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1:海の見える屋敷にて
投稿者:
(無名)
有名な大きな公園から坂道をかなり登らないといけないけれど、僕はジョギングにこの坂道を往復するのが好きだ、朝起きたらフルーツジュースを一杯飲んでから軽く走ってその後は愛犬の散歩、メイドとして雇っているマゾ女性は昨夜がハード過ぎたせいで起きて来ない、私が散歩から戻って朝食の準備が整ったのを見計らったかのように彼女用の部屋から出てきたがまだ寝巻きですっぴんだ。
「マナさん、これじゃあ僕の方がメイドじゃないか。」 すっぴんでも充分綺麗な顔を見つめながら文句を投げかける。 「ごめんなさい、昨夜が凄すぎて、早起きしてもらいたいなら控えていただかないと。」 俺はそう言われたかっただけだ。 食器を洗うのだって食洗機任せだし、洗濯だって全自動だ、便利な世の中になった。 海を見下ろせる崖の端に建つこの一軒家は父の設計だ、もう引退して後進の指導にあたっているが厳しいと有名だ。 「そろそろ君も結婚して家庭を持つ時期だと前から話してるよね、今夜はお見合いだから、あそこのフレンチを予約してあるから。」 気が乗らないって顔してくれるだけ可愛いものだ、26才で愛奴になって二年、もう28才なのだ50才を越えてる私からしたら娘として愛情の対象としての機能もする、ああこれに関してはそういうエロティックな要素は含まない、若い時に1度とても素敵な女性と恋をして結婚して子供まで産まれたが、悲しいことにもうこの世にはいない、それがきっかけでサディストになったのは言い訳にすぎない、愛情のあるセックスが出来なくなったのが本当の理由だ。 愛華女王様とは知り合って長い、自暴自棄になってSMのパーティーに飛び込んでみたのが20年前くらいになる、その時に新人の駆け出し女王だった、美しすぎて生きてるのが大変ってそういうタイプの女性だった、産まれたときから可愛い綺麗、好きです何でもします付き合ってくれ結婚してくれ、お金だったら幾らだってあげるから、そう言われ続けて同じ悩みを持っていた先輩に相談すると周りの評価そのままに君臨すればいい、それで女王様に彼女はなった、普通にしていてもそう見えるのだから天職だ。 告白や懺悔を神様にしようなんて思わないが、美しすぎる実在の女神には心を許せた。 「京介、この子がね若いのにね私がいいって、イケメンで頭もいいし運動できるし、普通に生きてりゃそれでいいのにね。」 「愛華様、それを言ったらおしまいですから、相変わらず厳しい。」 若い二人なんだから楽しくお話すればいいのに、不機嫌そうに私達を見ている。 「ここ変わらず美味しいのね、シェフは?」 「愛華様は久しぶりだったね、息子に代替わりしてね、ああでも、しょうがないなあ。」 冷えたシャンパンと共に親子で挨拶に来た。 親父の方は愛華様の大ファンなのだ。 「ご無沙汰しております、店の方は愚息がですね何とかやっております、どうですかお味のほうは。」 「とても美味しいわよ、元気にしてますか?」 「もう歳ですからそれなりに、ああそれよりもSNSの方をですねチェックしてますが、お体のほうは?」 愛華様の表情を見て、あって顔をすると、長居は不粋でしたと戻っていった。 「私の夢が叶いそうなの、これ以上ね醜くなりたくないから、治療はしないで自然に。」 頭が真っ白になるって経験はあまりしたくないものだ。 会食を済ませてすぐ家に。 「ほうら、若い二人のお見合いなんだから。」 そう明るい声を出されても。 女は強い、鞭で二人をボコボコにぶっ叩いて、子作りが先のほうが動物としては正しいって交尾させてる。 「うーん、若い二人が愛し合っても当たり前かあ、ほら二人でマナちゃんの部屋で好きなようにしてきなさい。」 二人を行かせると、愛華様の体から力が抜けた、立ち上がって身体を支える、こんなに細かったっかな、フワッとした黒いワンピースに騙されていた、若かった頃の彼女はグラビアアイドルにならないかってお誘いが止まらなかった身体の持ち主だ。 私の寝室で横になってもらう。 「ねえ、私のお願い聞いてくれる?」「どんなお願い?」「先に聞いてくれるの約束して。」「ああ聞くよ、わかった心中するか、愛華が救ってくれた命だからな。」 「嬉しいそんな事言ってくれるの貴方とあの若いマゾだけ、まさか彼の未来を奪うわけにいかないし、貴方には長生きして欲しい、私の分までなんて綺麗ごとは思ってないの、あの二人が上手くいくかなんてわからないけれど、マナちゃんとは二年でしょう、ねえ正直に聞かせて、彼女は貴方の子供欲しがらないの?」 困った質問をしてくる、それはスルーさせてもらう。 俺がどう言おうが彼女が思っていたらそれはもう昔から当たっているしそうなるのだ、それもわかった上で選択肢を何個か二人に委ねてみようってこと。 「看取って欲しいってわけじゃないけど、これから身体が動かなくなったりって姿を彼に見せたくないの今がギリギリってわかるでしょう、ねえ覚えてる私達が初めて出会った夜を。」 もちろん覚えてるよ、少しすると愛華は眠ってしまった。 一階に降りると二人は静かに座っている。 二人に説明するとマゾ青年の和樹くんは全部知っていた。 「もうイジメていただなくてかまわないんです、愛華様がそうしたいなら止める気は無いんです、って嘘ですよ、一日でも長く生きて欲しいですよ、それが当たり前じゃないですか愛してるんですよ、気持ち悪いですか。」 「いやただ君の当たり前が通じない世界だからね、一人で死にたくないって言ってくれればつきあってあげるのに。」 「御主人様、ちょっと何を言ってるんですか。」 マナは鬼の形相で震えてる。 しょうがない、あー嬉しい席で飲もうと思っていたけれど、ワインセラーからとっておきの赤ワインを出してくる。 ワインの知識がそれほど無い人でも知ってるような一本だ。 「別にね昔恋人だったとかって色っぽい話では無いんだ。」 愛華と出会って友達になって主従にも恋人にもならないけれど魂でつながって距離を置くようにして生きてきたことを。 「彼女だってね1度は結婚してね子供も産まれてね、でも身体が弱い子だったから残念だった、旦那さんもとてもいい人だったけれどね、そうだねあの時もしばらく一緒にいたなあ、はは思い出したあの時はね自殺を思いとどまらせるのにね心中しようって海まで行ってね、私がね冷たい海にじゃぶじゃぶ入っていってさ、そしたら止めてくれたよ、凄いビンタだったよ、あそこで失神してたらね今頃は海の中に沈んでるね。」 その日から愛華の終活が始まった、その一件から人が変わった彼女は大企業の社長たちをマゾ奴隷として飼いならし、えげつない収入があったはずだけれど、資産は普通のマンションが一部屋に一千万の現金だけだった。 「私の美しい行為には値段をつけないことにしたの、税金で持ってかれるなら貰わないでそのまま彼らにね寄付させたり施設を援助させたり、だからね私が何かしたかなんて子どもたちは知らないの、でもきっとそれで一人でも助けられたらそれでいいの。」 彼女は本当の女王様だ、最後に一目だけとうちに訪れたお歴々はもうこの人たちが結束したら政治動かせるくらいのメンツが揃っていた。 マナはもう愛華の親友で身の回りの世話を楽しんでいる、とてもマイペースに、和樹は仕事を辞めたし部屋も解約してきたと押しかけてきた、真っ直ぐすぎて若い、寝室には入らないという約束でハウスキーピングと私の秘書的な立場に置くことにした。 「あーおはよう、今朝は調子いいから皆んなと一緒に朝ご飯をって、どうしたのこれ朝からパーティーでもするの?」 愛華が目を丸くしている、マナが朝からそんな事するわけ無いのは知っているし。 「いやね、和樹がたまに朝食に降りてきた時にトーストと卵とベーコンにサラダにコーヒーだけじゃってね、こいつさ栄養学の本をもう数冊読み終わって、全部自然食だとかって。」 和樹は毎日磨きがかかって成長していく、だが非常に危うい空気がさらに魅力らしくて取引先だったりには好評過ぎて婿にもらいたいって話がもう数件来ている、それを彼はとても冷酷に大切な業務が終りましたら考えさせて貰いますと言うと言い返せる人間はいなかった、もしかして私のお手つきではなんて聞いてくるのもいたので、もう面倒なので男も女も素晴らしってことにしておいてある。 「素敵ね、一足先に貴方の家族と娘に会える。」 この家に来て三ヶ月、とうとうその時が来てしまった。あまりにも安らかに彼女の魂は身体を捨てて自由に求める場所に向かって行った。 そして海に撒いてくれと遺言に従った。 マナさんはそれからも実にマイペースだ、和樹とは相性が悪いと言うし、和樹もちょっとタイプじゃないからなんて言いやがる。 「あのー御主人様、覚えてます?愛華さん亡くなってから毎晩求めてきましたよね、出来たみたいなんです。」 和樹がニヤニヤしてる、もういいのに豪勢な朝食は続いている、フルーツの盛り合わせが前に無いと物足りないって思うまでになっている。 「えっ、あーそれはおめでとう、んーそれはいいのだけれど、いいのかい?」 「はい、別にこのままでいいですから、別に籍を入れて欲しいとかって無いんで、ミルク代とかおむつって買ってくれますよね。」 俺がやり込められてるのが和樹はたまらなく嬉しいみたいだ。 「大丈夫です自分には姉がいましてですね数年前に出産してますから、その時はもう使いっ走りでこき使われてたんで、何すればいいかは完全に把握してますので、産婦人科で検診して母子手帳作って、ようし忙しくなるぞー。」 「いやそれは有り難いけれどね、まあそうか最近はまた色々と違ってるのかもな、君にだけ負担かけようって思ってないから、それにね君をここに拘束してるのはどうなんだろうね。」 「ではマナさんが出産してですね、卒乳が一年半くらいかかりますから、そういう事って京介さん理解してますか?」 有能過ぎてたまにムカつくそれに若いしイケメンだしってね。 「わかったよ、君が産み出す利益は相当なものがもうあるよ、とりあえずじゃあ卒乳まではいいさ、それよりどうするんだあっちの方は、新しい女王様を見つけるって。」 「ああ、そっちですか。 素質がありそうな女性を私の手で育てようって考えてます、でもマナさんが心配ですから、きっとこの人これから何にもしなくなりますよ、でもわかってきました、居るだけで幸せにするって点ではペットとしては完璧ですから、それに関しては僕は足元にも及びません、サービスのエス満足のエムなんて悪口もありますけれど体現してますよね。」 「あーまた人の悪口言ってる、もう叩き出してください、貴方がしてくれるから私がする必要が無いんです。」 こればかりはもう笑うしか出来なかった。 それもまた素敵な考え方だ、適材適所。 それから数ヶ月が経った、土日に和樹が外出が増えたので女王様を探してるならそれも好し、普通に彼女が出来るならなおよろしい。 そしてとうとう会ってもらいたい女性がいるって言い出した、これはもう実にめでたい。 「愛華様が間接的に支援していた施設にですねよく訪問されて子どもたちを可愛がっていたんですね、愛華様が亡くなったことを知らせないといけないと思い様々な場所に行ってまいりました、こちらの女性はですね愛華様がどの様な人なのかを知っている少ない人間の一人です。」 「はじめまして、安原と申します、お亡くなりになられたと聞いてとても悲しく、ご挨拶にと伺いました。」 10年前に身寄りの無い子どもたちを預かる施設に愛華は訪問した、その時中学三年だった彼女は進路を相談したという、小さい子の面倒見て時間が無くて勉強する時間が無いからバカなんですって言う彼女に愛華は優しくはしなかった、そこから施設を卒業して勉学する環境をもらって死ぬほど学んで奨学金で大学に入ったことを愛華はとても喜んでくれたという。 「愛華さんは私が世界を憎むのを変えてくれたんです、お金持ちの家に産まれてたらってやっぱり思いますし、私だけなんでって、世界を自分のために変える方法があるって、薄々そういうお仕事なのには気がついていました、立ち振舞いが普通じゃない時があって、子どもたちにはとても優しんですけど、皆さんだったらわかりますよね。」 三人であーわかるわかるって激しく同意する、愛華様の美学ってのがとても凶暴な強さを発揮することを。 有名な逸話が残ってる、とある大会社の社長だった知人のつてで何とか愛華様と会えることになったのはいいが勘違い野郎で愛人にならないかって持ちかけるは会社の人間なんて使い捨てて儲かればいいってダブルで詰んだ、背中中が血まみれになるまで鞭で打ったからもう病院送りだし訴えるって言い出すわで少しは愛華様だって動じそうなものだが、次の日には社長のパワハラやセクハラがニュースを賑わせた、よくある噂の一つに過ぎないけれど、たまたま前日の夜に私に電話があったからね、女王様にはマゾの人脈、サディストにはそっちの人脈ってものがあったりする。 「なので安原さんは愛華様の後継者にあたります、プレイそのものを指導されてませんが精神の後継者。」 もう言いたいことはわかりました。 マナはもう寝ている。 「本当にこんな事されて気持ちいいんすか?」 「もっと、もっとだよ。この世界への憎しみを俺にぶつけるんだ。」 彼女は困ったって顔でこっちを見てくる。 「安原さんね、これまでの人生の苦行の部分と鞭だったりって痛みを同一視できるといいのかもね、ちょっとそうだなビンタするからその悲しみや怒りを彼に。」 ビンタするっとキッて睨んできた、いい表情だ、それを和樹にバトンパス。 派手な音が和樹の頬からした。 嬉しそうな彼をまだ不思議だって顔で彼女は見てるが、何かが芽生え始めたのを私は見逃さなかった。 完
2024/04/12 10:37:31(.OZ8mW3.)
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