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〜まえがき〜
⚠書いた人はオタクです⚠某刀ゲームの二次創作夢小説です⚠暴力などこじらせ性癖の描写多々⚠自分オナニ用自己満作品です⚠ゲームやキャラご存知のかたは解釈違いご容赦ください⚠誤字脱字ご容赦ください⚠たぶんめちゃくちゃ長くなります⚠未完ですが応援もらえたらがんばります優しいレス歓迎⚠エロじゃないストーリー部分もがっつりあります⚠似た癖かかえてるかた絡みにきてください⚠ —---------------------- 目を覚まさないのをいいことに、手のひらを肌へと滑らせる。 吸い付くような触り心地に、つい夢中になって覆いかぶさった。 いったいどれほど執拗に殴られたのだろうか、こんな愚行を、ほんとうにあのおとなしい兄がしたのだろうか。 それを、この女は、ほんとうに、しあわせ、などと、感じたのだろうか? ダメージの大きな腹に体重をかけぬよう、慎重に重なる。 その行為が良くない、許されざることだとは知っていた。 だから、なんだというのだ。 もうとうの昔にその一線は越えている。 両手で左右の乳房を包みこんで揉みしだく。 「…やわらけ…」 たまらず先端の尖りにむしゃぶりつき、本能のままに吸った。 いつもの汗の匂いは少なく、石けんが強く香る。 硬く力を入れた舌で、ぷっくりと膨らんだ部分を舐め回し、軽く歯で挟むようにして噛む。 手は脇腹を撫で、さらに下へと移動していく。 「…む…ふ…はぁ…ふぅ…」 興奮が足のほうから迫り上がってきて、身体が火照ってしかたない。 必死に乳首をしゃぶりながら、股の間に指を差し入れた。 そこはすでにじっとりと濡れていたが、それがさきの光世の殴打に感応した結果なのか、眠っていながらに征羽矢の愛撫を受け入れてくれているのか、判断はできないと思った。 だが陰核をくりくりと弄ると、じゅわ、と水気が増した。 征羽矢はぱっと面を上げて破顔する。 「…きもちーよな、もっと、したげる…」 中指で押し入り、腹側の内壁を擦り上げる。 「…ん…」 女が小さく鳴いた。 手の動きを止めて、表情を観察する。 まぶたはきつく瞑られていて、開かれる気配はない。 「…睡姦…」 征羽矢はひとりごちた。 じたばたと暴れまわる女を組み敷くのはすっかり定番のプレイだが、微動だにしない裸体を好き放題に犯すのは、抵抗が、ある、のか? 思考力が奪われる。 疑問形になるべきじゃないところだと知ってはいるが、知っているだけで、制御はできない。 「…入って、いーよな…?」 おそるおそる、女の膝を押し広げた。 淫猥な部分はてらてらと濡れて光って征羽矢を誘う。 睡姦もののAVを観るにあたり「こんなんされて起きねーわけねーだろ!」と幾度となくツッコんできたが、目の前のこの女は実に眠ったままである。 しかしそれは眠っているというよりは、おそらく気絶しているに近いというだけだろうが。 殴ったり蹴ったりしない。 首を絞めたりしない。 タバコの火を押しつけたりもしないし、嫌がって捩る身を拘束したりしない。 ただ、じゅくじゅくとして肉棒を求めている壺の中へ、ご所望のものを献上するだけだ。 慌てぬよう自身に言い聞かせ、ごくゆっくりと挿入する。 女は、一瞬、鼻の上にしわを寄せるが、覚醒はしない。 四肢は弛緩しきっているのに、膣はきゅうっと征羽矢にまとわり付いた。 「…ぁ…まっ、じ、なんなんだ、よ…こんな、っ…」 がっつかずに、緩やかに腰を動かす、そのたびに、ぞくぞくとして太腿に鳥肌が濃く湧いてくる。 「…兄弟のこと、嫌いにならないで、くれよ、呆れないでくれ…ああ、俺、俺が、俺もさ…愛してる、けど、違うって、予感、ちゃんと、してる…から、」 喉の奥から絞り出すように、悲しい願いをささめく。 「…俺で、いーなら、それなら、いちばん、よかった、けどさ、」 両の手で顔を撫でるようにしてキスをした。 「…ん…、み……」 女はわずかに顔を背け、そしてその唇が開いた。 「…み、つ…」 征羽矢は目を細めて、自身をより女の奥深くへと押し込んだ。 兄の名を呼ぶのか。 もとは女が望んだことなのかもしれないとはいえ、リンチまがいの一方的な暴力で追い詰められて、それでもなお、いま、光世に抱かれていると、錯覚する? ほどに? 愛? ほんとうに? この女なりに? 愛していると? いうのだろうか。 そうであれと祈るかたわら、信じられないというのが本音ではあった。 兄弟と結ばれればいい。 そう思ってはいる。 一方で理性が警鐘を鳴らす。 だめだ、それ破滅するだろ。 そう、良くない未来しか見えないと分かっているけれど。 いや、それがそもそも渇望している世界だろ。 そうはいっても、限度があるだろ。 いいんだよ、限度なんて考えなくて。 兄弟より、俺なら、まともな『破滅』を与えられる! まとも? そんなもの、誰が喜ぶんだ? ぶっ飛んでてこそのリアルな破滅だぜ! いいや、作り物の『破滅』で、満足させてやれる、自信がある! ムリだね、そんなんで満足するタマかよ! このままじゃ危険すぎるって話なんだよ… 安全で保険の効いてる『破滅』に、意味なんてねーんだよ! リミッターぶっ壊れてない俺じゃ、ダメ、なんだって、知ってんだよ… 「…みつよ…みつ…ん、あ、あ…」 最奥を叩くと、女はまぶたを閉じたまま善がる。 夢の中で光世に犯されているのだろうか。 いっそ、このまま、目覚めなければ、いいのか? 「…由希…」 征羽矢の中で、ソハヤノツルキが、女の名を呼んだ。 『ボクだってあるじさんにもっと触りたいのに、ずるいよ。』 橙のストレートロングを風に靡かせ、本丸最強の短刀は頬を膨らませた。 『そりゃ、乱、隊長はそもそも気力減らねーじゃん。』 ソハヤノツルキは苦笑いを浮かべる。 『そんなガキみたいななりでさ、あんな、こと、する必要がなけりゃよ、しねーに越したことねーんだわ。』 刀身の刃長や逸話に基づいて外見が形作られるのだろう、乱藤四郎は、人間で言うところの10代半ばほどの華奢な骨格で、さらにほかの粟田口の刀たちとは一線を画した鮮やかな乱れ刃が特徴であるためか、まるで少女のような出で立ちで顕現している。 だからこそ主人が心を許しやすく、本丸の設立当初から長らく近侍を任され、もっとも多くの戦場で活躍してきたのだ。 ごく最近まで部隊にも組み込まれず、日々の鍛錬と畑番や馬の世話ばかりしていたソハヤノツルキにとっては羨ましい限りである。 だが乱藤四郎は不満そうにいちごチョコがコーティングされているドーナツを頬張った。 主人が土産だと持って帰ったものを、近侍として刀たちに配って歩いていたのだが、三池の護身刀兄弟の部屋を訪れた折に、なにやら不穏な会話をしているのが聞こえてしまい、首を突っ込まずにはいられず居座っているのだ。 『…お前でも、あれを、どうにかしたいなどと、考えるのか…?』 大典太光世が来客用の湯飲みに茶を入れてやりながら、顔を上げずに問うた。 『どーにかって!いいかた!…うーん、ボクはあるじさんだいすきだから、もっとぎゅーってしたいし、ちゅーってしたいし、甘えたいし甘やかしたいってかんじ?』 夏の空の色の瞳をキラキラとさせて、乱藤四郎は答え、差し出された渋い焼き色の陶器を受け取った。 どちらかといえば華やかな装飾のティーカップに花のような香りの紅茶が似合う風貌であるから、なんとも惜しい。 『…俺だって…嫌っているわけじゃない…苦手だと思うことは…なくは、ないが…』 言い淀む大典太光世を、ソハヤノツルキが揶揄する。 『ましてや、主君に対して、殺意、なんて?』 『…殺意、なんて、そんな…そんな、大層なものじゃ…』 大きな手のひらで、自身の専用の茶碗を包みこんだ。 その水面が小さく波打っているのを、ぼうっと眺めている。 ソハヤノツルキはアーモンドクランチのまぶしてあるドーナツを囓った。 『でも、俺は見たぜ?兄弟、すげー楽しそーに笑ってた…主が、意識飛ばして動かなくなったとき、さ、』 もぐもぐと咀嚼しながら、鋭い視線で兄を突き刺す。 『いよいよ俺が止めなかったらヤバかったんじゃねーの?勘弁してくれよ?』 昨夜の主人の寝所での出来事を思い出し、改めてぞっとした。 主ははなから男士の行為を全て受け入れるつもりだったのだろうが、大典太光世が背後から浴衣の帯を首に巻き付けてきたとき、思わず「やめて」と青ざめた顔をして言った、そのざらついた声が鼓膜の奥に貼り付いて剥がれない… 『大典太さんはあるじさんのこと愛しちゃってるんだねぇ!』 乱藤四郎は危機感なくケラケラと笑った。 三池兄弟は毒気を抜かれ、目を丸くして顔を見合わせる。 『…なぜ?あい?…俺には、分からない…』 大典太光世は肩をすくめた。 『だって、殺しちゃいたいんでしょ?』 『…語弊が、ある…が、それは…あい、とは真逆では…?』 『うーん、説明が難しいなぁ…』 乱藤四郎は腕を組んで斜め上を見上げた。 『自分だけのものにしたい、って言ったら、どう?』 『…』 少し心当たりがあった。 『他の誰かに触れられたくない、とか、』 大典太光世は発するべき言葉が見つからずに、視線を落とす。 難しい顔がぼんやりと映っている。 『大典太さんはさ、好き、の気持ちと、その、殺したいっていう欲の、区別がついてないんだね、』 理解できそうで、やはりよく分からない… 『…好き…は、知っている。兄弟は好きだ。酒も好きだ。歌仙が作るきゃらぶきを炊いたやつが好きだし、あと、五虎退の虎たちが好きだ…前田のことも好きだ、前田の兄弟たちも…乱、お前も、たぶん、嫌いじゃない、好きだ、強くて、美しいから…』 急な流れ弾に、乱藤四郎は頬を赤らめた。 『そ、それはありがとっ…って、そうじゃなくて。』 鈴虫が鳴いている。 『いま言った、好き、は、なんていうか、他の刀とか人たちにも好いて欲しいと思ってない?』 『…そうだな…兄弟も前田も、お前も、いいやつだ。五虎退の虎は、温かくてふわふわしている…』 お茶を飲む。 自分が歪む。 『じゃさ、あるじさんのことは、どう?他の男士にも同じ気持ちになって欲しい?』 『…』 『好き、には、いくつか種類があるんだよね、ボクにも、まだ分かんないことが多いけどさ、』 縁側から吹く夜風が前髪を優しく揺らす。 『その、特別な、好き、を、さ、人間は、愛しい、とか呼んだりするよね、』 空に浮かぶ月の放つ光が、乱藤四郎の瞳を煌めかせた。 『ボクも、あるじさんだいすき!でもそれは、皆にも同じ気持ちであって欲しいなって思う、好き、に近いかな。』 ソハヤノツルキは黙って二振りのやり取りを聞いていた。 が、神格が強く、人の身の感情の薄かった大典太光世が、この不思議な心の機微を、絡まった糸を解いていくように受け入れていくさまが、嬉しい気がした、それがほんとうに愛なのかどうか、断定はできなくても。 『大典太さんの、きっと、それは、愛なんだね。』 主人に乱暴をはたらいた件を、近侍は怒るかと思っていたけれど、案外とあっけらかんとしていて、やはり自分たちは人間じゃないんだな、と突きつけられたように感じた。 愛について語らっているのに、殺意を否定しない、死を呼び寄せたかもしれなかった愚行を責めもしない。 人間とは脆弱で傲慢で阿呆で、驚くほどに短命である。 少しの力加減でころりと死んでしまう、それは悲しいことだが、そういうこともあるだろうと腹はくくっている。 死んだら、それまで。 墓でもこさえて、しばらくは泣いて過ごすかもしれないが、そのうちに代わりの者が派遣されてくるだろう。 この本丸の総合練度を鑑みれば、審神者不在で解体するのは政府も望まないだろうから。 そうすれば、また、そのうちに、これまでどおりに暮らすようになる。 ただし、兄のように、あの人間に、愛? 仮に、愛としよう、愛などという執着を、見せなければ。 ソハヤノツルキはぎゅうっとまぶたを瞑った。 胸の中に台風がいる… 兄弟刀は、互いにどこかなにかがリンクしているのかもしれない。 大典太光世が主人への不可思議な情を訝しがっているのと同じように、ソハヤノツルキの内界もザワザワと揺さぶられた。 大典太光世が主人を愛するのだとしたら、ソハヤノツルキもまた、心を、奪われていくのに抗えはしない。 「あれ?ソハヤさん、おしごとは?」 掠れた女の声で目が覚めた。 ベッドに寄りかかっていつの間にか眠っていたようだ。 振り向くと、うつろな視線がこちらを見ている。 「…あー…おはよ、じゃねーな、まだ…だいじょぶか?待ってろ、いま、水…」 あくびをひとつ噛み殺し、立ち上がった。 「…まあ、たまには、休もーかなって。」 ポケットにねじ込んでいたスマホの画面を点灯させると、夜はとっぷりと更けていた。 「…ごめんなさい、気をつかわせましたね…」 女は喉が潰れているのか、ガラガラとたんの絡むような声で詫びる。 「べつに、このくらい、なんともないのに、ほんと、オーバーっていうか、小心者っていうか、そんなんなるならしなきゃいいのにっていうか、」 喋るのも辛いのではないかと思うのだが、光世を罵る言葉が止まらない。 それを聞き流しながら、6畳間の座卓に出しっぱなしになっていたペットボトルを手に取った。 「ひでー声だな、体はどうだ?どこが痛む?」 「痛くはないですよ、もう、済んだことです。」 上半身を起こそうとするモーションを制して、軽く頭を支えて、ペットボトルの飲み口を唇へと当ててやる。 女は不満げに少し顔をしかめたが、文句は言わずに素直に従った。 「冗談だろ?腹とかさぁ、」 口の端から一筋の水がこぼれて滴り、首筋を伝ってシーツへと落ちた。 征羽矢はなんとなくその染みを凝視する。 気を失っている間に勝手に身体を暴いたことがバレていない様子に安堵が込み上げた。 女といえば、喉のダメージこそごまかしきれないが、その他はいつものとおり、実にけろりとしたものである。 それがやせ我慢などでないのだから余計にたちが悪いのだ。 「強く押さえたりしたら痛いかもですけど、内臓は、どうですかね、明日から便秘かもーくらい。」 ゆっくりと枕へと下ろされ、ふぅ、と息をついた。 「顔は?」 「なんともないですってば。腫れてます?少し冷やしたらすぐ目立たなくなりますよ。」 「…骨はよ?」 「鎖骨も肋骨も異常なしですね、たぶん。」 「たぶんかよ、こえーな、」 「だから、平気ですから、そんな顔…」 ハッとして頬に手をやる。 いったい、どんな顔をしていただろうか。 「…へいきとか、いうなよ…」 征羽矢はその手で額を押さえて目を閉じた。 「わたしが頼んだんですよ、殴ってって、だから、」 「…ウソだな、なんとなく…」 兄の動揺を見るに、なんとなく、も確信に近いのではあるが、女は口をとがらせて反論する。 「嘘じゃありません。」 それを、はいはい、と軽くいなして、なにか顔の腫れを冷やすものを、と思い再び腰を上げた。 「あんま、しゃべんなよ、喉…」 「ですかね、とちゅうまで、リアルじゃないからいっかって思ってたんですけどね…」 女は気だるげに首の付け根を撫でる。 意識がはっきりしていないというほどではないが、どこか寝ぼけているような、気の緩んだ言い方で、その内容が一瞬なんのことか行き当たらなくて、征羽矢は襖に指をかけたまま立ち止まった。 「…?、りあるじゃない…?」 聞かせるわけではないボリュームで、女の言葉を繰り返す。 女は、はっとして、しまった、という周章狼狽の表情でかたまった。 「!…っ、」 しばしの無言の時間が流れ、時計の針がカチコチいう音と、キーンと耳鳴りが重なる。 「…おい…まさか!行ったのか!?兄弟の神域…!」 征羽矢が、すさまじい形相で振り向いた。 鬼、というよりは、やはり、神というべき、とにかく人ならざる、温度のない気配が湧き上がり、部屋の空気はピンと張り詰めた。 征羽矢の鋭い眼光は、グラデーションを描いて溶岩色に染まっていく。 女は、コツ、と拳でこめかみを小突いた。 「てへ。」 ふざけて取り繕おうとしたのだ。 が、征羽矢は、違う、すでにソハヤノツルキへと変わったそれは、低く唸り怒りをあらわにした。 「…ふざけるなよ…」 女に対する憤怒か、光世、こちらも、違う、大典太光世の所業に対する瞋恚か、定かではない。 「や、普通に楽しかったですよ?ぜんぜん、そんな、怖いことなんて…」 焦って言い訳をする女の元へツカツカと歩み戻り跪き、ソハヤノツルキはまばたきを忘れた目で女の顔を覗き込んだ。 「帰って来られたからだろ!?あんたっ…そのまま!隠されて!二度と戻れなくても!そんなことが言えるのか!?」 あんた、と呼ぶ音階は、やはり光世のものにそっくりで、あまり似ていない兄弟だなと日頃は感じているのだが、その思いを改める。 隠す、とソハヤノツルキは言う。 いわゆる神隠しというやつだろうか。 二度と戻れないなど、そんなことが現実にあり得るのだろうか。 その場合、女は失踪? 行方不明? なにか犯罪に巻き込まれたとか心配した関わりのある誰かが、警察に届けを出したりするのだろうか。 マンガやアニメなら、始めから存在していなかった体で他人の中の記憶が消え去り、一方で痕跡だけが残されてて謎を呼ぶパターンもある。 『なんでこんな時代遅れのドリ車を一生懸命に作っているのかしら、』 と森下が首を傾げたり、あるいは、 『これ誰のボトルでしたっけ?』 と城本と濱崎が顔を見合わせたりする。 しかし、どちらにせよ、女には、あの通常モードではオドオドとして気弱な恋人が、そのような傍若無人な不思議パワーを存分に発揮するとも思えず、なんともなしに庇った。 「そんな、そんなこと、ミツヨさんは、しないでしょう?」 ソハヤノツルキは眦をつり上げて怒声を吐いた、唾が女の頬に飛ぶほどに。 「するさ!あれはあんたの知ってる三池光世じゃねーのよ!」 それに間髪入れずに言い返す。 女のその言葉は脊髄反射より速く口をついて出た。 「大典太さんだって!しないですよ!ソハヤさんがいちばんよく知ってるじゃないですか!大典太さんがあんなに優しいって!」 女の脳をなにかが締め付けてくる。 覚えのない景色がモノクロで揺れた。 三池兄弟が庭にしゃがみ込んでなにかしている。 ソハヤノツルキはにこやかに笑ってしゃべっているが、大典太光世の表情はかたく強張っている。 遠目に見ていると、どうやら、やってきた小鳥にパンくずをやっているらしい。 香ばしい小麦の欠片に引き寄せられて、白と黒のぱっきり分かれた柄の華奢な小鳥が大典太光世の大きな手のひらに乗ってきたのでうろたえているのだ。 焦ってはいるようだが、そのまなざしはあたたかく柔らかで、幸運を呼ぶてんとう虫のような赤と黒の混じり合った色できらめいている。 主人の視線に気がついたのか、ソハヤノツルキが振り向いて無言で手招きしているけれど、霊力という名の邪気の多い自分が近付いては、罪のない小鳥が怯えて飛び去ってしまうだろう。 小さく首を振り、その場を離れた。 顔がポカポカとして熱い。 いや、暑いか、今日は。 もう夏も終わるというのに、まだ景趣を夏至のまま変えていなかった。 小暑と大暑と立秋を飛ばして処暑にしてしまおうか。 近侍の乱藤四郎の姿を思い浮かべると、コスモスもたいそうよく似合う。 問題ない。 頬の赤みはなかなか引かない。 気付かないふりもそろそろ限界だった。 あんな優しく控えめで、戸惑いがちな微笑みを、自分以外にはよく見せている大典太光世を、もうずいぶん前から知ってはいるのだ。 胸は高鳴り早鐘を打っている。 すみやかに自室に戻って障子戸を閉めて机に突っ伏して顔を緩めたい、と、早足になる。 そんな、夢を、半秒の間に、見た。 「ああ!優しいさ!あんたが願えば!兄弟が望んでなくとも叶えてやろうとするほど!それが死でも破滅でも!悲しいくれー優しいんだ!」 ソハヤノツルキである征羽矢の癇癪まがいの叫びに、パチンと現実に引き戻された。 だが境目は曖昧なまま足下に揺蕩っている。 『生存値まだ余裕ありますね、逃げなさい…主命です…行きなさい、あなたなら門をこじ開けられるかもしれない、これを…!』 自身の声のようだ。 薄桃色のプラスチックカード様のものを投げつけた。 審神者証には本丸の座標や審神者ID、近侍と部隊の概略等が記録されている。 なにかの不具合でゲートが閉じられているらしいが、大典太光世ほどの霊力があればどうにかできるかもしれないし、そうして政府施設に逃げ込めればこの板切れも多少は役に立つだろう。 『…馬鹿を言うなよ…!あんたを置いては行けん…!』 『もういちど言うよ…主命、ってか、おねがい、だよ…』 大典太光世が固唾を飲み込む音が聞こえた。 と思ったが、その音の主は征羽矢であった。 「…ごめん、なんでも、ねーよ、…しゃべんなって、言ったのに、ごめんな…」 交錯する。 記憶? 妄想? 「あ、あの、わたし…」 けぶる頭で言うべきことを探す女の台詞を遮り、征羽矢はまた立ち上がって今度こそ襖を開けた。 「…タオル、てきとうに使うぜ?氷あるか?」 「…あ、はい、あの、アイスクリームショップでもらった保冷剤、冷凍庫にあるから…」 なにを、言おうとしていたのか、もう、忘れてしまった。 あるじがねがうなら、それが、死、でも、のぞんでいなくとも、かなえようとしてしまう、だから、あのとき、かなしい、目、をして、どうすることもできなくて、ないていたんだな、かわいそうな、おおでんたさん。 光世のステージはこれまでに類を見ぬほどに荒ぶりに荒ぶりまくり、常連の客たちは呆気にとられて立ち尽くしていた、最初は。 いつでも社長を引きずり下ろすぞという並々ならぬ覚悟で袖で待機していた城本は、始終ハラハラしていた。 ビートマッチングなど一切気にしない一見は雑な曲選に、得意のロングミックスの気配もなくカットインを乱用する。 低音を切らずに敢えて何層にも重ね、不快感の半歩手前の心臓がザワザワするくらいの音でホールの空気を震わせた。 暴力。 その二字熟語がネオンサインになって城本の脳裏にくっきりと浮かんで消えない。 なぜ光世がこんなにも自虐的なパフォーマンスに全振りしているのか理由は知らない。 今朝の暴挙により、いよいよ恋人に愛想をつかされたのかもしれないな、とヒヤリとしていた。 征羽矢が急遽で休んでいることもそれで説明がつきそうだ。 投げやりに身体を揺らして音に乗り、冷えた視線でステージ下でざわめく客たちを見下ろしている姿は、まさに宗教画のようであった。 「これはこれでアリなんだよなぁ…」 誰にも聞こえない音量で呟き、城本はしゃがんで膝に顔を埋めた。 憧れて必死に追いかけているけれど、その距離は縮まりそうもない。 ラフでルーズでバイオレントな雰囲気に、人波はやがて狂ったように踊り出す。 咽び泣くような悲鳴に似た歓声が巻き上がる。 イミテートなど不可能。 攻撃的な音の散弾を全身に受けて死んでしまうと錯覚するくらいの興奮。 やっつけに、されどしつこく、とあるサンプラーを繰り返し鳴らす。 なんの、音だ? 城本の思考が飛んでいく。 ギュルギュルと激しいなにかの摩擦音? 乱暴なスクラッチ音にも似かようが、もっと、何十倍も、耳障り、ではないが、異様に鼓膜の奥に残る、ギリギリ音楽性を保つか保てていないかの瀬戸際の、雑音、に近い。 それはスキール音であった。 タイヤがアスファルトを噛み損ねて滑り出すときの音。 馴染みのない城本は知る由もない。 クラシカルなデトロイト・テクノと共鳴してうまく絡み合う。 イミテートなど不可能! センスや才能なんて単語で一括りにしてしまっては不遜だろうが、単純に超えられない壁ではあった。 が、心は、折れない。 キッ、と光世を睨みつけ、拳を握り込んだ。 口元には緩く笑みをたたえ、武者震いする。 ステージから下りた光世に声を掛けるファンは少ない。 光世がそういった交流を苦手としていることを、みな知っているからだ。 ひっそりとカウンターの奥に座っている。 「てんちゃんとケンカでもした?」 「…」 返事はない。 光世の両眼は光を失い、どろりと濁っている。 小グラスの生ビールをまずそうに啜るだけだ。 「…ま、そりゃそう?あんなことして、嫌われないわけない…」 じきに自身のスタンバイに入らねばならないのではあるが、あのなにひとつ完成されていないくせにパーフェクトなパフォーマンスを見せつけられて、問わずにはいられなかった。 「ちゃんと話し合うとかして、謝ったほうがいいよ、ああいうのは、よくない。」 そう上司を諭しながら、自分の行いを振り返る。 よくないことは重々承知していたのに、また呑まれてしまった。 幼い娘の顔も、誠実な嫁の顔も、どうしてかまっすぐに見ることができなかった。 それを棚に上げて一方的な会話を続ける。 「てんちゃんの趣味かどうかは置いとくとしても、ちょっとはっちゃけ過ぎなんだよ。」 イスに腰掛けない。 すぐ出なければならない、長話するつもりはない。 「城本サンもなんか飲んでから行く?」 濱崎が尋ねてくれるが、首を横に振った。 「…めんどくせ…」 らしくなく、ガシガシと頭を掻いて悪態をつき、それから語気を強めた。 「…いい?ミツヨさん、てんちゃんと、別れるなよ?」 その意味は、こんなふうに、火の消えた炉のように、しぼんだ風船のように、ぬるくなって気の抜けたビールのように、薄暗く沈んで陰のオーラ全開で拗ねられてもかなわない、というところだが、昨晩に森下に言った、女がこの店に来るようになってからの光世の音に強く惹かれていたからでもあるし、光世自身の、神がかったカリスマ性の他に垣間見るようになった人間らしさに魅力を感じていたからでもあった。 光世がのっそりと顔を上げた。 「…」 なにか言おうとして口を開きかけ、諦めたように、また閉じる。 ほんとうにイライラする! 女がとなりにいるときには、別段口数が増えるということもないのだが、若干は毅然と振る舞っているのに、今夜はこの体たらくである。 時折のぞく大典太光世など、女に対してはいよいよ強硬で居丈高な態度でさえあるくせに。 「さっさと仲直りしてくれよ、このままこの調子じゃ困るんだよ…」 実のところ演奏自体は困ることなど何もなかった。 むしろこんがらがった情緒が良い方向に影響して新しい境地を切り拓いた感さえあった。 もし劇的な失恋など経験しようものなら、その心のうちはどんなふうに進化して輝きを放つのか、興味がなくはない。 それでも。 あの女に背中を押されて、世界は広いと初めて知ったみたいな顔をして、足を踏み出す、その姿を、もっと見ていたいのだ。 刀の大典太光世は蔵にしまわれて長い年月を淋しく過ごしたという。 イメージが重なっていく。 『CLUB thunder box DJ mitsuyo 話題の女子レーサーと破局か?』 征羽矢は思わず吹き出した。 慌てて女の寝顔を覗き込んだが、さいわいよく眠っている。 疲労と疼痛が凄まじいはずだ、起こしてしまってはいけない。 すいすいと画面をスクロールしていく。 『前例のない異常なプレーと落胆の表情に騒然、空知由希は姿を見せず』 「なんだよ異常なプレーって、」 聞きたすぎる、と征羽矢がくつくつと笑った。 城本が音を記録しているだろう、楽しみだ。 『めっっっっちゃ良かった今まででいっっっっちばんかっこよかった!』 『自暴自棄とも思える混沌のミックス、これがかなうのはmitsuyoだけ』 『サブカルが過ぎる、秩序は必要だと思う』 『音楽を冒涜している』 『てか本当に破局?mitsuyoフリー?』 『それ言うならゆきたんもフリー?』 『おまいら夢を見るのは自由だが』 自分たちは芸能人じゃない。 女に関してはいちおうはスポーツ選手という枠になるのか、と思いはするが、光世と征羽矢はただの小さなクラブの経営者と役付き、とはいえ兄弟2人の家族経営なのだから当然だが、の従業員である。 少々ルックスが良い自覚はあるが、なにかあるたびに毎回こう騒がれて、辟易もする。 が、逆に、好き勝手に書かれることには慣れてしまった。 事実もあればデマもあるし、個人の感想もあれば大衆を揺動する壮大で説得力のあるアンチコメントもある。 すべてを鵜呑みに、真に受けていては、とてもじゃないがメンタルに支障をきたしてしまう。 どこか俯瞰で眺めるように、ファンタジー小説と同じテンションで文字列を追った。 閉店業務は無事済んだだろうか。 普段は征羽矢がする作業だが、レジ締めくらいならさすがに光世もできるし、もし仮に精神状態がまともじゃなくても、城本は頼りになる。 オレンジ色の豆球の明かりに浮かび上がる女の寝顔を見つめた。 俺ももう少し寝よう… 征羽矢はベッドにもたれかかったまままぶたを閉じた。 明日、というか、もう、今日か、果たして光世はどんな表情をしてやってくるだろう。 昨晩の行動を反省してしおらしく落ち込んだ風でか、それか、また弟が自分の恋人に手を出したとか疑って、まあ、手は出したが、それは置いておいて、不機嫌な様子でか。 もしくは、都合の悪いことを全て忘れたような、あっけらかんとした、いつも通りのクールな態度で、か、たいへんに関心がある。 カチャカチャというなにかがぶつかり合う物音で目が覚めた。 寝起きの思考力は心もとなく、ただ成り行きまかせに部屋の光を享受する、その数秒の後、バッと身体を起こしてベッドを見るが、女の姿はない。 慌てて立ち上がり一歩踏み出したところ、床に転がっているなんらかの車の部品に弁慶の泣きどころをしたたかぶつけ、くぅっ、と息を呑んだ。 「…んだよ、コレ…ジャマくせぇ…」 金属製の管が何本も溶接されて、くっついたまま茹で上がったスパゲティのような形のそれに向かって、思わず不満を漏らす。 騒々しい寝室に向かって、女がキッチンから言った。 「おはようございます、いまお茶淹れますから、」 ややしゃがれ声だが、昨夜ほどじゃない。 「いてて…なぁ、休んでろよ、体だいじょーぶなんか?」 「なんともないですって。行かなきゃいけないとこあるので、そうダラダラもしてられないんですよ、ほら、じゃあ、これ、はい、」 かつて光世にもそうしたように、丸盆に急須とマグカップをのせたものを土間から手渡した。 「行くとこぉ?」 それを取りはしたが、征羽矢はこれ見よがしに眉間にしわを刻ませる。 が、女はすぐにコンロの方へ向き直ってしまったので意味はなかった。 盆は座卓に置き、安っぽいビニールのサンダルをつっかけ、征羽矢も土間へ降りる。 後ろから女のTシャツをペロリと捲り上げ、覗き込んだ。 「痣。」 その手をピシャリと叩き落し、女は征羽矢を睨みつける。 「そりゃ痣くらいできますよ、わたしだって血の通った人間なんですから。」 「や、そーゆーことゆってるんじゃないんだわ…」 征羽矢が呆れ半分で肩をすくめたとき、玄関のガラス扉がガシャ、と鳴った。 磨りガラスに浮かび上がる魔王味のあるシルエットは間違いなく光世である。 「開けたげてくださいよ、もうできますよ、ちょうどよかったです。」 雪平鍋を見ると、中でぐるぐるとうどんの麺が回っている。 「え、連絡したん?」 「してないですけど、来るかなって思ってたんで。」 ミルクパンには出汁にポーチドエッグが3つ踊っていた。 小口切りのネギのパックと、乾燥わかめと揚げ玉の袋がシンクの横に用意してある。 盛大なため息とともに、玄関へと向かった。 レトロな縦スライド式の鍵を開け扉を開くと、光世がしょぼしょぼとして立っていた。 さすがに思うところがあったのだろう、気まずそうに上目遣いで征羽矢の顔を盗み見てくる。 答えは、マルイチ、だな、まあ、妥当だな… 征羽矢は腕を組んで、 「…なんか、言えよ、」 あえて怒ったような言い方をしてやった。 光世は、ぱくぱくと口を動かしたが、言葉はうまく出てこない様子である。 「…あのなぁ、」 そう言いかけたところに、女がわざとらしいくらい朗らかに声を上げた。 「ミツヨさん、おはようございます、入って、いまから朝ごはんなんです。」 征羽矢は諦めて首を傾げ、光世を招き入れた。 実質ほとんど昼食の時刻である。 「ね、取ってくださいよ、手が熱いんです、早く。」 女が台所から丼を差し出してくるのをそれぞれ受け取り、会話のないまま座卓を挟んで座る。 光世は膝をきゅっと寄せて正座で、腿の上で手を握りしめて固まっている。 「あちあちあち、」 女も丼を片手にやってきて座った。 「のびちゃうので、まあ、話したいことはあるかもしれませんが、まず食べましょうね。はい、いただきます。」 率先して手を合わせるので、しかたなく2人もそれに続いた。 出汁は甘みが少なく塩味のほうが強めで、いかにも、関東以北のイメージの味付けである。 喉を通過する熱く優しい味わいは、とげとげと毛羽立った心をしっとりと湿らせていった。 「あちち、」 女は猫舌だったから、食べようとして箸を入れたが、観念してそれをまた丼の縁に渡し、けっきょく本題について口を開いた。 「べつに怒ってないですから、ミツヨさん、わたし。」 返事はない。 黙ってうどんをすすっている。 うどんというのはどうも真面目な話をする際には不向きなメニューのようだ。 「顔も、ね、冷やしてたし、腫れ、分かんないでしょ?」 光世はおずおずと面を上げ、女と目を合わせ、掠れた声をどうにか絞り出す。 「…だが、首と、腹…」 「ああー、これ?これは、まあ、服で隠れますから。」 首筋を人さし指の先でつうっとなぞって、女は軽い口調で言った。 「ソハヤさんがガチめにキレてて怖いんですよ、なんとか言ってやってくださいよ、」 「…」 答えない。 征羽矢も厳しい眼差しで兄を見ている。 時間が経つにつれ、予熱で黄身が固まっていく。 ついさきまでぽよんぽよんと半透明に弾んでいたのに、すでにずっしりとした質感に変わってしまっている。 「わたしは、ああいうの、好きですし、」 麺を1本、器用に箸先でつまんで持ち上げ、口へと運びながら、昼からすべきでないような赤裸々な心緒を吐露した。 「プレイとして興奮しますし、今のところ内臓も骨も無事みたいですし、」 ひとつ頷き、はふはふと息を吐きつつまた麺を掬った。 「まんがいちほんとうに死んじゃっても恨んだりしないですよ、ま、死なないように気はつけますけどね。」 くす、と笑うけれど、冗談かどうかは判断が難しい。 征羽矢は頭を抱えた。 『審神者は替えが効かない、お前らがいくら折れようと構わん、必ず審神者を護れ』 刷り込みのように囁かれ続けた言霊が脳内に反響する。 実際のところ審神者適性のある人間も多くはないが稀には存在している。 断じて替えがないこともない、が、とにかくこの審神者はどうにも特異に囲われていた。 本来なら本丸同士の交流として行われる演練に任意に参加する権利があるはずだが、この本丸はそれを禁じられていた。 理由はさももっともらしく、霊力の性質がどうとかこうとか、他本丸に悪影響をどうたらこうたら、と役人は口々に繰り返した。 『審神者の死はお前らの刀解と思え』 だがそれが脅し文句だということは明らかだった。 練度マックスが雁首を揃えたこの本丸を、政府が安易に解体するはずがない。 同等のレベルの審神者がおらずとも、なにはともあれどいつかに引き継ぎはされるに違いない。 と、言ったのは、審神者本人だった。 『だからわたしが死んでも、みなさんは生きてくださいね、かっこ悪くなんかないですよ、折れずに生きて欲しいんです。』 物憂げでもなんでもない顔をして、そんなことを言って、近侍を困らせていた。 『いつでも命を終える準備はできていますから、ま、そうならないように気はつけますけど、もしそのときがきたら、乱さんがわたしを殺してくださいね?』 くす、と微笑んで、陶器のビールジョッキを傾けた。 酔えばしょっちゅうそんな物騒なことを近侍に吹き込んでいたのだ。 近くにいたソハヤノツルキはその会話を数度は聞いたことがあったし、おそらくいつも隣に座る大典太光世も、聞いていたと思う。 なにがあろうと死なせはしない! 時の政府の考えうる時間遡行軍との戦いの、タクティカルな駆け引きなどどうでもいい! 自分たちが折れるだとか刀解に処されるだとか、そんなことだってどうだっていい! 主人を死なせるわけがない! この審神者はあまり生に頓着がないように感じていたからなおのこと、ソハヤノツルキは息巻いて心に誓った。 征羽矢はぎゅっと顔をしかめて目をつぶった。 昨晩から何度も何度もかつての情景を回顧する。 意識が持っていかれそうになる、海岸に作った砂の城が波に引きちぎられて音もなく崩れていくように、征羽矢が少しずつバラバラになっていく。 兄はいま何を思っているだろう。 あのとき恨めしいような羨ましいような顔で近侍の後ろ姿を見つめていた。 殺したい気持ちと愛を混同していると乱藤四郎は解釈したけれど、それが合っているかどうかは証明できない。 大典太光世はきっと、主人が死ぬときに介錯するのは自身であるべきだと望んでいるのだろう、とソハヤノツルキは考えていた。 愛ゆえの独占欲であろうと、武器としての神格が強く残る大典太光世にとっては、命を奪うことこそ、肌を裂き血を流させることこそ、誇りであり、誉なのだ。 やはりそれは殺意に限りなく近い。 自身と、自身の中にあるもうひとつの人格、いや、刀格?神格?との間に挟まって、終わりのない葛藤に苦しむ内界が見えるようだ。 征羽矢は哀れみの目を向けた。 かわいそうだぜ、三池光世。 征羽矢がつっかかってくるかと思っていたのに、案外とおとなしくうどんを食べている。 どうしたって、温かい食事というのは苛立ちを鎮火させる作用があるのだ。 食の豊かさイコール平和といっても過言ではない。 「ご意見がないようでしたらこの話はおしまいです。ミツヨさん、わたし今から出かけますけど、予定がなければ、いっしょに行きませんか?」 ネギをちまちまと箸で拾っていた光世がびっくりした様子で顔を上げた。 「…どこ、へ…?」 「東谷大学です。わたしの、出身校。後輩にチケット頼まれてたんですよね、全畑の。」 「行、く…」 行かない選択肢はない。 チケットを、ということは、ドリフトの、部活の後輩、ということだろう。 例の男が関わりある界隈である。 自分の知らないところで奴とエンカウントしたりしたら、こんどこそ己を許せない。 「じゃ、運転、してくださいよ、眠いですか?」 「いや…眠く、ない…」 もやもやと苦悩と後悔に苛まれた夜を過ごして睡眠時間は足りてはいなかったが、一周回って眠気はなかった。 「車どの子がいいです?」 「…カリーナ…」 長身の光世にとって、ビートもミスターも狭いのは否めない、このチョイスは致し方ない。 「ふふ、カリーナ、って、呼ぶの、なんか、ちょっと妬けますね、私の中であの子は女性っぽいイメージなので。」 光世もそうだった。 女が、ハチ、と親しげに呼ぶのを、角ばったボディをいとおしそうに触れるのを、ハンドルのてっぺんに唇を落とすのを、シフトノブやブレーキレバーを妙にいらやしい手つきで撫で上げるのを、腹立たしいと思っていた。 無生物に対するその感性は変態的だと、どうにか噛み殺してきた。 「妬いたり、するんだな…」 「妬いたりするんだな!」 兄弟の台詞がきれいにハモって、また女は、ふふふ、と笑った。 ほんとうによく笑うようになったな、と、思考も、人知れず、ハモっていた。 「ソハヤさんは?」 乗るものが後部座席が存在する車両となってようやく誘うところが無礼も甚だしい。 征羽矢は面白くなさそうにそっぽを向いた。 「俺はいーよ、店、見ときてーから。あと新居も、もーちょい片付けねーとだしな。」 年甲斐もなくふてくされて、こっそりと自嘲する。 俺もじゅうぶんかわいそうだよな、三池征羽矢。 征羽矢は皿洗いを光世に押し付けて、巨大な3面ディスプレイでゲームを堪能している。 女はその横で電話をかけていた。 「ハンバーガー30個、チーズバーガー30個、ポテトM30個、12時に、空知、です、電話番号が…」 聞くともなしに聞いているのだが。 数がバグってないか? 「よーし次。…あ、えーと、おにぎりの予約をお願いしたいんですけど、はい、じゃあ、梅30個、昆布30個、鮭30個、高菜30個、からあげボックス15個で、はい、12時半頃に…」 合計120個だぞ? 算数できてるか? 「そんで…えーと、次は、と。…もしもし、予約を…ええ、あっ、はい、えっと、オールドファッション30個と…」 「おいおいおい、正気か?」 思わずコントローラを操作する手を止めないままツッコんだ。 女は、シー、という動作で人さし指を唇の前に立てて注文を最後まで済ませた。 通話を終えて、画面を覗き込んでくる。 「男の子ばかりですからね、若い子はよく食べますよ、見てると爽快ですよ。」 ここ、こっちかこっちの武器のほうが相性いいですよ、とアドバイスをして、それから部屋着をバサリと脱いだ。 いまさらではあるが振り向かぬようこらえ、征羽矢は質問を続ける。 「ドリフト、部?は、そんなに部員が多いん?」 「自動車競技部です、そりゃ、『FRPの棺桶・回天・空知』を輩出した部活ですからね、なんせ。」 すぐ後ろで下着さえも脱ぎ去り、まさに素っ裸で、取り込んだばかりでグシャグシャに積まれた洗濯物の中から着ていくものを物色している。 こういうのが兄弟を刺激するんだよなぁ、と、征羽矢は肩を落として嘆いた。 それにしても。 「なんだよ、その物騒な二つ名…」 えふあーるぴーが何かは知らないが、鉄の棺桶と謳われた、回天、たしか、それは魚雷特攻部隊の名称だったと記憶している、そんな渾名で呼ばれるくらいには、周囲からも危険度の高いパフォーマンスだと認識されているということではないか。 ごそごそと洋服を着込んでいる気配はするけれど、物騒で不謹慎な二つ名に関する解説はない。 画面の中では、悪い顔をした熊のキャラクターの中ボスが、大仰な石斧を振り上げて追いかけてくる。 攻撃してもすぐに回復されてしまうらしく、なかなかライフゲージを削れない。 なにか、クリアするために踏まねばならぬアクションがあるのだろう。 石斧で容赦なく殴られ、主人公の少女は目をバツにして倒れてしまった。 ゲームオーバーだ。 「勝てねーっ!」 コントローラを着替えを終えた女へとパスする。 「前のステージで習得した『毒』技かけなきゃいっしょう勝てませんよ。」 得意げにネタバレしてくるが、さほど興味はない、コンピューターゲームなどただの手慰みである。 女は征羽矢の隣にしゃがんで、スクリーン上のポインタを動かしリロードボタンを押した。 淡いグリーングレーのスタンドカラーシャツを、マットなブラックのワイドパンツにインした、珍しくかっちりめのコーディネートだ。 首元の痣を隠す目的に加え、行き先が大学ということもあるかもしれない。 「こう、近くまで来たら、右上押しながら、左は下ボタン長押しで、紫色の帯が、ほら、シュッて出るでしょう?これで敵つかんで、もっかい、下ボタン長押しし直すと、毒状態にできるから…」 両手の指のそれぞれがあまりに素早く動くのが滑稽で、説明は半分も頭に入ってこない。 慣れていないととてもじゃないがそんな動きはできない。 マルチタスクが過ぎる。 ふと思えば、光世の演奏も、まさにマルチタスクであった。 現状かかっている音楽を聴きながらヘッドフォンでは次に繋げる音楽を同時に聴いていて、高音と低音のボリュームを微調整しつつループとスクラッチを効果的に盛り込み、ときにはエフェクトを加えドロップさせ、それを、ある程度は構成をあらかじめ考えてはいるにしても、テンションに合わせて臨機応変に組み合わせてプレイする。 なかなか為せることではない。 これまで機会がなかっただけで、ゲームなどやり始めたらハマってしまうかもしれない、と、ひとり苦笑する。 「…終わった。出かけ、ようか。」 光世がタオルで手を拭きながら土間から顔を出した。 今日もまた、他所よりも少し以上に遅い1日が、カンカン照りの真昼間に始まる。 暦は秋だが、地球温暖化の前に人類はなんとも非力である。 —---------------------- 〜24に続く〜
2025/11/19 23:43:58(Gr2yR9fz)
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