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〜まえがき〜
⚠書いた人はオタクです⚠某刀ゲームの二次創作夢小説です⚠暴力などこじらせ性癖の描写多々⚠自分オナニ用自己満作品です⚠ゲームやキャラご存知のかたは解釈違いご容赦ください⚠誤字脱字ご容赦ください⚠たぶんめちゃくちゃ長くなります⚠未完ですが応援もらえたらがんばります優しいレス歓迎⚠エロじゃないストーリー部分もがっつりあります⚠似た癖かかえてるかた絡みにきてください⚠ —---------------------- 征羽矢の運転する軽トラと店の近くまで並んで走り、窓から手を振って別れた。 長らくマニュアルミッション車に縁のなかった征羽矢だが、ここ最近に女と知り合って、半ば無理やりにでも特訓させられていたのが幸いした。 そうでなければエンスト祭だっただろう、友人も心配で気軽に貸すなんて言えなかったに違いない。 カリーナは大学への道のりを行く。 途中でファストフード店で大量のハンバーガーを受け取り、お米がおいしいと評判の弁当屋で大量のおにぎりを受け取り、ドーナツショップで大量のドーナツを受け取った。 カリーナで来て良かったじゃないか、光世はしみじみと噛み締める。 「あっ、そこのドラスト寄ってください。」 「…まだ、買うのか…」 光世が呆れと驚きの混じった息を吐いた。 「かわいい後輩のためにね、先輩はかっこつけたいんです。」 運転にはすっかり慣れてきて、目的地が決まっていれば冷静に問題なくタスクを消化できるのだが、急に寄り道を指示されたらまだとっちらかってしまう。 そんなに思い通りに車線変更はできない。 「ウインカーが先ですよ、いまステアリング切るの早かったかも。」 なるべく穏やかに、女は指摘した。 助手席であまり口うるさくされるとイライラする、と世のドライバーたちは言いがちだが、相手が運転のセミプロであるから光世としては文句のつけようがない、頷くだけだ。 「視線につられて回しちゃうの、あるあるなんです、意識してみてください。後続車、びっくりしちまいますからね。」 なるほど、たしかに、首を左右に振る動作に肩から腕がついてきてしまう。 ただ片道三車線の国道を走っているだけだから、車間距離さえ十二分であれば、それこそ後ろの車が舌打ちするくらいで済んでいるけれど、これが繊細な操作を必要とするドリフトのレースであれば致命的なミスになり得るのか、と気を引き締めた。 もちろんドリフトのレースに出場する予定はないが。 どうにか駐車場へと入り、停めやすそうなスペースを探しながら徐行していく。 「おっ、駐車ひさびさじゃないです?お手並み拝見っ!」 女が調子よく茶化してくるから、思わず、ぎゅ、とハンドルを握りしめた。 国道沿いのドラッグストアは車の出入りが多く、少し緊張していた。 車幅の大きな外車や人気のミニバンの隣は避けたい、と、店舗の横側のほうへ目をやる。 奥まったところに空いている区画が、パステルカラーの軽自動車に挟まれているので、そこをめがけてノーズを振った。 全開の窓から後ろを確認しながらゆっくりとバックする。 「ばっちしですね!あ、後輪、輪止めに当たったら、ちょびっとだけ前出てください、当たりっぱだとアライメント狂いやすいので。」 あらいめんと、が位置合わせを意味する英単語だとは知っているから、タイヤの取り付け角度に干渉するということだろうと予想して、クラッチワークで十数センチ前進した。 「ほんと、上手になりましたね!」 「…カリーナは、運転、しやすい…」 エンジンを切りドアを開けて外へ出ると、黒いアスファルトはジリジリと熱を放っていて靴底は蕩けそうだ。 こめかみを汗が一筋流れ落ちた。 自分もなにか飲み物を買いがてら店内のクーラーの恩恵にあやかろうと企んで、女について歩いた。 そこへ腕をするりと絡めてくる。 すれ違った婦人が訝しげに2人を見上げた。 「いやいや、他の車さほど運転してないじゃないですか。レース仕様のハチとか、ミッドシップのビートとミスターとか、あとは?ロータリーのロドスタとか、どれもクセ強めなんですよ。たぶん、ミツヨさん、ふっつーのオートマのファミリーカー乗ったら、拍子抜けすると思いますよ。」 自動ドアが開くと同時に、ひんやりとした冷気が肌を撫でた。 まさに生き返るような心地だ。 女は、ぱっと腕を解いて早足で陳列棚の奥のほうへと行ってしまった。 ほんの一瞬、浮かれて酔ったことを、恥じる。 あの女にとって、この程度のボディタッチなど慰めの一種に過ぎないと心得ていた。 昨夜のできごとを悔いて落ち込んでいる光世に対して、そうして宥めているだけ、と自分に言い聞かせた。 薄暗い気持ちで冷蔵ケースから缶コーヒーを手に取った。 カリーナに、妬けると言った、あれも、たぶん、嘘、ではないかもしれないが、ちょっとしたリップサービスだろう、知っている。 セルフレジでまごまごしていると、女がカゴに商品を山盛りにして戻ってきた。 粉末を水に溶かして作るタイプのスポーツドリンクに混じって、例のゲームのキャラクターの絵の菓子が見えた。 チープなウエハースかなにかのオマケに、シールが1枚入っているやつである、どちらが本体か分かりはしない。 「…ほんとうに、そいつが好きだな…」 これは、妬ける、とかでは、けして、ない、からな、と、光世は弁解するように心の中で言い含め、白い目を向けてやった。 「んー、でも今はミツヨさんも好きですからね、」 バーコードをスキャンしていく手元から顔を上げずに、さらりと、そう返されて、もう一声なにか言ってやろうとしていたのに言葉を失った。 浮かれて、酔ってしまう。 だが、はた、と気付く、『も』と言った、その助詞の使い所よ。 「…そこは、一般には、『が』、で、あるべき、では…?」 肩を落とし、手渡されたレジ袋にスキャンの済んだ商品を詰めていく。 「推しはねぇ、変わるんじゃないんです、増えるんです。」 精算機に札をねじ込みながらよく分からないことをのたまっているが、その横顔はとても楽しげだったから、それ以上に追求はしなかった。 車へと戻る道すがら、さっそくウエハースの袋を開けてシールを引っ張り出して、女は歓喜の声を上げた。 「自引き一発キタコレ最高!」 東谷大学は町の端の、地下鉄の始発駅近く、小高い丘の上に位置していた。 市内ではあるが、あたりは自然豊かでのどかな景色が広がっている。 カリーナを来客用の駐車場へ入れたとき、マフラーが爆音を轟かせるからだろう、壮年の守衛があからさまに嫌な顔をしたが、もう一人の、定年過ぎほどの歳のころか、相方がにこにことして女に話しかけたから黙っていた。 「空知くん、久しいね、」 女も表情を和らげてその守衛に駆け寄った。 「お久しぶりです、お元気そうで。」 「よお、この夏の上東戦で13連覇だよ、たいしたもんだねぇ。」 自身の体調についてよりも、どうやら、自動車競技部の大学対抗戦の戦績について話したい様子である。 「うれしい報告でしたよ、わたしも負けないように頑張ってきますね。」 「そうか、週末チャレンジカップだったね、怪我のないようにね。」 女が来客カードに2人分の名前を書き、入館証を受け取った。 「なんだい、彼氏かい?」 両手に大量の差し入れの入ったビニール袋と紙袋を提げた光世に笑いかける。 女がウインクした。 「ええ、かっこいいでしょう?見せびらかしに来たんですよ。」 本人はそのジョークをなんと躱したらいいか分からずに目を白黒させて困惑しているが、それは無視して、ひら、と手を振って、横門から学内へと入った。 きつい上り坂だ。 先の方に大きな立派な校舎や講堂がいくつも見えているけれど、そちらとは反対の、グランド脇のクラブハウス棟らしき建物に向かって歩いていく。 ガレージには数台のスポーツカーが停まっているが、学生たちの姿は見えない。 「あれ?いないですね…」 奥のドアをノックしても返事はなく、そっと開けると、そこはガソリンとオイルと埃と汗の粒子の充満する、いかにもな男所帯の部室であった。 テーブルに床に脱ぎ散らかされた衣服を見て女は頷いた。 「体育館かグランドかプールですね。」 グランドを眺め、目を細めて各所でトレーニングしている学生たちの様子を見るが、どうも目当ての後輩の姿はないらしい。 ぶらぶらとした足取りでキャンパス内を縦断する。 部外者が堂々とうろついていて大丈夫なのかと光世は心配したが、教授なのか職員なのかは知らないが、案外と様々な年齢の者が歩いていて驚いた。 かつては光世も大学生だったのだが、そんな景色はあまり覚えていなかった。 友人らしい友人は同じ研究室の数人だけだったし、ゼミ室と教授の部屋と図書館以外を、ましてやまわりを観察しながらなど、歩き回ったことはなかった。 音楽の夢を追うために中途で離学したことを悔いたことはないが、もう少し、それこそ部活やサークルに参加してみたり、同世代の仲間たちと無意味に戯れる時期を大切にするのもよかったかもしれない、と、今ならば思える。 だがやり直しはできないし、したいとも望まない。 歴史はただ前へ前へと進む。 過去があるから今があるし、今があるから、たぶん、未来がある。 少し捻くれてイキってすかして、周りの学生たちから距離をとっていた残念な数年前の自分は、どこまでいっても、正解でしかない。 右足を出すべきときに左足を出した、それだけでも歴史は変わってしまう場合があるのだ。 あれが正解でなければ、今ここでこの女の隣を歩けているかどうかさえ保証できない… 築年数の浅そうなきれいな建物に入る。 つん、と不思議なにおいが鼻腔をついた。 エントランスの階段に腰掛けてしゃべっていたジャージを着た数人が、女を認識して慌てたように立ち上がった。 「由希先輩!」 「由希先輩おはようございます!」 女が片手を上げて近付く。 「XY準優勝おめでとうございます!」 そのうちの1人が小さく拍手のアクションをしながら祝辞を述べた。 「ありがとうございます。恥ずかしいですね、優勝すべきレースでした。」 女は珍しく照れて顔を振った。 「暑いのに頑張ってますね。これ、全畑のチケット、頼まれてた人数分あるはず…えっと、今年、主将は…きみ?」 「ありがとうございます!貴重な経験させてもらえてうれしいです!」 封筒に入ったゲスト用のチケットを手渡した。 「最近、あれですね、話題、カレシさんの、」 無邪気な後輩にそう切り出されて、女は、少し離れてキョロキョロとしていた光世の服を引っ張った。 「あ、このひと、かっこいいでしょう?」 ふふん、と、わざとらしく息巻いてみせる。 「うわっ!わぁ、すみません!…か、顔が、天才、ですね…」 光世は形式的にわずかに頭を下げたが、ほかになんの反応もすることができずに目をパチパチとさせた。 「でしょう?いま運転練習中です。そのうちバリバリ4輪ドリかますようになりますんで。」 若い彼が驚いた声を出したのは、実は、昨夜の破局疑惑のまとめ記事を読んだからだったのではあるが、SNSにうとい女も光世もそのことを知らなかったし、征羽矢は別に気を遣ったとかそういうわけではなく、事実でないことをまことしやかに書き立てた虚構報道について、どんくさい兄や面倒事を嫌う女にわざわざ教えてやる必要はないと思って伝えていなかったのだ。 優秀な学生である、会話の端からそのことに勘づいて、流れをうまく急カーブさせたわけだ。 「4輪なんすね、なんですか?」 「U12、」 「渋っ!かっ、っこよ!ですね!」 ぱっと顔を上げて見つめられて、なぜかそこはかとなくいたたまれなくなり、 「…これ…」 光世は、持たされていた大きなビニール袋と紙袋を主将と呼ばれた青年へと突き出した。 「差し入れです。終わったら食べてください。あとこれ。」 女も自身が抱えていた薬局のレジ袋を、隣の学生へと手渡した。 「いつもありがとうございます!」 さわやかな笑顔が弾けて眩しい。 「水トレ、今からですか?」 「いえ、前半終わって、休憩してたとこでした。これから100を2分で20本で…」 女は、学生のジャージのポケットから出ていた紐を、ぐん、と引っ張った。 パシッ、と小気味良い音を立てて、手のひらにキャッチする、ストップウォッチ。 意地の悪い顔をして、言った。 「ウォッチ回しましょうね。全員同じサークルでいいんですか?」 「まあ、全員が回れる設定で、」 副将だと自己紹介したほうの男子学生が、あわあわとしながら説明しかけるのを、ズバリと遮った。 「うそ、1分半でいける子とコース分けてください。1分50と1分半で。」 「!…っす!」 若者たちは威勢よく返事をしてから踵を返し階段を駆け上がっていった。 「…水泳部か…?」 光世がポツリと呟く。 思っていたドリフト部とずいぶん様子が違う。 女はワイドパンツの裾をくるくると折りたたんで膝下まで捲り上げ、靴と靴下を脱いだ。 「わたしちょっと見ていきますので、どうしますか?入館証あれば図書館とかも入れますよ?」 丸めた靴下をスニーカーの中に突っ込み、踵をそろえてチョキの指で持ち上げる。 今日は初めて見る黒いスニーカーを履いている。 サイドの模様の色が左右で異なっていて、よく観察すると『蒼』『緋』と文字が入っている。 いかにも厨二病的なデザインは、これもまたなにかのアニメのグッズに違いない。 「…邪魔で、なければ、見させてくれ。」 征羽矢が中学高校と水泳部に所属していたので大会に応援に行ったことはあるが、練習風景はあまり知らない。 自身の通ってこなかった類の世界に寄り添うことが面白いと思えるようになった、だから、やらないまま、できない、興味ないと突っぱねるのは簡単だし楽だが、それが価値にはならないことも理解した。 というのは建前で、不案内な場所で放り出されるのが心細い、が本音かもしれない。 「ん、じゃ、1分半のコース回してください、やりかた教えますから。」 光世も裸足になって、女が登っていくのを見上げながら1段目に足をかけた。 光世は温水プール特有の、サウナのような湿度と温度、塩素の匂い、そして大きなガラス窓から溢れる太陽の光に軽く目眩を覚えて、片手で目を覆った。 女が指差す先にプールフロアが積んであり、そこへ腰を掛ける。 「由希パイセン差し入れあざっす!」 「XY惜しかったっすね!」 「由希先輩あとで車見てってくださいよ、乗り換えたんすよ!」 女は次々に青年たちに囲まれる。 それを、はいはい、と軽く受け流し、パチン、と手を叩いた。 「インターバルストレッチは済んでいますか?2時から始めますよ、あ、」 トレーニングメニューが記してあるホワイトボードを見つけ、ペンを手に取る。 キュ、と音を立て、『2:00』の部分を指で消した。 学生たちはぎょっとして注目している。 キュキュキュ。 ペンは走ると小動物のように鳴いた。 『1:50/1:30』と書き直しにんまりと笑うと、あたりから、ひゃー、うわぁ、と悲壮な声が上がる。 主将が号令をかけた。 「集合!整列!03生の空知由希先輩がいらっしゃいました!差し入れいただきました!」 「あざー、ーっす!」 プールの水面が波立つほどの大合唱が巻き上がる。 女はぺこりと頭を下げた。 「こんにちは空知です。少しお邪魔します、よろしくお願いしますね。上東戦13連覇おめでとうございます。この調子で冬も勝ちましょう。」 「というわけでっ、メニュー変更です!100m20本1分50と1分半でコース分けます!4、5コース1分半、6、7、8コース1分50に分かれて入水!」 「せーいっ!」 熱い空気がビリビリと震える。 30人以上の部員がいるのだ。 ドリフトなどあまりメジャーな競技ではないだろうに、それを考えるとやはりたいへんな強豪校である。 「テメェら声出してけよ!」 「せーいっ!」 女が手招きするので、光世は立ち上がり歩み寄った。 ザラザラした濡れた床を踏む感覚が新鮮で、わずかに心躍ってしまう。 これもまたこの女に振り回されていなければ得られなかった足ざわり。 インプットが捗り、プールサイドをイメージさせる歌詞とメロディーの楽曲が耳の奥で次から次へと再生されていく。 「さいしょ、わたしが両方やるので、見ててください、途中で代わってください。」 ストップウォッチを両手にスタンバイし、ペースクロックに目をやる。 「次の上から出まーす!」 「せーいっ!」 「あの大きな時計、赤い針が真上、60に来たら、1番目の人がスタートします。その10秒後に2人目がスタート、ってどんどん続いていって、んで、それぞれ1分30秒後に2本目を泳ぎ始めます。その合図を出してあげるのが役目です。」 ざっくりと解説してくれるから、考えてみる、1分半ならマネージャー業が初体験でもなんとかなりそうではあるが、5つのレーンを同時に、2パターンの間隔で合図を出し続けるというのはなかなかにハードモードだ。 征羽矢はコンピュータゲームやDJをマルチタスクだと匙を投げたけれど、こちらもずいぶんである。 「1陣10秒前でーす!」 「せいっ!」 「5秒前です、1陣ファイト!よーい、はい!2陣10秒前です!」 器用に左右のストップウォッチを起動させる。 人間は本来、左右非対称のリズムが加わる動きはしにくいようにできている。 たとえば、右腕で2拍子を刻みながら左腕で3拍子を刻むのが難しい、というような話だ。 片方は親指を、もう片方は人さし指を押し込むだけでも、繰り返していくうちにこんがらがってくるはずである。 こういう能力も、左手のシフトノブやブレーキレバーの操作と、右手から両手を使うハンドリングという別々の動作を必要とする、ドリフトという特殊な自動車競技を極めるにあたり、不可欠なのだろう。 ともすれば、案外と、左右それぞれにオペレーションするDJ機器の取り扱いと、反射的な采配に熟練している自分にとっては得意分野かもしれない…? 期待に似たふわふわとした想いが心臓を柔らかく締め付けるのに気付かないふりで、赤い秒針を目で追い、胸の中で次のスタートの合図を準備する。 次は、1周ぐるりと周ってからの真下、30のところに来たら、合図だ。 足下で水しぶきが上がった。 鮮やかなクイックターン。 規則正しく水面から咲いて揺れる逞しい腕が、耳の中で鳴っているメロディーにテンポよく重なり、メトロノームのようである。 「…水泳部、だな…まるで…」 「水トレは持久力と体幹鍛えるのにいいんですよね。噂によると、水泳部より泳げるらしいですよ、うちの自動車競技。…2本目1陣10秒前でーす!」 「せーいっ!」 もともと2分で回る予定だった距離を1分半で泳ぎきっているのだから、すでにだいぶ息が上がっている、が、たしかにこの実力があるのであれば2分ではもったいない。 スパルタなOGにチケットを頼んだりするからこんな目に遭うのだ。 女からストップウォッチを受け取る。 数字はカウントアップされていくけれど、1分半間隔ならばペースクロックを見ていれば対応できそうだ。 いちおうラップを記録するために、女の使用方法に倣う。 それよりもどちらかというと、だ。 「さ、3本目っ…10秒前…」 「せーいっ!」 「5、秒前、1じん、ふぁ、ふぁいと、よ…い、は…、」 人前で大声を出すということのほうが難易度が高い、自身の店のステージでアドレナリン大放出の状態で歌うのとはまた勝手が違う。 女がケラケラと笑っている。 次の部員を送り出さねばならないので、光世を小馬鹿にしたようなコメントは、さぞしたいだろうが、できない、ざまない。 「10秒前でーす!」 女のらしくないハイトーンが響き渡る。 「今日はありがとうございましたっ!」 「したーっ!」 並んだ学生たちにきっちりとお辞儀され、光世は尻込みして後退った。 女がそれをかばうようにして半歩前に出る。 「こちらこそ、ありがとうございます。トレーニングも走行練習もがんばってください。わたしも、全畑、全力で走りますので応援よろしくお願いします。」 普段あんなにぐうたら酒を飲んでばかりいるとは思えぬ、ちゃんとした社会人の挨拶をするから可笑しい。 プールの建屋から外へ出ると、もう夕日が斜めに影を伸ばさせていた。 「日が落ちるのが早くなりましたね。」 通りを歩く学生たちは心持ち早足で忙しない、きっとデートやバイトといった予定が目白押しなのだ。 「さて、お疲れ様です、また付き合わせちゃいましたね。」 女が光世を見上げて、すまなそうに眉を下げたから、光世はゆるりと首を振った。 「…いや…楽しかった…?ように、思う…」 懐っこく礼を言って、どさくさに女との馴れ初めを図々しく聞き出そうとする若者たちは可愛らしかった。 クラブとか行ってみたいっすね、と屈託なく甘えて話すから、つい、オマケしてやるから一度来てみろよ、なんて、営業っぽいことを言ってしまったりした。 「わたしもすごく楽しかったです、ミツヨさん、ありがとうございます。」 そのとき、ぐう、と恥ずかしげもなく腹の虫が鳴いた。 「学食でごはん食べて行きましょうよ、安くて美味しいんですよ、こっち。」 女は、ぱっと光世の手を取った。 歩幅は光世のものより狭いのに、大股で先をゆく。 相変わらずこちらを振り向きはしないが、その後ろ姿の髪の先端が夕日に透けてちろちろとさんざめいていて、力強く命を感じた。 昨夜は誤って殺してしまわなくて良かった、という安堵と、なぜあんな悲惨な目に遭わされてなおこれほどまでに生き生きと前進できるのか、という疑問が同時に爆ぜる。 「イタリア語学科監修のシュニッツェル丼が美味しかったんですけど、まだありますかねぇ。」 光世は女の影を踏んで付いていく。 つないだ手が、熱い。 この手を離したくない。 逃がさないと脅したのは、たしかに光世だった。 こんどこそ離さない、たとえ主命であっても、縋り付き懇願されたとしても。 学生たちに混じって食事をするのになんとなく緊張していたが、存外気にしている者はいないようだった。 聞くところによると、近所の会社の普通のサラリーマンなんかもよく利用するらしい。 思い出のシュニッツェル丼はとうにメニューのリニューアルで終売していたけれど、かわりに東南アジア文化研究学科監修のナシゴレンと、地学科監修の地層丼とかいう、鶏そぼろと炒り卵と桜でんぶと絹さやなんかを、飯と重ねてガラスの器に盛り付けた、ジョークの効いた料理を半分ずつシェアして食べた。 胃は満たされて幸福度と血糖値がゆるりと上昇していく。 「まだ時間いいです?」 光世はちらりと時計を確認した。 店まで30分で戻れる、大丈夫だ、と首を縦に振る。 女はいたずらっぽい顔をして、 「ね、もっかい、プール、覗いて行きません?もうね、閉まってるはずですから。」 と、小声で悪事を提案した。 「?」 閉まっていたら入れないのでは? なにをしに? 毎度なにかと突飛なことをしたがる、べつにそれを否定はしないが、理解はできないし、自分なら思いつきもしない。 予想通り、入り口のガラスの扉は鍵がかかっていた。 ロールカーテンが下りていて中の様子は窺えないが、明かりは消えていて人の気配もなく、ひっそりとした雰囲気だ。 遠くの方から風に乗って、元気の良い学生たちが楽しげにじゃれあい騒ぐ声が聞こえてくる。 「こっちです。」 女は建物の裏へと回り込んで、非常階段の登り口にかかっているチェーンをひょいと跨いだ。 「…待てよ!それは、よく、ないのでは…?」 光世が狼狽えて止めてみるけれど、どんどんと階段を登っていってしまう。 仕方なしに、あたりを見回しながらそれに続いた。 もし管理者に見つかれば大目玉で済めばいい、不法侵入だと通報されても言い訳もできないのでは、と不安が渦巻く光世をよそに、とうとうプールのある3階までやってきた。 いちばん隅のガラスの引戸を動かすと、開いた! なぜ? 施錠は? 「わたしが入部した頃はね、自動車競技部はそんな強くもなくて、水トレしたくても水泳部とトライアスロン部と水球部とコースの取り合いみたくなっちゃって、それでいっつも負けてて、なかなかプール使わせてもらえなくてですね、」 するりと滑り込み、光世の手首を引く。 「じゃあ夜にこっそり使おう!ってなって、角の鍵は閉めないでおく!っていう、口伝でね、代々後輩たちに受け継いでもらうように言っててね。」 おおかた日も沈んだ。 ほぼ暗闇である。 水面が薄ぼんやりと揺れていて、若干射し込む外の光がキラキラと控えめに乱反射している。 空調が切れているためかひんやりとしていて、昼間の熱気に満ちたムードとは全く異なっていた。 変な感じだ。 しかしそれはもう! 不法侵入なんだよ! 光世は呆れたが、十数年前からのしようもない伝統が、強豪部になった今でも語り継がれ引き継がれているバカバカしさに、思わず笑ってしまった。 「ひゃっほー!誰もいない夜のプール!テンション上がりますね!」 ポイポイっと靴を脱ぎ捨てる。 「見てたら泳ぎたくなっちゃって!よいしょ…」 よいしょ、などありえない感嘆詞を語尾に付け、女が平然とシャツのボタンを外していくから、光世はさすがに勢いよく咎めた。 「待て、と、言っている…!どうするんだ、誰か来たら!それに…カメラ…」 天井に視線を送る。 たしかに監視カメラのようなものがありはする。 が、女は1ミリも気に留めていない風でどんどんと衣服を脱ぎ去っていってしまう。 「誰も来ないですよ、もう鍵閉まってるんだし、カメラだって、これだけ暗いんですからまともに映らないですって。ね、ほら、こんなの、青春アニメにしか存在しないシチュですよ?」 ショーツから足を順番に抜き、全裸になる。 人さし指にショーツを引っ掛けて意味もなくくるりと回し、それから投げ捨てた。 そのシルエットが濃紺で浮かび上がって、女の言う通りだ、なにかのアニメか映画のワンシーンのようで、憂慮とは裏腹に胸が高鳴った。 スタート台に上がり、クラウチングポーズでビタっと静止する。 ふくらはぎの筋肉のわずかな盛り上がりが妙に美しい輪郭線を描いて、光世の網膜に焼き付けられる。 瞳を潤そうとゆっくりとまばたきをした。 その瞬間、響く、バシャン、でもなければ、ボチャン、でもなく、たぷんっ、と、水風船が撓むような、丸い音。 入水角度が完璧に近く、飛沫はほとんど上がらない。 が、なかなか水面から顔を出さない、泳いでいるような水音もしない。 急に心配になり、光世は女の姿を探した。 波がゆらゆらと揺れている。 水は墨汁よりも黒く、底との距離感が掴めない。 さきには『エモい』とさえ思ったにもかかわらず、これは青春アニメなんかじゃない、ホラー映画の冒頭シーンだ、と、背筋が凍りついた。 そのとき、パシャっ、と音がして、反対側の端に人影が見えた。 光世にとっては信じがたいが、一度の息継ぎもなく、水中を魚かイルカのごとく壁から壁までを泳ぎ切ったのだ。 ほぅ、と短く息を吐き、かぶりを振った。 プールサイドを歩いていく。 床は乾いている。 女は水から上がり、縁に腰掛けて脚をバタバタとさせていた。 雲が切れて月が出て、薄明かりが女の身体を照らした。 呼吸を忘れるくらいの、エロティシズム。 光世はその隣に跪き、女の腹に残る痣を手のひらでさすった。 「…昨夜は…すまなかった、自分でも、どうして、こう…してしまったのか、分からなくて…」 まつげを伏せて、震える声で囁く。 だが女は、いつもの、あの抑揚のないドライな物言いをするだけだ。 「気にしてませんってば、もとから、わたしたち、そんな感じじゃないですか。」 冷たくも感じる、投げやりな言い方で。 その手の甲で濡れた頬に触れ、それから指先で束になった前髪を掻き分け、深い焦げ茶色の瞳をじっと見つめた。 「…そうじゃ、ない…大切に…したいと、思って、いる…ほんとうは…」 『…あんな、こと…そんなつもりは、なかったんだ、信じてくれ…傷付けたく、ない、のに…』 いつかの記憶が重なる。 治安の悪い風貌の大男が猫背をますます丸めて縮こまり、鼻声でなにか言い訳をしている。 責める気は始めからなかったのに、たいそう憐れで、なんとも愛らしい。 「分かってますよ、その方法が、ちょっとみんなと違うだけでしょう?」 『分かってますよ、大丈夫です、それがわたしの務めですから、気になさらないで。』 審神者の就任式で、意味も分からず、よく考えもせず、身を神に捧げると誓った、それを、いまは、理解、している… 何度も、何年も、何十年も、おそらく… そう… 神に、屠られていく… 首を締められても、殴打されても、肌を切り刻まれても、陵辱されても… それが、契約… 「…みんな…」 『…つとめ…』 光世の呟きが和音になって聞こえる、吹き替え付き音声多重放送で映画を観ているようだ。 脳が疲労していくから、光世の手を優しく振り払った。 「ほらぁ、こんなこと!常識ある大人が、します?わたしたちは、ちょぴっと、非常識、なんです、ただ、それだけ。」 芝居がかった仕草で両手を左右に広げる。 白鳥が冬を超えて北へと飛び去っていくフォルムを彷彿とさせた。 「…非常識…」 「非常識って、ね、なんだか、わくわくしませんか?」 「…わく、わく…?」 裸の女が、光世の胸ぐらを掴んで、ぐい、と引く。 「ねぇ、早く、」 濡れた唇を重ねる。 硬い髪が額に頬に貼り付いてくすぐったい。 もう一方の手のひらで光世のいきどおりをデニム越しに撫で上げた。 これもまた、ご機嫌取りの一種なのかもしれない。 いつまで経ってもしょぼくれたままの恋人が鬱陶しくて、あまり気が進まないけれど、しかたがなく身体を明け渡そうとしているだけかもしれない。 そう想定はできても、欲望は正直に血管を巡る。 「しよ?」 ぽってりと厚い下唇がきゅうっと引かれ、弓なりに歪んだ。 光世の着ているアースカラーのカットソーを裾からぐいと捲り上げ、精悍な胸に顔を寄せる。 これはまた、野外セックスどころじゃない、とんでもない。 なのに理性が仕事しない。 まあ、たとえ本音でなく情であろうと、この女の成すことだ、不可避で、光世にとっては不可抗力な事案である、素直に脱がされてやる。 女は光世のデニムパンツの後ろポケットのスマホと財布を抜き取り、脱がせたばかりのカットソーにくるんで放り投げた。 誠に手慣れていて腹立たしい。 こんなやりかたを、いつどこでだれに学んだのか、知りたくはないが、いずれ突き止めなければ気が済まないかもしれない。 開放された胸骨に沿って舌を這わせ、つんと起き上がった乳首を薬指の腹で刺激する。 光世はたまらず天井を仰ぎ見た。 そう、これが、情、で、なければ、いいのに… 愛、され、たい… もっと、欲されたい… じっとりと切ない悦に浸っているうちに、舌先は臍を経由して鼠径をくすぐる。 身体はとうにぎちぎちにそびえ息苦しく、光世は腰を浮かせてタイトなデニムを引き下ろした。 下着ははしたなく染みで汚れ、膨れ上がって小刻みに震えている。 その先端に、ちゅ、とリップ音を立ててキスをし、女は顔を上げた。 おもむろに、ざぶんっ、と水に飛び込み、 「脱いじゃってさ、泳ぎましょうよ、きもちいですよ?」 と、髪を掻き上げて、微笑み、誘い、沈み、壁を蹴る。 自由にもほどがある! 男の下半身をこんな状態にしておいて放り出すなど、鬼畜が過ぎる! どうせ、もう、なりふりなど、構ってはいられない。 衣服を全て取り去り、立ち上がった。 ハーフアップの髪を、オールバックのポニーテールへと結い直し、光世も水面へダイブした。 ざぶざぶと音と波を荒立てて追いかけてくる光世から逃げるように、右に左に素早く舵を切って、潜水で泳いでいく。 ドルフィンキックというやつだ、現役アスリートは伊達じゃない。 おそらく、自動車競技部の学生たちと同様に水中トレーニングを普段からもしているのだろう。 どうりで腹筋が強いわけだ、と、光世は、昨夜の、拳に伝わる弾力のある硬さを思い出していた。 思い出したくなどなかったが、忘れられるはずもなく、また自己嫌悪が脊椎を蝕む。 鬼ごっこは終わらない。 苛立って、光世も潜って壁を力いっぱい蹴った。 両腕をピンと伸ばして、水の抵抗を減らすのだったか、泳ぐなんて高校の体育の授業以来だ。 やみくもにクロール風に水を掻く。 目を開けても暗いしぼやけていて視界はひどく悪く、女がどこにいるのか水中では分からなかったが、右手の先が柔らかくぬるい肌を捕らえた。 「…つかっ、ま、えた…!」 息を切らして、掴んだ手首を繰り寄せ、全身を包みこむようにして抱きしめる。 「あっはははっ、速っ、ミツヨさん、やっぱ身体能力たかっ!」 女がふざけてじたばたともがくから、光世はいよいよぎゅうっと力を込めた。 「…だめだ、逃げるなよ、もう…限界、なんだよっ…!」 女性としては筋肉質で高身長で体重もそれなりではあるが、それこそ身長が190センチを超える体格の光世にとっては誤差みたいなものだし、なにより浮力が手伝う。 スタート台のあるほうの端壁まで軽々と抱えて歩き、そのまま押し付けるようにして下から身体を繋いだ。 「んっ、は…ヤバ…きもち…!」 女はよがり身じろいだ。 陸上であればいわゆる駅弁の体位に相当する。 体を大きく上下に揺さぶられ、その度に激しく水音が響き、胎の最奥が叩かれ、激烈なオーガズムが脳内を襲った。 「んっ…!!」 首筋に犬歯で噛みつかれ、興奮が立ち上る。 密着した陰部は本来ならねちねちといやらしい音を立てるところであるが、それよりも、非日常著しい状況に目が回るほどの陶酔感… 「あぁっ…!」 自分のものとは信じられない甘くだらしない喘ぎ声が溢れた。 「…すまん…止められない…っ!…すまないっ…」 光世はそう繰り返す唇で女の口を塞ぎ、歯を割って舌をねじ込んでくる。 女もそれに応えて、その舌をきゅうっと吸った。 前歯がぶつかり、かち、と小さく鳴る。 完全に水中で両足が浮いているので、迫りくる蟻走感を逃す手段がない。 力を入れられない… 足の先がふわふわとくすぐったい。 下腹部に感じる光世の熱と背中の壁の冷たさと水の感触が心地良い… 女はそこで達した。 「んっ…!…ふっ…」 口づけで堰き止められて声は出なかったが、持ち上げられた身体がびくんと跳ね上がった。 がくがくと震えが収まらない。 唇を離すと光世は悲しげに目を細めた。 「ああ…すまないと、思って、いるんだ…」 押し寄せる愉楽に強張る女をさらに高く持ち上げ、そこに改めて深く自身を突き刺す。 「…!」 しびれる全身が正気を取り戻していないところに刺衝を与えられ、女はまた谷に突き落とされた。 意思をなくしかける女の瞳に、光世が目線を交わらせる。 「…っ…!!」 色香を漂わせねっとりとねめつけられ、女の柔らかい部分がぞわりと粟立ち、光世のものをさらに締め上げた。 ふん、と鼻を鳴らして、囁く、 「こんな…偏執的な、やりかたでしか、イけなくなって…不憫だな…」 その低く痺れる声が耳を犯していった。 三半規管が狂っていく。 眼球が意識と関わりなくぐるぐると円を描いてしまってピントが合わない。 抱かれたまま高さのない横の壁の側へ運ばれ、プールサイドへと打ち上げられた。 光世も水から出ると今度は女を床へと押し倒し、その両足を高く掲げ、漲る自身を最深部に突き立てた。 目の前に火花がスパークする。 「あぁっ…!…やっ…し、死んじゃうっ…」 思わず口走った言葉に、光世がぴくりと反応した。 死んでしまうのか。 それはいいな。 ぜひ、死んで欲しい…! 大典太光世が頭の中でがなっている。 だめだ、殺してはいけない…! 光世が大典太光世を制するが、押しのけられてしまい、激しく腰を突き動かすのを止められない。 そうして歯を食いしばって果てた。 AVのようなありえないシチュエーションに情緒と感度と呼吸が乱れ過ぎた。 緩んでぽっかりと空いた膣穴から真っ白な体液がどろりと溢れ出てプールサイドを汚す。 2人分の息切れがぜーぜーと共鳴するなか、遠くで光世のスマホの着信音が騒ぎ出した。 「…ソハヤさんじゃないです?ありゃ、遅刻ですね、また。」 女は四つ足で這っていき、着てきたものが散らばっている中から、マナーモードのままの自身のスマホを拾い上げた。 案の定、通話アプリのプッシュ通知には征羽矢の名前がずらりと並んでいる。 「鬼電!」 「…こちらもだ…」 重なる水しぶきの音に遮られ、さらにセックスに夢中になっていたからぜんぜん気が付かなかった。 光世は気まずそうに俯いた。 ブルーライトに照らされて暗闇に浮かび上がった横顔はあいもかわららず美しいが険しい。 折り返しかけ直すのを躊躇っているのだ。 「はいはい!ちゃきちゃき着替えて!帰りますよ!まったくもう、女にうつつ抜かして遅刻ばかり…」 自分が誘ったくせに…! 光世がむっとして睨むが、女はスマホを耳に当てていて見ていない。 「あっ、もしもし?わー、ごめんなさい、いてますいてます、いっしょいっしょ、ダッシュで向かいますから、」 器用に首と肩でスマホを挟んで通話をしながら下着を身につける。 「わたしが運転しますから、ええ、任せてください…大丈夫ですって、そんな飛ばしませんよ。」 征羽矢としては、幾度コールを鳴らしても音沙汰のない兄と、その兄の加虐趣味を開花させて満身創痍の女のことを心配して電話をかけてきたのであろう。 が、あまりになにごともなかったかのような、右往も左往もしない言い様に多少なりとも業が煮えたに違いない。 経営者の無断遅刻に対して嫌味の一つくらい投げかけるのは当然の権利である。 まだ向こう側でなにかきゃんきゃんと小言を言っているようだが、女は無慈悲に通話終了のボタンを押した。 「帰ったらこってり絞られてください、健闘を祈ります。」 おどけて光世を脅して、すっかり着替えを終えた。 光世も急いで服を着込むけれど、いまだびっしょりと湿った肌に布地がへばりついて心地悪く、むずむずと全身を揺すった。 床を汚す体液をグレーチングへと流し、こそこそと撤収する。 校舎の方を振り返ると、ところどころ明かりが灯っている部屋もありはするが、外を歩いている者はいない。 夜の学校。 アドベンチャラスな興奮に足取りは軽く、女は踊るように走った。 髪の先から水滴が弾ける。 風は、凪いでいる。 雲間の月は爪切りで切り落とした爪の形で輝き、そこかしこで松虫かなにかが鳴いている。 駐車場の守衛室は消灯され無人だったので『返却ボックス』に入館証を返し、カリーナに乗り込んだ。 クラッチとブレーキを踏みこむ。 セルを回す。 エンジンが唸る。 マフラーが吠える。 ギアを1速へ押し入れ、サイドブレーキを外す。 征羽矢が苛ついている。 光世は疲れ切っている。 ルームミラーを直して、ライトをつける。 そして、アクセルを、踏む。 長い長い坂を下っていく。 「…おい、急がなくて、いい…!」 光世が思わずアシストグリップを掴んだ。 スピードメーターはすでに法定速度の数値を振り切っている。 「任せてって、言ったでしょう?」 女は上機嫌でハンドルを切った。 自動販売機の光を、動物飛び出し注意の看板を、電信柱を、光世の慄いた心を、次々に置き去りにして、カリーナは、飛んでいく。 —---------------------- 〜25に続く〜
2025/11/25 19:38:50(bNWB8UX0)
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