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秘密〜抗えない快楽〜

カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:SM・調教 官能小説   
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1: 秘密〜抗えない快楽〜
投稿者: とんがり帽子
第一章
第二項
​「公開オナニー」という、他者の羞恥を肴にする狂気に満ちたスレッドを覗くたび、桜は自分が世界の縁(ふち)で踏みとどまっているような危うさを感じていた。自分もまた、いつか誰かに覗かれ、蹂躙されるのではないかという恐怖。その重圧から逃れるため、彼女は初めて自分だけの「匿名」という鎧を纏うことを決意した。

​ 桜がアカウント作成の画面でニックネーム欄に悩んだ時、脳裏に浮かんだのは、かつて施設で唯一の娯楽として擦り切れるほど観たアニメのヒロイン、「ララ」だった。気高く、誰からも愛され、そして誰にも屈しない存在。現実の自分とは真逆の、あのアニメの彼女のようにありたい――。そんな切実な願望を込めて、彼女は震える指で『ララ』と入力した。
​同じ頃、木戸晴人もまた、四畳半の極彩色の闇の中でアカウント作成のボタンを押していた。彼が求めていたのは、現実の「木戸晴人」という、誰からも疎まれ、汗と肥満にまみれた醜悪な存在を完全に消し去るための場所だった。
​彼が選んだ名は『リード』。アニメの中で、どんな困難をも圧倒的な力でねじ伏せ、唯一無二の存在として君臨する最強の戦士の名前だ。現実では誰からも蔑まれ、オドオドと頭を下げることしかできない自分が、せめてこの虚構の世界の中だけは、誰をも支配できる「強者」でありたい。そんな歪んだ自己顕示欲と、底なしの劣等感を隠し隠し、彼はその強そうな名を打ち込んだ。
 ​しかし、現実はアプリの中ですら彼らを裏切った。グループチャットの会話はあまりに刺激的で、卑俗な単語が飛び交う速度に、二人は全くついていけない。
​(……こわい。みんな、どうしてあんなに平気で言えるの?)
​桜は画面を流れる過激な書き込みに息を呑み、ROM専として深夜の静寂に沈んでいた。晴人もまた、自分という存在を完全に隠蔽できるはずの場所でさえ、誰かに拒絶される恐怖から、気の利いた一言も書き込めないまま、ただ溜め息をついてスマホを握りしめていた。


 そんなある夜、バイト先のスタッフルームのドア越しに、桜は男性スタッフたちの下卑た会話を聞いてしまった。
​「……今井さんってさ、意外とエロと思はない?」
「わかる。あの陶器みたいな肌で、制服の下はパンパンに肉が詰まってない?」
「着やせするタイプってあのことっしょ?」
​ 心臓が凍りつくような衝撃だった。自分を「性的な眼差し」で解体されている事実に、羞恥で頬が熱くなる。誰も信じられない。帰宅した桜は、縋るようにアプリを開いた。
 
​ そこには、偶然にも過疎ったチャットルームに『リード』という名が一人、ログイン表示されていた。最近よく見るようになっっ名前だ。

 ​晴人(リード)は、ずっとそのルームにいた。誰からも相手にされず、自分を押し殺してただ消えるのを待っていたのだ。そこに桜(ラクス)が震える足取りで入室してきた。
​(……入ってきた。……な、なんて送ればいいんだ……)
​  晴人もまた最近よく見るようになった「ララ」という女性が気になっていた。
晴人は、震える手で精一杯の挨拶を送った。それが、彼の限界だった。
​『リード:……こんばんは………』
​桜は画面を見て、息を止めた。このアプリを使うようになって初めて自分にコメントがきた。  

 今の自分には、誰かに縋りたいけれど、何を言えばいいのか分からない。ただ「誰か」がいるという事実だけが、今の彼女には重く、そして救いだった。自分から何かを話せば、また現実と同じように品定めされるのではないかという恐怖が、指を止めさせる。
​『ララ:……こんばんわ……』
​桜が返した言葉はそれだけだった。彼女の心臓は高鳴り、同時に恐怖で冷えていく。
晴人もまた、画面の向こうの相手を不快にさせて追い出されるのが怖くて、その後の言葉が出てこない。四畳半の湿った空気の中、彼は己の醜さを呪いながらも、画面の中の『ララ』という存在に、わずかな安らぎを見出していた。
​『リード:……ここ、静かですね……』
​晴人は、それだけ打って、また画面を見つめ続けた。画面の向こうの彼女が、自分と同じように言葉に詰まっていることを願うように。
 
​ 桜は、その短いメッセージを食い入るように読んだ。その言葉の背後にある、相手のぎこちなさと、自分と同じ孤独の匂い。桜は何かを打ち込もうとして、やめた。ただ、相手の返事を待つだけの時間が、彼女の心の中で静かに満ちていく。
​二人はそのまま、何分も、チャット画面を開いたまま動かなかった。プライベートなことは何も話さない。ただ同じ空間に「自分と同じようにな誰か」がいるという気配だけを頼りに、二人は深夜の孤独を分かち合っていた。
​それは会話とは呼べないほど淡い繋がりだったが、現実で誰からも疎まれ、あるいは性的対象として消費されるだけの二人が、唯一「人間として」そこに存在できる静かな時間だった。桜は、身体を抱きしめながら、画面の中の『リード』という文字を、ただじっと見つめていた。
 
2026/08/22 21:16:34(zNBbccEp)
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