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秘密〜抗えない快楽

カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:SM・調教 官能小説   
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1: 秘密〜抗えない快楽
投稿者: とんがり帽子
第三章
第六項
 ​あの日の夜、ログアウトして以来、桜は自分のアパートの部屋で理由がよく分からないままモンモンとしていた。

 スマートフォンの画面を見るたびに、あの日の男たちの下卑た笑い声や、次々と命令されて写真をアップさせられ感じた羞恥心がフラッシュバックしてくる。

​(もう二度と、あんなアプリ開かない……。あんなの、絶対に見ない……)

 ​そう心に誓いながらも、奇妙な熱の残響が脳裏から離れず、桜はベッドの上で膝を抱えたまま、冷や汗に濡れた額を押さえて震えていた。

​一方その頃。
 同じアプリ『アブノーマルな関係』のオープンチャットルームでは、昨夜の「ララ」の逃亡劇の話題がまだくすぶっていた。

​『ID:変態紳士:おい、昨日のララとかいう新人、途中で逃げちゃったなぁ』

『ID:ナイトメア:つまんねえの。もっと最後までいじり倒してやりたかったのに』

『ID:ミッドナイト:ふふ、臆病な小動物みたいで可愛かったじゃないですか。またそのうち、怯えながら戻ってきますよ』

 男たちの雑多な書き込みが流れる中、その隅で画面をじっと見つめていた晴人は、激しい動悸を抑えきれずにいた。

 翌日のバイト先で桜を目撃して以来、晴人の脳内では「現実の地味な今井桜」と「アプリの中で玩具にされていたララ」のイメージが、どうしても切り離せなくなっていた。
 同一人物のはずがないと頭では分かっていながらも、どことなく桜とララが被る……。

​(ララさん……。昨日あんなに追い詰められて……)

​ オープンチャットの公開の場では、他の猛者たちの圧倒的な存在感に気圧されて一言も発言できなかった晴人だったが、今夜は違った。

 胸の奥で渦巻くどうしようもない衝動に突き動かされるように、晴人は震える指で画面を操作した。

​(……オープンチャットじゃなくて……二人きりの、ツーショットチャットなら……僕にも……)

 ​メンバーリストの中から「ララ」のアカウントを探し出し、晴人は恐る恐るそのアイコンをタップした。
 そして、これまでの人生で一度も使ったことのないような、絞り出すようなプレッシャーを感じながら、メッセージを打ち込む。

『ID:リード:……あの、ララさん……。もし、よかったら……僕と、お話ししませんか……?』

 ​それは、群れのなかに埋もれていた臆病な男が、初めて網の外へ踏み出した、歪で小さな誘いだった。

 ​何度画面を更新しても、返事はない。既読すらつかない。

 通常であれば、圧倒的な物量と過激さで女たちを弄ぶこのアプリにおいて、返信のない相手にしがみつく者などいない。
 他の男たちであれば、見向きもせずに別の獲物を探して去っていくだろう。
​しかし、晴人は違った。
 昨夜、オープンチャットの隅々で無数の男たちが下卑た言葉を投げ合い、女たちをただの「肉便器」や「玩具」として消費していく中で、ララだけは違って見えた。
 追い詰められていくその姿には、他の女たちのような機械的な軽薄さではなく、どこか生々しい「人間としての脆さ」と「異質な気高さ」が漂っていた。

​(……あいつらは、ただ面白おかしく踏みにじってるだけだ。でも、ララさんのはきっと……)
 
 ​現実のカラオケ店で誰からも透明人間のように扱われ、皆に冷ややかな視線を向けられるだけの日常。その満たされない孤独のなかで、晴人にとってララは、ただの「玩具」を超えた、なぜか無視できない特別な存在になっていた。

​「くそっ……どうして返してくれないんだよ……」

 ​焦燥感に駆られた晴人は、拒絶される恐怖を押し殺し、翌日も、そのまた次の日も、同じツーショットチャットへと懲りずにメッセージを送り続けた。

​『ID:リード:ララさん、いらっしゃいますか? 何も話さなくてもいいです。僕が話を聞くから……』

『ID:リード:お願いです、既読だけでもつけてください』

『ID:リード:他の奴らみたいに乱暴はしません。だから……』

 ​執拗に、しかしどこか怯えるようなトーンで繰り返されるメッセージ。

 一方、自分のアパートの部屋で、しばらくアプリを遠ざけていた桜は、数日ぶりにスマートフォンの画面を開いていた。

​(……また、あのアプリを開いちゃった……。私、何やってるんだろ……)

 ​記憶が蘇り、すぐにでもログアウトしようとしたその時、見慣れないアイコンから大量の通知が届いていることに気づいた。
 恐る恐るチャットルームを開いた桜の目に飛び込んできたのは、「リード」と名乗る男からの、しつこいまでのメッセージの履歴だった。

 ​他の男たちのような、露骨な性欲や暴力的な命令の言葉はない。ただひたすらに自分を求め、話し相手になってほしいと訴えるような、どこか頼りなく、縋るような文面の数々。

​(……他の人たちと、何かが違う……? この人も、私をどうこうしようってわけじゃ……)

 ​警戒心の一方で、現実の職場で誰からも心を通わせてもらえず、孤独の底に沈んでいた桜の心に、その「しつこいまでの執着」が奇妙な隙間を生み出していた。
 
 拒絶しなければならない。そう頭では分かっていながら、終わりのない孤独と、あの夜の整骨院から続く澱んだ熱のなかで、桜の指先は迷いながらも文字盤を捉えた。

 ​何度目かの通知を見た桜は、ついに最初の返信を打ち込んだ。

​『ID:ララ:……私に、何か用ですか……?』

 ​その一言が返ってきた瞬間、画面の向こうでチャットを見つめていた晴人の心臓が、狂ったように激しく跳ね上がったのだった。

​『ID:ララ:……私に, 何か用ですか……?』

 ​そのたった一言が画面に表示された瞬間、自室のベッドに転がっていた晴人は、思わず声を上げて飛び起きた。

​(……返事が来た……! 返してくれた……っ!)

 ​心臓が破裂しそうなほどの歓喜に震えながら、晴人はすぐに返信の文字を打ち込む。

​『ID:リード:よかった……! 返事してくれて、本当に嬉しいです。怖がらせてごめんなさい。でも、どうしてもララさんと話したくて……』

『ID:ララ:私と話したいって…どういうことですか…?』

 ​警戒心を残したまま問いかける桜に対し、晴人は少し言い淀みながらも、自分の正体を明かしていく。

​『ID:リード:……あの、ごめんなさい。実は、あの日のオープンチャットに……僕もいたんです。ララさんが追い詰められていくのを見ていて……ずっと気になって仕方がなくて』

『ID:ララ:……え……? あの日、そこにあなたが……いたんですか……?』

 ​突然の告白に、桜はスマートフォン を 握りしめたまま息を呑んだ。

 あの夜、自分を嘲笑い、写真を要求してきた無数の男たちの中に、この「リード」という男も混じっていたという事実。

​(やっぱり、この人もあの日そこにいたんだ……。私をあんな風に辱めた男の一人なんだ……! 早くブロックしなきゃ……っ)

 ​すぐにでもチャットを閉じなければならない。頭ではそう警告しているのに、桜の指はなぜか画面から離れない。

 晴人は、桜が警戒しているのを察するかのように、必死にメッセージを重ねてきた。

​『ID:リード:怖がらせてごめんなさい。でも、他の人たちはただ面白半分であなたを踏み荒らしていただけだけど、僕は違います。他の女の人たちにはない……ララさんだけの特別な雰囲気に、どうしても惹かれてしまったんです。変かもしれないけど……僕は最初から、ララさんが気になっていました。』

​(……私のことを……?)

 ​他の男たちと同じ群れの中にいながら、自分が気になっていたという言葉。
警戒心はまだ消えないものの、現実の冷たい孤独と、あの夜以来誰にも救ってもらえないなかで、その「自分だけに向けられた執着」は、凍てついた桜の心を激しく揺さぶっていた。すぐに警戒を解くことはできないが、拒絶しきれないほどの深い闇と甘さが、その言葉の裏には潜んでいた。

​『ID:ララ:……そんなこと言われても……』
 
『ID:リード:信じてもらえなくて当然です。でも、これだけは聞いてほしい。あのオープンチャットで、ララさんが整骨院のことを話していたのを見て……正直に言うと、僕はすごく興奮してしまいました』

 ​ツーショットチャットの画面越しに、晴人は自分のなかに渦巻く歪んだ本音を、包み隠さずぶつけていく。

​『ID:リード:ララさんがだんだん追い詰められて、言われるがままに写真をアップして、他人の言いなりになっていく姿を見て……頭がおかしくなりそうだったんです。最低かもしれないけど、僕はあの姿に、ものすごく惹かれてしまいました……』

 ​画面に表示されたその赤裸々な告白に、桜は顔を真っ赤に染め上げる。

​(え……? 私が、言われるがままになっていく姿に……興奮した……?)

 ​他人から見れば恥べき、屈辱の極みでしかなかったあの夜の醜態。それを「最低だけど惹かれた」と、わざわざこの男が告白してきたこと。

 強い羞恥心で全身が熱くなる一方で、自分という存在が男をそこまで狂わせたという歪な事実が、桜の心の奥底に眠っていた別の欲求を刺激していた。

「自分なんかに興奮したと言ってくれた」その言葉が内側からじっとりと熱くさせていくのだった。

​ 晴人の欲望はそこで終わらなかった。さらに踏み込んだ興味を抱いた晴人は、次々と矢継ぎ早に質問を投げかけてくる。

​『ID:リード:あの……ララさん。もし嫌じゃなかったら、あの日のこと、もう少し詳しく教えてくれませんか? 本当に気になって仕方ないんです……』

『ID:ララ:……え……? そんなの、恥ずかしすぎて話せません……』

『ID:リード:お願いします。少しずつでいいから。………まずは、その整骨院に入ってから、どんな風に案内されたんですか?』

​リードの逃さないようなトーンに圧されるように、桜は震える指で最初の質問に答えた。

​『ID:ララ:え、……カーテンで仕切られた奥の個室のベッドに寝かされて……』

『ID:リード:個室のベッド……。最初はどんな格好で、何をされたんですか?』

『ID:ララ:最初は……うつ伏せになってって言われて……。お尻の形に合わせた専用のクッションの上に、腰を浮かせるみたいにして寝かされて……』

『ID:リード:うつ伏せから始まったんだ……。それで、どうされたんですか?』

『ID:ララ:その……腰とか骨盤のあたりをぐっと押されて、「歪みがひどいですね」って言われて……』

『ID:リード:それだけじゃなくて、もっと下の方まで触られたんですか?』

『ID:ララ:え、……そのあとで、「ここから直接リンパを流さないと効果が出ないから」って言われて……下着をずらされて……』

 ​リードが順を追って質問を重ねるたび、記憶の蓋が少しずつこじ開けられ、当時の恥ずかしさと生々しい感触が桜の脳裏に蘇っていく。

​『ID:リード:下着をずらされて……直接触られたんですか?。どんな風に? 指で?』

『ID:ララ:……はい。後ろから、直接指をあてられて……』

『ID:リード:うつ伏せで後ろから指を入れられて……声は出ちゃったんですか?』
『ID:ララ:声なんて……出さないように必死に我慢したのに……』

『ID:リード:声が出ちゃったんだ……。うつ伏せのあとは、仰向けにもなったんですか?』

『ID:ララ:……はい。今度は、仰向けになってって言われて……脚を開かされた状態で……』

『ID:リード:仰向けで脚を開かされて……そこでもまた触られたんですか?』

『ID:ララ:……恥ずかしいところに指をあてられて……「力が入りすぎていると効果が出ないから、リラックスして」って』

 ​キランの執拗なまでの質問攻めに、桜はもはや逃げ場を失っていた。次々と引き出される赤裸々な言葉の数々が、画面の向こうのキランだけでなく、自分自身の身体をも容赦なく熱くさせていく。

​(私……なんでこんなに細かく聞かれてるのに、全部答えちゃうんだろう……)

 ​恥ずかしさの裏側で、自分の恥部を赤裸々に暴かれ、男に想像させるという背徳感が、桜の理性を心地よく麻痺させていくのだった。

 ツーショットチャットの画面越しに、整骨院での生々しい記憶を一つずつ引き出されていくうちに、桜の胸のうちは得体の知れない感情で満たされていた。
​はじめはあんなにも警戒心で震えていたはずなのに、今は違う。
 自分の恥ずかしい秘密や、誰にも言えなかった屈辱的な体験を、この「リード」という男が一つ残らず聞き出し、熱心に受け止めている。その事実そのものが、冷え切っていた桜の心をじっとりと濡らしていた。

​(……なんで、こんなこと話してるんだろ……。でも……この人、私の言葉で……)

 ​スマホの画面を握りしめる桜の心臓は早鐘のように激しく鳴り響いていた。文字を打つたびに、体の芯が熱く疼くような、甘い痺れが広がっていくのが自分でも分かる。画面の向こうにいる男の存在が、今の彼女にとって唯一の逃げ場であり、歪な熱源になっていた。

 ​一方、画面のこちら側でララの言葉を食い入るように読んでいた晴人は、もう理性のかけらも残っていなかった。

 ​想像を絶するほどリアルで、背徳的なまでの告白の数々。「ララ」という女がさらされている淫靡な光景が、晴人の脳内で鮮烈に再生され、彼の理性を完全に焼き尽くしていた。

 ​画面の向こうのララ気配を感じながら、晴人は衝動のままに文字を打ち込む。

​『ID:リード:ララさん……すごいです……。そんな風に細かく聞かせてくれて、本当にありがとう……』

『ID:ララ:……っ……そんなこと……恥ずかしいです……』

『ID:リード:ごめんなさい、でも嘘じゃないんだ。ララさんがその格好で、どんな風に触られて、どんな声を出しちゃったのか……想像したら、僕……今、すごく興奮してる。頭がおかしくなりそうなくらい、ララさんのこと考えてます。』

 ​包み隠さず投げかけられた、あまりにもストレートな興奮の告白。
それを読んだ瞬間、桜は顔から火が出るほどの羞恥心に襲われ、思わず両手で自分の頬を押さえた。

​(――っ! 私のそんな姿を想像して……この人、今、興奮してる……?)

 ​他人から見ればそれは屈辱でしかなかったはずの記憶だ。なのに、それを「すごい」「興奮している」と真っ直ぐに欲しがられることが、驚くほど桜の胸を締め付けた。
恐怖と恥ずかしさで全身が熱くなるのと同時に、自分という存在が画面の向こうの男をこれほどまでに狂わせているという事実が、抑え込んでいたはずの歪な悦びを桜のなかに呼び覚ましていく。
​逃げ出したいのに、画面から目を離すことができない。二人の間に流れる空気が、夜の闇の中でさらに深く、濃厚なものへと変わっていくのだった。

『ID:リード:ララさんのこと考えてたら……もう我慢できないんだ。あのときの格好や、指を入れられて声を漏らしてたところを想像して……今すぐ、ララさんのことを思い出しながらオナニーしてもいいですか……?』

 ​画面に表示されたあまりにも直接的で下品な申し出に、桜はスマートフォンを落としそうになるほど大きく息を呑んだ。

​『ID:ララ:――っ! なに言ってるんですか……っ! そんなの、絶対にダメです……! 恥ずかしすぎるし……そんなこと、私には……』

 ​必死に拒絶の文字を打ち込み、画面から目を背けようとする桜。しかし、リードのほうは一度火がついた欲望を抑え込むことができなくなっていた。

​『ID:リード:ごめんなさい、でも無理なんだ。ララさんの話を聞いてから、もう頭から離れないんだよ……。だから、お願いです。ララさんも、今ここで……僕と一緒に、自分の身体を触ってくれませんか……?』

『ID:ララ:無理です! そんなの、恥ずかしくてできるわけないじゃないですか……っ! 自分でなんて……』

『ID:リード:少しだけでいいんです。全部じゃなくていいから……あのときの格好になって、自分で自分のこと触ってみてほしい。僕も今すぐ、ララさんの声を想像しながらするから……! お願いです、ララさん……』

​「少しだけだから」「僕も一緒にするから」と、縋るように、しかし圧倒的な熱量で何度もメッセージを重ねてくるキランの言葉。
拒絶しなければならない。こんな要求に応じたら、本当にあの夜の「玩具」だった自分に戻ってしまう。そう頭では分かっているのに、現実の冷たい孤独の中で誰からも求められず、踏みにじられた記憶しかなかった桜の心に、その「自分を強く求めてくる存在」は奇妙な甘さを持って染み込んでいっていた。

​(……私をそんなに求めてる……? 私の身体で、この人が……)

 逃げ出したいという理性の声と、自分の身体が男を狂わせているという背徳的な悦びの狭間で、ついに桜の抵抗は音を立てて崩れ去った。

​『ID:ララ:……すこしだけ、です…… 本当に、少しだけだから……』

『ID:リード:本当ですか……! ありがとう、ララさん……』 

 ​画面の向こうで待ち構えるリードからの、矢継ぎ早の指示が飛んでくる

​『ID:リード:準備できたら教えてください。そしたら……まずは仰向けになって、あのときみたいに自分で脚を開いて……。自分の指で……どこをどう触ってるか、ちゃんとチャットで実況してください』

 ​薄暗い自室のベッドの上で、荒い息を吐きながら震える手で服を脱ぎ始める桜。

 その背徳の命令に従うように、彼女は自ら進んで、再び底知れぬ快感と屈辱の沼へと足を踏み入れていくのだった。

 
第三章
第七項
 自室のベッドのうえで、桜は自分の手で服を脱ぎ捨てて下着姿になっていた。  
冷えた室内の空気が肌を撫でるたびに、粟立つような寒気と、それを凌駕するほどの熱い血潮が身体中を駆け巡る。

​(私、何をやっているんだろう……こんなこと、絶対におかしいのに……)

 ​頭の片隅で冷ややかな理性が警鳴を鳴らし続けているのに、スマートフォンを握る指はもう止まらなかった。画面の向こうで「リード」が自分を求めている。
 自分の言葉と身体の反応だけを頼りに、彼が今まさに自慰の欲求を満たそうとしているという歪な事実が、桜の羞恥心を異常なまでの熱へと変えていく。

​『ID:ララ:……脱ぎました……。』
『ID:リード:ありがとうございます、ララさん……! すごい、想像しただけで息が詰まりそうです……。それで、ベッドに仰向けになって、脚を開いてもらえますか。そのあと、どうするか……教えて下さい』

 ​画面に表示されたキランの焦燥に満ちた文字に導かれるように、桜はベッドに仰向けになり、両膝を左右に倒した。冷えたシーツの感触と、剥き出しになった自身の恥ずかしさが痛いほど伝わってくる。

​『ID:ララ:……脚を開きました……。もう、こんな格好……とても人には見せられません……』
『ID:リード:誰も見てないです、ここにいるのは僕だけだから。だから……あのときみたいに、どうなっているか教えてほしいです…』

 ​心臓が早鐘のように激しく鳴り響く。
桜は震える右手を自分の股元へと伸ばし、その熱を帯びた秘部へと指を滑らせた。
​『ID:ララ:……っ……触っています……』

『ID:リード:それだけで、もう濡れている……? どんな感じがするのか……教えて、ララさん……!』

『ID:ララ:……っ、こんなの……恥ずかしすぎます…………』

『ID:リード:もっと……もっと実況してほしい。僕も今、ララさんの声を想像しながら、自分のでしてるから……! どう?気持ちいい?』

 ​画面の向こうの男の興奮が、文字の勢いを通してダイレクトに伝わってくる。
 
 誰かに見られているわけではない。けれど、リードというたった一人の男に自分のすべてを覗かれ、支配されているような背徳感が、桜の羞恥心を快感へとねじ伏せていく。

​『ID:ララ:……気持ち……いいです……』

『ID:リード:そのままもっと!もっと気持ちよくなってください!』

 ​薄暗い部屋のなかで、スマートフォンの画面の光だけが、恥じらいに顔を真っ赤に染め、喘ぎながら自分の体をまさぐる桜の姿を照らし出していた。

 現実の冷酷さも、皆からの冷遇も、すべてがこの歪なつながりのなかで溶けていく。快感と屈辱の濁流に飲み込まれながら、桜はリードの指示通りに、自らの手で声を漏らし続けるのだった。


第三章
第八項
 ​荒い息を吐き出しながら、二人は同時にスマートフォンの画面越しで息を整えた。
部屋のなかに残されたのは、スマートフォンの微かな発光と、自分の熱に当てられて火照った身体をどうにか落ち着かせようとする桜の荒い息遣いだけだった。
​残された絶頂の余韻に身体を震わせながら、桜が呆然と天井を見上げていると、チャットの画面が再びピコンと音を立てて光った。

​『ID:リード:……あ、あの……すごかったです。ありがとうございました……。その、とても、気持ちよかったです……』

『ID:ララ:……はあ……っ、もう……こんなの……本当におかしすぎます……言わないで下さい。』

『ID:リード:すみません……。でも、その、本当のことだから…………それでですね、ララさんにひとつ、聞いてみたかったことがあるのですが……』

『ID:ララ:……なん、ですか……?』

『ID:リード:ララさんって、普段はこういうこと……週に何回くらい、なさるものなのですか?……あ、失礼だったらごめんなさい……!』

 ​唐突に投げかけられたあまりにもプライベートで赤裸々な質問に、桜はスマートフォンを握ったまま、恥ずかしさで顔を真っ赤に染め上げた。

​『ID:ララ:――っ! そんなこと……お答えするわけないじゃないですか! 変なこと聞かないでください……!』

『ID:リード:そ、そうですよね……。ごめんなさい、怒らないでください。でも、どうしても気になってしまって……。教えてもらえませんか、ララさん……』

 ​オドオドとしながらも、どこか必死に食い下がってくるリードのメッセージ。

その圧倒的な押しに気圧され、気の小さい桜は羞恥心に身悶えながらも、徐々に根負けしていった。

​(本当は……週に5回は、自分の身体を慰めたりなんてしてるって……絶対に言えない……! こんなの知られたら、変態だって思われちゃう……っ)

 ​あまりの恥ずかしさに本当の回数を隠すため、精一杯の嘘を打ち込んだ。

​『ID:ララ:……週に……1回か、2回くらい、です……』

『ID:リード:そうなんですね……。でも、その……本当はもっとしたいのではないでしょうか? だって、さっきあんなに敏感ですぐに……』

『ID:ララ:そんなことありません……っ! もう、そういうの話さないでください……!』

『ID:リード:あ、あの……では、もしよかったら……またこうやって、二人きりでしていただけませんか。その、お願いできないでしょうか……』

​ 当然のように、しかしおずおずと提案してくるリードの言葉に、桜は慌てて首を横に振るようにメッセージを打ち返した。

​『ID:ララ:絶対に無理です……! もうこんなの、今日限りですから……! そんな約束、できません……!』

『ID:リード:そ、そんなこと言わずに……お願いします……。僕は……ララさんのことが、どうしても頭から離れなくて……。だから、その……次の約束をしていただけないでしょうか……』

 ​断らなければならない。ここで流されては、本当にこの男の言いなりになってしまう。そう頭では分かっているのに、現実世界では誰からも必要とされず、冷たくあしらわれてばかりいる桜にとって、自分を求め、必死に言葉をかけてくれるキランの存在を強く拒絶することがどうしてもできなかった。

​ リードのひたむきで、どこか頼りない懇願に気圧され、桜の硬い決意はみるみるうちに溶かされていく。

​『ID:ララ:約束はできません。でも、もし、次にお会いできたら……』

『ID:リード:本当ですか……!充分です! ありがとうございます、ララさん……。嬉しいです……』

 ​画面に踊る文字を見つめながら、桜は深い溜息をつきつつも、どこか胸の奥が甘く疼くのを止めることができなかった。


第三章
第九項
「次に会えたら」という固い約束を交わしたはずだった。
しかし、いざアプリのチャットでリードと顔を合わせる日が来ると、その約束はあまりにも簡単に形骸化していった。

​『ID:リード:ララさん……今日も、少しだけいいですか……?』

『ID:ララ:……ダメです! 今日はもう、そういうのはしませんっ……!』

『ID:リード:そんなこと言わずに……。ララさんを想像するだけで、僕、落ち着くんです。お願いだから、少しだけでも……』

 ​オドオドとしながらも、どこか執拗に食い下がってくるリードのメッセージ。
気の小さく、他人に対して強く出られない桜は、画面の向こうで必死にすがりついてくるような彼の言葉に、どうしても抗うことができなかった。
​「次で会えたら」と言っては拒絶を試みるものの、キランの熱心で頼りない懇願に少しずつほだされ、あるいはその気圧されるような勢いに流されるまま、桜は結局、再びスマートフォンを握りしめてしまう。

​『ID:ララ:……っ……。本当に、今日だけですからね……』

『ID:リード:ありがとうございます、ララさん……! 本当に優しいですね……。じゃあ、今日もあの格好になってくれますか……?』

​一度許してしまえば、そこから先は早かった。

「次こそは終わりにする」という言い訳を自分自身に用意しながら、桜はアプリ内でキランの要求を受け入れ続け、いつしか二人は、アプリ内で会うたびに一緒に自慰を重ねるようになっていた。

 ​現実の冷え切った日常や、誰にも認められない孤独から逃れるように、桜はこの歪な関係に依存していく。リードの指示に従い、画面の向こうの彼と声を交わし、自らの体を慰めること。それは彼女にとって、恐ろしい背徳感であると同時に、自分が誰かに必要とされているのだと実感できる、唯一の歪んだ居場所になりつつあった。

続く……
 
2026/08/24 13:29:50(z3ZBS.Qv)
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