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1:hollyhocks occulted 14
投稿者:
(無名)
〜まえがき〜
⚠書いた人はオタクです⚠某刀ゲームの二次創作夢小説です⚠暴力などこじらせ性癖の描写多々⚠自分オナニ用自己満作品です⚠ゲームやキャラご存知のかたは解釈違いご容赦ください⚠誤字脱字ご容赦ください⚠たぶんめちゃくちゃ長くなります⚠未完ですが応援もらえたらがんばります優しいレス歓迎⚠エロじゃないストーリー部分もがっつりあります⚠似た癖かかえてるかた絡みにきてください⚠ —---------------------- 警察署なんて、開業するときに深夜酒類提供飲食店営業開始届なんていう長ったらしい名前の届けを提出しに来たとき以来だ。 用があるのは免許の更新くらいだが、ペーパードライバーだったわけだから、ずっとゴールドだったこともあり、訪問は半刻ほどのわずかな時間で済んでいたのだ。 想像していたよりも、薄暗くもなくひんやりもしておらず、まるで市役所かなにかの雰囲気だ。 「約束の、空知ですけど、ご担当のかたは…?」 生活安全課の窓口で声をかける。 「お待ち下さい…」 PCで予定を確認し、廊下へ出てきた。 「こちらへどうぞ。」 そうして簡素な個室へと通された。 ドラマや映画でよく見る、事情聴取する部屋だ、と光世はぼんやりと思った。 すぐに、昨日の朝に女が話していた警官と、もう1人、女性警官がやって来た。 「昨日はどうも。榎並です。こっちは福田。記録を取らせてね。忙しいのに、ごめんね?」 「早く済ませましょう、ご要件を。」 表情筋を1ミリも使わずに、女が催促する。 「うん、そうだね、もう一度、確認なんだけど、中川さんとはお付き合いしていない?」 「していません。」 「そーかぁ、いや、よくあることなんだよ、こう、認識の違いというかね、相手は、そう思ってはなかったってことなんだけど。」 榎並はハンカチで額の汗を拭いた。 エアコンは適度に効いているのだが。 女は、先と同じ言葉を繰り返した。 「…ご用件を。」 「つまり、恋人の浮気相手に嫌がらせをされた、と。」 女が、ぴく、と顔を上げた。 ようやく、その頬に生気が宿る、物騒な生気が。 「…嫌がらせ?」 「まあ、恋人をそそのかして部屋の鍵を変え、通信機器を奪いデータを消した上でさらに破壊…これは、きみたち、すっかり有名になっちゃったからね、事実だね?」 当然だがくだんのSNSはチェック済みだ。 つまらない言い逃れはしない。 「ノートPCはもともとわたしの所有物です。提出の必要があれば協力します。スマホに関しては…申し開きもございません。」 わざと、仰々しいワードをチョイスする。 これは嫌味の一種だ。 だが鈍感そうな榎並には通じない。 「いや!分かってる!分かってるよ、過去に身体の関係があれば、そういうことも、時代だから、これはね、我々もいつも頭を悩ませる問題なんだよ、昔にはなかなかなかったよね、こんなこと。時代だよね。」 「…」 なにを言わんとしているかは明らかなのだが、自ら発言して墓穴を掘りたくない。 質問以外には答えない。 「過去に、身体の関係があったことは、認める、で、いいかな?」 光世が、榎並を睨み付けた。 福田のデスクのライトがチカチカと点滅した。 「認めます…が、その際も、交際していたわけではないと、お知りおき願いたいですね。」 「…まあ、そういうことも、まれに、あるよね、相手さんの主張とは異なるけど。」 小さな白熱灯がパチパチと音を立てている。 福田は不思議そうに首を傾げている。 「きみたちは?いつから付き合ってるの?」 女と光世は顔を見合わせた。 「えーと?2週間くらい?ですかね?」 「あれ?思ったより最近だね?」 試すようないやらしい視線が、女を舐め回した。 嫌悪感が背筋を走る。 「…それは関係なくないです?」 「なくは、ないんだよね、まだ、その、器物破損等で受理してはないから、まだ、関係ないけど、捜査するとなったら、いろいろ情報が必要なんだ。」 じゃあ、今は関係ないじゃないか、という言葉を飲み込む。 「…逆に、空知が…こう、ストーカー?的な、被害を、被害届を、出す、ことは、可能なのか…?」 光世が不機嫌に口を挟んだ。 満足そうに榎並が答える。 「受理するかは、こちらの判断だけど、出せるよ、どうする?」 女は首を振った。 「…今は、いいです、ちょっと、仕事、集中したいタイミングなんですよ。それが済んだら、考えますけど…」 「ドリフトレーサーだってね?学生時代の空知さん、ずいぶん面倒見たっていう同僚がいたよ、あとで会っていくといいんじゃない?」 「…けっこうです…」 カツ丼どころかコーヒーの1杯も出てきはしない。 女も光世もテンションは下がる一方で、上がるのは苛立ちのボルテージばかり。 あとは、とうとう天井の蛍光灯がミシミシいい始めた。 オカルト過ぎる! 「ねえ、三池さんの前で話しにくかったら席外してもらえるよ、三池さんには、別に聞きたいこともあるし、別室、行こうか?」 榎並が腰を浮かせるが、女は動じない。 「たとえ三池の前で話しにくいことがあったとして、今日は話すつもりはありませんが?」 ぴり、と空気の温度が1度冷えた気がした。 「…勝手ながら…中川と空知は交際の事実は過去も現在もありません。身体の関係があったことは認め、それに係るいわゆるリベンジポルノ的な被害を恐れ、現在交際中の三池と共謀してスマホを奪い破損させました。罰則を受ける心持ちはありますが、情状酌量は求めます。一昨昨日、自宅前で中川が騒いでいたことは知ってはいますが、それを空知がどうこうすることはできませんし、する気もありません。現時点ではストーカー被害等を訴えもしません。もし、中川が、空知を、殺す、など、脅迫まがいのことを、言うのだとしたら、それは、そちらの、仕事では?」 一息に、立板に水が如く、言い切った。 台本でも用意してあったのかと思えるほどの、圧巻の長台詞だ。 思わず光世さえポカンとする。 「また、別件で三池に、と仰いましたが、今日は空知と中川の件での訪署です。別件は別件でアポをお願いしますね……てめえらの都合でナシすり替えてんなよ?…今日はこれで失礼します…もし、わたしが、中川に、刺されでもしたら、後悔するのは、そちらでは?」 光世の腕を引いて部屋を出た。 「…おい、あんな、あんな言い方…」 かわいそうに、光世のほうが狼狽えている。 「…肝心なとき、助けてくれない、警察、嫌い…」 ぼそ、と小さく呟いた、その言葉は、港に停泊していた旅客船の汽笛に折よく掻き消され、光世の耳には届かなかった。 タイマーを仕掛けた洗濯機がずいぶん前に終わっているはず、と自宅へ戻ってきた。 それを手早く干し終え、カリーナに乗り換える。 征羽矢が起きていたら一緒に昼食を食べに行こう、と提案されたのだが、3人以上が同乗できる車両はカリーナしかないのだ。 正午前に店舗へと戻ってきた。 ラーメンゲーセン珍道中から2日連続サーキット送迎があり、すっかり仲間外れにしてしまった罪滅しでもあった。 「13時に港駅の不動産屋なんだけど。」 運転席の後ろに乗り込みながら、征羽矢が時計を見た。 「俺、部屋、出るから。」 顔を上げず、小さく言う。 「えっ?なんで?」 予想外の言葉に、ついデフォルトの丁寧語が外れてしまった。 「なんでって…兄弟とてんちゃんでここ使ったほうがいいだろ?」 「ええ?どうして、そうなるんです?」 光世は何も言わない。 すでに話し合いは済んでいるのだろう、と女は思ったし、その通りだった。 「だって、けっこんとか、するだろ?そのうち…」 「え!するんですかね?しない気が、しますけど…」 当の本人が反応を示さないのも謎だ。 そして、さっきから、え?とか、ええ?とか、柄にもない感嘆詞で話し始めてしまう。 「…とにかく!俺がいっしょに住んでたらいろいろ都合が悪いんだよ…!」 「…世間的に?」 世間的に、体裁が悪いのはよく承知していた。 イメージの問題だと、光世にも言い聞かせたことがあるくらいだ。 「世間的に!」 「…そっかぁ…さみしくなります…」 引き留めようかと、一瞬だけ悩んだけれど、それは自分の役目じゃない。 自身にそんな図々しいこと、言う権利はない、と黙った。 征羽矢の決断を尊重する以外にできることはない。 「じゃあ、そのまま送りますよ。何食べたいです?」 「んー、なんか、洋食系。」 「おけまる。オススメのハンバーグどうですかね?」 アクセルを踏んだ。 「車、いーかもなぁ、なかなか行けねーとこ、飯行けるな。」 征羽矢が全開の窓に肘をかけて遠くの空を見ている。 今がチャンスか? 光世は、ちら、と振り向いて弟の横顔を盗み見た。 「…車を、本当に、買おうかと…」 光世が、切り出したが、エンジン音と風を切る音で聞こえにくい。 「…なんて?」 「…車を…!買おう、か…!」 物静かな兄の必死の大声に、目を丸くする。 ルームミラーでその顔を覗いた女が笑った。 「いいですね、引っ越しちゃっても、すぐ遊びに行けますよ!」 煉瓦造風のレトロな外観の洋食屋は平日のランチタイムで賑わっているが、タイミングが良かった。 待ち時間なくボックス席に通された。 「目玉焼きハンバーグのランチ一択です。」 女はメニュー表も見ない。 「えー、なんにしよ。和風好きだなぁ。」 征羽矢は割と優柔不断なところがある。 「…オムライスとハンバーグ、の、やつにする…」 光世が指差したのは通常サイズのオムライスに通常サイズのハンバーグが添えられたボリュームたっぷりの人気メニューだ。 たくさん食べるイメージがあまりないので少し心配になる。 「うう、迷う…エビフライのも捨てがたい…」 征羽矢はまだうんうんと唸ってページを捲ったり戻ったりしているから可笑しい。 数分悩んで、結局エビフライとハンバーグのセットに決めた。 「タルタルソースには抗えねーよなぁ。」 いつもどおり、にこやかによく話す、ジョークも言うし、身振り手振りも大袈裟だ。 だが、やはり、疲労の色が濃い。 結果的に引っ越しを強いることになってしまった件については、悪かったと思っている。 だから、美味いものをご馳走してやり、他所の店にヘルプに行って出稼ぎにも精を出す。 もちろん自店舗のパフォーマンスも最高のクオリティをキープする、と心に決めている。 「…ほら、時間だぞ…?」 光世が言って、そのスマホの画面を全員で、頭をぶつけそうになりながら覗き込んだ。 ドリチャレの公式ホームページのグッズページへと飛ぶ。 ずらり、と並ぶ商品の数々をすいすいっとスクロールしていく。 大判タオル、ロゴTシャツ、トートバッグ、ステッカー、ボールペン、フォンタブ… そのあとに、各選手ごとのマフラータオルとブロマイドが載っていた。 「ほら、またドぎついピンクですよ。いいですけど。」 いい、と言うわりには、不満気に口を尖らせた。 ブロマイドは5枚セットになっている。 定番の全身ショットはヘルメットを小脇に抱えていて、それと、レーシングスーツ、タンクトップ姿のそれぞれバストアップと、くだんの胡座から姿勢を前のめりに崩したショット、それと。 くだけた笑顔。 の、オフショット。 目線がカメラに来ていない。 斜め横顔のアップ、わずかに見上げる角度、瞳にはマンガのような煌めくハイライト、頬はほんのりと桃色に染まり、ぽってりとつやめく唇の間から歯が見えている。 「…こんなの、いつ撮りました?」 「…俺が、知るわけ、ない…」 光世は首を振った。 「これ明らかに誰かとしゃべってるとこじゃね?」 征羽矢に言われるまでもない、思い当たる節はある。 「…これは、案件…」 女は苦々しく息を吐いた。 『あー、言いたいことは分かってるって、あれだろ?かわいく撮れてたっしょ?』 「…確かに、選別は任せると、言った、わたしが、悪かった…んですか…?」 女は星野と電話しながら頭を抱えた。 『いやぁ、ミツヨくんといるときさ、もうね、明らかに表情違うんだもん、ずるくない?カメラマン魂に火が着いたっていうか。』 運ばれてきた鉄板の上のハンバーグが冷めていくけれど、猫舌なのでちょうどいいのかもしれない。 その横で光世と征羽矢は熱々の料理をぱくついている。 「わたしの培ってきた印象が…」 『培ってたの?わざわざ?』 星野は半笑いだ。 腹が立つ。 「揚げ足を取らないでください。よくノースがOK出しましたね?」 『ソッコーgoだったよ?』 「…」 森下のにやにやした顔がまぶたの裏に浮かぶ。 『一気にファン増えるね?』 良かったね、というニュアンスだったのが、女の憤る心に油を注いだ。 「…こういう!売り方は…!気に…いらない、ですよ…リザルトで、見て欲しい…!」 珍しく強い語気に、兄弟はびくっと肩を跳ねさせた。 しかし星野は逆にトーンダウンする。 『理想論。ボランティアでやってるんじゃない。ビューワー増やしてから言えよ。』 「…っ!」 女が奥歯を噛みしめた。 うわ、きっつ、征羽矢は黙って隣で音もれを聞いていた。 『て、俺が言うのも違うけど、社長も森下サンも、そう言うと思うよ?』 「…知ってます、すみません、生意気を…」 謝りながら、前髪を触る。 反省してはいないな、と光世は思った。 『ん、ただ、ね、すごくいい写真が撮れてしまったんだよ、これは、困るくらい。また森下サンからまた連絡あると思うから、よろしくねー。』 よく分からないことを言い残して、一方的に切られてしまった。 困る? すぐに完売してしまいそう、という意味だろうか? ようやくフォークを握る。 「…ぜっ、ったい、勝ちたい…」 ハンバーグと目玉焼きの黄身をまとめて突き刺すと、じゅわりと肉汁が溢れたところに、とろりとしたたまごが絡みついた。 食事を終えて征羽矢を不動産屋へと送り届ける。 大通りを挟んで向いの路肩にハザードをたいて停車した。 「そのへんで時間潰してますから、終わったら電話ください。」 運転席の女が言った。 「えー、バスで帰るぜ、悪いよ。」 「そんな時間かかんないですよね?ミツヨさんとデートしてます。」 ふと、さっきの、5枚目の写真の表情を思い出す。 あんな、顔を、する… 「…そっか!じゃ、電話するわ、さんきゅ!」 片手を上げて、車の横を通り過ぎて横断歩道を渡りかける征羽矢に、助手席から身を乗り出して光世が声をかけた。 「…おい、ひとりで、いいか…?」 はは、と、乾いた笑い声を上げてみせる。 「何言ってんの?成人男性に。ウケる。」 「…なら、いい、が…」 光世は、ただ疲れた様子の弟が心配なだけだ。 どことなく違和感をおぼえていた。 「水族館行く途中にマーケットあるじゃん?あそこ、2階がでかいガチャ屋だぜ?てんちゃん好きそう。」 そんな兄の不安など知らず、デートに不慣れなカップルに有意義なアドバイスをくれる。 「…そう、だな、行ってみようか…じゃ、あとで…?」 「おう!」 ひら、と手を振って、背中を向けた。 誰も見ていない、征羽矢は、ぎゅ、と強く目を閉じた。 真っ暗のはずが、なぜか白黒の市松模様が広がる。 別にいい、自分の感情は置いておいて、これまで目立って女っ気のなかった兄と、あの女が仲良くしているのは普通に嬉しい。 嘘じゃない。 それと同時に、どうしても、悔しいし、さみしい。 どこかで、自分のほうが本当の意味で幸せにしてやれる自信のようなものもある。 嫉妬もある。 奪ってしまいたい欲も。 自動ドアをくぐって名乗ると、すぐに椅子を勧められる。 伊藤の知り合いという担当がやってくるまでの間に、ポケットの中から目薬を取り出した。 ぽちょり。 スーパークールの清涼感がこめかみの奥を刺激する。 部屋なんてなんでも良かった。 壁と屋根があって、まあ、トイレと風呂があって、できればキッチンがあって、仕事がら仕方なく防音がどうとか注文をつけたけれど。 「内見しなくていいんですか?自慢の物件ではあるので、ご心配がなければ、我々は良いのですが。」 担当の中年男性はおずおずと申し出た。 「いーっす、めんどいし、伊藤サンがここってゆーなら、間違いねーっす。」 ポン、と判子を押した。 モノレール沿線なだけで文句のつけようもない。 「では、来週の月曜日には入居できるように進めます。なにかあればご連絡ください。」 丁寧に頭を下げられ、それを一歩引いた冷めた目で見下ろした。 あと1週間。 なぜか内臓がぐらぐらと煮える。 この不快感の原因が何か知らない。 焦燥感。 寂寥感。 自分が自分でなくなるような内界。 征羽矢に教えてもらった店は面積は広いが、ガチャガチャの筐体が縦に横にみっちりとひしめいていて、体格のいい光世は通路で肩身を狭くしている。 「やった、推し、きた、ですよ!」 いくつめかのカラフルなカプセルを開いた女が、ひときわ高く声を上げた。 なにかのアニメのキャラクターのキーホルダーを嬉しそうに見せつけてくる。 「これ、カブったから、あげますね、ふふ。」 つまり要らないものを押し付けられるわけだな、と光世は解釈したけれど、女が喜んですぐに車の鍵に取り付けたものと同じタッチのイラストをじっと見ていると、おそろいっぽくて悪い気はしない。 そっとポケットに仕舞う。 と、光世のスマホが鳴った。 「…兄弟だ……終わったか…?」 『終わったー。どこで待てばい?』 「駅のロータリーまで歩いてください。10分で行きます。」 女は横から言った。 『りょ。頼むわー。ありがと。』 通話を終えると、ふたつの丸い瞳が光世を見上げていた。 「よく見ると、推しに、似てなくは、ないんですよね。」 「…?…さっきの…?」 目つきの悪い黒髪のキャラクターだ。 3頭身にデフォルメされていたが、痩せていて猫背な感じで、ロングソードを背負っていた。 「…マンガのヤツと、いっしょに、するなよな…」 呆れて目を逸らした。 店の鍵を開けた。 「ちょっと早いけど開店準備しちまおう。フライングで飲んどく?」 征羽矢が女に尋ねる。 光世はすぐにバックヤードに引っ込み、遠征の用意をし始めた。 「いいですね、テキトーな値段のワインをボトルでください。ひとりで勝手にやってます。」 「赤?白?」 「赤で。」 しゃがみ込んで、カウンターの下をゴソゴソと探っている。 「重め?」 「ですね。」 いつもの席に腰掛けながら返事をする。 「酸味苦味重視で…このへんでいっか。ほい。安物だけど。」 ワインボトルとオープナーとグラスとミネラルウォーターのペットボトルとチョコレート菓子を、次々と無造作に並べる。 「ありがとうございます。」 「好きにやってて。」 「はーい。」 コルクを抜いて、注ぎ口から香りを嗅いでいると、光世がキャスター付きの小さめのスーツケースを転がしながらやってきて、渋い顔をした。 「…いい身分じゃないか…」 「あ、もしかして送って欲しかったです?」 「…必要ない、あんたの車で行くと、目立つ…」 他所の店の応援に行くのに、派手に登場するのはいただけない。 「…夜、どうするかだけ、考えてくれよ…」 困ったように眉を下げ、ため息をついた。 「えー、車中泊…」 「…つまらんジョークだな…?」 めちゃくちゃな圧をかけてくる。 「…だって、泊めてって言ったら、ソハヤさん、またこっちでソファとかで寝るんでしょ?…申し訳ない…」 トクトク、とグラスに赤い液体を注いでいく。 その動作が、申し訳ない、の言葉とあまりにミスマッチだ。 「…兄弟には、言っておく…なんなら、朝までここで飲んでろ…俺は、始発で戻る…間違っても、外を、出歩くなよ…?」 「うえ、非健康的…」 「…何を、いまさら…」 肩をすくめる。 「…分かったな…?」 「はいはい、分かりました。おっしゃるとおりにいたしますです。」 くい、とグラスをあおった。 「…それと…俺の、不在時に、しようのないことを、するなよ…?」 「しようのないこと?」 目だけで笑う。 光世は、もう一度、さきの倍ほどの大きさのため息をついた。 「…言っても、無駄か…」 mitsuyoの熱心な信者は今夜は港のcurse cageの方へ流れているが、城本にも堀江にももちろん大勢ファンがいる。 城本の明るくさわやかなベビーフェイスで繰り出されるモードなR&Bの落差で溺れ、堀江のインテリくさい几帳面なテクニックで捌かれるポップでロックなアレンジのギャップにとどめを刺される、この2人のこの順番のセトリには説得力しかない。 最年少の堀江などはいかつい外見の上司が不在だからか、いっそのびのびと演奏しているようにも見えた。 タイムカードを押した城本が女の隣に座る。 「こないだ三池兄弟には注意したけど、男2人住まいの部屋に行ったらダメだよ?」 一瞬、ワイングラスを掴もうとしていた手が止まった。 「…やっぱり?」 「警察沙汰とか裁判沙汰とかになったら心証が悪いだろ?」 城本はため息混じりに、頬杖をつき直した。 「ですよね、辞めようって話になったんですよ、ちゃんと。」 少し離れて別の客のカクテルをステアしていた征羽矢が口元を歪めた。 「…認めんなよ…」 同じことを、城本も言う。 「…認めんなよ…!」 兄弟のように必死の否定もしないので、逆に軽く苛ついた。 「他の人には言わないですよ、シロモトさん、どうせ気付いてると思ってましたし。」 押しても引いても、うんともすんともいわない。 先日いっしょに出かけたときは、その表情から、ずいぶん心を開いてくれたと思ったけれど、勘違いだったのか。 「…単純な好奇心なんだけど、泊まるじゃん?…その…流れで、3人で、みたくならないの…?」 イベントの打ち上げと称して従業員が集まって飲んだとき、何か取りに行くとかだったと記憶しているが、兄弟の部屋へ上がったことがあった。 広いが、いわゆるワンルームだ。 女は恋人の寝床で眠るとして? 一つ屋根の下どころじゃない。 同じ空間でいちゃつかれでもしたら、たまったものではないだろう。 女が、城本の耳に唇を寄せた。 小声でいたずらっぽく答える。 「…なりますよ?」 「てんちゃん!!」 征羽矢が怒った声を出した。 くす、と小さく笑い、ワインを飲み干した。 「…冗談はおいといて…」 そう会話を繋ぐけれど、それが冗談じゃないことはよく分かった。 「倫理観死んでる…!」 城本が唸る。 「シロモトさんは奥さん以外とセックスしたくないんですか?」 「…!…奥さんを愛してるからね。」 女は空になったボトルを征羽矢に手渡しておかわりを強請った。 「…あいとか!リアルで初めて聞いた…!」 嘘だ、何度も耳元で囁いているじゃないか、征羽矢はむっとするが、軽めのスパークリングワインを選んで出してやる。 繊細な薄いシャンパングラスに、琥珀色の液体が満ちていく。 「なんで、したい気分のときに、してもいいかなーって思える人と、適当に自由にセックスしたらいけないんですかね…」 普通の人間が疑問に思いもしないようなことを、語尾のイントネーションを上げてくる。 もし本気でそれを不思議に感じているなら、ちょっとしたサイコパスだ。 「道徳!モラル!あとは病気とか妊娠とか?フィジカル面…」 「正論ーっ!」 女は、わざとらしく身体をよじって、顔をしかめてみせる。 「じゃ、もし、ちょっといい雰囲気になったら、俺とも寝れるわけ?」 煽るように、艶めいた声を出して、女の目をじっと覗き込んだ。 征羽矢がカウンターテーブルを、バン、と叩いた。 「調子のんなよ!?」 スパークリングワインの水面が揺れて、沸き上がってくる泡がぱらぱらと弾ける。 「シロモトさんはー、アリよりのナシ、ですかね、奥さんがいるので。」 「なんだ、まともだな。」 「ヤるだけならぜんぜん、ですけど、慰謝料とか払えないし?」 「分かってるじゃん、それも一種のモラルだよ。」 征羽矢が、もう一度、テーブルを殴打した。 「ヤるだけなら、のくだり、無視できねーけど?」 「いろんな人とセックスしたほうが、こう…生物の、繁栄?的な?意味では?よくないです?」 「発想が獣なんだよ…残念なお知らせだけどな、俺たちは高貴な人間なの、あんだすたん?」 呆れて、ミラーボールを見上げた。 「ソハくん、生、おかわりちょうだい!」 「ソハくん、チーズ盛り合わせください!」 「氷ください!」 他の常連客からオーダーが飛んで、征羽矢は袖を捲った。 「俺は忙しーの!そんな話聞かせてメンタル削る攻撃してこないでもらえます?まったく…」 「ビールくらい注ぐよ、カウンター入っていい?」 城本が立ち上がった。 「もー退勤したっしょ?」 「いいよ、そのくらい。」 「すんません、助かりー。じゃキッチン入ってくるわ。」 ビールを注文した客の前へ行って、わざとらしくウインクをする。 「俺でごめんけど?」 「シロくーん!さっきのミックス最高だったよ!ミツヨくんにも負けてないって!」 「恐れ多いっすよ、師匠には遠く及ばないっす。」 ていねいに生ビールを注いで手渡した。 笑顔で会話をしながら、その隣のグループのアイスピッチャーを取り、冷凍庫からロックアイスを山盛りにする。 「はい、お待たせー。」 「てんこ盛りじゃん、溶ける溶ける!」 「さーびすでーす。」 「酒のほうをサービスしてくれよなぁ。」 わはは、と笑い声が弾けた。 普段からDJとして演者の業務もしつつ、ホールももぎりもなんでもやると、本人が言っていた通りだ。 征羽矢とはまた種類の違うさわやかな外見としゃべり方で、接客もそつなくこなしてしまう。 ミツヨさんはスタッフに恵まれたな、と、女は思った。 経営者が不在でも、店舗は限りなく安泰の様相である。 「てんちゃん、バイトしねぇ?ここでさ。」 残りのチーズの端切れを小皿に積んで女の前に置いてくれて、征羽矢が案外と真面目な顔で言った。 女は目を丸くする。 「…飲むために来てるんですけど、労働て…」 店がこのところずっとキャパオーバーしているとは思っていた。 なにかできることがあれば手伝いたい気持ちがなくはないが、接客の素人がしゃしゃり出ても、面白くないと不満を持つ客も少なからずいるだろう。 「結果お客さんから飲ませてもらえるともーけど。」 「…なるほどです?いや、そういう問題ではなくてですね…」 征羽矢が戻ってきたので、城本はスイングドアから外に出て、再び女の隣に座った。 「ビールつぐくらいでさ、あとは、顔見知りも増えてきたっしょ?世間話とか、ちょこちょこっとさ、できねぇ?」 手が足りなくてかなわねーんだよ、と愚痴をこぼす。 「フツーにいつものダルめテンションのほうが、あとあと楽だし、一周回って逆にウケるんじゃない?」 城本が口を挟んだ。 「そんなキャラ、ほんとにウケると思ってます?」 公害だよ飲み屋で働く無愛想なオタクなんて、と、よほどツッコんでやろうかと呆れたが、2人は存外乗り気である。 「てんちゃんなら、なんか大丈夫な気がするよ。あ、すみません、ノンアルコールビールもらえますか?」 城本がふざけて女の顔を覗き込んだ。 「…少々お待ち下さい…?」 なんにせよ、しばらくこのくだらない茶番に付き合ってやろうと、城本と入れ替わりで中へと入った。 そういえば、当たり前ではあるが、こちら側へ入るのは、初めてだ… 他人に影響を及ぼしたくないと考えるがゆえに、その他人の仕事場に足を踏み入れるのは、女的には禁忌のひとつだ。 それはそれとして、どこにジョッキが冷やしてあるか、いつも見ているから知ってはいる。 カウンター下の冷凍庫から素知らぬ顔でジョッキを出し、慣れた手つきで缶からノンアルを注ぐ。 高い場所から注ぎ泡をしっかり立てて、それからゆっくりとジョッキの縁に沿って流し入れると、黄金比の黄色と白の割合。 「じゃあ、俺、ウイスキー、シングルで。」 キョロ、と辺りを見回し、グラスと、プレートのかかっていないボトルを手に取った。 「…これです?」 「正解ー!」 鮮やな身のこなしで征羽矢のオーダーも用意して、それからふと気がついたように、背後の保温器からおしぼりをふたつ出してエセ客に手渡す。 いつも征羽矢や濱崎がごそごそと探るあたりに乾き物が詰め込まれている引き出しを見つけ、チーたらを袋ごとカウンターテーブルの上に置いた。 「ほぼパーペキ!つまみは皿に出せよ?」 「いやこれ採用の流れじゃないですか!」 征羽矢はすぐに業務に戻ったが、城本は面白がって、女にあれやこれやと注文をするままごと遊びに興じていた。 そうこうしているうちにすべての客の退店が済み、BGMの音量が大きく感じた。 その時、征羽矢のスマホがけたたましく鳴る。 「…!ごめん、伊藤サンから、着信…」 征羽矢が通話のため裏口から外へ出て行った。 ほぼ閉店しているから、いつものように高レベルの音が混在しているわけじゃないが、半地下なので電波が悪いのだ。 征羽矢の背中を見送って、思惑ありげに城本が尋ねた。 「なぁ…偉そうに説教しといてなんだけど、ちょっと触ってもいい?」 座ったまま、女の頬に手を伸ばした。 「やめたほうがいいですよ。」 いちおう、やんわりとは咎めてみる。 だが、指先が肌に触れた。 「…知ってる。でも興味が勝つ…」 イメージ、いのちを賭して、探る、この、奇怪な感情と、あの、現実離れした出来事。 「キスしても、いい?」 甘ったるい視線で見上げられて、どきりとしてしまう。 しかし可か否かを問うのであれば答えは分かりきっている。 「ダメでしょう?既婚者のくせに。」 城本はゆっくりと立ち上がり、今度は悪ふざけの表情で女を見下ろした。 さほど身長差のない2人だが、カウンターの中は一段低くなっているのだ。 「でも…する…」 身を屈めて、唇を重ねた。 ダメだとは言ったが、抵抗はしない。 光世との関係が、一歩、とは言わない、半歩、進んで、それでもなお、キスくらい誰としても、どうでもいいことだと、まだ思っているし、なんなら関心もあった。 「…やべぇ、善心が、破壊される…音がする…頭の中…」 顔を離し、ごく至近距離で城本が唸った。 かすかに声が上ずっている。 吐息が女の鼻をかすめる。 「…この、テンプテーションみたいな特殊能力で、兄弟を従えてるの?…あるじ、って…」 「…!…なん…?」 思いがけない単語が城本の口から飛び出して、女は言葉を飲んだ。 「こないだソハヤくんが、そう呼んでたよ、イッちゃった目ぇしてた。」 「…オカルト過ぎるって、言うじゃん…」 「オカルトだよ…」 温かい手で顎を掬われて、また口づけた。 遠慮がちに軽く舌を吸い、しかしすぐに離れた。 「…脳汁、止まんねぇ…これは…おかしく、なるわ…」 「続きは奥様にしてもらってくださいよ?」 「…だよな…なんだ、これ…どんなフェロモン出てんだよ、てんちゃん…」 城本の目がぐらりと泳ぐ。 だよな、と納得していたはずなのに、有無を言わさない、3度目は、始めから口内を蹂躙するがごとく粘膜を舐め回される。 城本の口の端から、唾液が滴っている。 両手はもはや女の耳を強く塞ぐように添わされていた。 理性はとうに崩壊して、女を抱きすくめてしまいたい衝動に駆られるけれど、カウンターテーブルが間に挟まっているから、最悪の事態を免れていた。 そうでなければ、押し倒しているかもしれない、冷や汗が城本の背筋を伝う。 グラスの氷が溶けてカランと鳴いた。 はっと正気に戻る。 女の肩を押し戻して、手の甲で口元を拭った。 「…っ、ごめん…」 女は、不自然に微笑んだ。 「べつに?」 「…内緒に、してよね…?」 「わざわざ言いふらさないですけど、隠し事は苦手なのであしからず。」 「クビになっちゃうよ…」 「それに家庭にヒビが入っちゃいますよ?」 「…それな…」 とすん、と、椅子に深く座り、まだ恍惚とした顔で、今の不適切な情事の味を反芻している。 「…しょーじき、このままヤりてぇ…」 「ソハヤさんが帰ってきます。クビどころじゃなくなりますよ。」 「…それ、な…」 噂をすれば。 裏口の扉が開いた。 危ないところだった。 「ごめ、城本サン、もーちょいいれる?呼び出し食らった、表通りのパブまで行ってくるわ…現金だけ金庫入れて、火の元と戸締りくらいでいーんだけど、頼めねぇ?」 「いいよ、まかせて。」 「てんちゃん、あー…もーいっか…鍵渡しとく。先寝てろよ?」 征羽矢は慌ただしく女に部屋の鍵を手渡し、それからパンツの後ろポケットのスマホと財布を確認しながら、ぺこ、と頭を下げた。 「すんません、タイムカード、手書きで書いといてくださいね?」 「そのくらい、すぐ終わるから。」 その城本の言葉を最後まで聞かぬまま、バタバタと征羽矢は出かけていった。 「ミツヨさん、いい男だからなぁ、比べられても嫌だけど。」 タイミングが悪過ぎた。 今ここで2人きりにされたら、事態は止められない。 もう十何回目かのディープキスにすっかり息があがっている。 それなのにまた、呼吸を妨げるのを繰り返す。 テーブル席の、安物の革張りソファに女を座らせて、城本はそこにのしかかって夢中で唇を吸っていた。 「はぁ…どーなってんの、これ、ほんと…あたま、狂う…」 首筋に食いつき、歯を立てようとして、思いとどまる。 跡が付くのは、まずい… 噛みたい欲求をどうにか嚥下した。 「え…マジで、いいの?…いや、よくねーな…知ってる…」 ひとり、ぶつぶつと葛藤しながら、女の服をまくり上げた。 「ぜんぜん、よくないですよ。」 そう答えてやるくせに、挑発的な視線で余裕のない城本を見上げる。 「…っ!」 背中のホックを器用に外して、はみ出した柔らかな膨らみの頂点にむしゃぶりついた。 両手は手探りでサルエルパンツと下着をむしり取り、はだけた膝を掴んで押し広げる。 「これ不倫です?」 「…たのむ、言うな…」 どうにもできない、津波のようなどす黒い欲が、脳を蝕む。 早く、はやく… 前戯もそこそこに、自身のものも解き放つ。 それは十分過ぎるほどに猛り、鞘を求めて脈打っている。 「やべ、ゴム、ねぇ…」 「いいですよ、わたし、妊娠しないから。」 「…?」 「なんか分かんないけど、子宮ズタズタで妊娠しないから、ぜったい。」 こともなげに、言い放つけれど、それはとてつもなく恐ろしい事実だ。 なんか分かんないけどって、なんだよ? 当然の疑問が浮かびはするが、思考するには至れない。 「…っ、中出しし放題ってこと?」 思わず舌打ちする。 と、ほぼ同時に、その剛直を最奥の肉壁へと叩き付けた。 水気がやや足りていない膣の中が、みちみちと悲鳴を上げる。 「っい、った…」 女はぎゅっと目を閉じた。 城本も、つい声が出る。 「…っん、は…きっ、つ…」 興奮でぼやけた視界、つま先からせり上がってくるとめどない快楽、スリルと背徳感。 「…なんで、そんだけヤりまくっててこんなきっつい…?」 「ヤりまくってるなんて、言って、ないっ…!」 はー、はー、と荒く息を吐く。 「…動く…っ!」 ず、と、摩擦の感覚が女の胎の内側を這いずり回る。 「…はぁっ、これ…だめ、だ、止まんね…」 ゆっくりと大きくストロークさせた。 根元まで押し込まれるとき、ぐりぐりと、左右に揺さぶる。 「…っ、や、んっ、ん…」 女は親指の関節の部分を噛んで声を殺していた。 またやってしまった、と頭では思っている。 城本とセックスする予定はなかったのだが。 「きもち…すご、なんだ…どう…ふ、止まんねぇよ…!」 徐々に腰の動きが速くなり、じゅ、じゅ、と湿度の高い卑猥な音がし始める。 「…アリよりのナシじゃねぇのかよ…?」 女の、口元で握りしめられている手を、掴んでソファの背もたれへと縫い付けた。 なぜか加虐心に火をつけてしまうのだ。 そうすると、つい、煽ってしまう… 「…や、だっ…やめ」 偽りの拒絶を口にしようとするのを、強いキスで塞がれる。 それもまた、理想に、近い… 女は、うっとりと享楽の沼に沈む。 もし、征羽矢が、忘れ物をしたよと、鍵を開けたら? もし、光世が、思いのほか早く帰宅して、自室の明かりが点いていないのを見て、こちらの扉を開けたら? ぞくぞくと背中の肌が粟立つ。 「あぁ…イきたくねぇ、ずっと…こうしててぇ…なぁ、ヤバい…」 文章になりきらないうめき。 女はさらわれた手首に力を込め、少しわざとらしいくらいに身じろいだ。 「…やめて、はなして…」 潤んだ目は熱を孕んで、城本の情緒をぐちゃぐちゃに混ぜっ返す。 「…クソっ…!」 歯ぎしりとともに大きくのけぞり、熱く滾る白濁液がほとばしった。 テーブルの紙ナプキンを束ごと取って、流れ出てソファを汚す体液を拭った。 「ヤバイヤバイ、証拠隠滅…」 口調こそふざけてはいるが、緊張した表情は薄く危機に怯える様相だ。 勤め先の代表の女を寝取るのも良くないし、それが不倫ならなおもってのほかである。 が、女は追い打ちをかける。 「ね…わたし、イってないんですけど。」 芯を失った城本のものに、ぱくり、と食いついた。 「…!待って!待てよ…!」 たしなめるようなことを言うが、身体には正直に、ぐる、と血が巡った。 女の口内は生暖かくぬめっていて、膣の中と同じくらいには欲と理性を揺すぶられる。 硬く尖らせた舌でていねいにねぶられて、城本は女を押し返そうとしかけていた両手で、逆にその肩を掴んでいた。 「…おま、え…それ…」 きゅうっと目を細めて、天井を見上げて歯ぎしりする。 それは再び熱を持って勃ち上がった。 城本の本能が正常に作動したのに満足したのか、女は顔を離し、またソファに腰掛けて、誘うように片脚を曲げて座面へと上げる。 「女におまえって言う男、クズ率高い。」 挑発的に顎を突き出した。 「…クズで悪かったなっ…!」 たまらず、そこへ覆いかぶさる。 ノータイムで挿入して、激しく突き上げた。 女の顔が若干ほころんだ。 そのどろ甘い気配に城本の脳髄が溶かされる。 「…首、絞めて?」 女が、城本の首に腕を回して抱き込んだ。白い二の腕が耳たぶに触っている。 「は?」 「そのまま、手で。」 「いや、やり方聞いてるんじゃ、ねーんだわ?」 「はやく。」 「マジ?」 「はやく。」 思わず下半身の律動は止む。 おそるおそる、両手のひらを女の首に添えた。 「ぎゅっと、ひと思いに。」 「…ど、のくらい?」 「思いっきり。」 「…え、ちょっと、何言ってるか分かんない…」 「じゃ、3回タップ、合図。」 「?」 「こう、やったら、」 ソファの横の面を、バンバンバン、と連続して叩いてみせる。 「やめて?」 「…こえーな…」 「大丈夫だから。」 思いっきり、とは言われたが、ゆっくりと力を込めていく。 ある一点を越したとき、ぎゅうっと膣がうごめいた。 無意識に、腰が揺れる。 まだ合図はない。 徐々に徐々に、強く、親指を、喉に埋めていく。 女は目を閉じて、わずかに眉間にしわを寄せている。 まだ、合図はない。 城本のものを咥え込んだ箇所はきつく緊張してうねり、足のつま先が微かに痙攣している。 投げ出されていた女の腕がぴくっと反応した。 ふわ、と持ち上げられて、宙をさまようように動く。 合図、と思い、身構えるのだが、それは、自身の首と、そこに這わされている城本の手の隙間を引っ掻いた。 一般的には、拒否もとい中断を懇願する旨の動作である。 城本は迷う。 決めた合図ではない。 「…っか…」 女の喉の奥から、乾いた音が漏れた。 まぶたが震えている。 城本の指はずいぶんと肌に食い込んでいる。 それを外そうとするかのように、女の手に力が入っている。 ぞく。 背筋を、冷たいものが走った。 それと同時に、経験したことのない快感が脊椎を焼いた。 一定のリズムで蠕動させていた剛直は、一気に膨れ上がる。 まだ、まだだ… 頭の中に、鎖が弾け飛ぶビジョンが浮かんだ。 「…ぎぼ、ぢ…」 女が、なんとも幸福そうに笑った。 いつもの、皮肉なほほ笑みじゃない。 いたずらっぽい笑みでもない。 わざとらしい作り笑いじゃない。 興奮したときに思いがけず見せる幼い笑顔でもない。 城本は夢うつつで、ぐ、と、頚椎に指を沈ませる。 「…!…は…」 ぷしゅ、と、女の秘所が潮を噴いた。 「…ぐ…」 なにやら呻いて、数度、全身を震えさせ、それから、ソファを、叩いた。 城本は、ますます、体重をかけて、女の脛骨を、締め上げる。 「…!?」 女が再び合図を出す。 城本は、下半身を強く打ち付けながら、首を振った。 「…ダメ…も、ちょい、このまま…」 ソファはミシミシと鳴いている。 子宮の入り口をねじ開くように、乱雑に何度も打ち込まれる。 女の顔は赤く火照り、意識が遠のいていく。 城本の身体を押し戻そうと抵抗するが、ぴくりともしない。 繰り返しソファを殴打する。 状況は変わらない。 いよいよ酸素が足りなくて、城本の手を引き剥がそうともがくことしかできない。 「…待てって、いま、いーとこ…」 城本が歯を食いしばっている。 がく、と、急に手脚の力が抜け、だらりと弛緩して、投げ出された。 意志とは関わりなく、背中が跳ね上がって身体が反る。 足の間からポタポタと透明の体液が流れ出して、革張りの座面を濡らし、床までしたたった。 胎だけは、うぞうぞと、虫のようにうごめいている。 広いホールに荒い呼吸音が響く。 そっと手を離す。 首の脈があるので、殺してしまってはいない。 果てたものを引き抜き、その場にへたり込んだ。 「…あ…」 自身の両手のひらを、じっと、見つめる。 それから我に返り、女の体を揺さぶった。 「…おい!」 ぴく、と唇が震え、女はうっすらと目を開いた。 さすがに、安堵して息が漏れる。 「…良かっ…」 城本は慌てて衣服を正し、立ち上がってカウンターの中に入り、数枚のタオルを持って戻って来た。 「…なんのための、合図…」 かすれた声で、女が苦々しく毒を吐く。 ゆっくりと上半身を起こして、辺りを見渡し、差し出されたタオルを受け取った。 「…ごめんて、あんなん、止めれるわけねーよ…」 そっちが仕掛けてきたんじゃん、と責任を転嫁する。 「早く片付けて撤収しよ。」 手早く汚れた床とソファを拭き、使用済みのタオルはゴミ袋に放り込んだ。 「クズ男…」 女も体を拭いて、城本に倣い、タオルを捨てた。 「…三池兄弟の、気持ち、よく分かったよ…魔性っていうか、てんちゃんも、相当オカルトってこと、判明…」 「?」 身支度を整える。 「てんちゃんのカラダさぁ、理性、吹っ飛ぶ…あり得ない。」 小グラスに生ビールを注いで女に渡し、自分は冷蔵庫からコーラの瓶を手に取った。 きゅぽ、と、栓を抜いて、瓶のまま飲み口を咥える。 「あり得ないはずのものが存在してると、オカルトって呼ばれるんだよ…」 「とくに、なにもしていませんよ?」 「そうなんだよ、こんなこと言うと引かれると思うけど、俺、別にてんちゃんのこと、好きじゃないからね?」 ぽりぽり、と後頭部を掻き、本音をこぼした。 「あっ、こないだ、好きって言ったのに!」 「あれは、三池兄弟の反応見たいがためのリップサービスだろ?分かってるくせに。」 城本が女を咎めるような視線を投げた。 「愛とかじゃないのに、こんなにトリップするか?」 女は返事をせずにビールを飲んでいるだけ。 「…そーなると、ストーカー野郎の、心中も、お察し…」 目を細めて、手を伸ばし、女の短い横髪を梳く。 「…麻薬みてぇ…」 それは麻薬をやったことがある人間の台詞、と思ったが、言わない。 また短くキスを交わし、そして、ぶんぶんと頭を振った。 「ヤバいヤバいヤバい!キッチン片してくるわ!ちょ、帰ってくれ!今日、俺もうダメだ!」 城本が背中を押し、とうとう店から追い出されてしまった。 扉を閉める間際に、決心とともにひとり頷く。 「もう、二度としない、ぜったい…」 いわゆるサゲマンってやつだろうか、シャワーを浴びながら考えている。 特別に魅力があるタイプじゃない。 なにがそんなに彼らを執着させるのかてんで分からない。 内緒にできるかどうか自信はないと城本を脅したけれど、なんとなく自分の身の危険も感じて、慎重に全身を清めた。 そして、不倫だと城本を揶揄したが、こちらこそたいへんな浮気だ。 2人の間に、まあ、美しい愛があろうがなかろうが、いちおう付き合ってはいるわけだし、ましてやちょっと世間に知られていて、しかも仕事上の利害が絡んでいるともなれば、当然褒められたことではない。 そのうえ相手が妻子持ち? 流されやすい性格は今に始まったことじゃない、だがやはり軽率だったかなぁ、とぼんやりと反省する。 もう二度としないと城本は誓ったが、自身は若干及び腰だ。 とにかく約束は苦手なのだ。 鏡に映る。 昨日、光世の手によって刻まれた首筋の内出血がせっかく消えてきていたところに、たった今の、城本の手のひらの跡がついてしまった。 済んだことだ。 光世が忠告した、しようのないことをするなと、それを簡単に反故にする。 理由はない。 束縛されるのが嫌かと問われればそうでもない、そういうプレイはむしろ好みだ。 なぜか必要以上に奔放に振る舞ってしまうのをやめられない。 自覚している、ようやく自覚したのだ、自覚したのに、光世を、好き、と、愛してる、と、それが一方通行かもしれなくても、ああ、これが恋しいとか、愛しいとか、そういうぬくもりなのだな、と、知ったのに。 みずからそれを壊そうとしてしまう。 セルフサボタージュに囚われる。 怖い! 愛でも恋でもないとあのとき言ったのに! 嘘をつくつもりはなかったのに! 幸せになりたいなんて望んでいなかったのに! 使い古されて擦り減ってゆっくりと死んでいくだけだと疑ってもいなかったのに! 『能力の評価自体は大したことはない。ただ周波数が異常値も異常値だ。妖怪か怪異の類と相違ない。』 『利用しない手はない。決して他本丸と連携させるな。勘付かれたら終わりだぞ。演練の参加も禁ずる。総会も出席の必要はない。』 『中国にいたな、そんな帝妃が。』 『あれに自認はない。だからこそだ。』 『生きている限り、無限、か。とんでもないな。』 『もはや兵器だ。万が一にも敵に奪われるような失態があってはならない。そのためには、存在すら隠すべき。』 『囲うべき。』 『外界との接触を断つべき。』 『呼吸してさえいればいいのなら、眠ったままでもいい。』 『植物化させるのもひとつか。』 『肉体が弱ってはならない、あくまでも日常生活は一般的なものを。』 『…生理活性物質の生成…害花だな…』 『毒虫。』 『そう言うな、希望の光だ。』 『…嘘を言えよ、生贄の再利用だ…』 やたらにスマホがピロンピロン鳴るので目が覚めてしまった。 まだ眠りに落ちてから1時間も経っていない。 広報用に作ったがほとんど運用していないSNSのアカウントに、考えられないほどのリアクションが来ている。 また何がバズった? いや、なにも投稿していない。 のそり、と上半身を起こして顔をこすった。 眼鏡をかける。 「えーと…?」 ヘッダーの下にピン留めしている自己紹介の投稿が、ノースガレージ公式とドリチャレ公式に引用拡散されているせいのようだ。 なぜこんな何年も前の…? 寝起きで頭が働かない。 大量のハートマークがプッシュ通知で液晶の上から降ってくる。 「…なんなん…?」 どこを見れば原因が判明するのかも分からない。 呆然と下へ下へと流れていく画像を眺めていると、電話がかかってきた。 征羽矢だ。 「起きてる?」 「今起きました。」 あくびを噛み殺した。 「あっ、ごめん。なぁ、バズってんね?」 「ぽいですね…本人は感知していませんが…」 「大元はノースだぜ?見てみろよ。」 通話状態のまま操作し、問題の投稿を見つけた。 『Team North Garage紅一点、空知由希選手の素顔。来月開催のドリチャレ西@全畑、公式HPにてグッズ先行販売開始したよ!』 トナカイの絵文字。 引用には、件の女のプロフィール投稿。 画像は、例の、5枚目のブロマイド。 SAMPLEの透かしが全面に入っているが、あの写真そのものだ。 「…ええ…また、これ、めんどっくっさ…」 「素が出てるぜ?」 「…あー…」 わしわしと髪を混ぜっ返した。 「こっちもいろいろあってさ、もうすぐ帰るわ…って、俺、下に帰るから、心配しねーで?ひる起きたら話そ?」 「…うぃー…」 サイレントモードにして、眼鏡を外し、またタオルケットに潜り込んだ。 ワインをほぼフルボトル飲んだのだ。 気を張っているうちは案外と平気だが、一度ふにゃふにゃになってしまうと、そう簡単には立て直せない。 不穏な夢を見ていたような気がする。 あいつら、陰口は当人に絶対にバレないように言えよな、胸くそ悪ぃ… 聞こえてんだよ、その程度の結界で密室だと思うなよ… 凶兆を汲むのも審神者の能力だと忘れたわけではあるまいに… まあ、甘い言葉の裏を知ったからといって、他に行く場所もなし… 世の役に立てるなら、潰れるまで擦られるのも、本望、か… ------------------------- 〜15に続く〜
2025/09/30 21:15:21(ipK1dM28)
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