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スモールライトの列

カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:空想・幻想小説
ルール: あなたの中で描いた空想、幻想小説を投稿してください
  
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1: スモールライトの列
投稿者: くべ ◆Jz9y3GJYBc
夜の帳が完全に下りた公園の駐車場は、昼間ののどかな表情を完全に消し去り、別の生き物のように不気味に蠢いていた。

 ここは理性をそぎ落とした獣たち——得体の知れない欲望を抱えた男たちが集う、夜の吹き溜まりだ。フロントガラス越しに交錯するヘッドライトの鋭い光跡、暗がりに潜むねっとりとした無数の視線。それらの一つ一つが、私の肌を冷たく粟立たせ、冷え切った指先をハンドルの上で小刻みに震えさせる。

 怖い。それは紛れもない、本能的な恐怖だった。

 平穏な日常に生きる私が、ひとりで足を踏み入れるべき場所などではないことは分かっている。だが、私はここにいる。恐怖をねじ伏せ、私をこの闇へと突き動かしたものは、ただ一つの傲慢な渇望だった。この狂気に満ちた空間の支配者であり、自らも圧倒的な美学を纏って男たちを翻弄するあの「魔女」と、どうしても言葉を交わしたかったのだ。彼女に触れたい、彼女の視点を通じて世界をもう一度観測したいという思いが、本能的な恐怖に打ち勝っていた。

 しかし、不思議なことに、私の思考の奥底はひどく凪いでいた。「内なる観測者」としての冷徹な視座が、恐怖に震える自分自身をまるでスクリーンの向こう側の出来事のように見下ろしている。私はこの張り詰めた状況そのものを、極上のエンターテインメントとして徹底的に味わい尽くそうとしていた。

 駐車場の隅、外灯の光も届かない陰に、静かに車を滑り込ませる。
 エンジンを止めた。同時に、周囲を威嚇するように放たれていた鋭いヘッドライトの光を落とす。世界線が一瞬で濃密な闇に包まれた。

 その闇をわずかに切り裂くように、フロントの左右で、オレンジ色のスモールランプだけが灯る。ひっそりと、しかし決して消えない確かな意志を持って、その仄暗い光は闇の海に融けていく。

 私は使い慣れたスマートフォンを取り出し、画面の明かりに顔を青白く照らされながら、この場所に集う有象無象の客たちと同じ「作法」に則って、ただ一文だけを暗闇へと投下した。

「くべです。いま駐車場到着しました。スモール焚いて並びます。」

 特別な計らいを求めるつもりはない。私は私の矜持をもって、女の体のまま、この野生の犬どもの列に紛れる。それが、私と彼女がかつて共有した濃密な時間に対する、私なりの狂おしい筋の通し方だった。

 静まり返った車内。エアコンの唸りも消え、ただ自分の早い鼓動だけが鼓膜を叩く。スモールランプの淡いオレンジ色の光が、ダッシュボードをかすかに染めていた。熱は飼い慣らせない。ただ、震えながらその瞬間を待つだけだ。

 ここから先は、私の領域ではない。すべてをあの魔女の気まぐれに委ね、私はただ、暗闇の向こうから近づく足音に耳を澄ませる。

 通り過ぎて私を無視するのか。それとも、あの細い指先で、このガラス窓をコンコンとノックしてくれるのか。

 私はただ、スモールランプを灯したまま、その美しい結末を静かに観測している。
 
2026/06/04 01:32:19(fZ4dxAd7)
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