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「ん…」
鈴は目を覚ましました。 最初に目に入ったものは海でした。 「おはよう、鈴」 上から降ってきた声に目を向けると、優しく微笑む蓮の姿。 「え、…蓮?」 「ふふっ…随分声がかすれてしまったね。大丈夫?」 「あ…あたし…」 ぼんやりした頭で一生懸命眠る前の出来事を思い出しました。 「…あ、あたし…」 「思い出した?」 どくんとお腹が疼きました。 隠すように顔を両手で覆い、泣きそうな声でもうやだと呟きました。 「とっても可愛かったよ?」 「…ぇ、見て…?」 「うん。最後、すっごく盛大に絶頂してね。お尻に入った触手を力の限り一気に抜いてあげたんだよ。それはもうめちゃくちゃ可愛く鳴いてくれてさ。あんまり可愛いから僕も興奮しちゃって。…あれ?覚えてないんだ?」 もう、穴があったらそこで一生暮らしたい。 一目で好きになった人に、そんなところを見られたなんて、もう、終わった。終わりだ。 「ふふ…泣かないで鈴。とっても可愛かったんだよ。それから…そこで泣かれると僕のスラックスびしょびしょになっちゃう」 鈴はふと自分の状況を見ました。 海の方向を見ながら横になっていて…蓮の顔は上に… 「きゃああっごっごめんなさい!」 「あはっ。本当に…どこまでかわいいの?」 今ようやく自分が蓮に膝枕してもらっているという状況を確認して、もう、穴なら何でもいいからそこに入り、一生出れないように鍵を掛けるか、蓮の頭を思いっきり殴ったら忘れてくれないだろうかと不穏なことまで思う次第だったのでした。 「どうして夜が来ないの?」 ずっと気になっていたことを蓮に尋ねてみました。蓮は少し考えて、それから笑いました。 「来るよ。そのうちね」 「そのうちって、いつ?」 「うーん…そうだなぁ。ハートの女王が交代したら…かな?」 「ハートの女王?」 「うん。鈴をそこに連れていこうと思ってる。ハートの女王の所へ行けば、帰る道があるんじゃないかなって思ってね」 「…ふーん?」 鈴にはよくわかりませんでした。でも、蓮の雰囲気がなぜかそれ以上の質問を拒絶してるような気がして、それ以上聞くことはできませんでした。 「さて。南に向かおうね」 「うん」 にこりと微笑まれ、やっぱりどくりと心臓が跳ねるのでした。 蓮に抱き抱えられ、空を飛んで(やっぱり絶叫は免れなかったが)小高い丘に降り立った鈴は、目の前に広がる絶景に息を飲みました。 真っ青な空。聳え立つ立派で可愛らしいお城。天辺にはハートを模ったオブジェが飾られていて、金ぴかの門には屈強そうな門兵がふたり、槍を抱えて立っているのが微かに見えました。 「あそこへ行くの?」 「うん。でも、正面突破は無理だ」 「…?」 「近道があるんだよ」 ウィンクされて卒倒しそうになるのを必死に堪え、平静を装ってふーんと返事だけしました。最も、蓮には鈴の演技がバレているようで、蓮のほうもこっそり笑いました。 腐った木の根が目印だという蓮について、狭いトンネルを抜け、地下通路へと出ました。 「滑るよ。気を付けて」 「うん、ありがとう」 前を歩く蓮は、鈴の手をそっと取りました。温かくて大きな手にどきどきして、でもやっぱり平静を装うのでした。蓮の目にはそれはもう可愛らしく映り、そうして咳払いをして誤魔化すのでした。 「ふふっ…ああ、ダメだ」 「…え?」 「こんな気持ち、久々だよ」 「なにが?」 突然ぴたりと立ち止まって、蓮は鈴を正面から捉えます。 「かわいいよ鈴、本当に」 「え、え?」 「好きになっちゃいそうだよ」 ふと、唇に温かくて柔らかいものを感じ、鈴はそれを理解するのに数十秒を要しました。 「…ええぇぇ!!??」 「しー。大きな声出しちゃだめだよ」 人差し指で唇を塞がれ、必死にこくこくと頷きますが、それでも鈴の心臓は鎮まってくれそうにありません。 キスをされた── もう頭の中はパニックです。 「あああの!れ、蓮!あたしっ…」 「しー。…鈴。これ以上、この話はナシ。ね?」 「え、どうして…」 蓮の目ははっきりと拒絶を示していました。だから、鈴は口を結ぶしかありませんでした。 地下通路はふたりの足音だけが響きます。 その音がピタリとやんだのは、小さな扉の前に来た時でした。 「いい?これからハートの女王のところへ行くよ。何を言われても、答えは全部“NO”だ。わかったね?」 「うん…?」 「ひとつでも“YES”と答えれば、鈴はここから一生出られなくなる。それでいいなら僕はなにも言わないけど…」 「え、帰り…たい、けど…」 帰る。元の世界に… そうなれば、蓮には一生会えなくなる。 だからさっきの話を中断したんだ── 鈴の心が一瞬揺れたのを、蓮は見逃しませんでした。 「鈴。きみは元の場所へ帰るべきだよ。…大丈夫。僕たちは愛し合ってる。きっとまた会えるよ」 「え、愛し合って…」 「ふふっ…恋する女の子の目って、本当にかわいいよね」 「やっ…なんでわかったの…」 「あれ?違った?」 意地悪く細められて、でも悲し気に揺れる蓮の目に、鈴は泣きそうでした。 「違わない…あたし、蓮ともっと一緒にいたい…」 「うん…でも、帰らなきゃ。ね。また会えるよ、きっと」 「うん…」 「キスを、しよっか」 うん。 小さく頷いて蓮を見上げると、そこには今までで一番優しく笑う蓮がいました。 ゆっくりと二人の唇が重なって、一度離れてまたくっつきます。 蓮が鈴の唇を舌先で舐め上げ、それから鈴の小さな口へにゅるりと入り込みました。少し驚いて仰け反った鈴を離すまいと蓮の長い腕ががっちりと支えます。舌を絡ませ合い、背中を掻き抱き、何度も角度を変えて深くつながったのでした。 「鈴、愛してる。短い時間だったけど、鈴に会えて本当に良かったと思ってるよ」 「あたしも…蓮、大好きよ、どうして一緒にいられないの」 鈴の質問にただ、蓮は儚く笑うだけでした。
2018/12/24 09:34:01(RTE73j7u)
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