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hollyhocks occulted 25
カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:空想・幻想小説
ルール: あなたの中で描いた空想、幻想小説を投稿してください
  
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1:hollyhocks occulted 25
投稿者:
ID:jitten
〜まえがき〜
⚠書いた人はオタクです⚠某刀ゲームの二次創作夢小説です⚠暴力などこじらせ性癖の描写多々⚠自分オナニ用自己満作品です⚠ゲームやキャラご存知のかたは解釈違いご容赦ください⚠誤字脱字ご容赦ください⚠たぶんめちゃくちゃ長くなります⚠未完ですが応援もらえたらがんばります優しいレス歓迎⚠エロじゃないストーリー部分もがっつりあります⚠似た癖かかえてるかた絡みにきてください⚠
—----------------------
光世を店へ送り届けたが、自分は運転席から降りない。
エンジン音を聞きつけて征羽矢が裏口の扉を開けて、階段下から叫んだ。
「てんちゃん、帰んの?」
「明日から現地入りです。」
女も大声で答える、とにもかくにも駆動音がとんでもない、早く車両を移動させなければまわりの店から苦情が来てしまう。
「1杯だけ、飲んでけよ、どーせひとりで家には帰らせねーって。上で寝てけよ。」
女の返事を待たず、居心地悪そうにする光世を招き入れ、その肩のあたりを拳でゴツンと叩いた。
「さっさとスタンバイ!」
そうだった、征羽矢は引っ越してしまったのだ。
男の2人住まいに入り浸るのが体裁が良くないと、しばらくの間あれこれ画策していたが、これからはそんな必要がなくなったのだ。
「1杯飲んでいく」の誘惑に負けて、お決まりの6メートル道路に路駐して、店のドアを開けた。
「はーい、いらっしゃい!」
征羽矢がすでにビールジョッキとチャームのクラッカーを用意してくれていた。
「あれ?破局は?してないんすか?」
堀江が冗談めかして尋ねる。
右手でジョッキを掴んで唇に寄せ、左手は指をさして、なんか飲んでください、とジェスチャーで示しながら、その頭の中にはクエスチョンマークが浮かんだ。
「ん?なんの話です?」
「えっ、知らないんすか?SNSで別れたって噂になってますよ?」
堀江は礼を言って、低アルコールリキュールの瓶の栓を抜き、律儀にカットレモンを捩じ込む。
「…しょーもな…」
女は目尻を下げて笑った。
征羽矢が鼻をひくひくとさせて、
「なんか…なんだ?…塩素?…どこ行ってたんだよ?」
と、勝手に自分のグラスに生ビールを注いで首を傾げた。
「東谷大学ですってば、自動車競技部の水トレをちょこっと見学してきたので、それで、」
カウンターの反対側の客に呼ばれ、堀江は会釈してその場を離れた。
知的で礼儀正しい雰囲気の若い女性のグループは、堀江の大学の友人たちだという。
その後ろ姿を見送ってから、征羽矢は身を屈めカウンターテーブルに肘をついて、声をひそめてすごんだ。
「んん?…勘違いなら、いまなら、言い直しても、いーぜ?」
あまりの気迫に、女はわずかにたじろぐ。
「…っ、お、泳いできました、少しだけ…」
くるんと上を向いた金髪がザワザワと不穏に揺れている。
こういうのが人外っぽいんだよなぁ、とオタク的な所感を抱いた。
「だろーな?言ってなかったっけ?おれ、学生時代、水泳部。」
「…そうだったんですね、イメージぴったりです。」
そう返した言葉は嘘じゃない。
太陽のような眩しい笑顔、細身だが筋肉質な身体、健康的に日焼けしたはりのある肌、元水泳部だと打ち明けられて、これほどまでに説得力のある外見の男もそういまい。
「だーかーらー、プール上がりに、シャワーも浴びてないときの、におい、だよな?」
「…」
「…ま、いーけど…」
なんと答えたら良いか戸惑い黙っていると、先に視線を外されて、思わずホッとしてしまう。
なにか、すべてを見透かされているような感覚に陥る。
それこそ、神が空の上から指を輪にして覗き込んで、人間の非行や不始末を咎め雷を落としたりする、そんな物語がどこぞの国のおとぎ話であったのを思い出した。
そこへ、着替えを済ませて音盤を抱えた光世がバックヤードから出てきて通りすがった。
「…明日、朝、早いのか…?」
征羽矢とのハラハラする会話が途切れて、もう一段階緊張が解けた。
「いえ、昼出発です。でも準備しないと。」
レース用のスーツやグローブ、ヘルメットなどはノースガレージの広報班が、また細々とした工具類と消耗品は整備班が用意してくれる、とはいえ、4泊分の支度はそれなりに嵩張る。
「…であれば、だめだ、やはり…店閉めたら送ってやるから…」
光世が、自然に、送る、と申し出るから、女はおもしろくてその怒っているような困っている表情を見上げた。
どうだろうか、ついさきほどの、女のアグレッシブな運転に辟易しているだけかもしれないが。

1杯だけ、が1杯だけで済んだ試しがない。
とはいえ、空になったジョッキを当たり前に持ち上げた女を、さすがに全員が咎めた。
なんなら女ともよく話す常連の中年男性も一緒になって、もう1杯だけ、と強請る声を遮った。
「俺さ、空知選手のおかげで?せいで?ドリフトとか見るようになったよ、見てみると面白いよなぁ、ルールとかあんま分からんけど、こう…なんてーか、少年の心をくすぐられるってーか、」
少年などと、いったい何十年前の話かはさておき、男は胸に手を当てて郷愁に浸った。
「週末さぁ、ここでライビュみたいなこと、せん?」
「ライビュ?サッカーとかでやるやつ?」
「そうそう!でかめのモニター持ち込んで、中継映すの。昼間だけど、チケットなしでもいいからさ、ワンドリンクとかで。」
「…なるほど…」
征羽矢は指を顎先へ当てて宙を見つめた。
「って、おれも兄弟もその日はいねーんだよなぁ、」
「盛り上がりそうじゃないですか、試しにやってみるくらいの精度でいいなら、出れますよ。」
堀江が興味深げに食いついてくる。
「とり、濱崎さん確保できれば、軽食とドリンクでどうです?」
「ほら、いまさ、空知選手の影響でそっち界隈のお客さん多いし、俺もツレ誘ってみるし、じゃなくてもどうせ家で見るし、それならみんなでわいわいしたいじゃん。」
そのとき、ひとつ席を明けて座っていた壮年のカップルの男性のほうが、突如として会話に混じってきた。
「すみません、聞き耳を立ててしまい…実は私『そっち界隈』の者でして…」
征羽矢へと名刺を差し出す。
『アミューズドライブ』とカタカナのロゴが入っていて、肩書は主任とある。
モータースポーツ誌のようだが、征羽矢は咄嗟に謝った。
「す、すみません、おれ、あんま詳しくなくて…ぞんじ?あげなくて…」
「あはは、べつに、そんな、車乗りじゃない人にはマイナーな雑誌ですから。」
名刺の名前をなぞる。
「スズハラ、さん…?」
「どうぞお見知り置きを。それこそ空知選手の行きつけということで話題のこちらへ、お伺いした次第です。取材とかではなく、単純に、行ってみようか、と、妻を誘って。」
隣の女性がぺこりとお辞儀した。
「もし、今お話されていたことが実現しそうなら、ぜひ協力させていただきたく、思わず割って入ってしまいました。」
女が征羽矢の手にしている名刺を覗き込んだ。
「アミュドラさん!お世話になってます!」
「こんばんは、ご挨拶が逆になってしまい、申し訳ないですね。うちの若いのを何度か面倒見てもらいまして。」
「やや、アミュドラさんとこの記者さんはみなさん、ちゃんと車好きで、マナーしっかりしてて、ほんと!こちらこそです。」
あわあわと頭を下げて営業モードに移行していく。
「それでですね、あまり期間がないので、ざっくりと思い付きを説明するとですね、モニター、提供できます。」
「!」
あまりにも気風のいい申し出に、征羽矢と堀江は目を丸くして息を呑んだ。
「差し上げるわけにはいきませんが、永久レンタル、といったところでしょうか、速やかな返却は必要ございませんので、普段はご自由に使用していただいて結構です。ライビュ当日の様子を取材させていただければ…」
着々と話す鈴原を制して、征羽矢がオーバーなアクションで両手を前に出した。
「…ちょ!すんません!それって!レースに、関連した、記事、てことでオッケーすか?」
「?、もちろんですが?」
「…んんー、なーんか、失礼をしょーちで聞きますけど、てんちゃ、じゃなかった、ユキちゃん周りの、プライベートなこと、嗅ぎ回ったりするんだったら、ぜんぜんよゆーでお断りなんすけど。」
「ああ、そんなこと、しないというか、関心もないというか。」
鈴原は豪快に笑った。
「そういうのは、週刊誌の仕事でしょう。我々が見たいのは、ずっと日の目を浴びてこなかったモータースポーツが、話題豊富な女性レーサーをきっかけにブームを巻き起こす瞬間、といいますか。」
思いがけない返答に、征羽矢は言葉を詰まらせた。
どうせ人気女性アスリートの恋愛事情を大袈裟に書き立てるのが目的だろうと高を括っていたのだ。
「…どっちにしろ、兄弟…えーと、代表に聞いてみないことには…」
ちら、とステージのほうに目をやる。
遅刻常習の社長は絶賛テンションぶち上がりで陽気なロックとポップスを混ぜている。
プールに着想を得た曲選であることは容易に推測できる、あんな人を睨み殺しそうな風貌で案外と単純思考なのが微笑ましい。
「もちろん、こちらのご商売の邪魔はしません、撮影と、来場者にインタビューくらいはさせていただきたいですが。あと、事後で結構ですので、空知選手にコメントと。」
それはどうかな、というような仕草で、女は苦笑いで俯いた。
「…もう、土曜の話なんすよね、お返事は…」
「まあ、あまりギリギリではなんですが、いつでも動けるようにしておきますよ、良いお返事が聞けると信じて。」
鈴原は上品にウイスキーグラスを傾けた。

時計は今日の仕事を終えた。
ステージから捌けてきた光世が堀江とハイタッチする。
「…まだ、飲んでいたのか…?」
見知らぬ男と談笑する女を鋭い視線でねめつけ、機嫌は急降下した。
「兄弟、おつかれ、このひと、スズハラさん。」
ちょっと聞いてくれよ、と縋る征羽矢の手を払い除け、女が咥えているグラスを取り上げた。
中身は鈴原の入れたボトルのウイスキーの水割りである。
それを躊躇いなく一気に飲み干し、どん、と、音を立ててテーブルに叩き付ける。
「…どちらさまで…?」
「待て待て!兄弟、威勢が良すぎる!」
征羽矢が間に入って笑いながら光世にコツンと頭突きした。
女は肩をすくめて立ち上がる。
「わたしは、どうでも。ここの利になるなら受けますし、ミツヨさんがノーって言うなら乗りません。では、帰ります。」
適当に札を数枚置いて、鈴原には、ごちそうさまです、と会釈して、腑に落ちない顔をしている恋人の首に腕を回し、軽くキスをした。
鈴原の妻はぽっと頬を染めたが、これは愛情表現というよりは、面倒事は任せましたよ、の意図である、光世本人も征羽矢もよく理解している。
立ち去る背中はいつも通り飄々としていて、掴みどころはない。
モータースポーツ界が活気付くことは望んでいそうだが、依然としてメディア露出は好まないのだろう。
「自由だなぁ。」
征羽矢の捨鉢なコメントが女を追いかけていき、開いた扉から深夜の街へと消えていく。

なるべく足音を立てぬよう部屋に入ったつもりだったが、女はもぞもぞと半身を起こした。
健康的に就寝した場合の話ではあるが、わずかな解錠の気配に目を覚ましてしまうほどには眠りが浅い。なぜなのか、想像したくもない。
「…ん、おかえりなさい…おつかれさまで…」
光世はその肩を抱き、そっと寝かせる。
「…寝てろ…シャワー浴びてくるから、朝、声、かける…」
「…ぜんぜん、8時くらいで、いいですから…」
女は、とろんとした目で、ようやく帰宅した恋人を見上げた。
唇が、なにか言いたそうに、薄く開いて、閉じた。
眠気で煩わしくなったのだろう。
「…そうか、では、8時に起こす、だから、寝ていろよ…」
「…ん…」
後ろを向いて脱ぎかけたシャツの端を、くん、と引かれ、光世は驚いて振り向いた。
どうした、と屈もうとしたところに、女がしゃがれた寝起きの声で囁く。
「…ミツヨさん…すき…」
ふ、と甘い吐息が歯の間から漏れた。
光世はやれやれと肩を落とした。
「……寝ぼけて、いるな…」
「…寝ぼけてます…ふふふっ…」
シャツを手繰り寄せ、光世の腰に手を回す。
おかげでやや値の張るコットンの生地はしわくちゃだ。
「…シャワーを…」
「んん、やだ、このまま、」
優しくその手を剥がそうとするのを、女は拒んで、いやいやと首を振った。
寝ぼけている。
「…おれは、こういう、あんた…あんたが、きらいだよ…意地が、悪い…」
また、こうやって弄ばれる。
抱かせるつもりもないくせに、思わせぶりに触れて、毒を含んだ響きで名を呼ぶ。
しかし今夜は怒りよりもうら悲しさが心を焼いた。
「ふふ、そうなんです、いま、知りました?」
引かれるままに、ベッドへ潜り込んだ。
向かい合いそっと身体を包んでやると、背中を丸めて光世の胸元へ鼻先をこすりつけてくる。
寝ぼけているのだ。
「…いや…知って、いた、ずっと…ずっと、前から…」
つんつんと跳ねる髪を撫でる。
もう塩素の匂いはしない、光世のちょっと高級なシャンプーの香りが立ち上る。
「ミツヨさんが刀でわたしが『さにわ』だったときから?」
「…そう、だな…」
これは、これまで、話した、あれこれを、つなぎ合わせて、問うている、だけか?
光世の内臓の各所がぴりっと張り詰めた。
「…わたしねぇ、思い出しても、いいかなって…思ってますよ…『ほんまる』のこと…」
やはりそうか、決定的に記憶を取り戻しているわけじゃない、と察して、光世は胸をなで下ろした。
女が審神者であったときの全てを仔細に思い出してしまったら、どんな、というのは分からないが、なにかしらの問題が起こるような気がしたからだ。
確かに、9年分の物理的なデータをいっぺんに再生させれば脳はパンクしてしまうかもしれない。
それに、あそこは、ぱっと見は平和な大所帯だが、傍らでは命を懸けた武力衝突と表裏一体の空間であった。
度々に血を流し、あるいは身体の一部以上を欠損して帰還する『人間』の形をした『刀剣』たちがいて、それはもうまともな精神状態の本物の『人間』には耐え難い経験であることは間違いない。
はらわたがはみ出し、骨が飛び出し、手足を失った者が、審神者に手入をと迫るのだ。
手入が済みさえすれば、いつものように夕餉の食卓を囲み、歓談する。
戦闘も、怪我も、なにもなかったかのように、人気のおかずを取り合い、酒を飲み交わし、気まぐれに歌を詠んだりする。
日常がジェットコースターのように明るい部分と暗い部分を行き来する。
とても神性を保ってなどいられないはずなのに、逃げ出さずに、また指揮を握る。
そして遂に、自身が、敵の標的にされる、時が来る…
「…必要、ない…」
光世がその狭い額をデコピンで弾いたが、女は続けた。
「夢でね、誰かのね、話し声が、聞こえるんです、知らない名前の、誰かの…」
「…」
どういう原理?で大典太光世やソハヤノツルキの魂が今の時代に生まれ変わったのか知る由もないが、女と審神者の邂逅が近づいているような凶兆に、光世は震えた。
心臓が冷たく軋んだ。
「…その話は、レースが終わってから、また、聞いてやるから…」
夢と現実の溶け合っている今の瞬間の会話を、一刻も早く切り上げるべきだと、光世の本能が警鐘を鳴らしている。
女の顎を掬い、口づけて塞ぐ。
なるべく柔らかく言葉を紡ぐが、頭の中では、黙れ、話すな、黙ってくれ、もう眠ってくれ、と喚いている。
そんな光世の気がかりなど意に介さず、女は逃げるように顔を背けた。
「…じゃ、さ、いっこだけ。『さにわ』を、恨んでない?」
迂闊に答えるべきではない!
光世は口を結んだ。
が、大典太光世が、女の頬にそっと触れた。
だめだ!
出てくるな!
光世はいつのまにか木の箱の中にいて、がむしゃらに内側から壁を叩いていた。
違う!
ここから出せ!
「…なぜ?…恨む、など、もっとも、ありえない…」
そんな猫なで声で!
それ以上喋るな!
触発するな!
叫ぶが、届かない。
女は目を閉じて、再びまどろみ始めている。
「…あのとき、あなたたちを盾にして…なのに手入もかなわず…結果、使い捨てて…」
あのとき?
おい、そこから先は、まだ踏み込むな!
まだ、触れるな!
「…そんなこと…誰も、思っていない…あんたを、守れなかった、後悔こそ、あるだろうが…」
大典太光世が女の瞼にキスを落とした。
光世は髪を掻きむしって吠えた。
だ、ま、れ!!
大典太光世は女のゴミ箱フォルダにかろうじて残っているキーワードを拾い集めようとしている。
少し前までは光世も思っていた、女が、あの本丸での出来事を思い出せば、自身と弟を取り巻くこの不可思議な現象について、なにか究明できるのではないかと。
そうして女との絆みたいな幻想的で美しいものが強く色濃く感じられるようになるのではないかと、都合の良いことを考えていた。
だが。
日々、鋭くなる、女への、殺意、に似た、執着、という名の、愛、の形をした、刃、に、足が、すくむ…
契約や儀式について、つまるところ大典太光世の行いについての記憶をすっかり取り戻して、恐怖、とか、嫌悪、とか、そういう感情を、先日暴行を働いてしまったときのように、また、向けられたら、もう、止められないかもしれない…
小さな鳥籠に閉じ込めて、人間の原型を留められぬほどに、切り刻んでしまいたくなる予感しかない…
大典太光世が次になにを言うか身構えていたが、そんな光世の物案じは知るところではない、女は睡魔に呑まれて、こくり、と船を漕ぐ。
「…ごめんなさい…つぎに…であうときは…せんそうのない…せかいで…あいたい…」
光世は、絶句した。
光世も、全部を、憶えているわけではない。
だが、それを、聞いたことが、あった。
それは間違いなく主人の言霊であった。
かつて女に語った、怪我の進行を止めるために神域へ招き入れようと真名を聞き出そうとして、断られ、絶望した、そこから先はなにも憶えていないと答えた、あのときであった。
今にもこと切れるというあのとき、聞いた、たしかに!
言霊!
審神者の強い霊力が言葉に命を与えた…
次に!
出会う!
ときには!
戦争のない世界で!
と!
言った!
それを!
それが!
大典太光世は満足げに微笑んだ。
光世は出口のない箱の中で泣いていた。

自宅へ送り届け、荷造りを見守る。
サーフブランドの大きめのリュックひとつにまとまった荷を見て、女性の4泊分の支度というのはもっと仰々しいものでは、と疑問がなくはない。
例のショッキングピンクのハイカットスニーカーの左右を靴紐で結んで、ひょいと指に引っ掛けて持ち上げ、カリーナに乗り込んだ。
鍵を光世から受け取り、代わりに、好きに乗っていいですよ、ガソリンはハイオクでね、と、ビートの鍵を手渡した。
「…気を、つけて、行けよ…」
なにか気の利いたことを言いたいのに、そのためのボキャブラリーはない。
「はぁい。送ってくださって、ありがとうございます、ちゃんと、寝てくださいね。」
女は昨夜に半睡でこぼした自分の言葉を覚えてはいないようだった。
「…ああ、土曜は、行く…」
「待ってますね、楽しみです。さよな、じゃ、なくて、えーと、」
女は照れたように目を逸らした。
光世のことを好きだと言ってベッドに引きずり込んだことは覚えているのかもしれない。
「…また、」
そう言って唇に触れようかと思ったけれど、名残惜しくなってしまえば惨めなだけなので、光世は他人行儀に片手を上げただけのポーズで固まった。
「ですね、また、土曜に。」
遠ざかるテールを見送る。
一旦停止ラインでブレーキランプが灯るけれど、かつての流行りの歌謡曲のように5回点滅などはしない。

さみしいさみしいさみしいさみしいさみしい!
ひとりがこんなにも苦しいとは想像もしなかった。
会話などなくても、同じ部屋にいなくとも、兄弟が、あの女が、いることが当たり前みたいに思っていた。
やるべきことはたくさんある、ここ数日のミックスを聞き返しておきたいし、風呂掃除もトイレ掃除も、自分がやらなければ。
弦歌堂で仕入れた音源もまだ整理が済んでいないし、2日前に飲み散らかしたビールの空き缶がいまだにキッチンに乱立しているのをどうにかしなければならない。
なのに、時間はいくらでもあるのに、作業に取りかかれない。
ベッドで枕を掻き抱いてゴロゴロと寝返りを打つ。
今日、水曜、明日、木曜、明後日、金曜、その翌日が、ようやく、土曜で、だが、おそらく現役レーサーの恋人はレースの準備に忙しくしていてゆっくり話す暇などないだろう。
どうせコースから遠く離れたスタンド席より視線を送ることしかできないのだ。
さみしいさみしいさみしいさみしいさみしい!
ほにゃほにゃとした求肥のような身体を抱きしめたい。
そして掠れた低めの声で邪険にあしらわれたい。
そして「しかたないですねぇ」とかぞんざいな扱いで髪を撫でられたりしたい。

さみしいさみしいさみしいさみしいさみしい!
征羽矢は足で乱暴に冷蔵庫の扉を閉め、缶ビールのプルタブを上げた。
昼間から繰り広げられるこんな不摂生な生活をたしなめる兄もいない。
さみしさを紛らわせるためにアルコールを摂取するなんて、自分はどうかしてしまったのだろうか。
一気に半分を喉奥へ流し込み、きつく目を瞑る。
始発まで店のカウンターでしていたタスクの続き、店舗在庫の棚卸しの数字をまとめておきたいのだが、どうにもやる気が起きない。
引っ越しの片付けは、さしたる荷がなかったから、散らかっているというほどではないが、開けていない段ボール箱が数個積まれたままになっている。
昨日あいさつに行った下の階の部屋は留守だったので、もういちど訪問すべきだろう。
だが、なにもかもが面倒でしようがない。
本意ではないのだけれど、どうしたらあの女を自分のものにできるかばかりシュミレーションしてしまう。
本意ではないのだが。
女に感化されてサディズムに目覚めてしまった兄が一線を越えてしまわないか不安だし、そうなる前に自分が奪ってしまいたい、けっして本意では、ないのだが。
残りを飲み干して缶はゴミ箱へ放り、ベランダへ出る。
蒸し暑く、雨の匂いがした。
昨夜の、女と光世の髪から香る塩素の匂いを思い出して吐き気が込み上げる。
イマジネーションはいつも己の想定の上をいく。
水の中で裸でまぐわう男女を思い描いて、うう、と呻いた。
さみしいさみしいさみしいさみしいさみしい!
仲間外れなんて嫌だ。
先を颯爽と行く手首を引いて振り向かせたい。
そして甘ったるいくぐもった声で諭されたい。
そして「しかたないですねぇ」とか年上の余裕のムーブで髪を撫でられたりしたい。

「ふたりとも、分かりやす過ぎない?」
城本がグラスを磨きながらため息をついた。
「?」
兄弟は同時に顔を上げた。
「付き合いたての高校生じゃないんだから、そんな、毎日会えないと生きていけないみたいな顔して、バカみたいだよ?」
「…バカみたい…」
光世の白い肌はますます色を失い、瞳はどんよりと曇っている。
「えっ?おれも?」
征羽矢のほうは驚いたように目を見開いた。
「ソハヤくんも!そのボトルさっきから何分拭いてるか分かる?」
「…っ!」
そう質問されて、はたと気付いて、耳まで真っ赤に染まる。
自覚なしかよ、呆れた…
城本は肩をすくめた。
「…あんたは、いいよな…あの、あれに、なにも、奪われていない…」
光世が苦々しげに睨んでくるが、城本としては自身も十分に被害は被っているように思う。
これ以上あの女に深入りしないとの誓いを、なんど打ち砕かれたことだろう。
「奪われるて、なにをよ?ミツヨさんはなにを奪われたの?」
「……純情…?」
光世が神妙な面持ちで間抜けな返答をするから、征羽矢と城本は盛大に吹き出した。
「ほんっと!これで大真面目なんだぜ?天然記念物に指定しよーぜ!?」
ひーひーと征羽矢が苦しげに笑いながら茶化す。
「純情が奪われたかどうかは、知らないけど。」
コホン、と城本は咳払いをひとつした。
「シャキっとしてくれよ、もう開けるよ?」
開店の時間だ。

あまりにも無難に夜が明ける。
訂正の記事が出るでもない。
女も一昨夜は顔を出しはしたが、当分不在である。
破局ニュースの投稿の下にはいまだ浮ついた内容の返信が長く列をなして並んでいた。
「…べつに、きょうは、構わないのでは…?」
光世がロックグラスを傾けながら弟に問うた。
始発までにライビュのフライヤーを作るとパソコンを立ち上げた征羽矢の手には、薄めのコークハイ。
どうせ恋人は仕事で出張中だ、帰らない。
部屋で落ちついて作業するか、それか少し眠ってからでもいいくらいだ。
「だーめ。そーゆーなあなあなことしてんなよ、いーかげん線引くこと覚えろよなぁ、兄弟。」
そういうものか、と光世は黙る。
そのわりには平気であの女に手を出すし、欲を隠そうとも、さほどしない。
ここで言う線を引く、は、対週刊誌的なバズりを狙うSNS、を目的としているのであり、自身と兄の色恋沙汰の云々について語っているのではないのだ。
「気にすんなよ、上がって休めよ。兄弟は明日のパフォーマンスのことだけ考えててくれ。」
「…いや…なんだ、どうだろうか…なぜだか、あまり、疲れて、いなくて…」
「ははっ、そりゃ、てんちゃんが来ないからだぜ?振り回されすぎだろ。」
チラシ作製アプリで適当なテンプレートを引っ張り出し、サクサクと文字を配置していく。
手慣れたものである。
しかし無料版アプリでは仕上がりがどうにも安っぽいのが気に食わなくて、それを参考に堀江が手を加えてくれる。
ロボット工学だか機械デザインだかいう、なんとも小難しい勉強をしているらしいが、ささっと描くイラストが上手いし、レイアウトなんかもやはり若い感性が粋なのだ。
グラスの中、氷が溶けると、比重の違うアルコールと混ざり合う前に、ゆっくりと万華鏡のようにペイズリー模様が形を変えて揺蕩う。
刀剣の地金の鍛え肌が脳裏にフラッシュバックする。
「…兄弟は…どこまで…憶えている…?」
征羽矢が叩くキーボードの音と、カラコロと氷が回る音が重なる。
「あ?あー…本丸の?」
画面から視線をそらさず、質問に質問で返されて、光世は、畳み掛けていいかどうか分からずに口をつぐんだ。
「…」
しばしの沈黙に、先に耐えられなくなったのは征羽矢のほうであった。
「…どーかな、ちょいちょい、走馬灯?みてーに、ぶわって、くる、ときあるけど。どーかしたか?」
昨夜に女がおそらく無意識で口走った台詞が、耳から体内に侵入してきて血を沸騰させて脊椎を焼いて脳を溶かした感覚を忘れない。
「……兄弟は…あのとき…あれの『言霊』を…聞いた、か…?」
征羽矢の手が止まる。
「…『言霊』…?」
金色の前髪が、無風なのにぶわっと揺れた。
光世はバーボンをひと口含み、ゆっくりと舌で転がし、静かに飲み込んで、低い声で、呟いた。
「…『戦争のない世界で』…」
キイン、と、耳鳴りのような、コイル鳴きのような、モスキート音が響いた。
征羽矢が、ようやくディスプレイから顔を上げ、光世を見る。
「…っ!聞、いた…!兄弟が…主を連れてくとき…!俺は脚を落とされてて、兄弟に、頼んだって言って…」
光世は、重く長く息を吐いて目を伏せて、徐々に体積を減らしていく氷を見つめた。
「…あの審神者は、やはり、とんでもない、な…政府が必死に囲うのも…やむなし、か…」
呪言。
口にした言葉に想いが乗ってしまったとき、他者や環境に強く影響を、及ぼす…
相手が神などという霊力でシンクロしやすい個体であればなおのこと…
「えっ、じゃあ、てんちゃんって、もしかしなくてもスーパー超能力みたいなことできるかもしんねーわけ?」
時代を越えて再会したいと願って口にすれば、兄弟の魂を掬い上げて人型に篭めてしまうほどの、禍々しい力。
「…スーパーは、超、という、意味だろ…」
必要ないとは知りつつ、間をもたせるためにそう言葉をつなぎ、それからカウンターに両肘をついて頭を抱えて俯いた。
他の本丸が、シビアな気力の数値をどのように管理しているのか、聞いたこともない。
かつて、顕現してすぐの頃、ごく簡単な調査の任務を終えて帰城したとき、ちょうど夕餉の時刻で、たまたま主人のそばに座ったことがあった。
生活に支障をきたすほどではなかったが、たしかにゲージは削られていた。
卓の醤油だかソースだかを取ろうとして、主人の手にうっかり触れてしまって、身体を電撃が走ったのを憶えている。
『…すまない…さき、使えよ…』
『あら、すみません、ではお先に。』
なんでもない、いつものように、互いにつっけんどんに、1往復もしない、それだけの会話。
だが内心はひどく混乱していた。
時間経過での気力回復は蝸牛よりものろい。
それが、ただ、わずかに、手の甲に、触れただけで、1目盛り、埋まったのが分かった。
気持ち悪いくらいに気持ちの良い生ぬるいなにかが、指先から流れ込んできて、一瞬で、どこかの細胞をひとつ満たしたのだ。
これが、古参たちがこぞって求める麻薬…
人知れず身震いした。
蜂蜜よりも粘く、甘く濃い、媚薬…
燃え上がるかのような快美感を纏う特殊な霊力と、それが成す言の葉の魔力、これらが、あの本丸の…『結城実天城』の主、『結城航乃』の、抜きん出た審神者としての才覚だったのだろう。
「…あれに、審神者としての記憶は、ない…『言霊』を操るには、神気が、足りんだろう…」
返しそびれたままの審神者証を取り出して眺める。
こびりついた乾いた血は、審神者と、自分の、大典太光世のものだったと、思い出した。
時の政府は、敵に本丸が占拠されてゲートを突破され、政府施設になだれ込まれてはならないと、あの本丸を隔離させた。
それはそうだ、もし非戦闘員が多い核の部分に侵入されたならば、組織自体が壊滅する恐れがあった。
閉ざされた箱庭から逃れる術はなかったが、光らない門を叩いて助けてくれなど喚いた刀はない。
その門をこじ開けて逃げろと命じ、免罪符あるいはフリーパスになり得る審神者証を投げて寄越したけれど、大典太光世は主を抱き上げた。
審神者は薄く笑って掠れた声で言った、次は、戦争のない世界で、会いたいですね、と。
駆けた。
被害は甚大だったが、時間遡行軍のほとんどを焼き打ち尽くしていた。
血を流して倒れる仲間たちの間をぬって、門へと走った。
今すぐ門を開けろ!
今すぐ支援を!
今すぐ審神者を治療して一命をとどめさせ、なるべく早く手入させれば助かる刀もあるはずだ!
その日に門に縋り付いたのは大典太光世1振りだけであった。
腕の中でどんどんと重くなっていく主君に、自身の涙と血がポタポタと落ちて濡れた。
審神者のちぎれそうな胴体からあふれたはらわたを両手で押し戻し、閉ざされた向こう側へ何度も叫ぶうちに、かすかに門が光った。
…繋がった!
『ほぼ殲滅完了している!開けろ!』
扉のない門である。
渦巻く光の中から、高級そうな厭味ったらしいスーツの男が現れて、紅に塗れた1人と1振りを見おろして手のひらで口元を押さえた。
汚らしい、とか、腥い、とか言いたげな、侮蔑を含んだ冷えた視線だ。
『…その審神者は預かる。残党狩りが済んだら端末から報告を。』
男はぞんざいに審神者の腕を掴み、引きずるようにして大典太光世から奪い取った。
怪我人に対するものとは信じがたい雑な扱いに怒りを覚えはしたが、これで政府施設で治療を受けることができるはずだ、と罵声を飲み込む。
『支援を!重傷の刀が多数いる!仮にでも手入ができる者を遣わして資源を支援してくれ!それで助かるやつがいる!』
『…お前らに指図される謂れはない。』
男はそう言い放ち、審神者を門のあちら側へと足蹴で押しやった。
その動作にはますますもって心火も燃えたが、堪え、眩しい虹色にさんざめく光の中へ姿を消した主君を見送り、浅く息をつく。
男はというと、てらてらと下品に輝く革靴に審神者の血液が付着したことが気に食わないらしく、ひどく顔をしかめて唾を吐き捨てた。
『…残党狩りが済んだら、端末から報告を。』
さきと同じ言葉を、機械人形のように繰り返し、大典太光世が手にしていた審神者証をむしり取って、消えた。
膝から崩れ落ちる。
もうどうでもいい。
生きるべき、生かすべき主人を、まともな医療のある安全地帯へ送ることができたのだ、もう、どうでも、よかった。
どうせ政府はもう二度とこの本丸には立ち入らないだろう。
優秀な審神者は回収したのだ、これ以上、敵に座標を知られた拠点に関わるのは危険すぎる。
練度の高い刀たちも折れてしまった。
さすれば用もない。
のに、生きろと、審神者の言霊が呪いになって両足に纏わりつく。
傷ついた自分たちは手入のあてもなく、このまま何百年か何千年かをかけて、酸素と陽にさらされて、ゆっくりと朽ちていくのだな、と、天を仰いだ。
戦争のない世界など、ない。

堀江にメールでチラシの原案を送った。
征羽矢は伸びをして全身の骨をバキボキと鳴らす。
ぼちぼちモノレールの始発が走り出す頃合いだ。
「じゃ、また夕方にな。」
立ち上がりスマホと財布を後ろポケットにねじ込み、あくびをして兄に手を上げた。
「っ、…あ、ああ…」
眠っていたわけではないが、ひどくぼうっとしていた。
両手を広げてまじまじと見つめる。
生ぬるく柔らかな内臓の感触が残っていて悪寒が走った。
また、あの、ひとりでは広すぎる部屋に、ひとり、思い出したくなかった懐旧談を胸に、ひとりきり。
足がすくんで、思わず慌てて征羽矢を呼び止めていた。
「…いや、待て!す、すまん…め、飯でも、行かないか…?」
征羽矢がめんどくさそうに振り向き、喧嘩腰に茶化す。
「あんだよ改まって、ほんとにてんちゃんがいなくて寂しいんでちゅか?」
「…ちが!…わ、ないが、そう、ではなく…」
光世が、ぷいと目を逸らし、ジャケットの裾を握りしめたのを見て、征羽矢は呆れて笑った。
「違わないんかい!」
「…もっと…話して、い、たい…」
光世はもじもじと申し出る。
この口数の少ない男が自分から話したいなどと、天変地異の前触れだろうか。
だが、さきの流れから言えば、望まれているのは、例のオカルティックでスピリチュアルでノルタルジックな内容の続きであることは想像に易い。
「あー…ちょっと、あんま、気が乗らねーな…」
ポリポリと後ろ頭を掻きながら、どう断るかを思索する。
「…」
光世は陰鬱な表情で床を睨みつけていた。
「いまさぁ、俺は、俺だし、そりゃ、たまに思考が引っ張られるときもあるぜ?でもさ、もうそれ、関係ねーじゃん。」
「…」
なんの話をしようと思っているのかについて追及もせず、勝手な確信を持って、敢えて突き放すような言い回しを選ぶ。
兄はもうあの本丸のことで心をすり減らしてはいけない。
せっかく愛する相手と結ばれたのだ、それがたとえその忌まわしい経験に準えて整えられた縁であっても、この縁を悲しい色に染め替えてしまってはならない。
無口でクソ真面目で若干空気の読めない、顔が良くて音楽の才のあるクラブの経営者と、オタク気質で媚びない、毒舌で男癖の悪いドリフトレーサーであるべきで、けっして、刀の付喪神とその主人などという正気じゃない関係であるべきではない。
「襲ってくる敵がいるわけでもねぇ、逆に、あの世界に戻って折れた仲間を救えるわけでもねぇ、」
そう語りながら、同郷の刀の顔が思い浮かんだ。
あの本丸の実質ナンバー2、幸運の王子などと巷では持て囃されていたし、本刃も当たり前のようにそれを否定しない、徳川の勝利を呼ぶ愛刀、物吉貞宗も、おそらく、折れた。
助けられなかった。
「主とまた会えてさ、ふつーに、いっしょにアホやって、人間らしく年取ってさ、それに文句はねぇよ、俺は。」
光世の暗くくすんだ瞳を、じっと覗き込む。
「なにが知りてぇの?…って、コレ、俺、城本サンにも言ったな…城本サンはそーゆーの興味あるらしーぜ?話したいだけなら付き合ってくれんじゃね?それか、諦めて電話でもしてみろよ。」
じゃ、と、ドアを開けて出ていく、逆光でシルエットになった背中を見送り、自虐的に首を振った。
三十路も間近で、ひとりが寂しいだなんて、バカバカしい、虫酸が走る。

日中はきっとレースの準備に忙しくしているはずだ。
が、夜は、こんなときくらいはきちんと眠るに違いない。
いつ電話をすればいいかも分からない。
通話アプリを開いては電話帳をスクロールして、また閉じ、また開く。
おかげでなかなか洗濯物を干すのが捗らない。
パンツをヤツデ型の物干しにかけようとしたとき、パーカーのポケットに突っ込んでいたスマホがけたたましく鳴った。
湿った下着は放り出されてベランダの床へと落ちた。
「…っ、も、もし…」
『あっ、ミツヨさん?起きてました?』
「起きて、いた、洗濯を、している…」
パンツを片手で拾い上げて、どうにか干した。
さきと天気が変わったわけではないのに、急に青空が鮮やかに見えた。
『えらーい!』
電話越しだと、女の声は普段より高く感じた。
いや、きっとサーキットで少し興奮しているのだろう、息づかいが聞こえる。
「…なにか、用か…?」
浮かれている素振りを見せぬよう、一呼吸をおいて淡白な言葉を返した。
女はむすっとした声で文句を言った。
『冷たいですねぇ、寂しがってるんじゃないかと思ってかけてあげたのに!』
「…おれは、別に…」
『なーんだ、つまんない!今ね、ちょっと走ってきて、休憩してるんです。けっこう涼しいですよ、上着要りますからね、こっちは。じゃ、また、』
言いたいことを好き勝手に言い切って、一方的に通話を終わらせようとするから、光世は焦ってつい前のめりになる。
自業自得ではあるのだが。
「待てよ…!か、かけてきたなら、もう少し、話せよ…」
そう言いながら、勝てない、と手のひらで目を覆う。
突き放されたというほどではないのだが、自分の想いと温度差があるように思えれば、たまらなくて、振り返らないその腕を掴んでしまう。
『ふふ、やっぱ寂しかったんじゃないですか。』
「ち!が、く、は…ないが…」
『違わないんかい!』
征羽矢と同じ事を言うのが可笑しい。
「……さみしい…」
光世がポツリとこぼした本音は、電波に乗って遠く女の脳波を揺らした。
『おしごと終わったらまたかけてくださいよ、何時でもいいですから。』

「てんちゃんさんが好きなゲームの音源見つけて。土日は応援の気持ちを込めてこれで回そうかなって。」
堀江が数枚のCDをバッグから取り出した。
「…サントラ、というやつか…」
「そうなんすけど、キャラのイメソン?みたいなのが、こう、ありがちなアイドルっぽいキャッチーな感じじゃなくて、すごいんすよ。」
そのうちの1枚を読み込ませ、トラックを選ぶ。
「えーと、これ、てんちゃんさんの推しの曲。」
キャラのイメソンというと、堀江の言う通り、チャラついた恋愛脳で、内容のない歌詞のゲロみたいなものだというイメージがあったが、流れてくる音楽は、あまりにも意外すぎた。
和楽器をメインに、雅楽寄りの音の並びとリズムで、荘厳ながら今風にアレンジも効いていて、すこぶるクオリティが高い。
歌は入っていない。
ソングではなくミュージックだ。
「和製アドベンチャーだからこういう仕様なんでしょうけど、これはなかなか、面白いっすよね、こっちは、戦闘シーンでかかる曲らしくて、これもすごく良いっすよ。」
いくつかの曲をピックアップして、USBに記録する。
「これと、これなんか、間にこっちのオープニングソングのサビ挟んで、ここ、この部分リピートさせて、どうです?ハマりません?」
「…悪くない…じゃない、いいな、ゲームのサントラとは、俺なら思わない…」
光世が感心して頷いた。
「…CD、領収、出しとけよ…」
「えっ?いいんすか?こんなの、ダダ滑るかもしれないお試し企画っすよ?」
「…だだ?すべって?こいよ、笑ってやるよ…」
ぽん、と若い見習いDJの肩を叩き、ジャケ写のイラストに描かれている例の男キャラを指でなぞった。
「ちょっと光世さんに似てますよね。」
堀江が無責任に言う。
非常に心外である。
さすがにこんなには目つきは悪くないだろう、と自分では思っている。

「ぜんっぜんハキョクしてないじゃん!ミツヨのバカ!」
若菜が唇を尖らせてジュースのようなカクテルを飲んでいる。
「じゃあ土曜も日曜も、ミツヨもソハくんもユキさんもいないのぉ?」
「おれおれ、おれがいるじゃん、わかにゃーん!」
濱崎が甘えた声を出した。
「ザキくんはなぁ、」
若菜が不満げに頬杖をつく。
「ミツヨいないのにきてもなぁ、」
「あのな、城本サンにも堀クンにも失礼!」
「まいーや、ツレにキョーミあるか聞ーてみる!ね、ミツヨ、若菜が来てくれたら嬉し?」
確定演出を求められ、征羽矢に肘でつつかれて、光世は眉をひそめた。
「…う、うれ、しいぞ…」
それがおべっかだということは100パーセント明らかではあるのだが、恋する乙女は口元を綻ばせる。
なんとも甲斐甲斐しいことである。
「何枚かもらってくね、会社で配ったげる!」
「さんきゅー!お礼、これ、食べてくれよ。」
征羽矢がリボンで口を結んだカラフルな小袋を差し出した。
「ええー?おやつ系?若菜、ダイエット…」
若菜は困ったようにきれいに整った眉を下げ、悩みながらそれを受け取る。
「若菜ちゃんほっそいじゃん、だいじょーぶ、そこの天然酵母のパン屋のやつ、無添加だしたぶんヘルシー!」
根拠も薄くサムズアップで右手を掲げる、と同時に、タクシーが表に着いたと征羽矢のスマホが震えた。
「んー、ありがと、じゃあ、土曜、来れたら来るね。おやすみぃ。」
視線は一直線に光世を見つめて言った。
「…ああ、おやすみ…」
「待ってるねぇ!」
「ザキくんうるさい!ミツヨのおやすみにカブってこないで!」
キッ、と目尻を釣り上げて濱崎を睨み、ため息混じりに、じゃーね、と手を振った。
乙女ゲークラスのイケメン揃いのこの店で最も攻略難易度の高いキャラを選んでしまったわけだ、かわいそうだが仕方ない、それに、結果がどうあれ、本来は攻略するまでの道程を楽しむべきなのだ。
たったあれだけのアルコールで酔って、想い人に「うれしい」とか「おやすみ」とかのワンフレーズをもらっただけで足取りも軽く、階段を駆け上がる後ろ姿が扉の向こうにあるのかと想像すると、少し不憫な気もするけれども。

しばらくコール音が続く。
やはり眠っているのを起こすのは忍びない、と受話器が斜めになったイラストを押そうとしたところで、通話が繋がった。
「…もし…?」
『…はーい、空知…』
しゃがれた割れた声。
「…すまん、寝ていただろう…?」
深夜が終わって朝が覗いてきたくらいの空の色を、光世はブラインドの隙間から見上げた。
『…あっ、ミツヨさん…すみませ…ガチ寝、してました、わたしが、何時でもいいって言ったんですから、気になさらないで…』
ふぁ、と、あくびの吐息が聞こえた。
その甘さに胸が締め付けられる。
「…こんな時間に、起きて…明日、大丈夫か…?」
『そっちいるときより寝てますよ…今日はなにか、楽しいことがありましたか?』
ベッドで横になったまま話しているのだろう、ずいぶん声が近い。
すぐ耳元で囁かれているようで、ぞわぞわと耳の裏あたりがむず痒くなる。
「…楽しい、かどうかは、知らんが…堀江が、あの、ゲーム?の、サントラ?を持ってきたから…聴いてみた…」
『えー!なんですかそれ、それでDJしたんです?』
一気に眠気を吹っ飛ばして、話題にがっついてくる、現金な女である。
「まだ、実現は、していないが、あんたを応援する意図、だそうだ…懸命に研究していたよ…」
堀江の勤勉そうな横顔を思い返す。
もともとポップスやロックといったモダンなミックスを得意とする堀江が、ゲーム音楽とはいえ和曲ベースの音を扱うのに悩んでいる様が見て取れ、上司兼師匠は誇らしく嬉しかった。
単なる若さから、また一皮剥けて、新たな才能が花開く瞬間であった。
『なにそれ胸熱ーっ!ぜったい頑張っちゃう!あとで聴きたい…』
「音は記録する…帰ったら聴かせてやるよ…」
『ヤバ、ちょう楽しみすぎます!』
サーキットの近くのビジネスホテルに泊まっているだとか、夕食に食べた朴葉味噌が美味しかったとか、たわいない話でしばらくいたずらに夜明けのいっときを過ごす。
「…」
そろそろ電話を切ってやって、睡眠時間を確保させなければならないと、分かってはいて、ただ後ろ髪は引かれに引かれて、迷いは声になれず、沈黙が、2人の間に降り立った。
『…もう眠いですよね、また、明日も、かけていいですからね。出れないときは折を見てメッセ返すか、かけ直しますよ。』
珍しく、女は優しく言った。
光世は力なく首を振った。
それは女には伝わらないが。
「…触れたい…あんたを、抱き…たい…」
消え入りそうなボリュームの、涙交じりにも聞こえる、それでいて本能剥き出しの、沸き立つ欲を、女は半笑いで受け流した。
『ド直球…』
かまわず、光世はこめかみを押さえて眉の間にしわを寄せた。
「…足りないんだ、声、聞ければ…幾分かは、治まるかと、思っ、た…んたが…」
『あはは、ミツヨさんなら引く手あまたですよ、そこらへんの子とセックスしてきたらいいじゃないですか。』
光世の気も知らず、なんでもないことのように女が言い放った。
思わずカチンときてしまう。
おそらく自分は、光世のことが好きだとか言うくせに、性欲を発散するためだけに、適当に適当な男と、この場合の適当は、適切という意味ではなく、いい加減に、という用途だ、とにかく適当に適当な男と平気で寝るのだ、腹立たしい。
「あんたは!…それで、いいのかも、しれんが…俺は、あんたじゃ、なければ…意味が、ないんだよ…!」
ふーん、と思わせぶりに相槌を打ち、女はいたずらっぽく提案した。
『じゃ、テレフォンセックスします?』
「!?…そ、んなの…」
光世は息を呑んだ。
それがどういうものか、知識はなんとなく持っていたが、正直いったいなにを言い出すんだこの女は、という驚愕が先を行く。
『なにごとも経験ですよ?わたしねぇ、これ得意なんです、オタクは想像力ハンパないんで。』
きっと、にんまりと気味の悪い笑みを称えているに違いない。
『ね、なに着てます?』
「黒のプルオーバー…寝間着のジャージ…」
なるほど、と、ひとりごち、ワントーン低く、声をひそめた。
『脱がしたげます。わたしの手の温度、思い出して?』
「…」
こちらの是非を問わず、オートマチックにことが始まったようである。
気恥ずかしくてたまらない。
なにが楽しくて、あるいは、なにか悲しくて、こんな非生産的かつ非効率的な性欲処理をしようと人は思いついたのか、たいへんに嘆かわしい。
『シャツはまだそのままですよ、布の上から触れてます、右の、乳首、指で摘んで、鎖骨の上にキスしますね、わたしの、匂い、思い出して?』
とりあえずは導かれるままに、自身の身体に指を這わせる。
テンションは1ミリも上がらない。
とろけるような心地も皆無。
『そこから、舌で、ずっと首筋舐めて、耳の付け根、それから、耳の中、舐めてる…呼吸の速さ、思い出して?』
「…」
もう一方の手で喉から頸部、そして耳朶に、耳珠に、そしてその中を、自身の薬指でそっと弄った。
さきに、女の悩ましげな声にわずかに反応して痒みを感じた部分にほど近く、非常に不本意ながら淡い鳥肌が立った。
『シャツを捲り上げて、肌に直接触ります。えーと、どうしよっかな、乳首には触れないで、まわりを、乳輪の縁に沿って、めっちゃそーっと、焦らすみたいにして、触って?…それから腹筋なぞって下へ、ちょっとこそばゆいでしょう?』
不本意なのだ。
こんなやりかたで自分の手で感じるなんて、どうかしている。
なのに、だんだんと、湯が沸くように、熱がこもって、全身は敏感さを増して、目の前には霞がかかって、訳が分からなくなる…
こんなやりかたで!
「…っ、な、ぜ…っ…」
光世は苦しくなって、べつに答えを求めてはいない疑問詞を吐いた。
『ノッてきました?ふふ、おへその中を舐めちゃいましょう、くるくるって、舌動かして、手は、今度は、太ももの内側を。』
コントロールされる…
唆されるがままに、無心に手のひらをウエストゴムの内側へと突っ込んだ。
血の集まった身体の中心部はずくずくと脈打ち、もう我慢できないと猛り始めている。
「…ッ…く…は、ぁ…」
意識とは関わりなく、喘ぎ息が溢れ出てしまい、それでも一瞬の正気が狂気を窘めた。
女は、無愛想でぶっきらぼうな年下の恋人が滅多になく乱れる姿を夢想して、妙に色気の濃い声を弾ませる。
『気持ちくなってきちゃいました?かーわいいですねぇ…いちばん、触ってほしいとこ、触ってあげましょうか?ほら、脱がせてあげますから、ちゃんと腰浮かせて?』
光世は唾液を滴らせてがなった。
「…へ、変態クソ女ッ…」
涙目は充血して、眉は富士型に下がり、頬は桃色に染められ。
こんなはずじゃなかったのに!
『へへ、最高の褒め言葉です。続けますよ?まず下着の上からそっと撫でてます…あら?先っぽが濡れてますね…?どっちがヘンタイかしら?』
芝居がかったふうに語尾を上げ、くす、と鼻で笑われるのが聞こえて、光世は、毛穴という毛穴から蒸気が噴き出すかのような暑さに、なぜか焼けたアスファルトが広がる光景を、見た。
「もっ!う、ダメだ!…こ、擦りたいっ…!」
指示通りに、触れるか触れないかくらいの圧で陰茎を弄んでいるのだが、これがどうにも、欲求に勝てそうもない。
わざに申告しなくとも自分の匙加減でいくらでももっと高く舞い上がれるのに、感知できない力に制圧される、制御される、勝手に先へ進むことはかなわないと脅迫される…
『もう?堪え性のない男ですね…じゃあ、咥えますね…?ほら、わたしの、口の中の温度も、思い出しなさい?』
その言葉に飛びつき、待ち焦がれていた刺激を与える。
親指と四つ指を輪にしてきつくすぼめ、これでもかというほどに激しく扱いた。
まばゆい光が満ちていく。
壮麗なクラシックが流れ出す。
「…っ!う、嘘、だろ…こんな、こんな…」
ひとりで耽る自慰と、比べ物にならぬ、めくるめくオーガズムに、両足は痺れてひくついた。
『そんなに、嘘みたいに、きもちい?』
「…しゃ、べるなっ…あたまっ…バグる…っ!」
フェラチオを想定して台本を進めているのに横から喋られると、狂っているのが世界ではなく女でもなく自分なのだとさらけ出されているようで、爆発しそうになる。
それなのに、女は悪びれもせず続けた。
『あとは想像力で補ってくださいよ、たまに軽く歯が当たる感触とか、涎の質感とか。』
横で!
喋られると!
シナリオがおかしくなるんだよ!
光世は胸の内で叫んだ。
つもりだったが、それは形を少し変えて口をついて出た。
「…ッ、あんた、あんたの中っ、入らせろっ…」
女の頭を掴んで股の間から離し、そのまま突き飛ばして組み敷く…
クタクタのハーフパンツと下着をむしり取るようにして脱がせて、膝を押し開き、その蜜に濡れた秘所に自身を擦り付ける…
そんなビジョンを、女は見てはいない。
『そーお?じゃ、わたしも、しちゃおっかな…うんしょ、と……ね、ミツヨさん、わたしも、きもちくして?』
まさか自分にしてやったような、トチ狂った官能小説の音読だか朗読だか、そんなことを要求しているのか?
できるはずがない!
「…知らん…!っ、入らせろ、と、言っている…!」
細い手首を床に縫い付け、喉元に歯を立てる…
腰を前後に動かし、自立した剛直が入る洞を探る…
『いーね!その感じ……んッ、は、いい…前戯なしでブチ込まれるなんて…さい、っこう…』
女も、興が乗って、指か玩具かなにかは知らないが、肉壺の中へ差し入れたのだろう、鼻にかかったよがり声で鳴いた。
「…どうせ、もう、びしょ濡れなんじゃあ、ないのか…?」
手が止められない。
とろりと滲み出る白濁した体液が、ぬちぬちと音を響かせて泡立つ。
『図星ッ…!』
光世の体躯の下で腰を捻り悶える女体を抑え込み、腹の中を何度も深く抉る…
「…奥まで、しっかり、掻き回せよ…っ!?」
いや、やめて、と哀願する目尻からこぼれる涙を舌で掬う…
『んん、はっ、や…ミツヨさんっ…』
おもむろに名を呼ばれ、どくん、と心臓が跳ねた。
「…っ、出っ…」
慌ててティッシュ箱に手を伸ばそうと下腹に力を込めるが、間に合わず、迸る。
同時に、
『んあっ、ぁ…イっ…!』
女も、弾けたようだった。
ぜーぜーと荒い呼吸がユニゾンのように重なる。
衣服とシーツを汚してしまったことを認識して、羞恥心が一気に竜巻のように襲いかかってきた。
「…とんでもなく、恥ず、かしい、ような、気が、する…」
遅ればせながら手繰り寄せたティッシュでシーツを濡らす精液を拭い、惨めだと自虐するしかない。
なにをやっているんだ、おれは…
しかし対して女はケロリとして言った。
『冷静になったら負けですよ。こういうレクリエーションと思わないと。』
いつものことである。
こうして翻弄されるのもそろそろ慣れてきてもいい頃だ。
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〜26に続く〜
 
2025/12/15 07:50:31(2UnTM/dM)
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