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〜まえがき〜
⚠書いた人はオタクです⚠某刀ゲームの二次創作夢小説です⚠暴力などこじらせ性癖の描写多々⚠自分オナニ用自己満作品です⚠ゲームやキャラご存知のかたは解釈違いご容赦ください⚠誤字脱字ご容赦ください⚠たぶんめちゃくちゃ長くなります⚠未完ですが応援もらえたらがんばります優しいレス歓迎⚠エロじゃないストーリー部分もがっつりあります⚠似た癖かかえてるかた絡みにきてください⚠ —---------------------- フードのオーダーがあり、征羽矢はキッチンへ入っていった。 おおかたの準備を終えた城本が代わりにカウンターの中、女の正面に立つ。 「シロモトさんも、なんか飲んでくださいね。」 「…ありがと。コーラいただくわ。」 瓶の栓を抜く。 ぽしゅっ、と爽やかな音と甘い香りが弾けた。 「ソハヤくんが睨んでくる案件。」 「あー、微バレっぽい?かも?」 女はわざと不敵な上目遣いで城本へと微笑みかけた。 「…身の危険…!」 「ま、大丈夫じゃないです?あれきりなら。」 「…あれきりなら。」 城本のほうは、はは、と乾いた笑いをこぼすしかない。 「今夜はどんな感じです?」 「あ、ミックス?ちょっと自信ありなんだよ、エスニック調の曲、集めてみたから、おもしろいと思うよ。」 意味もなく、なんとなくもういちど、ジョッキと瓶をカチンと合わせた。 そのとき、 「…それは、楽しみだな…」 ドカッ、と音を立てて、光世が女の隣に座った。 「おはようございます、ミツヨさん。」 あまりの勢いに、城本がタジタジとしてコーラの瓶を握りしめる。 「…バーボン…炭酸…!」 「っ!ちょ、待っててください…!」 苛立ちを隠さない光世の言い方に、慌ててその場を離れた。 「…今のは、八つ当たり…かもしれない…」 ボソ、と呟き、やるせない動作で前髪を掻き上げた。 バツが悪そうに唇をへの字にゆがめさせている。 でもその八つ当たりは、女にとっては身に覚えもあるので困る。 「ふふ、さっき、ソハヤさんがね、」 女はカウンターに両肘をついて手を組み、くたり、と身体を斜め横に傾けて、光世に寄りかかる。 「…やっぱ、なんでもないです。わたしにも、くださいよ。」 城本が用意してきたボトルの首にかかった札の紐を人さし指ですくって、くい、と引きながら強請った。 「…バーボンなんて、飲まん、だろ…?」 「飲みますよ、アルコールであれば、なんでも。」 「…節操なしめ…」 口をキュッと結んだまま、グラスに氷を落とし、そこへチョコレート色の液体を注いでやる。 夜のミツヨさんの匂いがするな、と、女は思った。 パフォーマンスは本人が自信があると息巻いたとおり、これまでに聞いたことのないタイプの音楽のミックスで、業界のうんぬんにてんで疎い女でさえも思わず聞き入ってしまう、トリッキーなものであった。 中国の奥地や南アジアなんかを彷彿とさせる楽器の音色や独特のリズム、荘厳に重なる歌声。 「シロくん、いいシゴトしたねぇ、1杯飲めよ。」 城本をかわいがっている常連の壮年男性が、機嫌よく、ステージから戻った修行中DJの背中を叩いた。 「ざっす!自分も気に入ってんすよ、こっちの路線いろいろ試してみたいっすね。」 カウンターの中へ入り、ノンアルコールビールのプルタブを上げた。 頬は上気してほんのりと桃色で、額には汗が光っている。 ホールから駆け寄ってきた若い女性のグループからハイタッチを求められ、甘い笑顔でそれに応じている。 その左手の薬指には存在感のあるシルバーの指輪。 既婚者だというのは公開済みでもなお、異性のファンが多いのも納得の技術と顔面と営業力。 「…いいな、あいつは…あんな…自然で、自信もあって…」 光世がグラスの中に残っていたソーダ割りをあおった。 氷がカラカラと音を立てる。 「…チャレンジ精神もあって…向上心もあって…男前で、スマートで…」 そこまで黙って聞いていた女が、ぶ、と吹き出した。 「ミツヨさんてそんなこと言うんですね。」 なんでも飲むと威勢よく宣言したが、ふくよかな旨味の濃いバーボンはやはり不慣れで、なんだか気持ちが大きくなっている。 「ミツヨさんだってオトコマエだし、パフォーマンスもいつもすてきですよ、みんな魅入ってますよ。」 「…みんな、な…」 口の端を器用に片方だけ上げて、皮肉のこもった表情で女を上から睨んだ。 「…あんた、いま、見たことない顔で、ずっと、見てたぞ、ステージ…」 「そうです?や、音楽の感じがけっこう好みだったし、ちょっとテイスト違うのが面白くて。」 ハウス、R&B、ダンス、ポップ、ロックあたりがこの店では定番だった、たまに遊びっぽくクラシックやジャズが混ざったりする。 このたびの城本の選曲は奇をてらっていたけれど、たしかに惹きつけられるものがあった。 テクニックもさることながら、一種の戦術かもしれない。 「…才能も努力も、申し分ない、認める…」 「ミツヨさんのもちゃんと見てますよ、聞いてます、つまんないこと考えてないで、ほら。」 スタンバイの時間が迫っている。 ピッチャーから、空になったグラスに水を入れて手渡す。 仕事でちやほやされたとてなんとも思わないと白けていたくせに、と、顔には決して出さないが、どういうわけか恥ずかしくて胸がどきどきと鳴った。 征羽矢はきっと間違ってるか勘違いしてる、光世のそれは恋じゃない。 だからこれも厳密には嫉妬じゃない。 刀という無機物に命がもし、もし宿っているとしたら、あるかもしれない、所有者に対する、独占欲? たとえば数ある同位の道具の中から自分を選んで使ってほしいという、被使用欲とでも? なんだっけ、付喪神って、言ったっけ。 神のほうが上位存在なのに、なんで人間の主人に追従してるんだろ? 頭の奥が、ふわふわする、やっぱりおとなしくビールか焼酎にしておけばよかった? いや、この光世のボトルを飲み切って新しいものを入れておいてやろうと企んでいたのだが。 なぜならカウンターの中のスタッフには再々飲んでもらっているのだが、なかなか光世にはその機会がなかったから。 「…出てくる…」 もうひとこと、なにか言いたそうでもある間があったが、立ち上がった。 「いってらっしゃい。」 女が、ひらひらと手を振ると、それに一瞥をくれて歩き去っていく。 ホールを横切っていく、それだけで黄色い歓声が上がる。 こんな言い方は失礼だが、城本のときの比ではない。 手酌で、ボトルの底に残っているバーボンを注ぎ足し、ようやくすっからかんになったそれを持ち上げてマスターを呼びつけた。 「ソハヤさん、これ、あたらしいやつにしといてください。」 「おっ、さーんきゅ。札、書く?」 まっさらのネーム札と油性ペンを差し出してくる。 が、女は半笑いで首を振った。 「書きません、再利用でいいですよ。」 「いやいや、てんちゃんからって書いとかないと。」 「必要ないです。」 肩を竦める。 なんて書けばいいのかも分からない、なんと名乗ればいいのか、よく分からないのだ。 「じゃー、俺が書いとくから。ボトル入れてもらったときのキマリなんだってば。」 「…なんでもいいです、もう。」 眼鏡を外して、涙袋をぐいとなぞる。 視界がクラクラする。 『mitsuyo/from』 そこまで書いて、ペンが止まる。 「由…えーと、本名にする?」 呼びかけて、躊躇ったのが分かった。 普段は慣習で『てんちゃん』と呼んでいても、女の知り合いがいる場面などでは『ユキちゃん』と、いつもうまく使い分けているのに、ここにきて、なぜか一瞬、声を詰まらせた。 なんでもないかもしれない。 気にするほどのことでもない。 「どちらでも。」 考察厨め、と光世なら毒づくところだ。 酔いが回ってきたから、思考が停滞する。 なんで征羽矢は『てんちゃん』なんて呼ぶことになったんだっけ? わたし、最初、なんて、名乗ったんだ? 飲み屋で知り合ったワンナイトの相手に氏名を教えたりしない、当然だ。 てん…? 耳の底の方で誰かが呼んでいる。 でもそれも本当のわたしの名前じゃない、ここでは誰もわたしの名前を呼ばない。 いらぬ呪いを受けぬよう契約の中で浄化された、与えられた名前… 呪い? 契約? ここってどこ? わたしはなにを考えてる? ミラーボールの光が目の前を通り過ぎるたびに、覚えのない景色が脳裏にかすかにちらつく。 ぴた、と、BGMが鳴り止み、店の目玉のDJの演奏が始まった。 唐突な強い音に引っ張られて、意識がこっち側へと戻って来る。 征羽矢が札に『yuki』と書き足して、満足げにそれを眺めているところだった。 「…あたま、クラクラします、のみすぎたかもです。」 しゃべりかたも、若干舌足らずになってきた。 「うえ!?珍しーな、立てっか?」 真新しいボトルを棚へと並べ直し、征羽矢が腕まくりする。 颯爽とスイングドアをすり抜けて、女の肩を支えようと手を出し、かけて、その手は、行き場に迷って、空を切った。 女は顔をしかめた、つもりだったが、それがはかなげな微笑みに見え、征羽矢はぎょっとして背筋を凍らせた。 「だめかもー。あし、ふわっふわ…」 「おい!寝るなよ!立てよ、奥の部屋…」 だめだ、光世に、言った、ちゃんと見てる、聞いてる、と。 またご機嫌を損ねさせてしまう。 だが理性が秒速で崩れ落ちていく。 「眠くはな…きもちい…とろとろするー…」 「吐きそうとかじゃねーんだな?」 征羽矢は、はぁ、と肩で大きく息をついた。 俯いてじっと身動ぎしない女の顔を、下から覗き見上げようと、傍らに膝をついた、そのとき。 ぎぃんっ。 とんでもない音量のハウリングが店内にいる全員の鼓膜を貫いた。 咄嗟に城本がステージ脇の機材のもとへと走る。 征羽矢は渋い顔をする以外にできることはなくなった。 迂闊に肩なんて貸してみろ、兄弟喧嘩で済めばいいだろう。 カウンター内にすごすごと戻り、水のグラスを女に握らせた。 光世がコントロールする音は、過剰なイコライザ操作によりぎゅうぎゅうと荒ぶり、なにも知らぬ客たちはそれを煽りと受け取って、各々ボルテージと利き腕を高く上げている。 「聞いててやれよ、おかげでうちの看板がご乱心だぜ!」 「うん、きいてるよ…」 水には口を付けず、そのグラスを頬に当てる。 ひんやりとして、心地よい。 猛々しい音符の波が水面を震わせている。 ミツヨさんってわたしのことすきなん? それは、たいへんな、かいしゃくちがい… わたしのことをすきなミツヨさんなんて、わたし、すきじゃない… なんでそんなにおこってるおとをだすの? こまってるリズムにするの? …わたしのことをすきなミツヨさんなんて、わたし、すきじゃないんだよ… 「…この、この女は、どうして、どうして、こう…」 光世はとてもとても不機嫌、を、もはや通り越して、怒りに拳を震わせた。 女は、三池兄弟には見せたことのないにっこにこの笑顔で、不安定に上半身を左右に揺らしながら、戸惑う城本に難癖をつけている。 「酒を飲めよな、たまにはぁ!」 正直ちょっと腰が引けている城本の腕に自身の腕を絡ませて、自分の飲みかけの水割りのグラスを顔面に押し付けている。 よもやアルハラというやつだ。 「お客さま、困りますぅ、」 征羽矢が間に割って入るが、今度はそのシャツの胸ぐらを掴んだ。 「んー、ソハヤさんも、もっとさぁ、飲みなよ、クールぶってんなよ…」 「ええ…?てんちゃんてザルじゃなかったんか…」 降参、のポーズで両手のひらを掲げて、横目で兄に助けを求める。 「…知るか、自業自得だ…が、ふん…おもしろくは、ないな…おい!あんた…!」 光世が背後から女の肩を叩いた。 「ミっツヨさーん!」 女はソハヤの襟元から手を離し、腰掛けたままくるりとカウンターチェアを回転させて振り向いて、立っている光世の腰にしがみついた。 正常じゃない。 これは翌日に記憶があるパターンか…? 憤怒が燻り消えて、かわりにいらぬ心配をかきたたされる。 もしこの醜態を覚えていて朝を迎えたら、きっとこの女は兄弟の前から姿を消してしまう気さえした。 「きょーは、なんかぁ、ジリジリした音でございましたねぇ?」 「…余計なことを喋るな…立てよ…!」 「んん、立てなーい…」 両腕を背中へと回し、がっちりと抱きついて、カジュアルなデニムのジャケットに頬ずりをする。 正常じゃない! それを、ぐい、と片手でぞんざいに押し返し引き剥がして、苛立った声を出した。 「…いい加減にしろ…!」 こんな場面またパパラッチまがいの盗撮野郎に抜かれでもしたら、面倒なことになるやもしれない。 光世の演奏が終わって、まもなくの閉店を知らせるBGMが流れており、客の半数はすでに退店していたが、もう半数はダラダラと酒を飲みながら雑談していて、さらにそのうちの半数が、チラチラと、カウンター席で繰り広げられるコントのようなやりとりを気にしているようだった。 「…兄弟、少し…外すぞ…?」 「もー片付けたら終わりだから、上がれよ?部屋使えよ。」 「…いや…風に当ててくるだけだ…」 光世が、ひょい、と女を抱え上げた。 女性にしては高身長で筋肉質な身体だ、そうおいそれと持ち上げられるとは女自身も予定していなかった。 「…!?待って、重いから!やだ!」 「…うるさい…」 横抱きから俵担ぎにしてやると、女は両手で光世のウエストあたりをポカポカと叩いた。 しかしされるがままに、足蹴で裏口の扉を開け、外へ出る。 地上へと続く階段とひさしがあるだけの、1坪ほどの空間で、扉を閉めてしまえば、あとは、道路側からはわざわざ覗き見下されなければ、人目には簡単にはつかない。 ドサっ、と、乱暴にタイル敷の地面に降ろされ、女はその場にへたり込んだ。 「…だめ、もう、ミツヨさん、ミツヨさん…」 「…なにが…呆れてはいるが、だめじゃ、ない…」 縋るような鼻声で繰り返し名前を呼ばれて、光世は、腹の底からぐるぐると煮えたぎるマグマのような熱を感じた。 それをなるべく気にしないように意識の片隅に追いやり、ため息混じりにしゃがんで、女と視線を合わせる。 「…酔っ払いめ…」 右手で、硬い短髪をわしわしと掻き回すように撫でてやると、女はぱっと顔を上げ、おもむろに唇を重ねてきた。 必死に押しつけられるやぼったいキスで、光世は虚を突かれて尻もちをついてしまった。 「…酒くさいな…」 そんなクレームは聞こえていない女は、手の甲でいったん口元をぐいとぬぐう仕草をして、今度は光世のジャケットの左右の襟を両手で掴んで、のしかかりながら、もう一度、深く口づけた。 柔らかくぬるい舌が光世の歯を割り奥へと侵入してくる。 光世の悟性が破壊される。 呼吸もままならないほどの濃厚なキスを、ただ呆然と受け入れる。 どうしてしまったというのか、酔っているだけなのか、なにかまたメンタルにダメージを負っているのか… 確証のない不安と心配がよぎるけれど、それよりも、普段なんともドライな態度の相手から押し倒されるというのも悪くない、などと邪な感想も抱く。 はふはふと唇の端から息をこぼしつつ、光世のモノトーンのグラフィック柄のTシャツの裾を捲り上げ、細い指を肌に沿わせた。 待て待て待て… ちょっと、ここでは、それは、まずいんじゃ、ないか…? 頭の中で良い光世が「冷静になれよ、まずいどころじゃない…!」と目頭をつり上げていて、同時に悪い光世が「慰めてやればいいじゃないか、めったにないことだ…」と薄笑いを浮かべている。 肩を掴んだ、あとは押し返してやればいい、力で負けるはずもない。 だが、破壊されるのだ、いつも。 理性? 悟性? 判断力? 思考力? なにもかも、打ち砕かれる、立ちのぼるこの匂いに、空気感に。 丸め込まれる、抵抗できない、奪われる。 他のことなどどうでもよくなる、フィジカルな問題も世間体も、他人の目も、将来も。 ぐらり。 脳幹が揺れる。 フェザータッチで胸の尖りから脇腹の敏感な部分を撫で回され、その手は次にタイトなチノパンのファスナーを下ろしていく。 「だめだ!」と叫ぶ光世を、「誰も見てないだろ!」と光世がいなす。 思索が錯綜する。 雑念ともいう。 なぜか派手なネオンサインのビジョンが浮かんで消えた。 顔をようやく離し、女は、は、と短く息継ぎをして、ずらした下着から飛び出したものを深く咥え込んだ。 「…っ!」 それだけで快感が脳天を突き抜け、光世は身をかがめて女の頭を押さえつけた。 「…ご、が…」 突如として喉奥に異物を差し入れられ、女は苦しげに呻くが、舌をそれへと器用に這わせて上下に舐める。 光世は虚ろな目でコンクリートのひさしを見上げた。 半開きの口からよだれが滴るが、拭き取ることもせず、両の手は女の後頭部を掴んで乱暴に前後させる。 自慰をするときのように、女をまるで無機物がごとく、粗雑に。 もう、良い光世は姿を現さない。 「それじゃ足りないんじゃないか…?」 悪い光世が耳元で囁いている… と、思ったのだが、それは光世本人の口をついて出ていた、頭の中のそいつと同じ凶悪な表情をして。 頭頂部の髪を無造作に握り持ち上げると、女は恍惚としてまぶたを痙攣させた。 「…けほっ、は…」 軽く咳込み、おのずからジーンズとショーツをいっぺんに膝の下まで脱ぎ、光世にまたがる。 深夜と朝の間。 一般の通行人などほとんどいない。 が、店から出てくる客はいるはずで。 正面の入り口は通りに面しているから、わざわざにこちら側に回ってくる者もないだろうし、わざわざに店の勝手口を覗き込む者もないだろうが。 扉の小さな擦りガラスの窓からほのかに明かりが漏れている。 街灯が道路の反対側にあるが、その光は階段に遮られて届かない。 目をつぶっている女の横顔がぼんやりと照らされていて、そしてどうしてか輪郭は消えそうに不安定で不明確だ。 屋外でセックスするなんて、そんな破廉恥な経験はもちろんない。 ギリギリ自宅の敷地内ではあるが、アウトではある。 常識を頭からバリバリと食い荒らされる。 これでもいいと諦めさせられる。 だめだ、と女は言ったけれど、違う、だめなのは、俺もまた…? 女の腹の中は熱くうねっていて、愉悦はフェラチオの比ではない。 たまらず繰り返し下半身を突き上げる。 動きに合わせて、女も臀部を揺らす。 互いに性器の中も外も分かりやすく刺激されて、電撃のような享楽に溺れる。 「…っ!ち…が、だ…」 女は背筋をきゅうっと反らして膝小僧をこすり合わせた。 とたんに膣の筋肉が強く収縮する。 こらえきれず、光世は上半身を起こして女を組み敷いた。 「…ひぁ…とめ、て…いま…」 女の右手の爪が、扉の表面を滑るように引っ掻いた。 黒のグラデーションのネイルの先が欠ける。 光世はその手首を捕えた。 拍子に、肩が扉にぶつかって、カタン、と小さく音を立てる。 まさか店内に聞こえはしまい。 だがもし征羽矢がなかなか戻らない2人の様子を伺おうとすぐそばまで来ていたら? いや… あれから何分経った…? ざわざわと鳥肌が立っていく。 今度は光世から唇を奪う。 止められるわけがなかった。 激しく身体を打ちつけるたび、わずかに扉がガタついた。 「んんっ…む、ふぅっ…ん…」 女は全身をぶるぶると震わせている。 波が寄せるように、絶頂を何度も越える。 足元には窮屈なジーパンが絡みついて思い通りの身動きができず、迫りくるユーフォリアをのがすことができずに、こそばゆい感覚がせり上がってくる。 「…む、ふ、ほ…は…」 ふさがれた口がなにかを訴えようとしていた。 光世は、はー、と長く息を吐き出し、片手で女の顎をすくい上げた。 「…なんだ?…言え…」 どろりとした視線、是非を言わさぬ圧。 女は、左手で顔の上半分を覆って、塩気を帯びた声を絞り出した。 「…みつ、よ、さ…」 また呼ばれて、昂り、光世は女の喉笛に食らいついた。 「…あ、みつ…さ、ん…ごめ、なさ、い…すき…すきです…すきです…」 それは、征羽矢がけしかけたから。 そう仕向けた、そう焚きつけた、そう唆した… 征羽矢があんなことを言わなければ、口に出そうなんて考えもしなかったのに。 女が後悔しながらこぼした告白は、光世の精神も蝕んだ。 すき… 好き…? どういう意味だ…? なにが? なにが好きだと…? 今、なんと…? 「…ごめ、ごめん、ね?…すき、で、あい、して…あいしてて、ごめ…」 歯を食いしばり頬を歪ませて、目は隠しているから、どんな顔をしているかは汲みにくいが、とても愛を伝えているとは思えない雰囲気で、まるで、本当の懺悔のように。 懺悔? 女の中では、自分を愛することは、許されないことなのか? 絶望に似た、デストルドーが光世の内臓を焼いた。 食いちぎらん勢いで鋭く噛む。 鉄の味が、ますます狂気を駆り立てる。 「…もう、だめ、なんです…死にた…殺し、て…生きて、たく、ない…こんなの…」 女は四分五裂にうわ言を唱えている。 「…すき、で、ごめん……殺して…」 意味は理解不能。 だが光世も心の深層で望んでいる… このまま、食い殺したい… 「…このまま、俺に、犯し殺させるなら…!死んでも、許してやる…っ!」 強い語気とともに力任せに欲を放った。 下腹部をこわばらせると、さらに大量の体液が迸る。 ぜーぜーと乱れた息根が重なる。 色を失った女の瞳が、ぐるぐるとぶれている。 「…謝るな…おれも…おれも、あんた、あんたが、好きだ…愛してる…嘘じゃ、ない…」 今、言ったところで、聞いていないかもしれない。 体をつなげたままに抱きしめた。 耳の裏で、もう一度、その言葉を落とす。 「…愛してる…」 平行世界の話じゃない、主人だからじゃない、ただの執着でもない。 情動的だが、確かな、愛ではある。 愛では、ある。 扉を半分だけ開けて、仕事場の片付けをする弟の横顔を見つめた。 その気配に気付いたのか、ぱち、と目が合う。 「どーだ?だいじょぶそ?」 どうやら情事を察知はされていないようで、光世はほっとする。 またとんでもないことをやらかしてしまった。 振り回される。 だが。 「…だめそうだ…今夜は、やむを得ん、連れて上がる…すまん、部屋…と、閉店…」 「それは別にいーけど。なにニヤついてんの?キモチワルっ!」 結果的に部屋を追い出すことになってしまう件と、またしても仕事の途中で業務を放り出してしまったことを詫びたのに、ひどいしかめっ面で睨まれた。 「サボってイチャコラしてんなよなぁ…ほんっと、腑抜けちまって…」 数え終わった札を金庫にねじ込み、しみじみとため息をついた。 「城本サンにメンテ入ってもらってっから!残業つけるかんな!あと、てんちゃん、掛売りにしてっから。バッチバチに請求してやる…!」 さきに女に掴みかかられたシャツの胸元はしわくちゃだ。 気心知れた相手であっても、酔っ払いの面倒を見るのは骨が折れる。 「…城本に、よろしく伝えてくれ…すまんな、埋め合わせ、する…」 光世はそのまま扉の向こう側へと引っ込んだ。 征羽矢はまつ毛を伏せて肩を落とした。 兄の、あの顔。 さしずめ、女が、きちんと思いを告げたのだろう。 それがたとえ酔った勢いだったとしても、あの2人にとってはたいへんに有意義なことだ。 キューピットになってやったぜ、と少し誇らしく思う。 また、ピエロになっちまったぜ、と、虚しくも、思う。 腹立たしい。 音響機器のデイリーメンテを済ませた城本が、ゆっくりと歩いてやって来た。 「ど?てんちゃん、だいじょーぶだった?」 「にゃ、だめそーだって。しゃーなし、今日は泊めるってさ。俺どーしょっかな…」 日報を付けていたボールペンをくるりと回し、下唇にトンと当てる。 「…へぇ、ちゃんと忠告、聞いてたんだ?」 城本が挑発的に語尾を上げる、が、そのこめかみに冷や汗が流れ落ちていく。 この兄弟について知りたい、この兄弟が抱えているなんらかの物語について、知りたくて、駆け引きに出たのだ。 現実問題そんなはずはないのだが、命をも、賭している、気分になる… 「…城本サンにさぁ、聞きたいコト、あったんだったわ…」 征羽矢の色素の薄い瞳がぎらついた。 きた。 城本は喉を鳴らして唾を飲み込んだ。 他のスタッフは既に退勤した。 仲裁に入る者はいない。 殴り合いになったとて、かまわない、かもしれない。 そそられる。 興味が、勝つ。 「…座れよ、飲もうぜ。」 手提げ金庫をバックヤード内の据え置き金庫へと仕舞い、戻ってくるとまず征羽矢が椅子を引いた。 どぎまぎと心臓が早鐘を打つ。 「俺、原チャ…」 そう言いかけたところに、 「…ハナシによっては、帰らせねーから?分かってんだろ?飲んだら?」 かぶせ気味に、征羽矢が吐き出した。 冷たいものが背中を駆け上がる。 こわばった笑みがこぼれる。 これが、恐怖か。 いや、畏怖、に近いか。 「…そ。ビールでいい?」 返事を待たずに、2つのグラスに生ビールを注ぎ、テーブルに置いた。 コトン、と乾いた音が静かなホールに反響した。 手が震える。 カウンターから出て、隣に座った。 喉が、カラカラだ。 征羽矢は礼も言わず、一気にそれを飲み干し、無言で城本を睨みつける。 尋常じゃない迫力だ。 人間じゃない… いつかも感じた脅威が、再び襲う。 空になった小グラスの細い脚をつまみ、さきのペン回しと同じ要領で、くる、と回して見せた。 くる、くる、と、間を置いて、三度、繰り返して、そして、口を開いた。 「…てんちゃんが誘ったんだろ?」 微バレどころじゃないじゃないか。 城本もグラスに唇を寄せ、舌を湿らせた。 「…なんの話してんの?」 とりあえずとぼけてみる。 無駄な足掻きだとは知りつつも。 「…おとといさぁ、いや、俺が悪いんすよ、てんちゃんと城本サン、置いてったから。想定できてたのに。」 くる、もう一度。 残像が鮮やかに弧を描く。 「…職場で、フリンは、よくなくない?」 征羽矢は、城本を、まっすぐに、見つめている、まったく、まばたきをしていない。 その動作もう人間じゃねぇんだよ、城本は心の中で悪態をついた。 面白すぎる… これは、オカルト、そのもの… 「それ、カマかけてるつもり?あんまり、大人を誂うなよ?」 くる、もう一度。 そして、グラスが動きを止めたところで、す、とそれを城本の目の前に、掲げた。 ガラスの反射と、光の屈折率の差が生む歪みに、軽く目眩を覚える。 もしこのまま顔に叩きつけられれば眼球はただでは済むまい。 悪寒が走るが、表情筋は引きつって逆に笑顔を作った。 「…もっかい、ちょいストレートに聞きますね?…てんちゃんとヤっただろ?」 まばたきを、していないのだ、ただの1回も。 茶色がかった瞳の奥に、炎のような紅が揺れている。 「…もー確信してんじゃん、なんで?てんちゃんが言った?」 「…言わねーだろ、んなこと!」 ぐい、と、グラスを突き出す。 飲み口の輪が鼻先に触れて冷たい。 「…じゃ、なんで知ってんの?空気感とかバカみたいなこと言うなよ?」 動悸が止まらない。 が、平然を装って、あえて強い言葉を使う。 優位を簡単に譲るわけにはいかない。 征羽矢は、城本のその淡々とした気迫に少し押されて、うまい返答を探しきれずに言い淀んだ。 「…分かんだよ、なんか…俺…」 脅迫するがごとく掲げられた腕を引き、また、くるり、グラスを回した。 演技でいい、ハッタリでいい。 びびっているなんて、微塵も感じさせない。 「答えになってない、却下。答えたら、なんで、こんなことになってるか、説明してもいい。」 城本もビールを飲み干した。 別に酒が嫌いなわけじゃない、特別に弱いということもない。 日常的に移動手段が原付だから、飲む習慣がないだけだ。 仕事を終えたあとに味わう久方ぶりのアルコールは、じゅわっと身体に染み渡った。 「…何様?何目線だよ?…調子乗んなよ?」 「いーね、この緊張感。安心して?恋愛感情は皆無だから。」 本当は、足が竦んでいるのだ。 人間離れした、獣のような? いや、SF映画でよく見る反乱を起こすアンドロイドのような? …いや、やはり、いつかも感じた、よく研がれた、刃物のような、無慈悲な無機物の冷ややかな、殺意に… ごまかす意図もあり、立ち上がってスウィングドアを揺らす。 ボトルの並んだ棚から、店用のウイスキーを手に取った。 「いいよな、これ。」 問答無用で、どん、とカウンターテーブルに置き、ロックグラスとアイスピッチャーを用意する。 「…恋愛感情、カイムで、女、抱くんすか?」 「おっと、揚げ足をとるなよ、案外頭回るよな、ソハヤくん。」 まず2つのグラスへ氷を敷き詰めて、それから、きゅ、と栓をひねった。 「…そっちこそ、質問に答えたらどーすか?」 その様子を、征羽矢が凝視してくるから、指先がガタガタと震えてしまう。 察されたくない。 「それはね、さっきの『説明する』内容に含まれるから。」 持ち上げたら手が振戦しているのがあからさまに露見するだろうから、グラスは、つい、とカウンターを滑らせた。 「チッ、めんどくせーっすね…」 「お互い様だろ。」 グラスを合わせることもしない。 各々が勝手に口をつける。 「…なんにせよ、今後、てんちゃんになんかしてみろよ、もうフォローしないぜ?」 「…フォロー?」 2人の話し声と、琥珀色の液体の中で氷のぶつかるささやかな旋律以外に音はない。 「俺だってムカついてるんすよ?でもそれよか、兄弟にバレてみろよ、殺されても知らねーよ?」 照明から降る明かりがグラスを透かして、ベッコウ飴のような光と影が木目に落ちている。 「ふーん、ミツヨさんが気がつく前に、ソハヤくんが揉み消してくれた、ととっていい?」 探っている、どこまでなら踏み込めるか。 妻子があるのに勤め先の代表の恋人を寝取ったのだ、こんな物言いが許されるわけもないのだが、それについて突っかかってこないということは、征羽矢にも後ろ暗いところがあるに違いない、と思っている。 なぜ先に事態を察知したのか。 どのような手段で揉み消したのか。 そこに征羽矢の弱みがあると見た。 「…俺は言ったからな?金輪際手を出すなよ。」 まるで自身にも言い聞かせるかのような慎重な念押しに、想像は膨らむばかりだ。 肩を貸してやればふらふらしながらもどうにか階段を上がりきった。 が、玄関の床に倒れ込んでごろりと壁側に向かって寝返りを打つ。 「…おい!こんなところで、転がるな…!」 「むぅ…ひやくて、きもちいよ…」 女はフローリングに顔をべったりとつけて芋虫のようにうぞめいた。 衣服は適当に直したが、ヒップハングのジーンズのジッパーは下がったままで、帆船のタトゥーは半分以上あらわになっている。 真っ赤な旗の部分を、人さし指の先で、つん、とつついてみる。 「…あんた…」 そのまま、くびれた腰のラインをなぞっていく。 今しがた自分の腹の上で娼婦のように反らされていた身体は汗ばんでいて、細かな砂粒が貼り付いている。 野外セックスなんてAVの中の作り話だと思っていたのに、よもや体験する羽目になるとは。 「…くすぐったいですよ…」 女が身を捩って仰向けの姿勢に戻った。 乱れた髪、焦点の合わない目、だらしなく半開きの唇。 「…早く、殺してくださいよ…?」 「…さっきの…あれは、言葉の、綾だ…」 「違うよ、そんなんじゃない…ミツヨさんなら殺してくれる、でしょ…?」 寝転んだまま手を伸ばして、ミツヨの右目を隠す前髪を掻き分けた。 その瞳が、もう、見間違いなどと言い逃れのできぬほどに、赤くぎらついている。 女はうつろに笑った。 「…連れてってくださいよって、いちばん最初に言ったじゃないですか…」 戦慄が走る。 いちばん、さいしょ。 あの夜。 「…後悔…するなよ…」 部屋の中だというのに、風が渦巻いた。 顔の前に差し出された手首をきつく掴む。 ゆっくりと、名を、呼ぶだけ。 「…そらち、ゆ、き…」 臍と胸の間あたりに、ずぶずぶと刀身がめり込んでいく。 当然、血が噴水のように吹き出して、紫陽花柄の浴衣がみるみるうちに物騒な色に染まった。 長い刃は簡単に肉体を貫通して、畳を突き刺し、女は床に文字通り縫い付けられた。 氷のように冷たくも、炎のように熱くも、感じる、激痛。 声を出すことさえかなわない。 光世が光を失った瞳で見下ろして、血まみれになった内腿に手の平を添わせる。 光世の頬も、女の返り血で汚れている。 下着をずり下ろして、ねっとりと濡れたその部分を愛撫する。 爪を立てて刺激し、その身体が震え出すところで、膣の中へと指を差し入れる。 ざらついた肉の内壁を撫で回し、喘ぐこともできぬ女の足がぴんと緊張すると、次はもっと腹の奥をまさぐる。 耳鳴り。 雨音。 遠くで雷が落ちた。 ろうそくの火の灯り。 障子戸に映る光世の大きな背中の影。 畳の匂いと、血の匂い。 途切れそうになる意識。 見開いて閉じる事を忘れた女の目が、光世の視線と絡まる。 息をするたびに内臓に刃が食い込み、全身がミキサーでこなごなにされているんじゃないかと錯覚するほどの痛みに悶える。 指先は体温をなくしていく。 口づけ。 光世の胸が柄に当たり、声にならない悲鳴が、女の唇の端からこぼれる。 それを意に介さず、光世の舌は女の舌を絡め取り、吸い付く。 硬い癖毛が首筋に触り、ちくちくする。 唇を重ねたまま、するりと下着を脱がせ、じゅくじゅくと湿って脈打つ秘所に、昂ったものを押しつける。 ず、ず、ず、と、ゆっくりと、中へと、入っていく。 指ではとうてい届くはずのないほどの、もっとも深い箇所へと、入って、いく。 激痛と、快感が交互に押し寄せる。 雪崩のように、津波のように。 乾いた喉はひくつくだけで、意味のある音は発することができない。 身体を上下に揺すられる度に、脳髄が煮えたぎるような疼痛にわななく。 女の手が、救いを求めるように畳を引っ掻いた。 畳に染み込んだ血液が固まりかけていて、その爪の間に溜まっていく。 徐々に遅くなる心臓の鼓動。 霞む視界。 筋肉が弛緩していく。 痛みさえ、遠のく。 1、1、 2、 3、 5、 8、 13… なぜかフィボナッチ数列を順番に思い出している。 思考がこんがらがる。 力を振り絞って、なにか言わなければと言葉を探すが見つからないし、塞がれた口では伝えることもできない。 怒っていないし、憎んでもいない。 恨んでもいない。 殺してくれと頼んだのは自分で、だから気にしなくていいよと、その心を、知ってもらった方がいいんじゃないかな、と考えてはいる。 湯気で湿気て、寝間着代わりの浴衣が肌に張り付く。 両手首は背中側で拘束されている。 後頭部を押さえつけてくる大きな手のひらの圧に抗う術はない。 急なことで鼻から湯を吸ってしまい、目頭がつんと痛んだが、女はすぐに冷静さを取り戻して唇を結んだ。 少し考え、わざと口の端からコポコポと小さく空気を押し出す。 唸るように低い声を敢えて聞かせる。 光世が自身の呼吸をゆっくりと30回ほどする間に、女のくぐもった悲鳴じみた声も、肺から絞り出された泡も消えた。 光世は思索を巡らせる。 これは、ずいぶんと身体の基本を鍛えていて、なにかの競技の手合わせにも度々に出場している…と。 あまりやりすぎてもいけないが、と、迷いながら念の為もう30回の気息を数えた。 死にはするまい… まぁ、死んだとて、どうということはないのだが… 光世は力を緩め、女の髪を掴んで湯舟から頭を引き上げた。 と、同時に、小さく固い爪先が、凄まじい勢いで光世の顎を下から叩いた。 完全に虚を突かれ、甘んじて蹴られたのは『刀剣男士』としては痛恨の失態ではある。 が、視線を戻す挙動もなくその足首を捉え、半笑いで『審神者』の血走った目を睨み返した。 「…跳ねっ返り娘が…!」 咳き込みながら酸素を求めて荒く息をする女を、そのまま湯の中へと突き落とす。 縛られバランスがうまく取れずに立ち上がるのに手間取っている様子を満足そうに眺め、光世は首の後ろに手をかけてゴキリと鳴らした。 さすがに顔の急所への一撃は少々はこたえた。 たいした度胸と肺活量だ。 ばさり、と濃紺の夜着をはためかせ、濡れるのもいとわずに自身も湯船にざぶざぶと入ると、起き上がりかけた女を今度は仰向けに押さえつけた。 きゅっと口を閉じて、目を瞑り、気丈に水責めに耐えている。 その姿が妙に唆り、光世は女の膝を開いて陰茎をねじ込んだ。 ほんの一瞬しか息継ぎをしていない。 意識がかすんでいく。 激烈な快感が女の脳内に充満し、光世自身を包んでいる肉が収縮する。 生命の危機。 水面の下から、薄目を開けてみても光世の表情は見て取れない。 我慢していたが、糸が途切れて、ガボっと息の塊が腹から溢れた。 とたんに苦しさが増す。 熱めの湯が鼻から口から侵入してくるが、そこでまた歯を食いしばって心臓を鎮める。 無心に素数を諳んじていると、光世が女の首を掴んで湯の外へと持ち上げた。 「…げほっ、げ、げぇぇ…」 湯を吐き、それから空気を必死に吸う。 光世は、実に心を奪われたような、愛欲に酔いしれたような甘い顔で、女を見つめていた。 「…」 何も言わないが、その頭の中では猟奇的な思考が渦巻いていた。 あの『本丸』で俺は、審神者であるあんたの所有物で、それに文句はないし、むしろ喜ばしく誇り高いことではあるが、ひとたび『ここ』に連れ込んでしまえば、逆に、俺は神で、審神者など、か弱く下賤の、ただの人間なのだ… 表情筋を1ミリも動かさず、もう一度、女を湯に沈めた。 なにかとなにかを天秤にかけて考えをまとめようとしているのか、征羽矢は黙ってグラスの中の氷を回している。 もう一押し。 「…それにしても、とてつもなく良かったな、ああいうのをカタルシスっていうんだろうな。」 「…っ、てめっ…!」 征羽矢が拳を握った。 どうなるか分かっていて煽っているのではあるが、あまりの敵意に腰が引けてイスがガタンと悲鳴を上げた。 「ごめんて、もう2度としない、本人にもそう言った。」 強いプレッシャーで目の下がピクピクと引きつる。 自慢じゃないが殴り合いのケンカなんてしたことがない。 一方で、隣に座る金髪の若者はいかにもヤンチャな腕に自信がありそうだ。 「飲もうって誘ったのはそっちだろ、たまにはゆっくり話そう?」 なにを隠している? どんな秘密がある? ゾクゾクとワクワクが止まらない。 「…なにを問われてたんだっけ?」 「聞いたのは『なんでてんちゃんとヤったのがバレてんの?』だけど、なんでもいいよ、きみたち兄弟がいったい何者なのか、とかでもね。オカルトなやつだろ?」 ウイスキーを口に含む。 熱が喉を焼いた。 濃いアルコール成分にほだされて不心得な欲が顔をのぞかせる。 「てんちゃんとミツヨくんとどんなセックスしてるか教えてくれてもいいし?」 ヒュン、鋭い音とともに風が頬を撫でた。 目視はできなかった。 血管の浮いた征羽矢の腕が耳に触れている。 「…ジョークだよ、頭固いなぁ。」 おどけた調子で言うけれど、その声は上ずってしまった。 「…城本サンも酔ったらやらかすタイプっすね…いや、もとからこんなカンジか…」 苛烈な一撃になりうるジャブを放った右腕を気だるげに持ち上げて、後ろ頭をボリボリと掻いた。 「…匂い、するんすよ、てんちゃんの匂い。兄弟とヤったときは兄弟の匂いが混じる。そんで、こないだ、城本サンの匂いが、したんす。それだけ。」 ぶっきらぼうに吐き捨てる。 「犬かよ…!」 「他の奴の匂いはそんな分かんねーっす。てんちゃんのだけ、ケンチョで、てんちゃんのに混じると、他の奴のも、気づくってーか…難しーな…」 キィ、とイスの向きを正面に直して、薄くなったウイスキーを飲み干した。 「なぁ、ミツヨさんも、そうやってなんか感知したりすんの?」 すかさず氷を足して二杯目を注ぐ。 「答えたぜ?次はあんたが『セツメー』する番だろ?」 「天然で頭キレる男は苦手だなぁ…」 自身のグラスの中身はまだ半分も消費されていない。 なにか肴になるものはないものか。 また立ち上がりカウンター内の戸棚を物色する。 「ドライイチジク開けていいか?」 「…待って、シーフードミックスあったよな、たしか。」 征羽矢も席を立つ。 冷凍庫をがさごそと漁り、使いかけの袋を取り出した。 耐熱ガラスのグラタン皿にザラザラと流し入れ、オリーブオイルとチューブのニンニク、ミックスソルトでさっと和えてオーブンへとぶち込んだ。 この間わずか3分といったところか。 なんか作ってくれるんだな、とドライイチジクのパウチを棚へ片付けようとした城本の手首を、征羽矢が掴んだ。 思わずビクっとしてしまう。 「あ、それもいるから。」 「え?シーフードとイチジクって、どーなの?」 「黙ってろよ…」 城本は席へと退散して、おとなしく再び腰掛けた。 減らないウイスキーを舐めながら、調理に勤しむ年少の上司の横顔をぼんやりと眺めている。 あらかた火の通ったシーフードに、ざっくりとちぎったドライイチジクをのせてブラックペッパーを散らし、もう一度オーブンへ。 城本にはない才能だ。 純粋に尊敬する。 もちろんビジュアルも極上。 気遣いの鬼だし、ユーモアのセンスも持ち合わせている。 敵も味方に引き込むようなさっぱりとして明るい性格に、愛嬌と度胸。 天はいったいなぜ、惜しみなくいくつもの資質を与えたのだろう。 パラメーターで言えば光世よりも優れているとさえ思う。 光世は、見た目は、まあ、征羽矢とほぼ同じだ、極上。 音楽の感性は鋭く、アーティスティックな美的感覚は強い。 ある程度親しくなれば優しいことはよく分かるし、無口だが心緒は豊かだ。 が、いかんせん、あの陰鬱な雰囲気だ。 そこがかっこいいのはもちろんだが、とっつきにくさは否めない。 まあ、どちらにせよ、ふたりとも女なんて選び放題だろ、なんであの女に、などと考えていると、目の前に熱々のシーフードグリルが置かれた。 取り皿と箸を受け取り、まじまじと征羽矢を見つめた。 「…なんすか?」 「や、こまめだなーというか、すげーうまそーだなーというか。」 「混ぜて焼いただけだし。」 表面がカリッと焼けたイチジクが甘い香りを放っている。 海老とイチジクを同時に摘み、ほおばる。 どんな組み合わせかとぎょっとしたけれど、フルーティーな酸味が案外と磯の味わいに合う。 「うまっ。すご、これ、メニューにすればいいのに。」 「出すなら、玉ねぎ入れたりしたいし、ニンニクもチューブじゃダメっしょ。…んで、続きは?」 城本は肩をすくめて、観念したように話し始めた。 「まぁ…一昨日は、成り行きじゃあったんだけど…単純に、関心があったんだよね、きみたち3人の関係性に。」 これは酒がすすむな、チェダーチーズの粉末があってもいいかもしれない。 「てんちゃんと、話したことがあんだよ。きみたち兄弟が異常にてんちゃんに執着してるって。」 最後にはバゲットが欲しいな、記憶によればガーリックトースト用に冷凍したものがあったはず。 征羽矢もホタテを口に放り込んだ。 「…自覚は、あるわ…」 神妙な顔で咀嚼している。 「だろ?こんなこと言ったら失礼だけどさ、ぶっちゃけ、並じゃん、すげーかわいいわけじゃないし、おっぱいでかいとかでもないし、ましてや愛想よくもないし、趣味もなんかマニアックだし。」 「ひでーいーようっすね。」 征羽矢は城本が女を無遠慮にこき下ろすのを聞いて、はは、と定型な笑い声を立てた。 面白くて笑ったのではない、ただの相槌だ、城本もそのくらい知っている。 「だから言ったろ、恋愛感情ミリもない。男友だちに感覚近い。ラーメン食い行ったり、ゲーセン行ったり、さ。」 光世と3人で街を徘徊した夜を思い出している。 女を女という性別としてどうこうしてやろうという煩惱は微塵もなかった。 ような気がする。 「…なるほど…?」 征羽矢のそれは同意とか理解、肯定を表す応答じゃない。 そのくらい。 知っているのだ。 だがいつまでこの勝ち気な芝居を続けるべきか、引き際は分からない。 城本はアルコールの染みた脳を可能な限り稼働させて、会話のテンポを崩さぬよう、言葉を、言い回しを、選択している。 サラリーマン時代は、営業課でビシバシ鍛えられた。 得意分野というほどでもないが、虚勢を張るとか風呂敷を広げるとか、つまるところ安易な嘘をカムフラージュしつつ展開するのは慣れていた。 「それが、どうしてか、モデル級の、女に困ったことなんてないだろってくらいのいい男がよ?そろって執着するって。なんかあるだろって思ったわけよ。」 「…それでちょっかいかけてみたっての?」 征羽矢がゆっくりと顔を上げた。 尖った視線に射抜かれて呼吸まで苦しくなる。 正念場か。 「ちょっかい…てか、まぁ、そうなるかな…ほっぺにさ、触ったんだよ、ふざけてたんだ。そしたら、もう、そっから、なしくずし的に。」 指先に、女の頬に触れたときの感触がよみがえる。 柔らかくツルツルとして、生あたたかくて、そこから身体になにか不穏なものが侵入してくる感覚… それは腕を通り全身に広がり神経を蝕む、毒のよう… 突如として、城本は腹の中に違和感を覚えた。 内臓をひとつひとつ丁寧に裏返しにされていっているような、不快感。 蛇がとぐろを巻いてうねっているかのような、異物感。 違う… 毒なんかじゃない… やはり、あれは、麻薬… 表情に出さぬよう息をこらして奥歯を噛みしめた。 「正直、匂いってソハヤくんが言うの、納得もある。一種のフェロモンとか?動物的だけど。」 無意識に左の手が腹部を圧迫していた。 忘れられない興奮を、臍の奥へと押し込む。 「…抗えなかったとか気の抜けたこと言ってんなよ…?」 それは征羽矢の言う通りだ。 そんな本能丸出しの浅はかな理由で不倫に興じるリスクを負うなんて、本来の城本であれば、性格的にありえない。 だが、まさに。 「…ソハヤくんだって体感してるんだろ?あの…体内侵食されるイメージ…倫理も道徳もめちゃくちゃにされる…」 「…」 返答はない。 すい、と目線を外される。 十中八九、思い当たるところがあるのだろう。 いちばんオカルトなのは結局、誰なんだ? 会話が止まったので、バゲットを探しにキッチンへ行く。 凍ったまま焼くだけだ、征羽矢の手を借りるまでもない。 「…刺されて、死んだよね…?あと…溺れて…死んだ、はず…」 縁側の床板に呆然と座り込んでいた。 オセロの盤と白黒の駒が散乱している。 ステンレスのタンブラーが倒れて、氷と、麦茶だろうか、薄茶色の液体がこぼれている。 蒸し暑い。 蛙の声。 色とりどりの立葵の乱れ咲く庭。 自身は麻の葉模様の浴衣を着ている。 ここは、どこ…? 光世はオセロ盤の向こう側に胡座をかいて薄く微笑んでいた。 ゆるりと濃灰の夏着物を纏っていて、はだけた胸元と足元から色気が匂い立つ。 女の髪の生え際には玉のような汗の粒が貼りつき、何もしていないというのに息は上がっていた。 「…死んでみて、どうだ…?」 盤上に残っていた駒を気まぐれに返していく。 それが正当なルールにのっとっているかどうか、ここまでの経緯を知らぬ女には判断できない。 「…に、人間は、ふつうは…いっかい、死んだら、それで、終わり、なんですよ…」 震える声を絞り出す。 浴衣の襟元をぎゅっと握りしめた。 心臓が動いている。 生きている。 「…痛かったか?…苦しかった、か…?」 光世は静かに、問う。 女といえば、そんな状況でないことは百も承知だが、散らばっている駒を一つずつ拾い集める。 それも性分だ。 「…何度でも…殺してやる…望みどおり…言っただろう?…『俺に犯し殺させるなら』…」 手のひらの中で、白黒の駒がチャリチャリとせめぎ合う。 知らないが、知っている、ここは、ほんまる… 「…これは…催眠?みたいなもの?ですか…?」 ファンタジーを受け入れる準備は十二分にできていたつもりだった、が、いざ目のあたりにすると、意味のない常識が思考を邪魔する。 「…好きにとらえてくれ…あんたの番だぞ…」 浴衣の合わせを雑に正し、正座し直す。 盤面をひとしきり眺め、パチ、と音を立てて駒を置いた。 数枚を返しながら、光世の表情をのぞき見る。 殺してくれとすがったくせに、抗ってしまった。 よりにもよって、顔面を蹴り飛ばしたのだ。 あのときは、死にたくないと心から思ったのだ、しようがない。 だが光世はケロリとしている。 光世がおもむろに顔を上げた。 目が合う。 赤い、美しい瞳だ。 まさに神の目。 「…どうした…?次に、行くか…?」 ------------------------- 〜18に続く〜
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2025/10/10 11:33:17(XaiuPkQk)
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