それはある研修会場のことであった。
お堅い職の研修、ふと前の席にいる、黒髪のスーツ姿、
歳は40前後であろうか。
会場は冷房が効いているのに、何かうっすら首元が汗ばんで、
独特の臭いに気づいた。
汗の臭いには、性交中に感じる「生理活性物質」があり、
俺はそれに気づいた。
休憩に入ると、真っ先にその女は席を離れた。
用を足しに、個室に向かったんだろう。
ふとその女が座る席の椅子に目を向けると、
蒸れていたんだろうか、席に一筋、染みがうっすらと見えた。
「あの汗の臭い…」
おそらく、発情時に嗅ぐわせる、あの匂いだ。
研修が終わり、「あの・・」と声をかけ、
小さな紙を渡した。
そこに書かれた文字を見て、女は一瞬で紅潮した。
研修会場から、人が次々と去り、あと4,5人になった時、
女は振り返った。
「とりあえず、出ようか」
女はうなずき、会場の外に出て、耳元で訊ねた。
「してただろ」