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hollyhocks occulted①
カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:空想・幻想小説
ルール: あなたの中で描いた空想、幻想小説を投稿してください
  
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1:hollyhocks occulted①
投稿者:
ID:jitten
〜まえがき〜
⚠書いた人はオタクです⚠某刀ゲームの二次創作夢小説です⚠暴力などこじらせ性癖の描写多々⚠自分オナニ用自己満作品です⚠ゲームやキャラご存知のかたは解釈違いご容赦ください⚠誤字脱字ご容赦ください⚠たぶんめちゃくちゃ長くなります⚠未完ですが応援もらえたらがんばります優しいレス歓迎⚠エロじゃないストーリー部分もがっつりあります⚠似た癖かかえてるかた絡みにきてください⚠

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見知った人間によく似ていると思って目で追った。
見知った、と表現するのが正解かどうか分からない。
どういうわけか、自分でない自分の記憶が、昔から唐突に回顧して交錯するのだ。
それはただの空想や幻覚かもしれない。
しかしその落ち窪んだ世界で共に過ごした人物に、あまりに、よく似ている。

硬そうな癖毛の黒髪のショートカットで、朴訥とした眼鏡をかけている。
化粧はほとんどしていないか、あるいはまったくしていないか。
背はやや高く、170センチくらいだろうか、だが決してとくべつスタイルがいいということもない。
年の頃は、自分と同じくらいか、落ち着いた素振りからすると少し上かもしれないが、丸い鼻と柔らかな頬のラインと二重まぶたが、若くも見える。
服装も、まったくの普段着といった風で、数年前に流行ったグロテスクなアニメを劇画調にデザインしたバックプリントが入った白い長袖のTシャツに、ケミカルウォッシュのベルボトムデニム、足元はスリッポンタイプのピンクのサンダル。
色気などないに等しい。
深夜のクラブに不釣り合いも甚だしい。
それも、たとえばちょっと正気を疑うような陰鬱な表情をしているとかであれば、まだ物語は紡げそうではあるが、その瞳はあくまでも一般的な普通の平均値の人並みで。
なにを目的にこの店にやってきたのか、推し量ることは難しい。

女はとりわけ薄暗いカウンター席のいちばん奥に座り、頭上にある棚に登山ブランドのボディバッグを押し込んだ。
そのとき、ヒップハングのデニムと丈の短めのTシャツの隙間に、なにかのタトゥーが入っているのに気付き、思わず目をやる。
異性の肌を、まぁ本人が意図して露出しているであろうことはさておき、あまりじろじろと見るのはいかがなものか、と視線を逸らす。
が、網膜に焼きついて離れない、真紅の、旗?
旗!?
まさしく、フリーイラストのいかにもなお子様ランチのオムライスに刺さっているような、三角形の、赤い、旗、が、ちょうど腰の右側にちらりと覗いたのだ。
旗!?
特徴的なタトゥーである。
植物や星やハートなどの記号的なデザインであれば、女性のセンスとしてはありふれているし、さほど気にもならないだろう。
仮に髑髏や天使や悪魔でも、ビジュアル系の好みもあるのだろうと納得できる。
空想の中の登場人物に似ていて同じ場所に同じようなタトゥーがあったとして、そんな偶然もあるものだとか、はやってはしる気持ちをどうにか軌道修正することもできる。
ところが、旗、である。
間違いない!
いやしかしあり得ない…
動悸をこらえて思考しながら、グラスのバーボンを舐める。
女は最初に注文したビールのジョッキをすいすいっと空にして、すぐに次を頼んだ。
カウンターの中のことは弟の征羽矢に任せている。
バーテンダーなどというとくすぐったがるが、愛想が良く話を盛り上げるのもうまいから、常識的に上品な常連客たちにはかわいがられていた。
征羽矢がきれいに泡の整ったジョッキを女に手渡す。

スマホも手帳も文庫本もそこにはない。
最近の客は手元にずっとスマホを置いていて、やれ写真を撮るだの、やれSNSに上げるだの、つまらないことに一生懸命になっているなと日頃辟易しているから、ますます、あの人間に違いないのではと、その性格や気質を思い出して、思索がこんがらがる。
音楽にのっている様子でもないが、わざわざこの店に来たのだから、喧騒を求めてはいるのかもしれない。
こっそりと横顔を盗み見る。
なんなんだ、物思いに耽るという情緒があるわけでもない、無機質な、人形のような、その面差しは。
頬の筋肉を1ミリも動かさずに淡々とビールを飲み干していくだけ。
わずか5分足らずで3杯目を用命する。

兄のなんともいえない表情に思うところがあったのか、征羽矢がカウンターの中から女に話しかけた。
「おねーさん初めてだよね?これサービスね、」
スモークチーズの載った小皿と次のジョッキを差し出しながら、
「けっこーなペースで飲んでるけど、だいじょぶ?」
弟の、この悪意のない軽さを、光世は尊敬していた。
たいていの人間は、征羽矢の明るく裏表のない物言いに心を絆され、素を出したり籠絡されたりするのだ。
が。
女はそれまでの無表情を一瞬で消し去り、柔らかく微笑んだ。
あからさまな作り笑顔は、まるで仮面であった。
「わ、ありがとうございます。でもほんと、そうですね、飲み過ぎですかね、お水もいただけますか?」
氷水を女の前に置いて、
「ゆっくり楽しもーな!」
とウインクした征羽矢が、そこから席を4つあけて座っている光世の正面にやってきてカウンターに両手をついた。
「怖っ、てか、キモチワルってゆーか、」
ホールには重低音が響いているから、小声で話す会話は光世以外には届かないだろう。
「感情ほぼゼロ、人外?」
それに対して返事をするわけでもなく、光世は開けたばかりのボトルを手にとって弟に向けて少し傾けて見せる。
「さんきゅ、」
たっぷりの氷を入れたタンブラーに、熟成された琥珀色の液体が注がれる。
瓶の炭酸水の栓を抜くと、小気味よく、ぱしゅんっ、と音が弾けた。
「兄弟が興味持つなんてめずらしーけど、あーゆーかんじがタイプ?意外だな。」
タンブラーに炭酸水を加えて、マドラーでくるりと一周だけかき混ぜ、それを喉を鳴らして飲む。
「…気が付かないか…?」
「ん?なにが?」
「…いや…」
光世はゆるゆるとかぶりを振る。
兄弟に言っても仕方のないことだ…
これは、ただの妄想なんだから…
長年、自分の妄想癖を呪ってきた。
物心ついたときには、夢か現実か分からない思い出のような景色を無数に知っていた気がしていて気味が悪かった。
日本の原風景に近い田舎の広大な屋敷、刀剣を掲げおどろおどろしい怪物と戦う、痛みや葛藤や幸福感、鏡に映る姿は光世にうりふたつではあり、ただその瞳は赤く燃えていて、血生臭さ、筋肉の感覚、全幅の信頼を置いていた主人の存在、賑やかな大勢の同居人たち、その中に、弟と同じ容姿の、同じように快活な男もいた。
そこの住人たちは夜な夜な日替りで主人の部屋を訪れては、あんな…あんなことを…
あそこはいったいなんだ?
あれはいったいなんだ?
いや、妄想だ!
ずっと見たくもない夢を無理やり脳内に流し込まれてきたのだ。
すべて妄想だ!
どこかで見たか聞いたかしたなにかの物語を勝手に抽出して組み替えてまるで記憶のように焼き付けられているだけだ!
勢いに任せてぬるいバーボンを胃の中に流し込む。
その姿を見て、征羽矢は光世の前にも水のグラスを置いたが、ホールで誰かが怒鳴り散らかしている声を聞いて、顔をしかめてその場を離れた。
行儀の悪い客同士が、なにかが気に入らないと衝突してつかみ合っているようだ。
それこそホールにもスタッフはいるが、こういった面倒事をうまく丸め込む才能も、征羽矢にはあった。
喧嘩両成敗、と双方をのして店の外へ放り出してしまうこともあれば、なぜか妙に仲良くなり征羽矢も混ざって酒を飲み交わし始めることもある。
光世は、ふぅ、と息をついた。
また、ちらり、と女の様子を窺う。
少し猫背だが、まっすぐに座って、ただビールを飲み、間にチーズをつまむ。
少し乾燥した唇が開いて、くすんだ乳白色のチーズを咥える。
細く白い指がそれを押し込む。
マニキュアも指輪もない、ペンだこのある、艶のない指だ。
光世は体中の血がぐるりと渦巻いていくように感じて、瞼の上をしばらく押さえ、それからのっそりと立ち上がった。
ホールの眩い明かりが遮られ、長いカウンターの奥の方へと影が伸びる。
ゆっくりと一歩、女へと近づく。
女は、ジョッキの把手にかけようとしていた手を止め、もぐもぐと口を動かしながら、自分を包んだ闇の出どころを横目で見やる。
「…」
空席3つ分の距離がまだある。
光世はなにか言おうとしたが、どの単語を選ぶべきか分からず、掠れた母音は意味をなさないまま、陽気な音楽に掻き消された。
どくん、どくん、と肉体の中心がマグマのように脈打ち、こらえきれない。
今度は、ずい、と大きく踏み込み数歩をすすめ、女の隣の席のカウンターに右手をついて、じろり、とその顔の輪郭を見下ろした。
「…なんですか?ナンパです?」
先と同じ作り笑いで、くすっ、と口角を数ミリだけ上げて、首を傾げる。
目は、合わない。
その腕を、少し手荒く掴み、引く。
なにか言わなければ…
悲鳴をあげられても、平手打ちをくらっても仕方がない状況であったが、言葉が出てこないし、どういうわけか女も立ち上がり、光世の逆光で薄暗い顔を見上げた。
「つれてってくださいよ?」
焦茶色の瞳は、あいかわらず笑ってはいない。
女が眼鏡を外してカウンターの上に置くと、カチャリとプラスチックが鳴り、鎖と錠が弾け飛ぶビジョンが光世の脳裏に浮かんだ。

倉庫代わりの小部屋になだれ込む。
段ボール箱がいくつも積んであり、古い音響機材が部屋の奥に乱立している。
光世は振り向きざまに乱暴に扉を閉め、そこに女の体を押し付けた。
むしゃぶりつくように唇を奪う。
半開きの歯の間へと舌をねじ込み、ねばついた口内を舐め回すと、苦いアルコールの匂いが鼻腔をついた。
扉はホールから響いてくるベース音でごく小刻みに震えている。
顔を傾け、角度をずらして、奥へ奥へと舌を差し入れると、女はそれに応えるように、軽くきゅうっと吸い付いた。
ぞくり、光世の背筋が粟立つ。
重なった唇の端から熱い息が溢れる。
女の両の手のひらは光世のうなじに回され、するりとその髪を梳いていく。
ねっとりと唇を重ねたままに、光世は女のデニムと下着を同時に膝の上まで脱がせ、すでに濡れそぼった部分を弄った。
ぴく、と女の胸が小さく跳ねる。
顔をゆっくりと離すと、粘度の高い唾液がつうっと糸を引いて、扉の隙間から転がり込む廊下の明かりを反射した。
女の目は、さきほどまでとはうってかわって、熱と欲にまみれた色でぎらついている。
まともに手順を踏むのももどかしく、女の左腕を力まかせに引き、今度は背中側から押さえつけた。
はだけた腰から臀部にかけて、右寄りに、帆船のタトゥーが入っている。
マストのいちばん上に翻っている赤い旗が、ちょうど服の切れ目に位置しているのだ。
船。
幾度となく目にした図柄。
ここではないどこかで。
そこでも、光世は主人である女を何度も何度もがむしゃらに抱き潰していた。
そういうしきたりだっただけだ。
愛とか恋とかではない。
光世たちは化け物と戦う。
主人は男たちの枯渇した不思議な力を補うために身体を捧げる。
そういう儀式。
視界がぐらぐらする。
あの程度の酒で酔うなど、これまでにない。
勘づいていた、女の、気、に、あてられているのだろうかと。
息苦しいスラックスの前ファスナーをくつろげ、そそり立ったそのものを取り出して後背位で荒っぽく挿入する。
「ぁ…!!」
女が体をくねらせてよがった。
じっとりとした肉の圧が光世自身を包みこんで絡み付く。
その得も言われぬ快感に抑えが効かず、光世は両手で女の腰を掴んで揺さぶりながら激しく抽送を繰り返した。
「いっ…!…は、ぁっ…!」
そのまま床へと引きずり倒し、さらに腹の奥へと押し込んで、臍の裏の壁をこねくり回す。
女はもがくように下半身を突き上げて、サンダルの脱げた裸足の爪先をピンと硬直させた。

ギィ、と細く扉が開いた。
鍵はないのだ、外から征羽矢が覗いて、気まずそうに目を伏せる。
「…少し待てよ…」
光世が息も切らさずに吐き捨てるようにがなった。
「おいおい…」
呆れたように台詞を飲み込んだ征羽矢に、光世は首を傾げてみせた。
「…覚えが、あるだろ…?」
「…なんの話だよ?初対面だろ?」
「ああ、そうだ。だが…知っている…」
聞こえてくる音楽のテンポとキーが変わった。
DJの交代の時刻だ。
この合間に休憩をと外に出たり手洗いに行ったりする客が多い。
どうしようかと迷いつつ、征羽矢はあたりをキョロキョロと見渡してからするりと部屋の中に滑り込んだ。
さらけ出された女の肌を直視するのを躊躇い、ふらりと視線が宙をさまよっている。
「どーゆーことだよ?そんなオカルトなことゆわねーじゃん、」
「…本当に、記憶にないか…?」
「き、おく…?」
「…兄弟も…あるんじゃないのか?…存在しない?…記憶…?」
征羽矢ははっと目を見開いた。
それを横目に、光世は再び女の腰を強く引き付けた。
「…んっ…!…ふ…ぅ…」
声を殺して、女が喘ぐ。
「…いわみの、くに…ほんまる…ときの、せいふ…じかん、そこう、ぐん…?」
なんども、その猛り立ったものを女の身体の中へと突き刺しながら、不可思議な単語を並べていく。
「…おおでんた、みつよ…そはやの、つるき…」
征羽矢は拳をきつく握り込み、光世を睨みつけていた。
「…兄弟のほうが、よほどしたっていたじゃないか、おれのは…」
ぱしゅっ、ぱしゅっ、と肌がぶつかり合うタイミングで、透明な体液が溢れ、女と光世の太腿を伝って流れていく。
「おれのは、ただの、しゅうちゃくだ…」
ずるり、と、痙攣する蜜壺から、まだそそり立ったままの自身を引き抜き、肩越しに振り返った女の頭を掴むと、問答無用でそれを咥えさせる。
「…ぐっ…が……が…」
よだれを垂らし呻いてえづく女を、冷ややかに見下ろして、それから光世は弟に優しく笑いかけた。
「…兄弟もあのほんまるにいただろ…?」
「…夢、じゃ…あれは……そんな…」
呆然と、しかし眼光は鋭く、征羽矢は呟く。
まばたきを忘れ、力を込めた握りこぶしはぶるぶると震えている。
「…ゆめ、」
光世は、自身を必死に頬張る女に目線を戻し、その後頭部を、弟を見やる時との温度差のひどい顔つきとは裏腹に、さも愛おしげな仕草で撫でながら、投げかけられた言葉を繰り返した。

「…店は?」
「…濱崎が出勤したから任せてきた…」
「じゃあ、いいな…ほら、」
顎でしゃくるように女の方を示す。
「…もう辛抱たまらないだろ…?」
征羽矢が、かっと頬を赤く染めた。
ソムリエエプロンの下で、その部分はすでに膨らみ、苦しそうにぎゅうぎゅうとうごめいていた。
だが、歯を食いしばり、固唾を飲み込む。
なんと答えるのがいいのか、探っている。
光世は、女の髪を掴んで口淫をやめさせると、毒を含んだような色気の濃い声で、耳元で囁いた。
「…ほら、あんたからもねだったらどうだ…?」
「…ぁぅ…」
女はぼたぼたと唾液を垂れ流し、恍惚とした面持ちで征羽矢を見上げた。
「……して…?」
「…っ…!」
理性が吹っ飛ぶ。
熱っぽく焦点の合わない目で射抜かれて、征羽矢はエプロンをむしり取ると、女の腰を掴んだ。
「…くそっ!…くそくそくそっ…!」
片手で器用にベルトを外して、猛って反り返ったものを取り出すと、濡れてひくつく秘所へと強引に押し込む。
「…あぁっ…!い…いぃよぉ…!」
女は正面に膝立ちしている光世の胸にすがりついた。
ねちねちと卑猥な水音が狭い部屋に反響する。
「…なんなんだよ!なんなんだよ!あんた…ほんとに…!」
呻きながら、激しく腰を打ちつけ続けた。
「…あるじ!?…かよっ…!?…そんな…わけっ…」
Tシャツごしに両手で乳房を揉みしだく。
光世は満足げに弟の蛮行を眺めつつ、女の顎を掬って尋ねた。
「あんた…さにわ、か…?」
女は征羽矢に苛まれ、正気をなくしたような相形で、矯声をこらえている。
「…?」
その問いかけの意味が理解できない様子で、快楽にただ溺れていて、光世の首に片腕を回してまた自ずから唇を重ねた。
しばらくそうしていたが、征羽矢が唸った。
「わるい、兄弟、」
長くしなやかで筋肉質な腕が光世を後ろへ突き飛ばした。
すがっていた対象がなくなり、女の上半身はどしゃりと崩れ、その背中を征羽矢はぐいぐいと床へと押し付ける。
「…んぁっ…!…いっ…ひぁぁっ…」
女の拳がフローリングを叩く。
「…ゃぁっ…い…ぐぅっ…!」
「…イけよっ!おらぁっ…!」
征羽矢が唾を飛ばしてがなった。
やれやれ、と光世は一歩下がり、まだびくびくと脈打つ自身のものを慰めながら、二人の行為を眺めている。
女には、兄弟が共有している謎の記憶がないようであった。
女が気を遣り、征羽矢も最初の精液を存分に放ち、部屋には生臭い匂いが充満していた。
女の四肢はくったりと疲れ果てている様子ではあったが、そのあたりに転がっていた木箱に腰掛けた光世が目配せすると、吸い寄せられるようにその剛直を咥えてしゃぶり始めた。
「…兄弟、あの、あれは…ほんまる…俺たち…いったい…」
征羽矢はごそごそと身支度を整えながら口ごもった。
「…なにも、分からん…ただ…この、この…」
じゅぶじゅぶと音を立てて光世の陰茎を舐め回す女を睨む。
「…これを、どうにかしたい、欲が、収まらない…あのとき…あのときのように…ぐちゃぐちゃに、してやりたい…」
また、ないはずの記憶が、新たに、舞い上がる。
畳の間には綿の潰れた敷布団、月明かりと蝋燭の炎、障子戸にうつって揺れる影、はだけた襦袢、柔らかく薄い皮膚、主人でありながら生贄であり、男たちの言いなりに開かれる身体。
ときには手首を縛られ、ときには縄でがんじがらめにされ、ときには猿ぐつわをはめられ、ときには刃で肌に傷を刻まれ、ときには足蹴にされ、なにをされても淡々と受け入れ、しかしそのうちに自我を失うほどに惚けさせられ、白濁液にまみれて、息を殺して、最後には無機質に微笑む。
日によっては数人を同時に相手し、合意の上の儀式であったとしてもそれはもはやレイプに等しかった。
主人は静かに涙を流し、震えて耐え、下唇は噛み切れ出血していたが、時間が過ぎるほどに、どちらが上でどちらが下かも分からないくらいに、正気を失っていく。
ほとんど毎晩、違う男たちが主人に跨り、獣のように肉欲のままに貪った。
男たちの外見は様々で、大柄で屈強な者、背が高くモデルのようなスタイルの者、少年のように小柄な者、中には女性に見紛うほど華奢で美しい者もいる。
見た目がどうあれ、戦いの後の男は一様に主人を抱き、それでは飽き足らず朝まで凌辱し続けるのだ。
おおでんたみつよ、と呼ばれる自分自身も、別に主人を愛しているわけではなかったが、戦から帰ると無性に体が火照り、その肉体を求めずにはいられなかった。
思い出される、懐かしいような、完全に狂った日々の記憶…

かいがいしく口で奉仕する女をぐいと押しのけ床へと突き倒すと、その両膝を割り、とろりと濡れて光る部分にごつごつと骨ばった指を差し入れた。
「…あんたが…あの…あのさにわなら…ほら…ここだろ…?」
腹側の壁をぐいと押す。
もう片方の手で外から臍の下を圧迫すると、女が声を上げて腰を捻った。
「あぅ…ふ、ふぁぁ…き、きっ…!」
「…ここだろ…?こうして欲しいんだろ…?」
生ぬるい吐息を首元に吹きかけ、耳たぶを甘噛みしながら、膣内で3本の指をバラバラに動かす。
「…や、やだぁっ…あっ、ちが…ちがっ、やめ、やめ、ない、でぇ…」
両手で顔を隠して、それから慌てて淫猥な言葉が飛び出してしまう口を押さえた。
「…おい、」
光世はほとんど衣服を直し終えた弟を呼ぶ。
「…手、押さえてろよ…?」
「まじかよ…やべーって、」
征羽矢は肩をすくめた。
「…別に…強姦してるわけじゃない…なぁ…?」
ぞろりと濁った目で女を見下ろす。
「…知ってるだろ…?こういうのが好きだったじゃないか…?」
女の火照った頬が更に高揚して色づく。
これからどんなふうにされるのか想像して子宮を疼かせているのだろうか。
征羽矢は観念したように、内開きの扉の前に重量のある段ボールや木箱をいくつか積み、それから女の頭元へ膝をついて、その両手首を頭の上でひとまとめにして拘束した。
女の顔を覗き込むと、うっとりとしていて、それでいてどこか作り物めいたおぞましさを感じ、その感覚に、あやふやな記憶に色彩がついていった。
そうだ…
あるじは、夜ごと様々に犯されるうちに、大切に優しく抱かれるだけではよろこべなくなっていったんだった…
征羽矢のものが、またぐんと立ち上がった。
光世が指を引き抜き、黒ぐろと血管を浮かせた男根をそこにねじ込んだ。
「…きっ…」
捕らえられた手を振りほどこうと力が込められるが、無駄な抵抗である。
「…ほら、このほうが…感じるんだろ…?」
光世は舌なめずりをして征羽矢と視線を合わせた。
「…兄弟も、見ててやれよ…なぁ、見られてると…いいんだよな…?」
そう言いながら、ずん、と奥を突く。
「…あ…!…き、きも、きもちい…いぃ…」
全身を震わせて腰を浮かせる女を、征羽矢は食い入るように見つめた。
やばい…
もういちど…
やりたい…
口の中にぬるぬるとした唾液がたまっていく。
頭上から覆いかぶさって、さかさまに口づけると、それを流し込んだ。
ぴく、と女の腹が痙攣して、光世も身震いする。
「…いいな…」
深く浅くとピストンを繰り返していた光世が仰け反って、女の身体の最奥を叩くと、ずぶずぶと、結合部分から精液が溢れてきた。
女も、口を塞がれていて声は出さなかったが、熱く湿度の高い吐息が征羽矢の舌をかすめた。

光世は無表情ながら満足気に自身を引き抜き、手早く服装を整えると、まるで何事もなかったかのように乱れた髪を手で梳いて、言った。
「…時間だ、出てくる…」
征羽矢に開放されて女は体を起こして光世を見上げる。
その瞳は、すでに半分は快楽と絶望から戻ってきていた。
それはまさしくあのほんまるのあるじのあの行為のあとそのものだった。
「…すまなかったな…気分が悪くなければ、聞いていってくれ…」
扉の前の箱を足でぞんざいにどかし、振り向かずに部屋を出ていく。

征羽矢は舌打ちして、扉の向こうへと見えなくなった兄の背中を睨んだ。
「…なんだよ!勝手だな!」
カッターシャツの肩で口元の唾液をぬぐう。
「ねぇ、」
女が征羽矢のシャツの裾を引っ張って、淡泊ながら仄甘く呼びかけた。
「いいですよ、きてください、」
あぐらをかいた征羽矢の胸に軽く体重をかけて、せっかく締め直したベルトを再び緩める。
「ちょ!ちょ、ちょ、え?え?」
征羽矢は慌てて少し後ずさるが、慣れた手つきでずり下ろされた下着から興奮したままの身体を露わにされ、女はそれをためらいなく口に含んだ。
「…あー…」
征羽矢は片手で顔を覆い、どさりと床に寝転ぶ。
暖かくて柔らかく、舌の艶めかしい動きで敏感な部分を舐め回され、血が沸き立つようだ。
「…なぁ、攻められるほうがいいんじゃねーの?」
喉の奥から、冷静を装った言葉を絞り出す。
「べふに、」
別に、と答えたのか、発声の際の微振動が思わず刺激的で、征羽矢は眉をひそめた。
女は、それまで中途半端に膝まで脱ぎかけていたデニムと下着を取り去り、そこで吸茎をやめ、自然な動作で征羽矢に覆いかぶさって自分の中へとそれを招き入れる。
「…んっ、なんだってんだよ…あんたも…」
官能的な息を吐いたのは征羽矢の方だった。
「ね、さっき、なんの話してたんですか?」
女はゆっくりと、スクワットをするように征羽矢のものを腟の圧で扱きながら問うた。
「本丸って、なんですか?城マニアなんですか?」
女の中の水気が増すと同時に、征羽矢の質量も増していく。
「さにわってなんですか?あるじってわたしのことですか?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!ストップストップ!」
「お兄さん、わたしのこと知ってるみたかった…なんでですか?」
上下運動を止めずに、征羽矢のシャツのボタンを上からひとつ、ふたつと外していく。
短い爪で鎖骨から胸へとじりじりと引っ掻いていく。
「あー!もう!」
たまらず、征羽矢は女を下から抱えて起き上がり、そのままの勢いで逆に組み敷いた。
「うるせーな、知らねーよっ、」
女の膝を掴んで広げ、乱雑に下半身を打ちつける。
蘇る光景は、映画のフィルムのように、連なって、征羽矢の頭を混乱させた。
近く遠く鳴る雷、雨音、蛙の声、むせ返るような香の匂い、濡れた草の匂い、自身から湧き上がる血の匂い、鋼の匂い、無造作にとらえた腕のあまりの細さ、非力さ、腹に渦巻く加虐心、殺意に似た独占欲。
今ここにはない景色と感情を薙ぎ払うようにかぶりを振り、女の喉に犬歯で噛みつく。
なぜか、乱され、狂わされる…
容赦なく何度も奥の壁を殴りつけるように突き、衝動的に絶頂を越えて白濁液を放った。
「…くっそ…!」
歯ぎしりで雪崩れてくる快感をいなして、女の膨らんだ胸に鼻先を埋めた。
こんな余裕のないセックスは初めてだった。
年齢相応に経験はあるし、恵まれた体躯と身体能力で、全ての場面で優位に立ってきた。
またこれまでは相手も征羽矢が雄々しく振る舞うことを喜んで受け入れてきた。
若干の屈辱と恥辱と、さらに微かな、形容し難い悦に、思考は蝕まれていく。
女が征羽矢のつんと跳ねる金髪を、面白がるように指先でくるくるともてあそんでいる。
兄に抱かれているときにはあんな蕩けた顔をしていたのに…
「…あー、ごめん…」
視線を伏せて、体を離すと、そのへんの段ボール箱をごそごそと漁り、たまたま発掘された店の広告が挟まったポケットティッシュを数個、女へと放り投げた。
背中を向けたまま改めて服装を正し、先に投げ捨てたエプロンを拾い上げる。
女も素早く身支度を整え、征羽矢の後ろからふわりと抱きついて、背骨に唇を押し付けてくぐもった言葉を紡いだ。
「めっちゃよかったです。またきてもいいですか?」
「…そりゃ、まぁ…」
征羽矢はらしくなくもごもごと言い淀む。
そこへ女は追い打ちをかけるようにワントーン声を落とした。
「…ききたいこともありますし、ね。」

ホールの熱気は最高潮に達していた。
ごく小さなクラブだが、客はおそらく150パーセントは入っている。
男女が入り乱れ、体をぶつけ合いながら手を上げて、リズムを刻み、酒に酔い、歌を口ずさみ、大勢が店のオーナーであり看板DJでもある光世に心酔しているようだった。
揺れる群衆の波を掻き分けて、端にあるカウンターバーまでなんとかたどりつき、征羽矢と女はそれぞれビールを煽った。
さっき出したスモークチーズは柔らかくぬるくなってしまっていたが、女は構わずにそれを齧った。
「ソハヤさん、」
征羽矢とおそろいのシャツとエプロン姿の学生風の青年が近づいてきて、ひとことふたこと、なにか申し送りをして、ちら、と女を見る。
「ソハヤさんのカノジョさんっすか?」
「ばーか、ちげーよ。」
にかっ、と歯を見せて笑う。
それがホールのライトに負けない眩しい笑顔で、女は顔を背けた。
カウンターの反対の端の席から、濱崎ぃ、と呼ばれると、はぁい、と元気よく返事をして、青年は女にも会釈をしてその場を離れた。
直に閉店の時間である。
ミックスも佳境に入って盛り上がり、演者も客もアドレナリンが溢れこぼれて、現実と夢の狭間のような、小学校のプールの授業のあとの教室のような、心地よくけだるい空間になっていた。
音楽が止み、大歓声と地響きが起こり、拍手と口笛がひとしきり鳴り、それからゆっくりとゆっくりとボルテージが下がっていく。
人々はさざめき合いながら店を出て階段を上がって日常に戻っていく。
女はその気配と音を、じっと無言で感じて聞いていたが、すっと立ち上がり、上の棚からバッグを取り財布を出した。
客の引いたカウンターを拭いていた征羽矢がなんとなく動揺してそれを引き止める。
「ちょっと待ってろって、もう兄弟が戻るぜ?」
濱崎と呼ばれた青年は、なるほどミツヨさんのカノジョさんなのか、と納得する。
「別にいいです。またきます。」
カウンターの内側にかけられた伝票を勝手に手に取り、そこに書かれた金額を適当に繰り上げて数枚の札を置き、ボディバッグを背負う。
「終電もうねえよ、タクシー呼ぶか?」
なんとか足を止めようと、征羽矢がしどろもどろに会話を探している。
「必要ないです。ありがとうございます。」
「待てって、もー!ほんっとに話きかねーな、あんた!」
征羽矢の叫びに耳を貸さず、踵を返してドアノブに手をかけた、そのとき、ぽたり、と手の甲に水滴が落ちた。
斜め上を振り向くと、光世が背中にぴったりと張り付いていて、ドアを開けさせまいとノブを押さえた。
濡れた灰鼠色の長髪から、汗がしたたっている。
征羽矢がやれやれとため息をついた。
「濱崎、あと片付けとくから、あがっていーよ?」

半地下にある店から地上に出て、ビルの横に回るとさらに上へと伸びる階段がある。
2階が兄弟の自宅であった。
女を部屋に招き入れ、傷だらけのフローリングに散乱した酒瓶を壁際へとどけていく。
なんとか客人を座らせるスペースを作ろうと、征羽矢があれこれと画策しているそばで、光世はおもむろに女に口づけた。
ついばむように何度も角度を変え、頬を手のひらで固定して逃がすまいと、精神を絡め取ろうとする。
「どーかとおもーぜ!?」
征羽矢は呆れて、片付けを放棄してパイプベッドのひとつに腰掛けた。
ふう、と色気の濃い息をつき、光世がゼロ距離で女に囁きかける。
「…もういちど、抱きたい…」
女はくるりと丸い目を開いて、ふてくされた征羽矢の方を見やる。
「いいですよ。ね、さっきの変なはなしをしながら、してくださいよ、」
光世の手を取り、ベッドの征羽矢の隣に寄り添って座った。
「…なにから、話せばいいか…」
光世も女の隣に座ると、みしり、とベッドがきしんだ。
「じゃあ、あなたは、だれです?」
「…三池、光世…」
「俺は!俺は三池ソハヤ!遠征の征に、羽に弓矢の矢!」
「はいはい、そちらは後ほど。さっき言ってた、おおでんた?みつよ?は誰ですか?」
「…聞いてたのか…」
光世は困ったように顔を伏せた。
「…そういう名の刀がある…そう呼ばれていた…」
ふーん、と女が鼻を鳴らした。
スマホを取り出して検索する。
「あ、ほんとに実在する刀剣の名前ですね。」
さらさらと斜めに細かい文字列を流し読む。
「刀工に三池光世とありますね、ご縁が?」
「…いや、知らない…両親からも聞いたことはない…」
「ご両親は?」
「…普通に健在だ、今はゆかりは薄いが…海外を転々として暮らしているはずだ…」
うーん、とわざとらしく唸り、女はスマホから目を離して、興味深げにほのかに笑みを浮かべた。
征羽矢がちゃちゃを入れる。
「俺も調べたことあるぜ?そはやのつるきも刀の名前だ、三池光世の作のな、」
女の手からスマホを取り上げ、眼鏡を外してベッド脇の本棚の隙間に置く。
露わになった瞳を覗き込んで言葉を続けた。
「でもまぁ三池なんてそれなりにある名字じゃね?」
「そうですかね、わたし初めてお会いしますけど、」
今度は後ろから光世が女の髪に顔を埋める。
それを気にする素振りもなく女はくすくすと頬を震わせた。
「なんか、アニメやゲームの、擬人化?的な?」
光世の手のひらがするりとTシャツの裾から侵入して、女の肋骨をなぞる。
「なあ!なあなあなあなあ!」
征羽矢が女にくってかかった。
「あんたは名前なんてゆーの?なんて呼べばいい?」
「名乗るほどの名前はないですよ。」
女は下着の間から胸の先端に無遠慮に伸びる冷たい手を邪険に払い、光世の方へと向き直る。
「武士かよ!」
征羽矢は小気味よくツッコミをきめるも、また唇を重ねて水音を立て始めた二人を苦々しく睨みつける。
「呼ぶとき困るじゃん、なんでもいーからなんか決めろよ、」
光世が少し女の体を押したから、征羽矢にもたれかかるような姿勢になり、女は首をぐいと上げて、その拗ねたような顔を見上げて答えた。
「あるじと呼べば良いのでは?」
「それ人前じゃ呼びにくっ!」
「そうですね…では……じってん、と。」
「?」
突拍子もない響きに、思わず固まる征羽矢に、女はまた例の作り笑いで微笑みかけた。
光世が、征羽矢に女の体を押し付けるようにして、汗ばんだTシャツをまくり上げ下着をずらし、そこに歯を立てた。
こりこりと甘噛みすると、女は肩を小さく跳ねさせる。
生唾を飲み込み、征羽矢はがばり、とシャツを脱ぎ捨てて、女の両の手首をシーツへと縫い付けた。
光世が女のデニムと下着をを脱がせて、そこへ跨った。
「…すっげ…ぶっちゃけマジこーふんするわ…」
征羽矢の色素の薄い瞳がぎらりと光る。
光世が、ぼそりと口を開いた。
「…あんたは、俺たち人間の姿になった刀の、主人だったんだ…」
女が首を傾げる。
「あるじ、ってことですね?…なるほど…」
そして疑問を口にする。
「では…なぜ?主人とまぐわろうとするんですか?関係性が秩序ないじゃないですか?」
光世はそれには答えず、女の足を開かせて、そこに猛り立ったものを突き刺した。
鋭い享楽に、女が目をぎゅっと瞑る。
「…なんかさ、へんな怪物と戦わされるんだよ、あんたに。そんでさ、ほんまるに帰ってきたらさ、もー、どーしよーもなくさ、昂っちゃって、抑えらんねーのよ。」
代わりに、征羽矢が返事をする。
「れーりょくのきょーきゅー、ってゆってたかな?」
まばたきを忘れた乾いた目で、兄と女との結合部分をじっと凝視した。
欲望がむくむくと膨張する。
ずじゅ、ずじゅ、と淫猥な音が鼓膜の奥に反響する。
腰を前後に振りながら、光世の指先が女の陰核をひっかくように刺激した。
「…んっ…あ…ま、まって…」
女が光世の分厚い胸の下でもがく。
おしゃべりをしている余裕がなくなってきたのか。
執拗な愛撫が継続される。
「…だ、そ、それ…だ、めぇ…」
うっすらと涙目になる女を、じっとりと見下ろして、光世が声を絞り出す。
「…思い出した…こうするのが、いちばん、よかったよな…」
片手を女の喉にかけ、じりじりと脛骨を圧迫し、気道を狭める。
もう片方の手は、あいかわらず股ぐらを、触れるか触れないかくらいの加減でいやらしく撫で回している。
「…か…が…は…っ…」
女の眉が苦痛で歪む。
恐怖と快感がないまぜになり、光世を包みこんだ秘所の肉の壁はぎゅうぎゅうとそのものを締め上げた。
征羽矢の鼓動は一気に早鐘を打ち、女の口の端からよだれが一筋垂れていくのを瞳孔の開きかけた目で見つめている。
「…ぎ、ぼぢいぃ、よぉ…」
潰れたしゃがれ声でさえずりながら、女のまぶたが痙攣する。
伏せたまつげが頬に影を落としている。
「…すごいな…」
光世が背を反らせて打ち震えた。
女の豊かな臀部を抱え込むように掲げ、最も奥の内臓の壁を擦るように腰をグラインドさせる。
「…ふ…」
低く掠れた吐息を食いしばった歯の隙間から漏らす。
ベッドがみしみしと悲鳴を上げた。
征羽矢の呼吸が荒ぶる。
「早く代われよ、」
果てたものを引き抜いた兄を押しのけて、女に覆い被さり、ふくらんだ下半身をその太ももに擦り付けた。
「…ま、まって、」
女は解放された手で征羽矢の胸を押し返そうとするが、今度はそれを光世がとらえて、離さない。
「…折ってしまいそうだな…」
ふん、と小さく鼻を鳴らして、それから弟のものに貫かれて喘ぐ女を、鈍く光る目で舐めるように視姦する。
首に赤く残っている跡を確認すると、得も言われぬ支配欲が満ちていった。
「…たまんねー…」
征羽矢が松葉くずしのように体位を変えながら、少し息を上げている。
「…おれ、そんなにだいいちぶたいにはいってなかったからな、」
ぐるぐると混乱する記憶にあてられて、また現実にはないことを無意識に口走る。
光世が、身につけていたベルトを外して、それで女の手首を頭上のベッド柵にくくりつけた。
「…レイプしてるみてーだな…」
役目を手放した光世は征羽矢の呟きを無視して立ち上がり、冷蔵庫から缶ビールを取り出してプルタブを上げる。
プシュ、と、状況に不釣り合いなさわやかな音が響く。
窓にかかったブラインドは閉まったままだ。
がしゃん、と不協和音を立てて隙間をひとつ指でこじ開けると、東の空がうっすらとオレンジを帯びた青に染まり始めていた。
中身を一息に飲み干してその空き缶をキッチンの流しに放置してから、光世はもう一つのベッドに潜り込んだ。
「…ほどほどにしとけよ、兄弟…」
許可も得ず勝手に明かりを消し、いちおうそう声をかけてはみたが、行為に夢中になっている弟の耳には届いていないようだった。

だいたい決まった時間に自然と目が覚める。
ぎし、体を起こすと、いつも通り、ベッドが音を立てる。
いつも通りペットボトルのまま水を飲んで、いつも通りシャワーを浴びる。
いつも通り、寝起きの悪い弟の寝顔を覗き込むと、その腕の中に女が丸まって共に眠っている。
裸に近い格好で向かい合って、すうすうと寝息を立てている姿は、まるで恋人同士のようであった。
女の前髪に触れようかと手を伸ばしかけるが、起こしてしまってはいけないと思い直し、引っ込める。
怒涛の展開で巻き起こる不可思議なできごとを理解はできない。
ファンタジーな妄想を、前世だとか来世だとか平行世界のもうひとりの自分だとか、そんな話を信じられるほど柔軟でも残念でもない。
そもそも、あのおおでんたみつよと光世はイコールではないし、あのそはやのつるきと征羽矢もイコールではない、のに、あのさにわとこの女が完全にイコールのように思えるのがまたさらなる不可解で。
考えるだけ無駄だなと思考を手放し、冷蔵庫から、いつもよりひとつずつ多く卵とハムを取り出して手際よくハムエッグを焼く。
トースターで食パンを温める。
インスタントコーヒーを入れようとして、マグがふたつしかないことにふと気付き、もう1杯はスープカップに作る。
それがなんとも不格好で、思わず、ひとりなのに、ふふ、と口元を緩めてしまう。
その穏やかな生活音と華やかな香りに、征羽矢と女が目を覚ました。
そろって大きくあくびをして、顔を見合わせて、征羽矢は笑い、女は肩をすくめた。
「なんか服貸してくださいよ、あとシャワーとタオル、」
「Tシャツハーパンでいっか?」
征羽矢が乱雑に積まれた衣装ケースから、なにかのフェスのTシャツを引っ張り出すが、派手なタイダイ風のデザインに女は首を振る。
「ミツヨさんのやつのほうがいいっぽいです。」
「なんだよ、つめてーな。」
征羽矢はわざと頬を膨らませて不満げにするが、ぐぐっと伸びをして、もうひとつあくびをした。
「先シャワー使えよ、」
「や、一緒に済ませちゃいましょう?」
めいっぱい背中を反らせて両腕を伸ばした姿勢のまま、征羽矢が動きを止める。
「は?」
「だって、冷めちゃいますよ。適当にタオル借りますね、」
光世から黒い無地のTシャツとジャージのズボンを受け取りながら、まるで自分の家であるかのような顔をしてシャワールームへと向かう。
「…は?」
征羽矢はまだ固まっているが、女の背中と兄の顔を順番に見る。
光世は憐れみを浮かべた表情で、頷く。
「…マジかよ…」
のそり、と女の後を追ってシャワールームを覗く。
当たり前だが、なにも身にまとわない身体で、空のバスタブの中ですでにシャンプーをしていた。
泡が頭から背中へ、背中から臀部へと垂れ、帆船のタトゥーはまるで霧深い海上を進む海賊船のようだ。
セックスするときには別にどうということもないのに、昼間に、健全な裸体を目の当たりにすると、たじろいでしまう。
おずおずと自身も肌着を脱ぎ、遠慮がちに洗い場に立ちカランを回した。
頭から熱い湯を浴びていると、
「かけてくださいよ、」
と要求され、言われるがままに泡を流してやる。
真っ白な泡の塊が、なめらかな曲線に沿って滑り落ちていくのを眺めながら、俺なにやってんだろ、と、まだ完全には覚醒していない頭でぼんやりと考えた。
「ありがとうございます、先出ますね、」
女はそんな征羽矢の苦悩も知らず、バスタブをひょいとまたいで洗い場へと上がる。
狭い空間で、さらけ出された濡れた肌が触れ合った。
また邪な願望が顔を出す前に、征羽矢は慌てて顔面に湯を叩きつけた。

男物のシャンプーの清涼感の強い香りが女の髪から漂ってくる。
小さな座卓に並べられた朝食のような早めの昼食を食べる。
女は両手でスープカップを包み込むようにして、その縁に唇を寄せる。
「じってんってさ、なんかなー。じっちゃんだとじじいみたいだしさぁ。」
征羽矢が目玉焼きの黄身をつつきまわしぼやいた。
「どーゆー意味?漢字?」
女は首を傾げた。
「さぁ?」
「さぁ、って、なんか意味ないの?」
「どうですかね、ぱっと頭に浮かんだだけですから。」
猫舌なのか、ふーふーとコーヒーを冷ましながら、あまり興味なさげに答える。
「じゃあ、じゅってんって意味ってことで。」
「じゅってん?」
「百点満点中の、十点。じってんって発音することがあるでしょう?」
「え?それなんの点数?」
「…だから、そんな意味ないんですってば。」
女は呆れたように、光世の方へ助けを求めて視線を送った。
光世は、弟が話が通じないのはままあることだ、と言わんばかりに苦笑いを浮かべている。
「まぁいっか、てん、てんちゃん、てんこ、てんぼう、てんすけ…」
ぶつぶつと、呪文のように、あるいは金魚の名前でも決めるかのように、様々な候補をあげていく。
「てんちゃんはさ、どこ住み?何歳?」
「兄弟、」
光世が低い声で征羽矢の質問を制した。
「なんで?いーじゃん別に。俺はね、25歳。」
「…兄弟!」
静かにたしなめる。
「兄弟はさ、なんも聞かな過ぎじゃね?気になんねーの?」
光世はその問いかけには答えずに、食事を終えた食器を持って立ち上がる。
「あ、洗いますから、」
女も、征羽矢の質問は無視して後ろ向きの光世へ声をかけた。
かすかに頷くと、光世はプラスチックの洗い桶に溜めた水にそれらを漬け、丁寧に手を洗って、タオルで時間をかけて拭いた。
壁に立て掛けてあるギターのひとつを掴み、ベッドに腰掛け、本棚から楽譜を選び、パラパラとページをめくる。
しばらくの紙のこすれ合う音の後、柔らかなメロディーが紡ぎ出され始める。

なんだかんだあれこれと、征羽矢は次々と問いかけるが、それを適当にあしらい、女も食事を終えて、二人分の不揃いの皿とカップを流し台へと運ぶ。
少しあたりを見回し、手早くそれらを洗って片付けた。
「ごちそうさまでした。では失礼しますね。」
着てきた服を小さなボディバッグに詰め込み、サンダルをすぽっと履いて、だいぶ股下の長いジャージの裾を折る。
光世は楽譜から顔も上げない。
征羽矢が座ったまま片手を上げた。
「なぁ、また夜、来いよ、店。」
女はサムターンを回してドアノブに手をかける。
「行きますよ、服返しますし、」
きぃ、と扉が開いて、眩しい昼の陽が差し込んで、女の姿が逆光で暗くなる。
「セックスもしたいですし。」
パタン、と扉が閉じる。
征羽矢はしばし呆然として、それから座卓に突っ伏して叫んだ。
「あんなん!反則!もー!だめ!」
その後ろで、光世も、ギターを演奏する手を止め、口を片手で押さえて、目を細めた。
このきもちは、狂乱?

「お、やっと来た。」
征羽矢がカウンターの中から親しげに手を振る。
「もう終わりだぜ?当たり前にチケット買ったん?オーナーのツレだって言えばいーのに。」
呆れたように女は口を開いた。
「当然でしょう?ツレじゃないですし。」
「生でいい?」
「お願いします。」
サーバーからビールを注ぎながら、次の言葉を投げかける。
「なんか食う?」
「いえ、結構です。」
ジョッキを受け取り、一口でごくごくと3分の1ほどを減らしてから、大型チェーンの書店のビニール袋に入った衣服を征羽矢に渡す。
「タメ語でいーのに。」
「癖ですよ。」
ベース音が心臓を震わせる。
すでに終盤の時刻である。
光世がステージの中心のDJブースで盛り上がる客を煽っていた。
数百の、天井に向かって掲げられた手が、収穫直前の稲穂のように揺れている。
なんとも現代的でありながら幻想的な景色だった。
まだなにか征羽矢が話しかけてはくるが、ほとんどを無視してぼんやりとステージを見ている。

やがて音楽が止んで、歓声と拍手がびりびりと空気を震わせた。
歓声の半分以上は若い女性の黄色い声だ。
無愛想だが、西洋の彫刻のように彫りが深く端正な顔立ちで、さぞ多くの異性や同性までもを狂わせていることだろうと思われた。
深く深呼吸をして、ぐるりとホールを見渡した光世の瞳が、昨夜と同じカウンターのいちばん奥に座っている女の姿をとらえた。
ガタン、と身を乗り出す。
まだ大勢が光世の一挙一動を注視しているにもかかわらず、ステージから飛び降りると、また喝采が上がる。
なにかの演出だと思われているのかもしれない。
熱狂的なファンの手にもみくちゃにされながら、汗をポタポタと滴らせ、ざわつく人波をかきわけて、早足で、息を切らせて女の横まで来た。
そして周りの視線も意に介さず、というよりは他のなにも目に入っておらず、というべきか、よどみのない動作で女の顎をすくうと、その長身をかがめてためらいなく唇を重ねた。
光世の毛穴から吹き上がる熱と湿度で、女の眼鏡がふわりとくもる。
一瞬の静寂の後、どよめきと悲鳴が巻き起こった。
征羽矢が慌てて大声を出す。
「はい!ストップ!アウト!アウトアウト!兄弟!アウトだぜそれは!」
カウンターの中から、兄を女から引き剥がす。
ひそめた声でがなり、光世の額を頭突く。
「頼むぜ!?看板DJの自覚ある!?」
光世は、興奮冷めやらぬ様子でぼうっとした目をしていたが、弟にたしなめられて、黙ったままその場を離れバックヤードへと姿を消した。
「っ、勘弁してくれよ!?」
征羽矢は頭痛のような気だるさを覚えてこめかみを押さえた。
--------------------------
〜②に続く〜
 
2025/09/09 10:57:22(/S/bXIkM)
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