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〜まえがき〜
⚠書いた人はオタクです⚠某刀ゲームの二次創作夢小説です⚠暴力などこじらせ性癖の描写多々⚠自分オナニ用自己満作品です⚠ゲームやキャラご存知のかたは解釈違いご容赦ください⚠誤字脱字ご容赦ください⚠たぶんめちゃくちゃ長くなります⚠未完ですが応援もらえたらがんばります優しいレス歓迎⚠エロじゃないストーリー部分もがっつりあります⚠似た癖かかえてるかた絡みにきてください⚠ —---------------------- 光世と征羽矢は集まった従業員たちに深々と頭を下げた。 「ほんっとにすみませんでした!」 「…すみませんでした…」 誰も怒っているわけではなかったのだが、事情は全く分かっていないので、いや、いやいや、と困惑することしかできない。 重苦しいムードをぶち壊すのが得意なのは濱崎だ。 「つまり、あのオッサン、てんちゃんさんのストーカー?元カレ?的なことっすよね?」 光世が、がばりと身体を起こす。 「…断じて元カレでは、ない…!」 「それは、まーどっちでもいーんすよ。だったら、よかったんじゃないっすか?」 城本がそれに加勢する。 「スマホ破壊だって、分かりますよ、いわゆる、アレっすよね?」 言葉を濁すが、それがなにを意味しているか、全員が理解できる。 「個人的粛清が正解かどうかは、置いておきましょ?今後のトラブルも考えて、ソハヤくん、顧問弁護士さんの耳には入れといたほーがいーかもね。」 「…はい。」 しおらしくうなだれると、いつもつんつんと跳ねる金髪もどことなくハリを失くしてしまったようだ。 「ミツヨさんが経営する会社なんだから、アフターケアさえしてくれれば、どうしたって構わないっすよ。」 甘やかしているようで、しっかりとプレッシャーはかけてくる。 「あとは、言い方悪いけど、印象操作だね…こちらはあくまでも正当防衛…は無理としても…守るべきものがあって致し方なく、感が必要かな?」 「主にSNS対策っすかね…」 征羽矢が唇を結んだ。 「そゆこと。ワイドショーのニュースになるわけじゃない、その都度解決していけばいいとは思うけど、先手が打てるところは打っておこう。まずは、今夜のお客様宛の謝罪と、関係機関には報告済み、の言葉…」 なるほど、と征羽矢は感心する。 警察や弁護士等に相談している旨を広めるだけで、何割かの良識のあるユーザーには、じゃあ俺たちがひっかきまわすことじゃないな、と思わせることができるかもしれない。 「あと、めっちゃだいじなことがあるっす!」 濱崎が光世を真っ直ぐに見つめた。 「てんちゃんさんを1人でいさせたらダメっす、たぶん、待ち伏せとか、探偵とか、よく知らねーけど…」 光世が静かに頷いた。 濱崎は、優しくて、いいやつだ、と純粋に思う。 「任意でいい、各自で見回ってもし気になることがあれば報告しよう。」 城本が最年長らしい落ち着いたリーダーシップをとってくれる。 「…不安があれば、退職、休職、申し出てもらって構わない…できる限りの善後処置をさせてもらう…」 光世が再度頭を垂れた。 「俺、ミツヨさんて、なに考えてるか分かんねーし、怖ぇって思ってたし、人間かどーかちょっと疑ってたっす!」 濱崎の台詞に、光世は顔を上げる。 「恋してるから?なんか泥臭くて人間臭くて、むっちゃくちゃ、かっこいーっすよ!」 恋…? 光世は心の中で首を傾げた。 自分ではただの執着だと思っているが、ちゃんと周りからは恋、と認識されているのかと知ると、くすぐったいような感情が湧いた。 「…よっしゃ!」 征羽矢がバシンと経営者の背中を叩いた。 「グジグジしててもしゃーねー!明日からよりいっそー、サイコーのパフォーマンスとサービスじゃんじゃん出してこーぜ!」 『乱闘寸前!?話題のクラブthunder box人気DJ熱愛報道続報の続報!?恋人の元交際相手登場で騒然!』 「ま、そーなるわな。」 征羽矢がスマホをローテーブルに置いて、体育座りで顔を膝に押しつけた。 「いちお、『元』ってことは、こっちが『今カレ』だかんね?」 SNSのまとめサイトの管理人の仕事の早いこと。 『thunder box代表は即刻騒動に関する謝罪文書を表明、公的、法的機関への協力要請も視野に』 『代表mitsuyo氏、副社長であり弟のsohaya氏、激昂の瞬間!元交際相手のスマホを叩き割る等の暴挙も』 また、なんともいいタイミングで撮られたものだ。 幸い、元来薄暗い店内であり、さらに真上の間接照明が割れて消えていたため、画像の精度は最低レベルではある。 征羽矢が、カウンターテーブルに置いたスマホに、アイスピックを突き立てようと腕を振り上げている様が写真に収められている。 記事には既に山程のコメントが寄せられている。 ざっと流し読んだところ、肯定的と否定的、半々くらいの反応だ。 『現地だったけど、相手の男に問題あり』 『器物破損はどう転んでも犯罪』 『恋人を守ろうとするのは当然、元カレはすっこんでろ』 『オジサンがイケメン2人に詰められててかわいそー』 『当事者の空知由希が不在なの意味分からん』 『まさか二股』 『ジューゼロでmitsuyoだろ』 およそ好きなことを言われている。 「今夜はずいぶん賑やかだったんですね。」 女は、いつものまるで他人事のトーンで兄弟をからかった。 実は途中で飲みに行こうと支度を終えて玄関へ出たところで、男のスマホを取りに来た征羽矢と鉢合わせ、部屋に押し戻されたのだ。 「店内で大暴れ、とか、火ぃ着ける、とかじゃなかったから、まだマシ…なのかも…?」 「警戒しとくに越したことは無いですけど、そんな度胸ないですって。」 座卓には空き缶が乱立している。 ペースは普段よりもかなり早い。 「ほんとに困ったら、すぐ出ていきますから、言ってくださいね。」 さらり、と冷酷に告げる。 本心では、居心地の良い場所を失いたくないと思っているのに、それを微塵も感じさせない情のない声色で。 それを聞いて、光世が怒ったように強く腕を掴んだ。 「…なぜ、あんたが追われなければならない?…隠れなければならないんだ…?」 「追われも隠れもしないですよ、住処を戻すだけです。」 掴まれていない方の手で高カカオポリフェノールのチョコレートを摘んで、齧る。 「…また同じことを繰り返すのか…?」 光世の口に、うるさいな、と言いたげに、残りの半分を押し込んだ。 「だから、別にいっしょに住んではないですから、なんなら鍵だって変えればいいで…」 唐突に、唇を塞がれる。 ぬるり、と溶けたチョコレートの質感が、妙にエロティックで、背筋がぞわりと疼いた。 「…95、さすがに、毒の味が、する…」 光世が酷く顔をしかめている。 征羽矢は、ふはっ、と吹き出して、少し表情を和らげた。 「毒食ったことあんのかよ?」 じゃれ合いの会話には返事をしない。 「…頼むから、俺から離れないでくれ…」 ぴゅー、と口笛を鳴らした征羽矢が肘で女の脇腹を小突いた。 「もー付き合っちゃえって、ひっこみつかねーよ。」 「誰のせいですか、誰の。」 チョコレートのひとかけらを征羽矢へも差し出すと、指ごとぱくりと食いついた。 「うえ、確かに、毒の味。うまくはねーな。」 そのまま顔を近付けてきて、ペロリ、と頬を舐めた。 茶色く粘つく唾液がぬぐい付けられる。 至近距離で、じっと覗き込まれると、色素の薄い目が、紅が混じり赤銅色にゆらゆらと燃えているのが見えた。 「メッシーっていう部類のフェチがあるんですよ。」 女がそれを拭きもせずに、急に話題を変える。 「めっし?」 「対象を汚すことで性的興奮を覚えるフェチズムで、絵の具とか泥とか、あとマヨネーズとか生クリームとか、食べ物系も。」 いらぬ雑学が増える。 「へぇー。掃除たいへんそーだな。」 征羽矢もちょっとズレた斜め上の感想を述べた。 「アーティストタイプの人に多い傾向があるそうです。」 「じゃー、俺より兄弟だな、でもまあ、兄弟はそんなひねくれた欲求なさそーかな。」 光世が、なぜかにやりと口角を上げた。 「…どうだろうな…」 そう呟いて、自身の親指の付け根に犬歯でガリッと噛み付いた。 歯型と、血液。 征羽矢がつけたチョコレート混じりの唾液の跡の上を、血の滲む手の甲で撫でる。 女の頬、鼻の下あたりから耳の付け根まで、一直線が光世の血で描かれる。 「…スポンサーまわりはまだ何も…?」 「フツーの社会人は寝てるっしょ。5時過ぎたから、そろそろ音沙汰あるかもだけど。」 ピリリリリリリ、噂をすれば、である、征羽矢のスマホが鳴る。 「…うちのスポンサーより反応早い森下サン何者なんよ…!」 征羽矢が通話ボタンを押した。 『あなたたち、まーたはっちゃけちゃって、これで例のハナシがポシャったらどー責任とってくれるのよっ?』 こちらの意見など聞く気もない怒涛の勢いで言いたいことを言いはするが、腹を立てている感はない。 面白がっている、あるいは、また話題になったことを一種のチャンスだと思っている風でさえある。 『ユキちゃんいるかしら?電話に出ろって言っといてくれる?まぁいいわ、ちょっと代わってよ。』 渋々、といった緩慢な動きで征羽矢のスマホを受け取った女は、すみません、気が付かなくて、と見え透いた嘘をついた。 『確認なんだけど、その元交際相手とは今はキレてるのよね?』 「あー…付き合っては、ないですね、てゆーか、過去に交際してた事実もないといいますか…」 ごにょごにょと歯切れ悪く、事実ではあるのだろうが相手との認識に齟齬のありそうな説明をする。 しかし森下は満足したようだ。 『そ。それだけ聞ければいいわ。今日予定は?』 「今から寝ます。昼からはフリーです。」 今から寝る、も、朝の5時過ぎに聞くとなかなかパワーワードではある。 『じゃ、4時に海老江インター店に来なさい。ちゃんとした格好で。騒ぎが大きくなる前にオースクルターレリアの社長さんとこ挨拶行くわよ。』 「ええ?今日ですか?」 あからさまに嫌そうに顔をしかめる。 『分かったわね?ミツヨくんにあんまり心配かけるんじゃないわよ?社長にはテキトーに言っとくわ!』 「…ご迷惑を、おかけします…?」 慣れない謝罪の言葉が宙ぶらりんに語尾を上げる。 『自覚あるなら少し落ち着きなさいよ?まったく…』 忙しなく通話は切れたが、冷静に考えると、早朝から恋人の弟といっしょにいる想定で電話をかけられるというのも不可思議である。 「ソハヤさん、まさかモリシタさんに、半同棲してる、とか言ってないですよね?」 征羽矢は大げさにぶんぶんと首と腕を振った。 「ゆわねーよ、あれだな、飲みに来たらだいたいラストまでぐたぐたやってるとは言ったかも。」 乾いて固まってひび割れた兄の血の跡を、女の顔に手を添えてその親指ですうっとなぞる。 兄弟2人で住んでいる部屋に女を置いているなんて知られたら、また不健全だのなんだの騒がれて、そうしたら女は躊躇なく出て行ってしまう気がする。 ビジネスカップルを演じるのであれば光世とはデートしたり、まぁ、セックスする機会もあるかもしれないけれど、そうなると征羽矢は仲間はずれだ。 いずれはそうなるんだろうな、と覚悟はしている。 でも、この空間と関係を、まだ壊したくないと思ってしまっている。 たぶん、兄より、自分のほうが、女を、本当の意味では愛しているのに、執着の質量で敵わない。 最初のコンタクトが光世だった、光世が公衆の面前で問答無用のキスをした、それを撮られて拡散されて、言い訳はできないくらいに、女は光世の恋人になった。 自分だって、あのときもっと鮮明に本丸の記憶を持っていれば、初手でその腕を掴んでいた、たぶん。 なんでだろう。 いつも兄ばかりがおいしいところを持っていく、などとは思っていない、けっして。 でも、あのとき、先に女に声をかけたのが、もし、自分だったら、とは考えてしまう。 眠い。 キスをする。 血の匂いがする。 チョコレートの匂いも。 もし自分なら、公開キスの写真を撮られたり、おそらくしない。 そうしたらこんな風にバズったりしないし、女の素性を知ることもなかったかもしれない。 そうしたら女は殴られる必要はなかったし、サーキットに走りに行くことはないだろうし、審神者証を目にすることもなかっただろう。 早く眠って、起きたらやらねばならないことがたくさんある。 眠らなければ。 頭では分かっているのに、両の手が自然と女の頬を包む。 角度を何度も変え深くへと舌を差し入れる。 感化されたのか、光世が背後から首筋に食いつきながら、デニムのウエストから手を突っ込んで、敏感な箇所を弄る。 征羽矢が唇を解放して、耳元で囁いた。 「続き、見ながらしよっか?」 「あれ?…んっ…消したって言ったじゃないですか…?」 光世の長い指にもてあそばれ軽く喘ぎ声が混じってしまう。 「消すわけ…ないじゃん?…しんどいけど…あんな…」 プロジェクターは片付けてしまったので、ノートPCの画面を立ち上げる。 「スマホのは…?」 「ん?消したよ?」 征羽矢が身体を離したので、いつのまにか光世が四つんばいの女の背中にのしかかるような体勢になっていた。 「…データ消して…ん、ふ…本体、破壊したところで…クラウド、同期、してたら…ぁっ、ゃ…サル、ベージ、されるじゃないですか…は、ぁ…ちょ、やめて、いま、しゃべってる…」 光世は女の言うことなど聞いてはいない。 デニムと下着を膝まで下ろしてしまう。 「アカウントごと消し去ってやったぜ?」 「…容赦、ないですね…」 征羽矢と会話を続けているにも関わらず、光世はお構いなしに女の中へと押し入った。 「このへんまで見たっけ?」 二十年近く前の撮影機器の能力値など底が知れている。 画素数も低いし手ブレ補正機能もないし、そもそも記録可能時間が格段に短い。 画像がやたらと細切れなのはそういった理由があるのかもしれないが、末尾番号だけが違う同名ファイルがずらりと並んでいるフォルダを見て、征羽矢は改めてぞっとした。 これ、ぜんぶ… 「…その、それの隣からだ、兄弟…」 ゆっくりと腰を突き上げながら、光世が口を挟んだ。 「…媚薬を飲まされて、自らさかったんだろ…?」 『効いてきたらしい。めちゃめちゃ震ってる。顔まっかー。』 『…あっ、やっ、む、むずむずする…やだ、へん、これっ…』 女が泣いている。 『やだっ、あ、だめ、これっ、むりっ…』 ガシャガシャとおもちゃの手錠が金属音を立てる。 征羽矢がハーフパンツをずり下ろして、女の前に膝立ちになって、そのものを咥えさせた。 顔は横に向けて、画面を食い入るように見ている。 『少し触ってやろう。』 男の手が画角の外から伸びてきて、はしたなく広げられた股の間に触れる。 『…ふぁぁっ!?』 プシュ、と体液が、吹き出してカメラのレンズに飛沫がかかった。 『ははっ!?ちょっと触っただけだぜ?』 濡れたレンズを何かの布で拭いた。 『…だめぇ、もぅ、あ、あ…もっ、と…』 女の顔がアップになる。 精液とよだれと汗にまみれた痛々しい姿。 『もっと、なんだよ?言えよ?』 へその周りをぐるりと撫でる。 『…ぁぁぁ!やっ、やだ…』 薬のせいか興奮も相まってか、全身が性感帯になってしまっているような反応。 『…言えよ?』 男が低い声でもう一度言う。 『ぁ…も、もっと、なか…中、してっ…』 ぐしゃぐしゃに歪んだ泣き顔。 『ん?手でいいのか?』 『…!!…ひぁ…やぁっ、んんっ、しょ、だめ…』 画面には映っていないが、男が指を突っ込んだのだろう、女が、まぶたをぎゅっと閉じた。 『やだ!やだ!やだ!いやぁっ!だめっ!もっ、と…!』 『…だーれーのー?なーにーがー?欲しいの?ちゃんと言わないと、一生ここ擦るよ?』 女が、ぎりぎりと歯ぎしりのあと、声をなんとか絞り出す。 『…ぁ…ぁ…み、みのる、せんぱ、い…』 「せんぱい、だって。いいね。」 征羽矢がうっとりと言った。 ずる、といったんその剛直を引き抜き、女の顎を掬う。 「そはやせんぱいってゆって?」 「そ、そはやせんぱい…?」 女が、どろりとした目で征羽矢を見上げる。 「うーん…なんかちがうな…」 視線をPCへと戻した。 『そうね、おーれーの?なーにーがー?欲しい?』 「…じゃあ、あいつ、あの男の、この、この男の名前を呼べよ…?」 光世が後背位で犯すように身体を揺らしながら、いたずらっぽく命じる。 「…や、な、なんでっ…そん、なっ…」 征羽矢が、ごくり、と喉を鳴らしてつばを飲み込んだ。 そんなことあるか? なんで他の男の名前呼ばせんの? 頭だいじょーぶか? そう思いつつ、欲で破裂寸前の男根はますます反り返る。 画面の中の過去の女がまだ歯を食いしばっている。 「…呼べよ…?」 光世がひとつトーンを下げ、すごむようにさきの命令を繰り返した。 「…ぁ…み、みの、る…せんぱ…」 征羽矢はじっくりと自慰をしながら、呆けて、別の男の名前を呼び兄に貫かれてよがる女とPC画面を順番に見下ろしている。 『…みのるせんぱい…おちんちん…欲しい、です…』 くったりと脱力した面持ちで、諦めたように、しかし頬をひどく高揚させて、吐き出すように卑猥な単語を口にする。 『いい子だ、そうやって俺をいい気分にさせたら、早めに帰してやるよ、がんばれがんばれ。』 がくがくと映像が揺れる。 女が叫ぶ。 『…ほらっ!気持ちいいんだろっ!?なんとか言えよっ!?』 「…気持ちいいんだろう…?あんたも、なんとか言ったらどうだ…?」 光世が、後ろから女の首に手をかけた。 じわじわと力を込めていく。 『…ぁっ!…きも、ち、ですっ、せんぱっ、みの、る、せんぱいっ、きもちいっ、あっ!…いっ!…ん、んんっ!』 女の喉が締まり、掠れた息がひゅー、と漏れ出た。 「…ぎもぢぃ…よぉ…みの…せん、ぱい…」 わざとなのか、酸素を遮られて朦朧としているのか、咄嗟なのか、判断はつかないが、女が、またあの男を呼んだ。 征羽矢は、たまらず女の顔を掴んで自身のものをその口内へと押し込んだ。 光世の血の線に触れると、それはカサカサと剥がれ落ちていく。 『…やだでもっ…これっ!これ…こんな、こんなの…なん、なんでっ…なん、でっ!?』 むりやりもたらされる快感と羞恥心で錯乱する女が引きつった嬌声を上げる。 男がその顔を平手打つ。 『なんでじゃねーよ、お前、もう俺の奴隷だよ?』 『…ぁ…』 絶望に濁った瞳がカメラを見上げている。 『朝が来たら帰してやるよ?だが今後、俺に逆らえると思うか?』 そこで暗転、するのと同時に征羽矢がうめいて精を放った。 「げ、げほっ…」 光世が首を締めているせいで、いつものように飲み込めず、ボダボダとこぼしてしまう。 汚したい…? フローリングに滴った、唇の端から溢れた粘ついた体液の混じり合ったものを見つめる。 「…泥酔してオモチカエリされちゃったってゆったじゃん、ぜんぜんちがうじゃん…」 征羽矢が、沈痛な表情で吐き捨てた。 光世もひとつ身震いして、手に一層の力を加えた。 「…ぐ、ぁ…」 女が、どさりと床へ上半身を崩し、溜まった征羽矢の精液と自身の唾液に顔面をこすりつけるような姿勢になる。 汚したい…! 征羽矢の胃のあたりに、かつて感じたことのない歪んだ欲がとぐろを巻いた。 女は両の手で光世の手のひらを振りほどこうと爪を立てているが、かなわない。 ぐるりと目を裏返す。 「…ふっ…」 光世が、笑うように短く息をついて、吐精した。 こわばった手をほどくが、女はぐったりとして身じろぎひとつしない。 肩甲骨の間に耳を寄せると、心臓の音がする。 まさかこの程度で死にはしないと思ってはいるが、正直少し焦った。 「…つぎっ!次は俺がそっちだかんな!?」 征羽矢が光世を睨んだ。 「…すまんな、だが約束はできん…」 果てたものをずるりと抜き去り、デニムだけを脱がせて抱き抱え、ベッドへと運ぶ。 「…さて、昨夜はかなわなかったが、やはりあの男は殺すだろ…?」 自分はそこへ腰掛けて、服の裾で女の顔の汚れを拭ってから、かさぶたになっていた親指の付け根をまた噛みちぎる。 じわ、と流れ出る血液を、気を失った女の唇へこすりつけた。 「…殺すのは…よくねー、誰のためにもなんねーよ、俺たち今、人間だし…」 首筋、喉元、鎖骨、と、血を、這わせていく。 「…では、いずれ人間をやめる時が来たら…殺そう…」 自分でつけた血汚れを、人さし指の腹でのばす。 アフリカとかどこかの国の奥地で暮らす民族の化粧のようだな、と征羽矢はぼんやりと思った。 いずれ、人間を、やめる、ときが、くる、と、知っているかのような言い方が、鼓膜に貼り付いて離れない。 スーツを取りに家に戻ると言う女を説得できない。 「フツーさ、怖いから帰りたくない的なこと言わない?」 「さして怖くないですから。」 征羽矢はこなすべき業務が山ほどあるので同行を断念したが、光世が助手席に乗り込み、カリーナが走り去っていくのを見送った。 「ミツヨさんは手伝わなくていいんですか?」 歩行者用信号機が、パッポー、と間抜けに鳴るのを聞いている。 「…俺には、ああいったことは、向いてない…」 女は、そうだろうなぁ、と思うが、相づちは打たなかった。 「…服くらい、買ってやるのに、なぜ…」 不可解だ、あるいは、不愉快だ、という様子で口を尖らせる。 「Tシャツ1枚買うのとは訳が違うんですよ、めちゃくちゃ儲かってるとかじゃないでしょう?」 信号が青に変わり、アクセルを踏んでいく。 「…あんたこそ…この前、2位?だったときで、賞金、どのくらいなんだ…?」 純粋な疑問だ、なにか探ってやろうとしての問いかけではない。 全く見も知らぬ界隈の様々な相場を話題に、少し会話してみたいだけであった。 「こないだのはミニイベントだったので、優勝しても20万ですよ、準優勝で10万。メンテとタイヤガソリンオイルもろもろで赤字です。」 女が頬を膨らませた。 「ノースガレージがだいぶ安く面倒見てくれるのと、練習用タイヤなんかは、死にかけをタダで回してくれたり…」 海沿いの国道へ出ると、ふわりと潮の匂いがした。 「あとは、収入は、車雑誌のインタビュー記事とか。そう思えば女でよかったってなりますね、ウケますからね、女ってだけで。」 やや自虐的に笑う。 「…スポンサーは他にも、いるんだろ…?」 光世は、ハチロクの車体にベタベタと貼られた無数のステッカーを思い出している。 光世でさえテレビのCMで見たことのある、聞いたことのあるメーカーの名前もいくつかあった。 「全面バックアップ、じゃなくて、パーツ提供、とか、そういうスポット的な支援は、けっこう、いろいろ。」 「…あんた、どうやって生活してるんだ、いったい…?」 窓の外、テトラポットに弾ける波を眺めている。 「冬場はノースの店舗でバイトしたりしますよ。オイル交換とかタイヤ交換とかしますよ。レジ打ちもするし、洗車も。」 レースなんて華やかな世界だと感じていたが、なかなか厳しいもののようだ。 狭い脇道に入った。 左右の垣根が車体ギリギリに迫るが、それに触れることなく進行する。 女にとって、車幅や内輪差外輪差は自身の体の感覚と同じくらい分かっている。 「ここ家賃、信じられないほど安いですしね、駐車場実質無料ですし。」 白いスポーツカーがない。 ナンバープレートが付いていなかったはずだが。 「大丈夫、今いませんよ、車ないです。」 エンジンを切ると、特に周囲を警戒することもなく、ひょいと運転席から滑り出る。 危機感がなさ過ぎる、光世が額に手を当ててため息をついた。 そして、ふと思う。 先日訪れた際には、あの男が在宅だと分かった上で、兄弟に車から降りるなと命じたのだ。 腹立たしいにも程がある。 鍵を開けて中へ入ると、部屋は大変な惨状であった。 コーヒーとビールの空き缶が散乱し、灰皿は吸い殻で山盛り、衣服が床に積み重ねられていて、食べかけの惣菜のパックは出しっぱなしで虫が飛んでいる。 「…いっしょに住んでるんじゃないんだろ…?」 光世が、じろりと女を睨んだ。 「勝手に来るんですよ、ご不満なら鍵を変えますって。」 「…当たり前だ…」 今どき土間の台所である、そこからゴミ袋の数種類を手に戻ってくると、散らかったものをどんどんとそこへ放り込んでいく。 あらかた畳の上が片付いたところで、ざっと掃除機をかけ、それが終わってようやく押し入れの中のハンガーラックからスーツを、それから玄関の靴箱からパンプスを取り出した。 「…用が済んだら行くぞ…」 光世がすぐさま女の腕を引いた。 タバコの匂いで吐き気をもよおしている。 「…さっき、近くにホームセンターがあっただろ…?そこへ寄れ…」 「ちょ、待って下さい、車変えましょう、ビートにしましょう、晴れてるし。」 女がふすまを開けると、隣の部屋は旧畳の6畳間で、簡素な簀子のベッドとオフィスにありがちな事務机、そこまではいい、それになにかの車のパーツやタイヤが所狭しと転がる異様な光景が広がっていた。 机の引き出しから鍵を取り、人さし指に引っ掛けてくるりと回す。 表通りに面したホームセンターで、すぐに玄関の鍵の交換を依頼した。 たまたまスケジュールが空いていたようで、今からでも行けますけど、との作業員の言葉に、光世が満足気に頷く。 真っ赤な軽自動車は、垢抜けない幌を畳んでオープンカーになった。 相変わらず乗り心地は下の下である。 サスペンションは機能を果たしていないし、マフラーから掻き鳴らされる爆音のエンジン音はハチロクのものと大差ない。 車内空間に至ってはさらに狭いわけで、オープンにしたから身長こそつかえたりはしないが、体格のいい光世にとっては窮屈極まりない。 普段知り合いに乗せてもらう普通の乗用車のありがたみをひしひしと感じている。 作業に立ち会うためにまた女の自宅へと戻ってはきたが、なにをして待つということもない、玄関先のコンクリートブロックに腰掛けて、ぼんやりと空を見上げていた。 女はせっせとカリーナを洗車している。 ホースから弧を描いて飛び出す水が虹をかける。 「防犯目的ですか?これ…鍵変えたとて、という気もしないでもないですけど。」 作業員が仕事を進めながら光世に話しかけた。 「…まあ、気休めだよ、なにかいい案があれば聞きたいが…」 「うーん、センサーライト、防犯カメラ、くらいは、予算にもよりますけど、安いのもあるし、すぐできますよね。あとは、ガラスフィルム、補助錠くらいは、あってもいいかも、このタイプの家屋なら…」 光世は目を細めて、長く息を吐いた。 「…ありがとう、参考にするよ…」 めいっぱい伸ばしたホースとくるくるとダンスを踊るように、女は柔らかく笑っている。 淡いパープルのジョガーパンツがしぶきで濡れてところどころ濃く水玉模様になっている。 あの笑顔を、どうにも人間相手にはなかなか見せないのだ。 無生物にジェラる、と征羽矢は言ったけれど、その意味がよく理解できる。 鍵の交換は手際よく速やかに行われ、新しい鍵を確認して書面にサインを済ませる。 「防犯グッズいろいろ取り扱ってるんで、なんかあったらまたぜひ!」 作業員は帽子を取ってさわやかにお辞儀をして帰って行った。 「さ、出してもらっちゃいましたからね、お茶おごりますよ。」 女がビートに乗り込む。 光世も助手席に深く身体を沈めてシートベルトを締めた。 「…必要ない…今夜…終わり、何時だ…?」 「えー?分かんないですよ、5時に約束、ご挨拶くらいってことなので、6時か遅くても7時頃ですかね?」 キーを捻ると、けたたましいエンジン音が炸裂する。 自然と会話のボリュームは大きくならざるを得ない。 「…迎えに、行く…」 しかしそれでも光世の声は掻き消されてしまう。 「なんて!?」 「…だから!迎えに、行く…!」 この気持ちと声が届かないのがもどかしく、珍しい大声が出た。 女は驚いて、思わず横に座る光世の方を向いて目を丸くした。 「…は?」 光世は、ほんのりと顔を上気させて、唇をきゅっと結んでいる。 「…過保護…!」 つい、と目をそらし、女はがなった。 負けじと光世も怒鳴り返す。 「悪かったな…!」 しばしの沈黙の後、女は、ふん、と鼻を鳴らした。 「ってってもどーやって、です?車、ないくせに!」 森下と待ち合わせの、海老江インターの傍の店舗は、兄弟の店からは車だとさほど遠くはない、ほんの15分ほどの距離にある。 だが近くに公共交通機関の駅や停留所はないはずだ。 一瞬言葉に詰まった光世が、苦肉の策を口にした。 「…行きも、送る!この車、貸せよ…!」 売り言葉に買い言葉ではあったかもしれない。 言った後に、しまった、と後悔が脳裏をよぎった気もした。 女は楽しそうに、意地悪く下唇を噛んだ。 「…ふーん、それ、いいですね。」 テンションが上がってきたのか、1ミリ、アクセルを踏む。 スピードが上がる。 「でかい男の人が小さいオープン運転してるのって、絵になるんですよね。」 「おけーりー。」 征羽矢は鼻歌を歌いながらベランダの洗濯物を取り込んでいた。 女は持ち帰ったスーツに着替えるべく脱衣所へと入っていく。 「…少し、出てくる…送って、って、オープンまでには、戻る…」 「送っ…!?」 征羽矢は目を見開いて言葉を飲み込んだが、納得したようにひとつ頷いた。 「そーな、それ正解だな。」 いつもならまだぴょこんと跳ねたままのはずの弟の金髪が、すでにヘアワックスでぴっちりと整えられているのを見て、関係先に説明と謝罪に行ってくれたのだと分かる。 「…今日は、面倒事を、任せて…悪かったよ…」 ぽん、と征羽矢の肩を叩いた。 「いつものことじゃん?」 にかっ、と歯を見せて笑う。 自分が同じ業務をしなければならないとしたら、ストレスとプレッシャーでどうにかなってしまうところであるのに、たいしたメンタルである。 感心すると同時に、とてつもなく尊敬と感謝をしている。 「…伊藤氏とは、電話で?…なにか話したか…?」 光世も、着ている白いTシャツの上にカッターシャツを羽織り、薄手のチャコールグレーのジャケットに袖を通した。 誰に会う予定がある訳でもないが、万が一、関係者とエンカウントしても差し障りない程度の格好はしておいた方がいいだろう、と考えてのことだ。 「おう、兄弟はやっかいな女にハマるタイプだって最初から思ってたってゆってたぜ?」 思っていたのと違う系統の返答が返ってきて、光世はため息をついてもう一度質問した。 「…それ以外は…?」 「ちょーっと、やりすぎかなとは思う、けど事情が分かんねーから、今はとやかくはゆわねーってさ。」 畳んだ衣服のうちの、光世の分を手渡しながら、征羽矢が目だけで斜め上を見上げる。 これは、少し、嘘だ。 おそらくはほどほどには説教を食らったに違いない。 だが光世は気づかないふりで、当たり障りのない相づちを打った。 「…ありがたいな、伊藤氏で良かったな…」 「あとは、面白そーだから今夜会うの楽しみだってさ。」 ネクタイを手に取りかけて、やめた。 女がブラックストライプのスーツで戻って来た。 メイクポーチを持ってはいるが、薄くファンデーションをはたいたくらいの仕上がりだ。 「…まだ時間あるだろ…?座れよ、そこ…」 ポーチを奪い、女をベッドに座らせて跪いた。 「…目、つぶっとけ…」 妙に手際よく、化粧を施していく。 ビューラーでまつ毛を上げ、アイシャドウ、アイライン、マスカラ。 リップはマットななグロスだけ。 そもそも手持ちのメイク道具が少なすぎる。 「…前髪、上げるなら眉、触るが…?」 「やだです、まゆげコンプレックスなんですよ。」 女が口をへの字に曲げた。 「…じゃあ今日はこれでいいだろ…」 「今どき男子もお化粧するって都市伝説じゃないんですね。」 見せられた鏡に、顔を斜めに映す。 「…このくらい、誰でも…」 「いやいや、兄弟が特殊だろ。」 征羽矢がからかうように口を挟んだ。 「…ほら、支度が済んだら行くぞ…」 「行きも運転!してくださいよ?送るって言ったんですから!」 女が色気のない黒のブリーフケースを掴んで光世の背中に手をやった。 後ろからそれを見ている征羽矢が思う、なんやかんやイイカンジなんじゃね? 腕くらい組んで歩けばいーのにな、と。 「クラッチ、ぜったいいちばん奥まで踏んでくださいね?」 「…分かってるよ…」 ぎくしゃくとチェンジアップしていく。 「いつものとこ路駐でいいけど、縦列不安だったらコインパ入れてくださいね?」 「…そうしよう…」 店舗近くのコインパーキングを思い浮かべる。 あんな狭いスペースにうまく駐車できるかどうかも不安ではある。 「幌、閉めかた分かります?」 「…手動で引き上げて、ファスナー、か…?たぶん、大丈夫だ…」 開けたときのことを思い出す。 「ま、盗られるもの…ステアリングくらいしかないんで、できなかったら開けっぱでいいですけどね。」 「…すてあ…?ハンドル?を盗む奴がいるのか、世の中には…変わってるな…」 運転しているときの横顔はいつも嬉々としているが、助手席に座っているときもなかなかに上機嫌である。 「…今度、指輪を、買う…」 「あっ、そうですね、ちゃんと付き合ってる感出さなきゃですもんね。」 信号待ちで、どぎまぎしながらシフトを握りしめる光世の左手に自分の右手を重ねて、顔をのぞき込んだ。 「そんな力入れないでください。」 「…ああ、そうだな、つい…すまない…」 要件を伝え終わったのに、視線がそれない。 「…なんだよ…?」 訝しげに光世は眉間にしわを寄せた。 「いや、めちゃくちゃ顔がいいなと思って。」 「…アホなのか…?」 こちとら慣れない運転、それも初めての車の挙動に集中したいのだ、あまりジロジロ見られるのも気持ちが落ち着かない。 およそ派手なオープンカーに似つかわしくない速度の安全運転で、約束の店舗にどうにか辿り着いた。 カー用品ショップなので駐車場は広く、ぐるりとピットのあるガレージ側へと車をつけた。 「あらあら、ミツヨくんの送迎つきなの?あいかーらず良い男ね。」 森下が手を上げた。 「おはようございます、よろしくお願いします。」 女が車を降りて、光世に手を振った。 「帰り、電話しますから。」 光世は無言でコクリ、と頷いて、森下に軽く会釈をして走り去っていく。 「こないだから運転特訓中なんですよ。」 女が言い訳っぽく解説した。 「クラッチ繋ぐのへったくそですけど、笑わないでくださいね、今は褒めて伸ばす時期なんです。」 森下が、じっ、と女の顔を凝視する。 「ユキちゃん、お化粧ちゃんとできるのね。」 「あ、今日、ミツヨさんがやってくれたんです。」 「ええ!?なにそれ!?なによ、それ!?」 親指の爪を噛む。 「はぁ…あなたたち、案外お似合いなのかもしれないわねぇ。」 森下に促されて社用のセダンに乗り込んだ。 「オースの本社がわりかし近いのよ、銀河町なの。そちらに伺うわ。」 オートマのセダンにはテンションが上がらないから後部座席に座る。 「それにしても、あの騒動は酷いわよ、なんなの、あの男は。ユキちゃん、カレシなんてずっといなかったわよね?」 「その件は、ほんと、申し訳ないです。古くからの知り合いではあるんですけど、報道にあるような関係では全くなくて。」 当たり前の顔でギリギリの嘘をつく。 「でも、やり過ぎよ、ソハヤくんはしばらく覚悟がいるわね…どこまで聞いていいのかしら?」 「…別に…聞かれて困ることは…」 女は、柄にもなく少し冷や汗をかいている。 「あれだけ執拗にスマホ壊すってことは、カラダの関係はあったわね?」 全てをごまかすことができないのは、分かってはいた。 「…認めます…申し訳ないです…」 「オトナなんだから、それについてどーもこーも言うことはないわ、そんなハナシ、そこらへんにありふれてるわよ。」 森下がバックミラー越しに視線を合わせてくる。 「わたしたちは、ユキちゃんの味方よ、ミツヨくんとの明るい未来を応援してるわ。スーパーカンチガイヤローは頃合いで退場願いたいわね。」 夕方が深くなり、空が濃くなる。 そのミツヨくんとの未来でさえ、けっして健康的でなく、だらしない生活をハリボテで創り上げた幻想なんだとは、当分伝えられそうにない。 約束の場所へ着くと同時に、森下のスマホがけたたましく鳴った。 「はいはーい、森下。」 ハザードランプをたいて路肩に停まる。 「ええ、ええ、えっ!?あら…そうなの?…キャンセルできそう?…ええ、配送会社は?…そう、精算カードをとりあえず…分からないって?…もう!使えないわね!できないはずはないのよ?…ええ…」 どうも雲行きが怪しい、女は不穏な予感に震える。 「仕方ないわね、すぐに戻るわ、ドライバーさん引き止めときなさい?」 通話を終えて森下が振り返った。 「ごめんなさい、わたし店舗に戻らないといけなくて。」 女は肩をすくめた。 そんなことだろうと思いましたよ、とは言わない。 「挨拶だけするわ、行きましょ。」 路駐のまま、せわしなく複合ビルに入っていく。 女は慌ててその後を追った。 エレベーターで8階に上がる。 ずっしりとした白い金属製のドアをノックして開くと、明るいオフィスが広がっている。 「5時に約束のノースガレージ森下です。伊藤社長は…」 「ああ、こんにちは。」 森下の言葉を遮って、40代くらいのスマートな男性が立ち上がった。 「お世話になってます、久しぶりですね。こちらへ…」 奥へと案内しようとする素振りを、両手を大げさに振って止める。 「ごめんなさい、わたしちょっと店舗のトラブルで戻らなくちゃいけなくて。この子、空知由希ちゃん。少しお話してもらえるかしら?」 ぐい、と女の背中を押す。 「ユキちゃん、帰りはミツヨくん来てくれるんでしょ?わたしはここで失礼するわ、ねぇ、伊藤チャン、ごめんねぇ?」 言いたいことを言うだけ言って、嵐のように帰って行ってしまった。 社長はそんな森下も慣れていると言わんばかりの余裕で、にっこりと笑みをたたえた。 「では、こちらへどうぞ?」 いかにも森下のタイプの男性だ。 物腰穏やかで知的な雰囲気。 森下がうまい具合に転がされているのが目に浮かぶ。 女がコミュ障気味なことは森下もよく知っているのに、よくこの状況で置いていく判断をしたものだ、と呆れて言葉も出ない。 スイッチを入れる。 ここからは、得意の仮面をかぶるしかない。 いわゆる応接室というやつだろうか、広くはないがこぎれいな書斎のような部屋に通される。 「改めまして空知由希です、よろしくお願いします。アマチュアなので所属はしていませんが、ノースガレージさんに全面バックアップいただき活動しています。オースクルターレリアさんに今後ご支援いただけると伺いました、誠にありがとうございます。取り急ぎご挨拶ほどと思いましてお時間をいただきました。」 女は丸暗記した自己紹介文を、一息に吐き出して名刺を差し出した。 「はじめまして、音響機器、装置、設備の製造から販売、設置、メンテなどやってます、オースクルターレリアの伊藤です。ノースガレージさんのPBオーディオを任せてもらってまして、この度はご縁がありました。森下さんとはかれこれ5年?くらい?よくしてもらってまして。」 名刺を交換する。 「直近のイベント成績は総合準優勝ですって?詳しくないから分かんないんですけど、調べてみたらけっこうメディア露出多いじゃないですか。ちょっと期待してますよ。」 伊藤は高級そうな眼鏡をくいっと上げながら、上品に微笑んだ。 「恐れ多いです。レースで結果を残せるよう尽くします。」 「あははっ、緊張しすぎじゃない?ミツヨくんと付き合ってるってほんとにほんと?」 話し方を一気に崩し、身振りでソファを勧め、自分も座る。 女はぎこちなく会釈で返して、おずおずと腰掛けた。 「あ、はい、いちおう…」 堂々と嘘を言う才能がここで役に立つとは、人生とは予想できない出来事の連続である。 「へえ、あの子、ソハヤくん以外とうまくやれるか心配してたんだけど、丸くなったのかな。」 「変わったかたですが…優しい、と思います、誰にでも。うまくやる、とかは、たぶん、あまり必要に迫られていないのでは…」 秘書か事務職員か、女性がコーヒーを運んできたので、ぺこ、と頭を下げる。 「必要に、迫られていない、かぁ、なるほどね、言葉選びが、いいね、空知さん。」 伊藤がカップを持ち上げると、かすかにカチリと陶器が鳴いた。 「東谷大の自動車部だったと、プロフィールに。学もあるね、当時かなり偏差値高いよね。」 「とんでもないことでございます、勉強はあまりしてきませんでしたので。」 謙遜ではない。 事実、勉強自体は嫌いではないのだが集団生活が肌に合わず、苦労のほうが多かった。 「いや、そういう言い方もさ、ミツヨくんと相性良さそうなの、分かるわ。」 一瞬、嫌味とも分からない絶妙なコメントで女の頭の中をかき乱す。 「図らずも業界の注目をかっさらっているようだけど、どうなの?」 その質問が例の乱闘寸前騒動についてのことだとは想像に易い。 「お騒がせしていることは、申し訳なく思っています。報道にあった男性と交際していた事実はありませんので、わたしとしては事を荒立てず鎮火を待つ心持ちです。」 伊藤は、ぎし、とソファを軋ませて足を組み替える。 「これ以上言ったらセクハラになるからね、追求はしないよ。この一件がきっかけで、次の空知さんのレース動画がたくさん再生されれば、なお文句はないし。」 「…奇しくも、先の記事が出た後のディレイは普段の5倍の視聴回数でした…」 本意ではない、という苦々しい顔で首を振る。 「はは、いいね、ま、芸能人という訳じゃない、スキャンダルでイメージが落ちるとか、そういう次元ではまだないからね。無関心勢に興味持たせるだけでいい。」 すらり、と長い指を組む。 「よろしく頼みますよ。」 その後はありきたりな、どうということもない雑談で時間が過ぎていった。 車両の話、好きな音楽の話、他の趣味の話、兄弟の店の話。 まだお互いに距離を測りかねて探り合う段階。 「じゃあ、今度は、近い内にさ、ミツヨくんも一緒に、森下さんも、ご飯行きましょうね。森下さんに、三池兄弟をモデルに貸してくれって迫られてて。」 サーキットで森下がはしゃいでいたのを思い出している。 「顔が、抜群にいいですもんね…」 「それな。俺的には全然いいんだけど、あの2人を説得できる気がしなくてさ。空知さんからうまく言っといてよ。」 はは、と清々しい笑顔で、手を振った。 「じゃ、また、連絡するから。」 エレベーターの扉が閉まる。 ふぅっ、と大きく息を吐いた。 光世に電話をかける。 『…もし…?』 電話を通して聞くと、ますますバリトンの声が色っぽい。 耳元で囁かれているようで、ぞくりと寒気がする。 光世の背後では陽気な音楽とベース音と大勢の気配がざわめいている。 「いま終わり、なんですけど、オースクルターレリアの本社?銀河町の焼肉バイキングの近くなんですけど、知ってますよね?来れます?無理なら車つけやすい所まで移動しますけど。」 『…すぐ、向かう、どこか、安全なところで待て…』 女はキョロキョロと周囲を見渡した。 全国チェーンの喫茶店の看板が目に入る。 「ならびの半場珈琲に入ってますよ、なんなんですか、安全なところって。」 こみ上げる可笑しさがこらえられない。 「店、抜けて平気ですか?」 『…障りない…』 ぶつりと通話が切れた。 なんだか、本当に恋人同士になったように錯覚する。 仕事終わりに電話をかけて、車で迎えに来てもらうなんて。 こそばゆい。 窓際の席に座っていたので、遠くから、ふぁーん、と響く独特のエンジン音に、女は伝票を手にとって会計を済ませた。 店を出ると、ちょうどビートがやってくるところであった。 「すみません、ありがとうございます、予定が変わっちゃって、モリシタさんと解散しちゃったんですよ。」 女が謝罪と感謝を伝えながらドアを開けた。 「…なぜ?分かった…?」 光世が、心底不思議そうに首を傾げた。 「え?あ、ああ、エンジンの音、けっこう先からでも聞き分けられますよ、うちの子の。」 なんでもないことのように言い放ち、シートベルトを締める。 「運転、慣れました?」 「…ぜんぜん、むりだ、あんたみたいにはいかない…」 光世が、ゆっくりとアクセルを踏んでいく。 「ふふ、年季が違いますよ、また練習しましょうね。」 全開の窓のフレームに肘をかけた。 「幌、閉じるの難しいですよね。」 オープンのままの愛車の姿を見て、複雑な一世代前の構造を前に四苦八苦する光世を想像して、なんとなくフォローする。 「…まあ、なんとか…」 「?」 「…ん?ちょっと手こずった、が…?」 思わず、緊張した面持ちで前を向いたままの横顔を見つめた。 「え?一回閉じたのにまた開けたんですか?」 「…晴れてる、と言ったのはあんたじゃないか…?」 運転が日常になり、ついステアリングを右手のみで回し、左手をシフトに置きっぱなしにしてしまう女と違い、きちんとレクチャー通りに両手でハンドルを切る。 律儀だ。 「律儀ですね…」 にやにやが止まらない。 夜の海沿いの倉庫街をオープンカーで走るなんて、楽しい以外の感情は沸かない。 ましてや最上級のいい男が運転席で、自分が助手席なんて、経験にない。 承認欲求なんて縁遠いと思っていたけれど、これは、かなり、ヤバい、快楽成分がドバドバ溢れてくる。 見た目のいかつさに反して乗り方が大人しいのは、ご愛嬌である。 信号待ちで左隣の車線に並んだパールパープルのスポーツカーの運転手の男が、無駄にエンジンをふかした。 「えげつねークルマでトロトロ走ってんなや!」 光世は気にもしていない様子で完全無視を決め込んでいる。 というより、集中を乱されたくないのだろう。 「…法定速度遵守するマンなんです、ごめんなさいね。」 女が、なびく髪を押さえながら返事をしてやる。 信号が青に変わった。 ゆっくりと加速するビートの進行方向にかぶさるように、そのノーズの長い車が割り込んだ。 光世が慌ててブレーキを踏む。 「危ないなぁ…おふざけが過ぎますね…」 女が、わしわしと髪をかき混ぜる。 下品なカラーのその車は、ふわっと加速して、がつんと急停止した。 ブレーキランプが灯らない。 ので、ブレーキの遅れた光世がとっちらかってエンストする。 「…かっちーん!代わって!」 返事を待たず、女が光世の長い脚の間に体をねじ込んだ。 光世は目を白黒とさせている。 咄嗟にどくことができず、もたもたとシートベルトを外す光世に折り重なるように、中腰で立ったまま、女は半笑いでセルを回した。 「ちょーしのってんなよ!?」 低速ギアで一気に右車線から抜き返す。 スコスコっとリズムよくトップまでシフトアップしてクラッチから足を離し、窓枠にちょこんと腰掛けた。 「…あ、ぶない、のでは…?」 「真似しちゃだめですよ?」 「…するわけ、ないだろ…?」 光世が呆然として助手席に乗り移ろうとするが、いかんせん図体がでかいのでまごついてしまう。 後ろからけたたましい駆動音を上げて、パープルの車が追ってくる。 「ねぇ、ちゃんと座ってシートベルトして?今から、吹っ飛ばされちゃい、ますよっ?」 アクセルを踏み込んだ。 「…かわいそーなワンチ、オーナー選べなくて…」 女がすうっと目を細めて、薄く笑う。 港近くの片側3車線の直線道路は、町中に比べればまだ交通量が少ないほうだが、それでも他の一般車両は、中央車線と右車線をカーチェイスする、様子のおかしい2台におののいて左へと車線変更していく。 ようやく光世が助手席に移動した。 2台が並走するような形になる。 女が運転席にぼすんと音を立てて腰を落とした。 「こっちがっ、本体なんよねっ!」 滑らかな仕草でギアをオーバートップに入れる。 この先、T字路になっていることを、女は知っている。 光世も、知って、いる。 なのに。 速度が上がる。 なぜ? 黄色い右矢印と左矢印の看板がヘッドライトをぎらりと反射する。 喧嘩をふっかけてきた車は怖気づいて速度を落として離れていく。 ビートは、まだ、ペダルを、踏み込まれている。 「?」 光世の理解が追いつかない。 スピードを、落とさなければ、ぶつかってしまうのでは? 「あっははははっ、いっくよーっ!」 半瞬の軽いブレーキング、荷重が前輪にのる、カコカコっと素早くシフトダウンし、ステアリングを切ると、スキール音とスモークを立ててドリフトしながら右折していく。 遠心力で搖さぶられ、光世が窓枠に必死にすがりついた。 「ばいばーい!」 ハンドルから両手を離し、バンザイの姿勢から大きく左右に振る。 光世は、声も、出ない、出せない。 心臓が早鐘をうつ。 クラッチもサイドブレーキも使わないシンプルでその場しのぎのドリフトだったので、すぐにグリップが戻る。 女は少し照れたように前髪を掻き上げた。 「…よし、帰りましょうか。」 なかなか… 光世は困惑して斜め上の星空を見上げた。 この女の考えていること、やることなすこと、光世の知っている常識の範囲に収まりそうにない。 ------------------------- 〜⑨に続く〜
2025/09/16 21:12:47(XvvKNXH6)
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