』 サッパリと気分転換も出来たし、改めて床につくか…。 バシャ…キィキィ…バシャ… (水音…こんな時間に?) 奥の井戸辺りから聞こえてくる様だ。誰だ今頃…? 足音をころしてそっと近付くと白い人影が見える。 パキ… 「…ッ!?誰?」 この声は椿姫姉さんか? 「あら、剣君。ごめんなさい、起こしちゃったかしら?」 『い…いや、何か寝つけ無く…ッ!?』 咄嗟に背を向ける。相変わらず寝間着は和風なんだな…と思った瞬間に気付いてしまった。白い布地が濡れて、す…透け…透けて…。 「あら、私とした事が…」 動揺の理由に気付いたのか、騒ぐ事無くバスタオルで隠してくれた。 「お待たせ…」 狼狽えたままの俺は「少しお話ししましょうか」と手を掴まれ椿姫姉さんの部屋へと連れ込まれてしまった。やっぱ怒られるよな結果的に覗いてた訳だし。良かった汗を流した後で…。 『す…すみません、椿姫姉…いえ、椿姫さん。決して疚しい気持ちとかそういうのじゃ…』 「昔通りに呼んでくれた方が嬉しいかな?それと疚しい事が無いならちゃんとコチラを向いて話しなさいね」 優しく諭す様に俺の頬に手を添えてくる。 『ハ…ハイ…』 無理です。どうしてもさっきのシーンがダブって直視出来ません。まさか下着着けて無い何て思ってませんでしたから。 「剣君?」 『あの…さっきは本当に疚しいとか全然…。ただ今はその…何というか…』 「…そっか、剣君はまだ小さかったし、村を出てご両親を失ったから何も知らされて無かったんだものね」 真剣な表情で椿姫姉さんが見詰める。 「剣君は葦舟祭についてどれだけ知っていますか?」 俺の知る祭の伝承はこうだ。 ―百年に一度、神社に封じた祟り神が若い娘に憑依し災いを為す。それを若者がその身と共に神域にて幾夜をかけてその太刀を持って穢れを祓った…と。
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2011/10/17 18:29:34(SONY5Gsv)
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