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hollyhocks occulted④
カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:空想・幻想小説
ルール: あなたの中で描いた空想、幻想小説を投稿してください
  
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1:hollyhocks occulted④
投稿者:
ID:jitten
〜まえがき〜
⚠書いた人はオタクです⚠某刀ゲームの二次創作夢小説です⚠暴力などこじらせ性癖の描写多々⚠自分オナニ用自己満作品です⚠ゲームやキャラご存知のかたは解釈違いご容赦ください⚠誤字脱字ご容赦ください⚠たぶんめちゃくちゃ長くなります⚠未完ですが応援もらえたらがんばります優しいレス歓迎⚠エロじゃないストーリー部分もがっつりあります⚠似た癖かかえてるかた絡みにきてください⚠
—----------------------
後ろで結ばれた手では乱れた髪を梳かす事もできない。
汗で張り付いたそれの不快感を払おうと、女は顔を振る。
口の中にたっぷりと注ぎ込まれた光世の精液のほとんどを飲み込んだが、受け止めきれずに溢れたものが口の周りにこびりついているのを、Tシャツの肩でごしごしと拭うのが精一杯だ。
女にとってはいつものような極端な自己陶酔的な要素に欠けるセックスで、まあ、良く言えば、健全なほうではあったが、極快感を解放するには至らず、身体の芯が疼くのには気づかないふりをしている。
「ソハヤさん、だいぶ混じって?しまいますね?」
「あー、うん、なんか、自分でもやべーって思ってる…」
征羽矢がうなだれた。
「…わたし、なんか関係あります?」
そう思案に耽る女の肩に掴みかかる。
「…ちげーよ!…キョリ置くとかつまんねーこと、ぜってーゆうなよ!?」
女は意味が分からないという風で征羽矢の顔を見上げた。
「…距離置くもなにも…」
征羽矢は、逆に、言わなくていいことを言ってしまった、と青ざめる。
聞きたくない言葉が女の口から紡がれる。
「愛でも、恋でも、ないし、」
征羽矢が両手で耳を塞ぐ。
分かってはいても、突きつけられたくなかった。
「約束はしないし、」
冷酷に宣告される。
「そういう関係がご所望なら、わたしはここにはもう来ることができません。」
光世の方を振り返る。
「これを、とってください。帰ります。」
「…待ってくれ!」
征羽矢は狼狽える。
光世は特に焦る様子もなく、女に負けぬほどの冷たい視線で、感情の見えない分厚い氷のような、強気の表情を射抜いている。
「…今のは…言葉の綾だ…」
ロープを手繰り寄せる。
「…だが…帰してもらえると、思うなよ…?」
首から短く持ち、力まかせに引く。
どさっ、女の身体が床へと崩れ落ちる。
「…分かりきったことじゃないか…?」
なにも身につけていない臀部を踏みつけにする。
「…男の巣窟に自ずから出向いて、身体を明け渡したんだ…」
ぐい、とロープを持ち上げると、自重で首が圧迫されていく。
「…こんな…囚われても呑気にしていたのは、あんただろう…?」
ひゅー、と女の喉から細く息が鳴る。
征羽矢は、両手を胸の前でクロスさせて自身の身体を抱きしめるようにうずくまり、小刻みに震えている。
それは征羽矢ではなくそはやのつるきかもしれない。
「なぁ?こうなってからが、本番だな?」
光世が女のみぞおちを蹴り上げた。
「…っが…」
胃液が、多少の内容物とともに撒き散らされる。
が、女はぐるりと身体をすぐに反転させて上半身を起こす。
体幹が強くバランス感覚に優れていないと成せない技ではある。
素早く光世と距離を取ろうと腰をよじり後退しようとするが、首に繋がれたロープが、びぃん、と張る。
ナイフのような視線と、毒を含んだ声色の、いつもと違う喋り方で光世を突き刺す。
「…放せよ…」
光世は口元に指を添え、うっとりと舌舐めずりをする。
「…どうして…放してもらえると、思う…?」
たわむれにロープを引く。
女はつんのめるように再び床へと引きずり倒される。
屈辱を万華鏡に閉じ込めたような瞳が、しかし気迫を失わないままに、光世を睨み上げた。
「…クソ野郎…!」
口汚く罵られ、はっ、と短く息を吐いて、光世は満面の笑みを浮かべた。
「…クソ野郎で結構だ…あんた…そそるな…今まででいちばん、良い顔をしてる…」
しゃがんで女の顔を覗き込み、しなやかな指で、邪悪な色気の濃い動作でその顎を掬う。
「…楽しませて…くれよ?」
その、光世の人ならざる気配に、女の背筋に冷たいものが走った。
呼吸を、思わず止めて、ごくりと唾を飲み込む。
だが眼力は緩めない。
屈さない。
光世はまたロープを高く上げ、ぎりぎりと首を吊らせて、歯を食いしばる女へと荒々しく口づけた。
ガリっ、その薄く硬い唇に女は歯を立て噛みついた。
鉄の味が口内に広がるが、光世は怯まず引かず、女を壁際まで押して追い詰め、さらに吊り上げた。
女こそ、身長は高いほうではあったのだが、光世の190センチを越える長身で、なおかつ異様に長い腕で、ウインチのように引き上げられ、とうとう女の爪先が床を離れる。
「…ぁがっ…」
さすがに苦痛で顔が歪む。
喉に食い込むベルトをどうにかしたいが、手は後ろで括られたままで、なんとか抜け出そうと親指を捻るも皮膚が擦り切れていくだけである。
まさか本当に殺されはしないだろうとたかをくくっては、いるのだろう。
所詮は、そういう、プレイだと。
かすんでいく視界の端に、自らを抱き縮こまって震える征羽矢の姿が見えている。
あるじを失う。
捨てられる。
刀という物にとって、どのくらい恐ろしいことなのか、女には想像もつかない。
インクの出なくなったボールペンを捨てる。
新しい扇風機を買えば、古いものは粗大ごみに出す。
なくしてしまった財布が見つからなければそのうちに諦める。
学生の頃に気に入っていたCDでも大人になれば好みが変わり聴かなくなる。
物にとって、それはいったいどんな気分なのか、酸素の足りなくなってきた脳で考えてみる。
泡立った涎が首を伝ってTシャツの襟ぐりを濡らす。
脚の間からは、さきに征羽矢に注ぎ込まれた精液がボタボタと滴る。
意識が、じわりと遠のく。
水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウム…なぜか元素記号が順に思い浮かんで消えていく。
女の目の前に光が満ちて、幸福感でいっぱいの笑みがこぼれる。
「…かはッ…」
女の両眼がぐるんと裏返り、ひとつ大きく痙攣した。
光世の手からロープが滑り落ちた。
女の体は壁に沿って崩れて、ごとんとフローリングに転がる。
「…こんなものじゃないだろ…?」
光世は容赦なく、その腹をまた蹴りつけた。
「…げぼっ…」
女は吐瀉物にまみれてのたうち回る。
一瞬の気絶から、非情にも、たちまちのうちに呼び戻される。
ぜーぜーと息を切らして、肩で口の周りの汚れを拭い、光世の恍惚とした表情をねめつけた。
「…狂ってんな…」
間髪入れずに光世が答える。
「…あんたもな…」
女の背中側にのしかかり、その股ぐらへと手を伸ばす。
「…やめ、ろ…!」
ドタドタと足を鳴らし、男の体重から遁走すべく腰を捻るが、その抵抗はあっさりとはねつけられた。
爪の整った長い人さし指が、女の密かな花弁を割って差し入れられ、蜜を掻き出すように艶めかしく動く。
「…いっ…!」
女が眉をひそめた。
入り口付近には征羽矢の体液が乾いて固まっている。
「…どうした?…濡れていないじゃないか…?」
面白そうに光世が囁いた。
「…もしかして…」
もう1本、中指を増やす。
ぎちぎちと肉ひだが悲鳴をあげる。
「…本当に、受け入れたくないのか…?」
なんども交わってきたふたりだが、これまでになく、膣は狭く、侵入してくる光世の指を押し返そうと硬く開かない。
「…ほぉ…?」
もう1本、薬指を無理矢理にそこへねじ込む。
「…いっ、た…」
女の膣は、ぎゅうぎゅうと光世の3本の指を吐き出そうとうごめいている。
予想外の反応が、光世の口元に上弦の三日月を描かせた。
「…ははッ…!こんな…こんな、愉快なことが、あるか…!?」
一気に指を抜き去り、その隙にすぐに閉じようとするその部分へと、これでもかとパンパンに怒張した光世自身を突き立てた。
みちみちみち、と、潤いの足りない入り口の皮膚が、光世のものに引きずり込まれ、擦れて熱を持つ。
「…ぅんっ…い、ってぇな…!?放し…やがれ、よっ…!」
女が下品にがなった。
普段の不自然なほどの丁寧語はそこには存在していない。
「…うるさいな…」
光世は女の後頭部に大きな手のひらを添えると、力まかせに床に叩きつけた、バスケットボールのドリブルのように。
ごりっ、と、女の耳の中に異音が響く。
あまりの衝撃に目の痣のあたりがひくついて脈打つ。
額から、ぽたり、と血が1滴落ちた。
「…はな、せ…!」
唾液を飛び散らせながら、まだ女は敵意を剥き出しにして叫ぶ。
光世はというと、うっそりとした微笑みで、硬く締め付ける胎の中を犯し続ける。
「…さい、こう…だな…!」
女は、今、本当に、光世を、拒絶しているのだ、求められたプレイではないのだ、本当に本気で、やめろと、放せと怒鳴り、体は光世を迎え入れる用意を整えてはおらず、おそらく、嫌悪感を持って。
性的快感から程遠く、不快感と嘔吐感を持って。
光世の剛直も軋んで痛むが、それ以上に、征服欲が満たされて高揚する。
力でねじ伏せている事実に酔いしれる。
命を奪うことだっていとも簡単にできるだろう。
だがそんなもったいないことはしない。
いたぶりつくしてやる、ゆるさない、にげることもしぬことも。
光世の意識がこんがらがっていく。
なまえをよんでやろうか。
じかんのないへやのなかで、えいえんに、むさぼりつづけてやろうか。
ここがどこでいまがいつで、どちらがうえでどちらがしたか、いったいだれにだかれているのか、わからなくなるくらい、どろどろに、とかして、とじこめてしまおうか。

女の秘所自体は乾いてはいるのだが、膣の中にはまだ征羽矢の精液が残っていたのか、粘ついた水気がある。
腰を前後に揺するのに反抗して、女は痛みに耐える険相で、気を許していない旨の主張を繰り返していたが、それがそのうちに怒号に変わる。
「…ぶっ殺して、やる…!ぜったい…!いつか…!」
光世は最上級に嬉しそうな笑みをたたえて、はぁ、とあだっぽいため息を漏らした。
「…やって、みろよ…?いつでも、受けて立とう…」
ごくゆっくりと、浅く深く、焦らすように穏やかな律動を刻む。
女の声はだんだんとしゃがれてくるが、雑言を浴びせかけるのを止めない。
右手で頭を床にごりごりと押し付けられながら、左腕で腹を下から持ち上げられているから、尻部を高く突き上げるような姿勢になり、光世は、女の中の、いわゆる弱い部分を無遠慮に掻き混ぜる。
女の雌の身体のことを、よく、知っているのだ、と、圧がかけられる。
女の精神はというと、執拗で終わりの見えない一方的な情交に、生物学的な女としての本能が抗えず、苦楚と恥辱の中のわずかな法悦を拾い始めた。
光世を散々に罵っていた語感が徐々に弱まっていく。
「…やめ、ろぉ…」
「…うん?かんじてきたのか…?」
光世が耳元で囁いた。
「…いんらんなおんなだな…?」
女は必死に首を振った。
「…違う!」
光世は、女の頭を押さえつけていた手を離し、それで乳房を包み揉みしだいた。
「…ちがわないだろ…?なぐさみものにされて…よろこんでいるじゃないか…?」
Tシャツの裾から手を忍ばせ、硬く尖り始めた先端を捻り愛撫する。
汗ばんだ首筋を、猫のようにざらついた舌で舐め回す。
腰に回した方の腕を臍側から足の間に差し入れ、ぷっくりと勃起した陰核を撫でる。
挿入した陰茎をずるりと引き、浅い箇所で素早く細かく摩擦の刺激を与える。
「…も、は、なして…」
女は涙声になっていく。
「…さきのいせいは、どうした?…ん?」
うなじに触れた光世の唇が震え、またもどかしいかすかな蟻走感が沸き立たされた。
胎はうねり始め、粘液が滲み出す。
「…や、やだ…やめ、ろっつっ…てん、だ…ろ…!?」
「…おぉ、こわいな…」
光世はにこにこと笑っている。
かつてこんな無邪気な笑顔を見せたことがあるだろうか。
地獄のようなどろ甘い時間が過ぎていく。
快楽に溺れているのを悟られまいと、女は下唇を血が出るまで噛み、みずから冷たいフローリングに顔からうつぶせて、喘ぎそうになる声を殺していた。
いったい何十分、同じ場所を同じペースで擦られ続けているのか、もう分からない。
雪原のような真っ白な脳内には、いくつものカラフルな数字が浮かんでは消え、しばらくのあとにそれが円周率の数字の並び順に現れているのだと気付く。
なんで、こんな、ことを、かんがえてるのだろう。
女は、限界だった。
壊される。
薄緑色の4にひびが入って割れるのを見た。
女のまとっていた勝様だった雰囲気のベールが引きちぎられて脱がされていくのを、光世は十分に感じている。
「…どうしてほしいか、いえよ…?」
色白な頬を仄赤く染めて、女の耳たぶに噛みつく。
「…ぁ…」
取り崩されていく心。
「…いえよ…?」
その心の瓦礫までも踏み躙られていく。
「…も、もぉ…い、イきた、い…」
女の目から、とうとう、ポロリ、と涙がこぼれた。
「…なんて…?」
光世の長い舌が、耳の中をぐるりと犯す。
「…ぁぁ…!」
いちど弱みを見せてしまえば、転落していく理性を止めるすべはない。
「…ん?」
光世が小さく首をかしげて、耳の奥へと舌をねじ込んでいく。
「…も…イか、して…?」
自身の声と認めたくないほどに、ねちっこく官能的な音が、喉を震わせる。
「…ねだりかたをしらないのか…?」
光世は、女の横顔から唇を離し、追い打ちをかけるようにバリトンで囁いた。
「…ぅ…」
無意識のうちに下半身が揺れる。
それを、光世は腰を引いていなす。
簡単には、達させない。
「…いつもみたいに…そのきに、させろよ…?」
にじみ出た愛液が、ふたりの太ももを伝って床へと流れ落ちる。
「…も、もぅ…い、イかして、く、ださ…」
肩越しに振り返り、とろけた両眼で光世を見上げる。
「…きこえないな…?」
光世は、つい、と身体を離して繋がりをほどいた。突き飛ばすように背中を押すと、女はぐしゃりと体を折りたたんで倒れ込む。
「…ふぁぁ…!」
突如として取り上げられた悦をまた求め、女の全身がわなないた。
光世の男根も破裂するのではないかと思われるほどに膨れ反り返り、女の体液と征羽矢の体液と光世自身の体液とが混じったものでぬらぬらと光っている。
「…ほら、逃げろよ…?」
光世が女の頬を殴りつける。
「…ん…ふぅっ、ん…に、逃げな…い、から…イかし、て…」
光世の欲望を欲しがってひくつく部分の外側を、触れるか触れないかの加減で円を描くようになぶる。
「…あんたが…しようのないことを、いうから…兄弟がきずついたじゃないか…なぁ?」
光世は、ちらり、と部屋の隅で耳を塞ぎ、ずっと震えたままの弟を見やる。
あれはそはやのつるきだ。
そはやのつるきはおおでんたみつよと違って主人を深く慕っていたから、おそらく本当に愛していたから、主人の魂に突き放されてショックで我を忘れているのだ。
「…ぁぅ…ご、ごめ、なさ……んっ、や、やぁんっ…」
ぴちゃぴちゃと卑猥な水音が鳴る。
「…わびろよ、つぐなえよ、なぁ…」
刀のような血濡れの色合いの、硬く重い視線で貫き、冷ややかに命ずる。
女は口をはくはくと動かし、正気をなくしたとろけた顔で光世にすがる。
光世はそんな女から身体を離すと、征羽矢の元へと膝をついて言った。
「…おい、兄弟…だいじょうぶだ…どこへも、にがしはしない…」
優しく弟の両手を取り、声を聞かせる。
「…だいじょうぶなんだ…ずっと…にがさない…いっしょう…えいえんに…」
ぐるぐると不安と後悔が渦巻く征羽矢の、鈍く赤く濁った瞳を覗き込む。
「…さにわは、もう…どこへも、にげられないんだ…」
征羽矢の腕を引き、立たせて女の元へと引きずっていく。
「…ほら、兄弟のばんだぞ…?」
弟の逆だった金髪を撫で、なだめるように言い含める。
「…うたげはこれからじゃないか。」

信じ難いほどなんども絶頂に叩きつけられた。
兄弟によってかわるがわる、越えては、引き戻され、また与えられ、昇らされ、引きずり降ろされ、突き上げられ、たたき落とされる、何十回と、繰り返される。
正常位であれば、親指を結んだ鋭いタイラップの切り口が背中の皮膚へと食い込み、肌を裂いた。
はじめ、長時間にわたって光世に散々に焦らされて飢えていた女は、戸惑いながらも衝動的に突き動かされる征羽矢のものにより、いとも簡単に意識を失った。
しかし気絶したとて、頭上から光世に平手で殴られては目覚めさせられる。
征羽矢が果てれば光世が犯し、光世が果てれば征羽矢が犯す、その行為は夕刻まで続いた。
橙の陽がブラインドの隙間からフローリングへと突き刺さる。
喉がカラカラで、声がもう出ない。
涙も枯れた。
部屋には異様な匂いが充満している。
さすがに薄くなってきた白濁液を女の体のいちばん奥へと放ち、征羽矢が目を閉じた。
女の四肢はだらりと力をなくし、ふたりの男たちにもてあそび尽くされ、いたる箇所に赤く鬱血した跡を残していた。
征羽矢がゆっくりとまぶたを上げる。
薄めの焦げ茶色の、いつもの征羽矢の瞳が、申し訳なさそうに切なげに揺らいだ。
「…ごめん…こんな…もう…」
言葉がうまく出てこない、それは征羽矢であった。
もうひとりの自分の意識に引きずり込まれ、同じように取り憑かれた兄と共謀して凶行に及んだ、己が恐ろしい、と声を震わせた。
「…ごめん…ごめん…」
女を抱きおこし、その両腕で柔らかく包み込む。
ひどいことはしないと言ったのに、去られると思ったら恐怖で縛り付けずにはいられなかった。
その繊細な情緒を知らずに、光世が征羽矢の肩をぐいと押しのけたから、見上げると、その瞳はまだ赤くちろちろとくすぶっている。
征羽矢は思わず女をぎゅっと抱き締めた。
自分の番だと言わんばかりの力で、征羽矢の腕から女を奪い取ろうとする、その頬を、握った拳で殴りつけた。
つもりだった。
たやすくその腕を掴まれ、宙へ放られる。
「…もう、ダメだ!兄弟…!もう…やめよーぜ…」
嘆くように、だんだんと声が小さくなる。
伸ばされた手を払い除け、もういちど拳を振り上げた。
「…俺が悪かったよ…もう…ここにゃ…来ねーほーが、いい、だろ…」
拳はまたしても軽くあしらわれ阻まれたが、光世の顔色は、すっ、と意味を取り戻し、赤く燃え残っていた瞳は本来の灰がかった黒へと、グラデーションを描いて落ち着いていった。
かぶりを振る。
女に掴みかかろうとしていた手を引き、その手で額を押さえて、眉の間に深くしわを刻む。
「…どちらにしろ…手放すつもりは、ないぞ…?」
しかし征羽矢は、女の首に食い込むベルトを外そうとする。
「…もう、やめよ…?俺たち…てんちゃん…ぐちゃぐちゃにしちまうよ…」
光世は征羽矢の腕を止めた。
「…今さら…いいこぶるなよ…?」
「…そんなんじゃねーだろ!?…このまま、ほんとに監禁でもする気かよ!?それもうフツーに犯罪じゃん!?」
それには答えない。
「…先に、行くからな…」
征羽矢の意見には耳を全く傾けず、光世はその場を立つ。
手早くシャワーを浴びて身支度を整える。
「…それはそこに転がしておけよ…死にはしないだろ…」
振り向きもせずに玄関のドアから姿を消す。
兄弟仲は良いほうだと思っている。
兄は口数は極端に少ないし、表情のバリエーションも、ほぼない。
普段はぶっきらぼうな物言いしかできないし、なかなか精神の奥底にある光世の、穏やかな春のような部分に触れられる人間はいなかった。
だが弟である征羽矢に対しては優しいし、他人をいつも尊重して大切にしていた。
距離を詰めないのは、傷つけてしまうのを恐れているからである。
季節によって変化する景色を愛でる心もあり、小鳥や子猫や、色とりどりの花々を慈しむ感情もある。
征羽矢はそれをよく知っているから、兄を慕い、尊敬して、家族として誇らしく、またときには友人のように接している。
女を手放すつもりはないと言い切った、その真意は分からないが、おおでんたみつよの意思からはすでに切り離されていたはずなのに、執着がやまない、それが怖くなった。
征羽矢が、光世の気迫に押されて固まっていると、女が自力で身体を起こした。
「…めちゃくちゃにやってくれましたね…ひどいじゃないですか…」
首も親指も皮膚が切れて薄く血が滲んでいる。
他にもいたるところにキスマークという名の内出血ができている。
だが、少しずつ、自失状態から冷静さを取り戻してきている話しかたで。
「…ごめん…今、外すから…」
もたもたと手を動かす。
「…このままにしといていいですよ、水飲ませてください。」
女は首を振って征羽矢の手を振りほどいた。
「…いやいや、そーゆーわけには、いかねーっしょ、さすがに…」
征羽矢は困ったように目尻を下げた。
「仕事、行かなきゃじゃないですか。とりま、帰ってくるまではお利口にしてますので、水ください。喉がやばいです。」
言われたとおりに立ち上がって冷蔵庫から冷えた水のペットボトルを出し、キャップを開けて、女の口元へとあてがう。
少しずつ傾け、注ぎ込んでやると、ごくんごくんと音を立て、喉が波うった。
「取らなきゃ、自分で飲めないじゃん。」
征羽矢が心配そうに言うが、女はお構いなしの様子で、ぷは、と息をついた。
「おとなしく寝ときます、疲れたし、あちこち痛いですし。」
「…それは、ほんと…ごめん…」
うつむく征羽矢に、女が詰め寄った。
「ソハヤさん、わたし、誰かと恋愛するとか交際するとか、今のところ考えてないので、それだけご理解ください?」
征羽矢は下唇を噛む。
「わたしを引き止めたかったら、殺すつもりで、ね?」
「…兄弟みてーに?」
女は、少し思案する風に斜め上を見る。
「あー、まぁ、あそこまで振りきれるのも才能ですかね?相性はいいように思います。」
征羽矢は拗ねるように頬を膨らませた。
「…でも…さっきのは、ガチよりのガチだったろ?」
行為を思い返して、身震いする。
「ガチでしたね。あれは、ちょっと、わたしでも正直ひくレベルです。」
「…兄弟…どんな性癖開花させてんだよ…」
「全て戯れです。結果として、半端なく気持ちよかったですから。」
女の、うっとりと、さきの烈情に耽る熱っぽい言葉に、ぷい、と目をそらした征羽矢は、熱い湯で絞ったタオルを持ってきて、女の身体を拭いてくれる。
「俺のパンツでよければ履く?」
「使用済みは遠慮します。新品のボクサーあったらください。」
衣装ケースをごそごそと探る。
「あったあった。」
いまだ身動きの取れない女に履かせてやる。
「結局、ソハヤさんは優しいから、だめですね。」
女はため息をついた。
「だめかなぁ…」
だめじゃねーとおもーんだけど、の余計な一言を飲み込む。
「水を飲ませてくれって言われたら、頭からぶっかけるとか、たぶん、ミツヨさんがノってるときならそうしそうな気がします。」
「やりそー。そんで床舐めさせんのか。ドン引きだわ。」
分かってるじゃないですか、と言いたげに、女はいたずらっぽく視線を合わせて、それからそらした。
「ほら、おしゃべりはまたあとでにしましょう?シャワー浴びてきて、お仕事、がんばってくださいね?」
直に夜が帳を下ろす。
階下から、壁を伝ってベース音が響いてくる。
昨夜開けた穴をきっちりと埋めて、客からもスポンサーからも従業員からも不満が出ないように実力でねじ伏せるしかない経営者は、性癖をすっかりとこじらせてしまった。
が、ステージには関係ない。
男も女も老いも若いも常連も新規もファンもアンチも、全部巻き込んでぶち上げる、準備はできている。
魂に、火を、焚きつけるほどの、鋭い雷を、落とす。
CLUB thunder box、オープンの時間は、もうすぐだ。

女はまどろみながら、心臓に響いてくる音楽を、聴いている。
縛られた腕のせいで肩が凝っているが、それより雪崩れてくる疲労感でうとうととまぶたが閉じる。
つけられた傷が疼いてふわっと幸福感に包まれる。
パートナーが誰でも良い訳ではない。
ヘビーめのSMに興味のある異性はたくさんいて、マッチングアプリで出会いを求めて鬱憤を晴らそうとしていた時期もあったが、生理的に合わない相手ももちろんいたし、そもそも女の価値観に付いてこられるタガの外れた理性の持ち主はそうそういなかった。
あるいは、しつこく2度目3度目の約束を取り付けようとしてくるのに困り果てていた。
女は約束を守るのがひどく苦手であった。
ひいては、約束をすること自体をまあまあ嫌悪していた。
2人ないし3人という最小のコミュニティでルールを取り決めて遵守を強要するなど、不毛でしかない。
そして、希死念慮。
いつからか常に胸の中にいる妖精のような存在で、嫌な感じはない。
これがいるから、狂ったスピードで鋭角のコーナーに突っ込みながらペダルをまだ踏める。
時速190キロで環状線を巡行しても怖くない。
雨上がりに摩耗したタイヤが滑ってガードレールに突き刺さりそうになっても逆にステアリングを切る度胸もつくし、治安の悪い地区で車中泊をするのも平気だ。
自殺したいのではない。
いつ死んでもしかたないと思っている。
ただ、少し、消えたい、とは思っている。
この世界で自分はうまくやっていけない自信がある、といったところか。
望まれるように笑えない。
柔らかな言葉は紡げない。
合理的なことは好きだが、反対に、理にかなっていないことを安易に許容できない。
セックスは気持ちよければいい。
腕枕にもピロートークにも、意味は見出ださない。
先週、街頭の照らす路地裏でフライヤーを配りながらチケットをさばく若者から、この店を案内されたときは、ビールが飲めればなんでも良かったから、騒がしい店内の隅に備えられたカウンターの、いちばん端の席に座った。
音楽にはてんで詳しくないし、センスもなかったけれど、不思議と繭の中にいるような気分になった。
夜の都市高速を走るときにかけるオムニバスのCDが、よく知らない洋楽ばかりでもなんとなく気に入っていたのだが、それにテンポや雰囲気が似ていたからかもしれない。
並びに座っていた体躯のでかい男に急に腕を掴まれたときは、正直びびった。
だが、チラリと見上げたその顔面が、あまりにも整い過ぎていて、恐怖が弾け飛んだ。
そのまま勢いで抱かれてしまえば、身体の相性は抜群に良いようなのだが、どうにもおかしなことばかり口走る。
幻覚か、妄想か。
あれよあれよという間に流され、あろうことかその男の弟と3Pにもつれ込む。
理想的なワンナイトで、兄弟の妄言に適当に付き合うつもりだった。
が、なぜかなんとも言えず居心地が良く、気づけばまた足を運んでいたのだ。
逃さないと脅されなくとも、逃げられないのはこちらのほうだと、女はにんまりと笑みを浮かべた。
誰も見ていないから。
希死念慮。
自殺したいんじゃない。
言い聞かせる。
だれか殺してくれればそれはそれでいい。
連載中のマンガの続きが少し気になるくらいだ。
幾度となく、必要以上にアクセルを踏み込んできた。
勇敢なんじゃない。
無謀というにもあまりに稚拙な。
運良く生きているだけ。
いつでも、カーブを曲がりそこねた崖を転げ落ちることができるし、車体ごと海に沈むこともできる。
炎上する運転席から必死に脱出なんてしない。
それなのに、先ほどセックスをしているときには、死にたくないと思ってしまったのだ。
動物の本能なのだろうか、とも考えるが、それに大意はない。
生きたいと思いたいからセックスするわけじゃないから。
矛盾。
じゃあなんでまたこの部屋にきちゃうんだろう。
恋愛する気はない。
光世のことも征羽矢のことも好きかと問われれば好きだが、それはビールが好きとか車が好きとかアニメが好きとか、それと同じだ。
あれこれ詮索しない光世は、かなり、言い方は悪いが、都合が良かった。
それと対照的に世話焼きで好奇心の強い征羽矢は、興味深かった。
そのふたりが夢うつつに呟くどこかの世界の話も、快楽に溺れながら聞き流すと、狂気的で面白かった。
いつまでもこのままでいたいなぁ。
泥に引きずり込まれるように、眠りに沈んでいく。

「…てっきり、逃がしたかと思った…」
光世は、ベッドに横たわってうとうととしている女を見て、安堵した風に息を吐いた。
「本人さんのご希望でーす。」
征羽矢は肩をすくめる。
「…なんだ、やっぱり良かったんじゃないか…」
ぶつぶつとひとりごち、シャワールームへと姿を消す。
どどど、と湯船に湯がはられていく音がし始めた。
光世がいない隙に、征羽矢が寝転んだままの女にキスを落とす。
少し触れるだけのつもりでいたのに、女の方から舌を絡みとられ、深みにはまる。
くちゅくちゅとリップ音を立て吸い付かれて、思わずその両頬を手のひらで挟んだ。
唇を離すと、唾液がつうっと糸をひく。
「…ま、DVヤローの所に帰るとかゆーよりは、兄弟の特殊プレイのほーがマシかなって。」
女の、汗でベタついた髪を撫でてやる。
「なかなか、束縛されてる感が良いですね、監禁とか軟禁とか憧れますよね。」
舌舐めずりをして、女がまた突拍子もないことを言うから、
「憧れねーよ?」
突っ込まざるを得ない。
「でも、これ、トイレ、長さがギリなんですよ。もーちょい長いと首絞めオナニーにならなくていいんですけど。」
「言い方!」
世の中の女性はこんなんじゃないと思うんだけどな、征羽矢は苦笑いする。
素のとき、兄に抱かれているとき、自分に抱かれているとき、そのときどきによって、あまりにも様子が違う。
光世が裸で戻ってきて、首のベルトに結びつけられているロープをほどく。
こちら側は、固結びを1回しているだけなので、すんなりとほどけた。
「…風呂に入れてやる。来い…」
ベルトを乱暴に掴んで引きずるようにベッドから連れ出す。
「ええ?手も、取ってくださいよ、シャンプーできないです。」
女が不満げに言ったが、光世は首を振る。
「…洗ってやるから…あんた、それ外したら…俺を殴って逃げるだろ…?」
女はまぶたを伏せて肩を落とした。
「はぁ…信用ないですね…それならとっくに蹴ってますよ?」
「…あんたは、そういう女だ…」
後ろ手で括られていてTシャツを脱ぐことができない。
「ほら、取らないと脱げないですって。」
「…だめにしていいか…?」
光世は、詰替え用の洗剤のパウチの横に置きっぱなしになっていた小さなハサミを手に取った。
「うーん、けっこー気に入ってるやつなんですけど…」
「…別のを買ってやるよ…」
まだ許可が出ていないのに、さくっ、と、裾から刃を入れていく。
「あーあ、高くつきますよ?」
ハサミの冷えた金属部分が肌に触れて、ぞくりと背筋が粟立つ。
ジョキジョキと数カ所を切り裂き、布きれになった衣服をすべて剥ぎ取った。
「…座れよ、中をきれいにする…」
湯船の縁に腰掛けさせて、脚を開かせる。
シャワーの温度を確認してから、そこへあてがい、ざぶざぶと流しながら膣の中へ指を差し入れる。
溜まった2人分の精液を掻き出す。
「…さっき…兄弟に発情してただろ…?」
むすっとした言い方で、指を動かし続ける。
女は、当たり前でしょ、というテンションで答える。
「ここにくるときはだいたいいつも発情してます。」
「…なんて女だよ…」
光世は両手にボディソープを泡立て、自身がひどく汚した内側を丁寧に洗う。
ぬるぬるとした感触で、また邪な欲望が立ち上がる。
指を引き抜き、腹の周り、太もも、両足、足の指の間、と、手のひらを使って泡を塗りたくる。
手にボディソープを足して、次に、乳房を持ち上げるようにして上半身を洗っていく。
首、肩、脇の下、腕、と順に優しく愛撫されるようで、女もたまらずに頬を赤らめた。
「…だめだ、おい…立て…」
光世が女を立たせて、ぐるりと背を向かせ、後ろから挿入した。
「…んっ、は、ぁ…み、ミツヨさん…きれいにするの意味、わかってます…?」
背中を押されて腹を湯船の縁に乗せるような体勢で、背筋で身体を反らせて光世のものを受け入れる。
脱衣所から征羽矢が顔を覗かせて、舌打ちした。
「ずりー!けっきょくヌルヌルプレイじゃん!」
香り高い潤滑剤のせいで、非日常感は十二分だが、異様に滑りが良く、摩擦が少なくて快感にはいまひとつ物足りない。
だから、ほぼノーモーションで、光世が、女の頭を湯に押し込んだ。
なんのためらいもない、その殺人鬼の仕草に、征羽矢はやはり恐怖を感じた。
ゴボゴボと女の肺から空気の塊が吐き出される。
その噴出が終わる頃には、女の秘所はぎゅうぎゅうと狭く収縮してきた。
腰の律動はやまず激しくなる。
「…もう、少し…」
光世が歯ぎしりしてうめいた。
女の髪を掴んで湯から引き上げる。
「…げほっ、がはっ、はぁっ…」
女は大量の湯を吐き出した。
ほんの一瞬だけ空気を吸わせ、再び後頭部を押さえつけて溺れされる。
さらに膣が締まり、光世は身震いした。
洗ったばかりの体内を、またどろどろに汚す。
余韻に浸りながら、数度、接合部をぐりぐりと深くかき回し、女の頭から手を離した。
がばり、と女は身を起こして、咳き込み、湯を吐き、しばらく酸素を存分に貪る。
それから肩越しに振り向いて光世を睨んだ。
「…頭大丈夫です?」
俺もそれを心配してるんだよな、征羽矢は、膨らんだ自身を慰めながら、兄と女のまぐわう姿を見ていた。
「…さぁな…気は済んだ…」
光世は一気に興味の薄れた瞳で女を睨み返し、身体を離すと、もう一度、女の胎をまさぐって中に出した種液を掻き出した。
白く粘度の高い体液が、排水口へと渦巻きながら流れて消えていく。
「ね、髪がベッタベタだからシャンプーしたいんです、わたしは。」
女が口を尖らせた。
「…分かってる…うるさいな…」
やれやれと、立ち上がった女の髪に、シャンプーを泡立てた手を添わせる。
短く硬い髪はあっという間に泡まみれになる。
「…流すぞ…」
女の柔らかな身体の曲線を、光世の甘く低い声と濃厚な泡が滑り落ちていく。

「でも、本当に監禁されたら困るかもしれないです。」
当然のことを、女は言った。
俺も俺も、とねだられるのを、お風呂入ったばっかだから嫌ですよ、と冷静にはねつけたから、征羽矢は雨に濡れた子犬のようにシュンとしてしまった。
まぁ、フェラなら、とベッドに座った征羽矢の長い脚の間に跪いた。
取り出されたそそり立ったものを咥える。
舌を尖らせて、陰嚢の裏を掬うように舐め、きゅうっと吸い付いた。
びくん、と征羽矢が震え、女の湿った頭を撫でる。
「…来月も、レースがあるんだな…」
光世が長い髪をタオルでわしゃわしゃと乾かしながら問う。
「ふむぅ…」
女は征羽矢のものを口に含んだまま、返事をした。
ぴく、また征羽矢は身体を小さく跳ねさせた。
「なんでそんな把握しちゃってんの?」
「…ドリフト選手年鑑のホームページに個人のスケジュールが出ていた…」
タオルを首にかけ、冷蔵庫から缶ビールを取り出してプルタブを上げる。
征羽矢が身じろいだ。
「…やば、やっぱすぐイくわ…」
女の頭を自身の下腹部へと押し付け、口内へとたっぷりと射精した。
「…はぁ……なぁ、口、開けて、見せて?」
女は言われた通りにかぱっと口を開き、その中で溢れそうに波打つ白濁液を征羽矢に見せた。
「えっろ……飲み込んで?」
さらに見せつけるように、ごきゅんと音を立てて嚥下する。
「ソハヤさんは、ちょっとAVの見すぎですね。」
女は首をコキリと鳴らして言った。
「そんな見てねーよ!」
少し慌てて否定する。
「なんかプレイがテンプレというか。」
「これもしかしてすげーディスられてる?」
それを無視して、話題がころころと変わる。
「あんまりご縁のないサーキットなので、ちょっと走りに行きたいんですよ。」
「でもふつー監禁されたら仕事は行かなくね?」
「…そう、ですかね…?監禁されたことないんで…」
むむ、と女は頬を膨らませた。
パチン、と、光世がハサミでタイラップを切った。
親指の付け根はずるずるに皮が剥けて血が滲んでいた。
「…物理的に…どこかへ、行ったとして…逃げられると、思うなよ…と脅せばいいのか…」
光世が俯いて苦々しく呟くが、女はそれも無視する。
「あー、肩凝りました、さすがに。」
ぐるぐると、背泳ぎするように両腕を回す。
それから自分で首のベルトを外し、光世に返した。
「あと、服。買い物に行きません?」
そのへんに落ちている兄弟どちらの物か分からないTシャツを拾い上げて匂いを嗅ぐ。
それも光世に押し付け、今度は勝手に衣装ケースを開けて無難な色柄のものを選んで着込んだ。
「買ってくれるって言ったじゃないですか。今日はデートしましょう?」

ダボダボのカーキのTシャツと黒いハーフパンツと、お決まりのピンクのサンダルに麻のトートバック。
眼帯が目立つから、とベージュのキャップをかぶっている。
「眠いですか?」
「…障りない…」
光世は白い長袖Tシャツに細身の黒のチノパン、ソールの薄い赤いスニーカー。
顔がいい男というのは、けっきょくシンプルな格好がいちばん様になるから困る。
征羽矢は、若干ガラ悪めの青い色味のアロハシャツに、オフホワイトのサルエルパンツ、ビーサンは兄とおそろいの赤で。
「白のパンツって、本気のイケメンしか許されないやつじゃないですか。」
女は帽子を目深にかぶり直した。
「しまった、ですね、これはちょっと、圧倒的に不利でした。」
初夏の日差しが肌を突き刺してアスファルトに濃い影を縫い付ける。
角をいくつか曲がった、浄水場の土地がある区画に、路上駐車の車両がずらりと並んでいた。
「ここは道幅6メートルあるので、交差点と消火栓に気をつければ停めれるんですよね。」
女が得意げに鼻を鳴らすが、そのすごさが2人にはよく分からない。
1台の、ボンネットだけ黒でボディは白の車に近づいて、鍵を差し込む。
今どき、遠隔ロックのない、見るからに古臭いデザインの車である。
レースのときに乗っていた車種に、少しだけ似ている気がした。
いそいそと運転席に乗り込み、キーを捻ると、ドルルン、と重低音が静かな住宅街に鳴り響いた。
レギハンをぐるぐると回し窓を全開にする。
前後がかなり詰まっているので、数回切り返しながら車列を抜け出した。
「酒、抜けてる!?」
大声で征羽矢が怒鳴る。
エンジン音がうるさくて通常のボリュームでは聞こえないのだ。
「ウォッカ事件から飲んでないですからね!」
女も負けじと怒鳴り返す。
「…ごめんて!…俺じゃなくて兄弟がな!」
シートベルトを引っ張りながら、女が尋ねた。
「どっちが体重あります!?」
光世が自身を指さす。
「じゃ、ミツヨさん助手席で!ソハヤさん、運転席の後ろで!」
異様に車高の低い車体に乗り込む。
スプリングはとうに死んでいて、駆動系の振動がダイレクトに身体を揺らす。
けっして乗り心地が良いとは言えない。
「れっつごーですよ!」
じわりとアクセルを踏み込む。
窓から風が吹き込んで、3人の髪を巻き上げる。

顔面に風を受けて征羽矢が笑っている。
「うはー!むっちゃくちゃきもちーな!」
町を抜けて海沿いの国道を走っている。
「免許は?」
信号が少ないのでトップで巡行している。
「俺も兄弟もペーパードライバー!」
いわゆる旧車といわれる部類の車種で、この町に不釣り合いな見た目をしているうえに、遠慮のない爆音である。
すれ違う対向車の者も歩行者も、みなが女の運転する車を目で追った。
「もったいないですね、乗ればいいのに。」
「車なくても生活できる町だからなぁ、それにだいたい1日中アルコール入ってるしな。」
「なるほど、それはいただけないですね。」
巨大ショッピングモールの建物が見えてくる。
平日だが、駐車場に入るレーンに車が増えていく。
ドドドド、というエンジン音に、大勢の目が振り返る。
「こんな目立っていーの?」
征羽矢が、窓から目があった女子学生にひらひらと手を振ったのがサイドミラーで見えた。
かわいそうに、その若い女は色とりどりのショッパーを抱えて顔を真っ赤にして固まってしまった。
これが無意識なのだから罪な男である。
「ソハヤさんがそーゆーことしなければさほど目立たないんですけどね。」
横目で女に睨まれ、気まずそうに頬を人さし指で掻く。
立体駐車場に車を停めた。
屋根と壁のある空間で、エンジンの音はますます大きく独特で、ぐわんぐわんと反響する。
赤いライトを振っていた警備員が顔をしかめた。
「さて、まずは服ですよ。このかっこであなたたちと歩くの罰ゲームです?」
光世は、べつに普段からそんな感じじゃないか、と思いはしたけれど、野暮なことは言うまいと口を閉じた。
明るい店内、当たり障りないBGM、家族連れのほのぼのとした会話、フードコートから漂ってくる食欲をそそる匂い。
高くつくと脅した割には、女が真っ先に入っていったのは、凝らないデザインと低価格が売りのチェーン店のテナントだ。
「やっぱりTシャツとデニムくらいでいいですかね…」
女はカラフルなディスプレイに気圧され、考えることを放棄しつつある。
光世が、ふと目についたワンピースを手に取った。
薄いブルーグレーの生地で、スカート部の裾の方にアシンメトリーに渋めのイエローで千鳥格子風のプリントが入っている。
それを見て、征羽矢が、淡いブラウンの、ローヒールでオープントゥのパンプスを持ってきた。
親切な店員が、エアコンが効いていて肩が冷えますよ、とワンピースと同系色のカーディガンをおすすめしてくれたので、光世がまとめて支払った。
試着室を借りてすぐに着替えると、いちおうはデートらしい装備が整った。
フードコートで、レモンシャーベットとピスタチオの2段のアイスを食べる。
光世はバニラとチョコチップ、征羽矢はチーズケーキとストロベリー。
CDショップでは気になったものを次々と試聴する。
女が聴いている横で、そのヘッドフォンからの音漏れを聴こうと光世が顔を寄せる、距離感。
征羽矢が光世をぐい、と引き剥がした。
「こーきょーの場で近すぎる!」
いったいどんな関係なんだと不思議がる視線がないこともないが、光世と征羽矢はそっくりだったから、兄弟とそのどちらかの恋人だと言われればその通りではある。
数枚のCDといくらかの生活雑貨を買ってコインロッカーに入れておき、併設されている映画館を覗く。
今週で公開終了の、話題のマンガ原作のアニメ映画が観たいと女が言い、いちばん大きなポップコーンと、それぞれドリンクを買った。
ラストシーンで女はポロポロと涙を流して泣いていた。
光世も征羽矢もそれを見てとても驚いた、ドリンクを取り落としそうになるくらいには。
アニメの内容自体にはさして関心がなかったのだが、鑑賞後、光世は音楽に効果的に聖歌と讃美歌とゴスペルが使い分けられていたことを珍しく熱弁したし、征羽矢はこれまで見向きもしなかったライトなSFに興味を持ち始めた。
ついパンフレットを買ってしまうタイプである。
ポップコーンで満腹になってしまったから、帰路につく。
女は愛らしいパンプスを脱いで、後部座席のシートにビニールを敷いてからそっと置いた。
底のすり減ったサンダルに履き替え、クラッチとブレーキを踏む。
「帰り、寝てていいですよ?」
キーをひねると、とてもではないが眠れるわけのない音量でエンジンががなる。
空の青が少しずつ濃くなっていく。
光世が買ったばかりのCDのうちの1枚をプレーヤーに差し入れると、ミドルテンポのクラブミュージックが流れ出した。
「いいですね、これ。」
緩やかなカーブに合わせてステアリングを切る。
「明日は、次の会場、走りに行く予定です。」
征羽矢が運転席のヘッドレストにしがみついて、バックミラー越しに視線を合わせてきた。
「なぁ、明日もさ!見に行きてーな!」
昼間っから情交にうつつを抜かすばかりの生活よりは、よほど健全だと思っての提案である。
閉じこもっていれば、なぜか畜生のように肉を求めてしまうのをやめられない。
女の帰ったあとの部屋でもんもんと過ごす自身の姿が目に浮かぶのを、首を振ってかき消した。
「うーん、それは別にいいんですけど…」
女は考えるような素振りをする。
少し先の信号が黄色になったので、滑らかな手つきでギアをひとつ落とした。
エンジンブレーキが効いて、その駆動音がわずかに低くなる。
「日付け変わるくらいからアルコール抜いて免許証持って動きやすい服で来れます?」
「それぜったい運転させられるやつじゃん?」
征羽矢が両手をわざとらしく上げた。
「無理だぜ?ましてやマニュアルなんて!何年ペーパードライバーやってっと思ってんの?」
「せっかくなら楽しみたいじゃないですか。」
横断歩道を渡る黄色い帽子の小学生男子たちが、こちらを振り返ってざわざわとする。
「かっけー!」
「なんで前のとこだけ黒いの?」
「知らね、音うるせー!」
「女の人が運転してる!」
今度は女が、子どもたちに向かって手を振った。
子どもたちは背筋を伸ばして、ペコリ、とお辞儀をして、ぱっと走って行ってしまった。
甲高い笑い声が遠ざかり、信号は青に変わった。
音と振動に慣れてきたのか、光世は助手席でこっくりこっくりと船を漕いでいる。
「でも、あれか…ちょっとネット記事になっちまったからなぁ、男連れってわけにゃいかねーか…」
征羽矢が悩ましげに腕を組んだ。
女はあいかわらず他人事のように投げやりに言う。
「業界の宣伝になるならありがたいですけどね。」
「そーゆーもん?俺らみたくさ、スポンサー?とかに怒られたりさぁ、しない?」
「…アマチュアだから、大手じゃないし、話題になればなるほど美味しい?とか思ってそうですね。」
徐々に繁華街近くへ戻ってきた。
「…外野がうるさいなら、けっこん?しても、いい…」
眠っているのかと思っていたが、光世が急に会話に参戦してきた。
ただその内容は完全に寝ぼけているようだ。
「ぜんぜん良くないですよ、バカなんですか?」
女は呆れてため息をつく。
「もう、すぐそこですよ、降りますか?」
「てんちゃんは?来ないの?」
征羽矢が質問に質問で返す。
「あんまり飲めないし、疲れるような変なプレイはしないですよ?」
ハザードをたいて道端に停車する。
買い物袋を掴んで、降りる。
ぐるりと助手席側へとまわり、ドアを開けて兄を引っ張り出す。
「いーよ、それで。CD入れっぱにしといて。」
あとでな、と片手を上げて、眠気でとろけそうになっている光世の腕を肩に担ぎ、路地の曲がり角の向こうへと姿を消した。
女は、ちょい、とワンピースの裾をつまんだ。
似合わない。
ウインカーを出してアクセルを踏んでいく。
スピードが上がる。
ギアを上げていく。
夕方が迫る。

「あっ!また!なんで来れるの!?メンタル鋼なの!?」
若菜が騒いだ。
征羽矢がそれをなだめる。
「分かる?鋼なんよ。いらっしゃい、若菜ちゃん。」
二人の距離を遠ざけようと、女の側を離れて反対側の端へと案内する。
が、若菜は女に食ってかかって隣の席の椅子を引いた。
「ねぇ、なんでそんなケガしてるの?あっ、分かった、あれでしょ?レースで事故ったんだ!うわ、いったっそー!」
うるさいなぁ、声には出さないが、全身から立ち上る気配がそう言っている。
ジョッキを掴む。
「わたしも!ビール!」
征羽矢が驚いて聞き返した。
「ビール?飲めるの?カクテルにしときなよ、若菜ちゃんが好きそうなやつ作るよ?」
「やだ。この人が飲んでるやつ飲むの!」
「苦いよ?」
「知ってるよ!飲めるよ!若菜おとなだもん!」
女は思わず吹き出した。
征羽矢や光世には見せない顔だ。
なぜか濱崎や若菜と話すときには、自然な表情をするのだ。
「じゃあ、小さいグラスにしておくからね?」
「えー、やだぁ!同じのがいい!」
「こっちのグラスのほーが女の子っぽくて映えるぜ、エディブルフラワーのサラダ作ったげるから。」
征羽矢が上手に若菜を転がす。
「うーん、じゃあ、それでもいっかぁ。」
若菜は、目の前に置かれた、細かい結露が擦りガラスのように光を乱反射するグラスをまじまじと観察している。
すぐに、丸みのある陶器のボウルに上品に盛られたサラダが運ばれてくる。
「わ、お花だ!ほんとに食べれるの?」
「ちょっと苦みあるけどな、見た目がメインでございます。」
征羽矢がおどけて答えるうちに、若菜はパシャパシャと写真を撮る。
オシャレな雰囲気にすっかり満足しているようだ。
慣れない手つきで短い足つきグラスを持ち上げる。 黄金に輝く液体に唇をそっと付け、おおかたの予想通り、顔をしかめた。
「うぇ、おいしくなーい!」
女がまた笑った。
「かわいいですね。」
意図せず言葉が口をついて出てしまった。
「…なっ!なによ!あなたにそんなことゆわれても嬉しくないし!」
若菜は目を瞑ってビールを一口なんとか飲み込む。
「そーゆー後方彼女面がマジいちばんムカつくの!ほら!こっち来て!」
立ち上がった若菜が女の手を取り、ホールへと引っ張っていく。
征羽矢が止める間もなかった。
ちょうど光世がDJブースへと登壇したところであった。
割れんばかりの拍手と歓声が竜巻のごとく巻き上がる。
左手で横髪をかきあげ、耳にかける。
ホール全体をぐるりと見渡して、煽るように右手を振り上げて人さし指をたてる。
そのまま指をさした形で、せめぐ客たちを右から左へと、まるで刀で撫で切る仕草で、水平に動かしていく。
ビートが空間を破裂させる。
甲高い口笛と指笛があちこちから鳴り響く。
「きゃぁぁぁぁ!ちょーかっこいい!見た!?今の!?あー、もう…かっこいい…」
若菜が両の手のひらを頬にあてて悶える。
「手!挙げなさいよ、バイブス上がんないでしょ?ミツヨのステージ、シラケさせたら許さないんだから!」
背伸びをして、女の耳元で叫んだ。
身長がおおよそ20センチ違っているので、そうしないと届かないし、音楽とベース音と喧騒で声が聞こえないのだ。
誰かの肩にぶつかって若菜がよろめく。
女の横顔に寄せた若菜の唇が、髪の生え際のあたりにぶつかる。
ふにゃり、と柔らかい感触が、思わず女の口元を緩ませた。
小うるさくてめんどくさいと煩わしく思っていたが、こうしてみるとなんとも愛らしいかもしれない。
想い人が執着する恋敵にわざわざ近寄ってきて講釈を垂れるのだ。
若菜が改めて女の手を取り、自身の手首に巻いていた蓄光のバングルを付けてやる。
そのまま音楽に合わせて高く掲げ左右に振らせる。
そのふたつの瞳は潤んで光世をじっと見つめている。
本当にミツヨさんのことが好きなんだなぁとぼんやりと感心する。
彼も、わたしなんかに拘るより、彼女と睦まじくするほうがよほど愛されて幸せを享受することができるだろうに、と。
女は光世のほうをちらりと一瞥して、すぐに視線を戻し、若菜を見下ろした。
「ほんと、かわいいです。」
合意なく、その唇にキスをした。
「!」
突然の事態に、若菜はフリーズする。
以前にも同じことがあったと、エクスクラメーションマークとクエスチョンマークが乱舞する頭が思い出している。
ヘアコロンの甘い香りが女の鼻孔をついた。
「ミツヨさん、ほっといて、わたしたちで遊びません?」
中指で下唇を撫で、その指で若菜の下唇に触れる。
まわりの目はステージに釘付けで、ふたりを注視する者はない。
カウンターの中ではらはらと見守っていた征羽矢以外は。
「…またっ…なに考えてんだよっ…!」
小さくひとりごちるが、女がさしてなにも考えていないことはよく知っていた。
「これ以上おれたちに業をしょわせないでくれよ…!?」
光世の演奏をまるで無視して、女はぽーっとしている若菜の手を引いてカウンターへと戻ってきた。
出ていったときと形勢逆転である。
「ソハヤさん、部屋貸してくださいよ、ワカナさんとサシ飲みしてきます。」
ずい、と手のひらを上に向けて差し出す。
鍵を渡せと言うのだ、自分勝手にもほどがある。
「あのなぁ!」
征羽矢は天井を仰ぎ見る。
変なプレイはしないと宣言したのは自分ではないか。
このままレズセックスになだれ込むつもりだろうが、足場を踏み外せば4Pに突入する危険性もあるのだ。
女にはいつでも気兼ねなく部屋に来てほしいと思ってはいたのだが、この調子である、合鍵は作らないのが正解だ。
「当店の大切なお客様のテイクアウトはご遠慮くださいませ!?」
-------------------------
〜⑤に続く〜
 
2025/09/12 21:19:23(CNUByWVj)
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